大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 平成5年(う)30号 判決

1 弁護人及び被告人岡田の事実誤認の主張の要旨は,本件強盗殺人について,岡田は,実行行為を分担していないことなどから,従犯にすぎないにもかかわらず,共謀共同正犯の成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼす明らかな事実の誤認がある,というものである。

2 そこで,検討するに,

(1)被告人瀬川と岡田は暴力団に所属するところ,その間には,暴力団の組織上あるいは身分上いずれかが上位に立つという関係はなく,被告人両名が現金強取をねらって行動を共にするようになってから,本件強盗殺人に至る直前までの関係をみても,瀬川が岡田に対し様々な犯行計画を実行する旨働きかけると岡田もそれに応じて協力し,犯行の遂行に必要な行動を取っていて,両名の間には犯行計画の実現に向けての共同関係が成立していたこと

(2)本件犯行当時,岡田の金融業者に対する借財やローン残高の合計が1000万円以上に上っていた上,岡田は暴力団員としての交際費等で毎月100万円近くの資金を必要とし,瀬川から借財を繰り返していたもので,犯行当時,現金を必要としていたこと

(3)岡田と瀬川が3月下旬ころ別件の強盗殺人を計画した際に準備したけん銃は岡田が入手して瀬川が保管していたものであるし,それとは別に金融業者をおびき出して強盗殺人に及ぼうとした際には,岡田はその業者を呼び出す行為を担当し,犯行場所として自宅を提供したが失敗に終わり,次に原判決摘示の昏酔盗事件を共謀して実行し,4月25日ころには窃盗目的で本件強盗殺人の被害者ら方に単独で侵入し,同月29日及び翌30日には瀬川とともに右被害者らの家やその近くの厩舎の下見を行い,同被害者らを殺害しようとした際には,岡田自身,小口径のけん銃で2人を襲うことに不安を感じ,金属バットを自動車のトランクに入れて被害者の一方をバットで撲殺する意思で行動していること

(4)岡田は,瀬川から犯行の誘いを受けた際,その犯行に関与する意思で富山に行くことに同意し,深夜わざわざ金沢から富山に赴き犯行当日の午前2時ころ瀬川と落ち合い,瀬川運転の自動車の助手席に乗り込んだ際,その足元に置いてあったけん銃を手に取って点検し,実包4発が込められていることを確認し,そのまま瀬川とともに被害者方付近に赴き犯行の機会をうかがい,午前3時30分ころ,いよいよ計画を実行に移す際,瀬川から実包の確認を求められて再度けん銃の弾倉を開いて実包を弾倉に詰め直し,引き金を引けば確実に発射するように弾倉の位置を調節した上で,けん銃を瀬川に渡して被害者方に行かしめ,その後,戻って来た瀬川から被害者方勝手口に鍵が掛かっていて侵入できなかったため引き返したと聞くや,替わりに自分が侵入口を確認するために軍手をはめドライバーを持って被害者方に向かい,開いていた風呂場窓から屋内に侵入して勝手口のアルミサッシ戸の鍵を内側から開けるなど強盗殺人の実行行為に接着して決定的に影響を与える行為に及んでいること

(5)岡田は,結果的に強取金約1200万円のうち537万円余り(約44パーセント余り)を取得している。その経緯は,強盗殺人実行直後の時点では,岡田は瀬川が手に掴んでいた300万円より少し厚めの札束(約387万円)を手にしてこれを取得し残余金についての精算を後刻とし,その後瀬川から残り約200万円の中から同人の行動費50万円を差し引いて渡すと言われて了承し150万円を受領したというのであって,このような分配方法は瀬川と岡田の合意によって決めたことになり,そのことは事前におよそ折半にするという暗黙の了解があったことをうかがわせるものであること

以上の事実に照らすと,岡田が犯行当夜に被告人瀬川の求めに応じて富山に向かうことを了解した段階において,従前の両名間に認められた共同関係が復活し,ここに住居侵入,強盗殺人についての共謀が成立したと認められるから,原判決に事実誤認の違法はない。

第2

1 弁護人の,瀬川の量刑不当の主張の要旨は以下のとおりである。

瀬川の量刑(死刑)は,岡田(無期懲役)の刑と比べると,(中略),昏酔盗については,元々岡田の発案で始まったもので岡田の方が瀬川より刑責が重いし,住居侵入,強盗殺人についても,瀬川と岡田の間に主従の関係はないのであって,犯行に不可欠なけん銃を調達したのは岡田であり,岡田は,本件直前に瀬川の優柔不断な態度にいらだちを示し活を入れ,その上,岡田は,瀬川が被害者方に侵入するための入口を作っているのであって,岡田は瀬川より数段賢く,瀬川は岡田から借りを作った気にさせられ,諸事万端の段取りを自分がせざるを得ない状態に至ったものであるから,瀬川の量刑は,岡田との間で刑の均衡を失している。

2 しかしながら,瀬川を,本件昏酔盗,住居侵入,強盗殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反被告事件について死刑に処した原判決の量刑判断に関する説示はおおむね肯認できる。

そこで,量刑上最も重要である強盗殺人事件について以下検討する。

強盗殺人に至るまでの状況をみるに,

(1)瀬川は,本件前岡田と互いに金銭に窮すると頻繁に電話連絡を取り合っては金銭奪取のための相談を重ね,けん銃の使用を含む数々の犯行を計画し,あるものについては実行し(昏酔盗被告事件等),さらに,強盗殺人の被害者夫婦が多額の現金を動かしているという情報を得て岡田とともに同夫婦をねらうようになり,あらかじめけん銃を準備し,犯行の機会をうかがって敢行した計画的な犯行であること

(2)強盗殺人の動機については,瀬川が無断で発行した自己の勤務先である歯科医院医師振出名義の手形が暴力団の手に回り,それを回収しなければせっかくつかんだ歯科医院事務長の職を失いかねないという切羽詰まった状況に陥ったことにあって,地道に働かず,不良生活を送るなかで多額の借財を作り,歯科医院事務長の地位を悪用した背信行為がその発端にあり,金欲しさから執拗に被害者夫婦らを付けねらってその機会をうかがい,短絡的に殺害したもので,極めて自己中心的な犯行であること

(3)犯行態様は,被害者夫婦を確実に殺害するために破壊力の大きな44口径のけん銃を用意するなど周到な準備をし,深夜,自宅において熟睡中で全く無防備の者を急襲して,その顔面にねらいを定めてさほど躊躇することなく至近距離から続けて2発発射して各顔面に命中させて即死させるという残酷極まるものであること

(4)犯行結果は,働き盛りで人材派遣会社を協力して営んでいた当時54歳の夫及び当時37歳の妻である全く落ち度のない被害者2名の生命を瞬時のうちに奪ったもので,極めて重大であり,強取された金員の総額は約1200万円と極めて多額であり,本件により被害者の営んでいた人材派遣会社は経営に行き詰まり間もなく倒産するに至ったもので,遺族や従業員らの財産面に及ぼした影響も甚大であること

(5)近隣住民のみならず,地域社会にも多大な衝撃を与えたもので,一般予防の観点からの厳重な処罰の必要性も考慮せざるを得ないこと

(6)瀬川の前科関係は,恐喝未遂罪,窃盗罪等であるが,本件強盗殺人に至るまでも金融業者等からの現金強取計画を立て,また,本件強盗殺人の後も,かねてより恨みを抱いていた第三者の殺害を企図して,いったん岡田に返した本件けん銃を再び借りて実行の機会をうかがっていたなど,その犯罪傾向は看過できないものがあること

(7)遺族が極刑を望むなど処罰感情は峻厳である上,原審の審理の終盤において遺族への謝罪の手紙を出したのみで,それまで何ら慰籍の措置を講じておらず,また,当審においても何ら慰籍の措置は採られていないことなどを考慮すると,事業に失敗して暴力団員と交友を持つに至るまでは勤勉であったこと,前歴からみても本件強盗殺人を単独犯として敢行するほどの胆力がなく,本件強盗殺人においても,被害者方屋内に侵入した後も恐怖心から一度は断念して被害者方から屋外に出るなど逡巡し,その犯行過程には被害者らに対する人間的な感情ないし道義的な自責の念が多少とも存したこと,本件強盗殺人は,瀬川が歯科医院事務長の地位を守ろうとして,債務返済の資金に窮する余りいわば視野狭窄的な状況下において犯された面があり,逮捕された後は本件各犯行を悔悟,反省し,捜査機関に対して素直に各犯行を自供し,被害者らの冥福を祈る心境に至っていることなど瀬川にとって有利に斟酌すべき事情を考慮してもなお本件強盗殺人について極刑を選択した原判決の量刑はやむを得ないものと認められる。

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