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名古屋高等裁判所金沢支部 平成5年(ネ)162号 判決 1994年4月25日

控訴人

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

西村依子

被控訴人

有限会社A葬祭

右代表者代表取締役

乙川二夫

右訴訟代理人弁護士

野村侃靱

主文

一  原判決主文第一項を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し金一五一万九五〇〇円及びこれに対する平成三年四月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じこれを一〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

三  この判決は、主文第一項の1につき、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  控訴人の求めた裁判

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

事案の概要は、次に付加・訂正するほかは、原判決の事実及び理由「第二事案の概要」(原判決二枚目表二行目冒頭以下同五枚目裏六行目末尾まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏五行目「支払った。」以下同七行目末尾までの部分を「支払ったが、弁済充当については、まず被控訴人の立替金の弁済に充当し、その残金を葬祭料金の一部に充当する旨意思表示した。」と改める。

2  原判決三枚目表末行「そういう内容の」とあるのを「右式次第及び司会者の発言内容を指導することまでも債務の内容とする」と改める。

3  原判決四枚目表四行目「(3)」とあるのを「(2)」と改める。

第三  争点に対する判断

一  争点1(一)について

当裁判所も、被控訴人には、通夜の執行について不完全履行はなかったと判断するところ、その理由は次に付加・訂正するほかは、原判決の事実及び理由「第三 争点に対する判断」一(原判決五枚目裏八行目冒頭以下同九枚目表二行目末尾まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目裏一〇行目「本人尋問の結果」の次に「、当審における控訴本人尋問の結果」を付加する。

2  原判決六枚目裏三行目「なお、」の次に「通夜及び告別式の進行の段取りは、事前にその詳細すべてが決定されたわけでなく、喪主である控訴人もまた、段取りを右議会事務局ないし大文字町町内会の役員に任せており、自らは、式次第を知らなかった。」を付加する。

3  原判決七枚目表四行目「葬儀では、」とあるのを「葬儀は、」と、同裏初行「葬儀屋」とあるのを「葬儀社」と各改める。

4  原判決八枚目表二行目冒頭以下同九枚目表二行目末尾までの部分を次のとおり改める。

「2  葬祭契約は、葬儀の施行を契約内容とするものであるから、葬儀事務の受任者である葬儀社としては、遺体の納棺・安置、祭壇の設置等葬儀を行うため、物理的に必要な事務をするのは当然であるが、それ以上に式の司会をしたり、その式次第や司会者の発言内容を指導すべき義務までも当然に負うものではなく、委任者である遺族からの明示の依頼によって、初めて、その限度で右義務を負うというべきである。しかし、死から葬儀までは時間的な余裕がなく、また遺族は、悲しみの渦中にあり、しかも人の一生の最後の通過儀礼である葬儀の主催者となることは、一生のうちで何度も経験することではないから、葬儀の円滑な進行についてまで配慮できる精神的余裕はないのに対し、葬儀社は、こうした葬儀の手順について豊富な知識、経験を有していることに照らすと、委任者たる遺族は、通常の場合は、明示の依頼をしない場合でも、葬儀社に対し、葬儀の進行についても配慮するよう、黙示的に依頼しているとみるのが相当である。

ところが、本件の場合は、故人が現職の小松市議会議長の要職にあったために、甲野家と小松市議会との合同葬が企画され、その進行等についての打合せは、市議会担当者と遺族から依頼された大文字町の町会役員との間で行われ、被控訴人には、通夜も含めて、葬儀の進行については、右黙示の依頼もなかったものと認めるのが相当である。また右のように、自治体関係者を含め、参列者が多数に及ぶと予想される合同葬儀を挙行する以上、控訴人を初めとする遺族の側も、葬儀の進行について不測の事態ないし遺漏が生じないよう、事前に自治体側の担当者等と十分に打合せを尽くすべきであったのに、これを十分に行わず、他に任せきりにしていたと言わざるを得ないし、先に認定したように、進行につき控訴人ら遺族からの依頼もないのに、葬儀社である被控訴人が仲に入って、前記合同葬儀の進行に指導、助言を与えることを期待することはできないといわなければならない。更に、弔問客の多くが、一回目の読経終了後焼香したのち退席したことも、通夜当日の室温、通夜のしきたり等からみて、進行の稚拙の有無にかかわらず、起こり得た現象であるといわざるを得ない。

そうすると、通夜の進行について先に認定したような混乱があったとしても、被控訴人に通夜の施行について不完全履行があったということはできず、この点に関する控訴人の主張は採用できない。」

二  争点1(二)について

当裁判所も、被控訴人には、遺影処理に関して不完全履行があったと判断するところ、その理由は、原判決九枚目表一〇行目「個人の」とあるのを「故人の」と改めるほかは、原判決の事実及び理由「第三 争点に対する判断」二(原判決九枚目表三行目冒頭以下同一〇枚目裏初行末尾まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

三  争点2及び3について

当裁判所も、被控訴人の立替の事実を認めることができ、被控訴人の右遺影処理に関する不完全履行による慰謝料については、一五万円が相当であると判断するところ、その理由は、原判決一〇枚目裏六行目「認めらない」とあるのを「認められない」と改めるほかは、原判決の事実及び理由「第三 争点に対する判断」三及び四(原判決一〇枚目裏二行目冒頭以下同九行目末尾まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

四  充当及び相殺について

前記控訴人の弁済充当によれば、被控訴人の立替金債権一五万九五〇〇円はすべて消滅し、次いで、葬儀料債権は一五四万〇五〇〇円の限度で弁済充当されたから、右充当後は葬儀料金一六六万九五〇〇円が残るところ、控訴人の右一五万円の反対債権と対当額で相殺した結果、残債権は、一五一万九五〇〇円となる。

第四  結論

以上のとおり、被控訴人の控訴人に対する本件請求は、右一五一万九五〇〇円及びこれに対する履行期の後である平成三年四月二〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がなく、棄却すべきであるから、これと結論を異にする原判決は相当でない。従って、原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 田中敦 裁判官 横田勝年は、転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 笹本淳子)

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