大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 平成8年(う)44号 判決

本件は,竹内の実父らが現に住居に使用している建物に放火してその一部を焼きするにとどまらず水橋と竹内を殺害し,その各死体を空き地に放置して遺棄したという事案であるところ,量刑判断の基礎となる事実の認定に関して各殺人に係る犯意の発生時期及び動機の点について,原判決は,水橋の殺害を決意したのは被告人方で水橋とにらみ合いになった直後であり,動機は借金返済についてあいまいな態度をとり続ければ水橋らから危害を加えられると思い込むとともに,水橋の言動に接して,職場の先輩であり年長者である自分に対する言動としては許せないと思って憤激したことにあり,竹内殺害については,水橋殺害後に被告人方に戻り,水橋を殺害したことが発覚することを防ぐには竹内を殺害するのもやむを得ないと考えたものの,当面の処理として「返済金を工面するから一緒に来てほしい。」とうそを言って竹内を車に乗せて被告人方を出発し,しばらく走行するなどした後殺害を決意したものであり,動機は水橋殺害の犯行が発覚するのを免れようとしたことにあると認定した。

これに対し,検察官は,水橋及び竹内の両名について殺害を決意したのは水橋を被告人方から連れ出す前の時点であって,両名について同時であり,動機は借金返済の処理に窮しその金銭的苦境から脱するためであったと主張し,弁護人は,水橋及び竹内いずれについても殺意発生時期はそれぞれの殺害行為直前であり,動機は,水橋については直前に言われた「馬鹿にすんな。」との言葉,竹内については直前に言われた「そんなこと関係あるか。」との言葉にそれぞれ憤激してのことであったと,各々量刑不当を主張する。

これらの点について被告人の供述をみると,捜査段階の当初に作成された警察官調書には,原判決の認定にほぼ符合する記載があり,その後の捜査段階における供述調書,原審・当審公判廷における被告人の供述には次第に被告人に有利な方向に変遷しているということができるところ,被告人の捜査段階における供述調書は,いずれも同意の上信用性を争われることなく取り調べられており,これらの調書が被告人の意に反して作成されたことをうかがわせる事情は何ら存せず,任意に自己の不利益な事実を供述していて,詳細具体的であり,その内容も信用性が否定される程に不自然不合理であるとはいえないし,関係証拠によって認められる客観的事実でこれに符合しないものも存しない。結局,捜査段階の当初に作成された警察官調書の記載及びこれに符号する限りでの他の警察官調書の記載は信用することができ,これによれば,各殺人の犯行に係る犯意の発生時期及び動機の点は原判決が認定したとおりと認められる(中略)。

そこで,以上の事実認定を前提に情状について検討すると,本件放火の動機は,原判示のとおり,竹内が返済期限を待たずに水橋を介して強い態度で借金返済の確約を求めてきたことなどについての腹立ちが募ったことにあり,その態様は,深夜,灯油を染み込ませたバスタオルに点火して木造住宅の換気口から床下に差し入れて放火したという危険な犯行であり,発見消火が遅れていたならば大きな惨事となっていたかもしれず,類焼の危険もあり非常に悪質な犯行である。水橋及び竹内の殺害動機は前記認定(原判示)のとおりであり,自己の保身のためには他人の生命を犠牲にすることをいとわないものであって,強い非難に値する。殺人の態様は,いきなり背後から頚部前面に安全帯のロープを引っかけ,その両端を強く引っ張るなどして頚部を絞め付けたというもので,水橋らとしては全く予期せぬ事態であり,抵抗できぬままその場で死亡させられたことの無念さや苦痛はいかばかりであったかと察せられる。2名の尊い命を奪ったもので,結果は極めて重大であり,両親その他の遺族の悲しみ,怒りは大きく,極刑を望む気持ちが強い。本件死体遺棄は,自己の犯跡を隠ぺいすべく,水橋らが暴走族とけんかをして殺されたように見せかけようとその死体を空き地に放置したもので,動機において悪質であり,犯行後,犯行用具の安全帯のロープを投棄し,車内の指紋を拭き取るなどの証拠隠滅工作に及んでいる。加えて,披告人には,傷害,脅迫,窃盗等による懲役・罰金前科が7犯ある。

他方,本件殺人は計画的な犯行とはいえないこと,犯行を認めて反省の情を示していること,周一が見舞金などの趣旨で水橋らの遺族にそれぞれ30万円を交付したこと,前科はいずれも古いものであることなどの被告人に有利な事情がある。

これら諸般の事情を総合考慮すると,前記被告人に有利な事情を最大限考慮しても,本件殺人の重大性にかんがみれば,被告人の刑事責任は誠に重大というほかなく,原判決の量刑が重過ぎるとは到底いえず,弁護人の論旨が理由がないことは明らかである。他方,死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における窮極の刑罰であることにかんがみると,その適用が慎重に行われなければならないところ,被告人に対し死刑をもって臨むことも考えられないではないが,本件殺人が計画的犯行とはいえないことにかんがみると,極刑を選択することがやむを得ないと認められる場合に当たるとまでは断定できず,原判決の量刑が軽過ぎるとまではいえない。

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