名古屋高等裁判所金沢支部 平成8年(ネ)242号・平9年(ネ)6号 判決
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所は、第一審原告甲ら及び第一審原告松岡昭の本訴請求は、第一審被告に対し国家賠償法による損害賠償として各慰謝料三万円及び右各金員に対する平成五年三月二七日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、第一審原告松岡昭を除く第一審原告乙らの本訴請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、次に付加・訂正するほか原判決の「第四 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決五〇頁八行目から同一〇行目までを次のとおり改める。
「9 大谷派は、昭和六〇年二月一七日特別措置条例を制定し、瑞泉寺を含む五別院に特命住職をおくこととし、特命住職を同別院の代表役員とすることを定め、平成二年三月一日右特別措置条例に基づき瑞泉寺の特命住職として上野諦を任命し、同月二日、同人を瑞泉寺の代表役員とする登記を了した。(〔証拠略〕)
10 上野諦は、平成二年三月二六日本件申請の取下げ申請書を富山県知事に提出し、富山県知事は、同年一二月一九日本件申請書及びその添付書類を右上野に返還し、本件窓口預かり状態は解消された。」
2 原判決五一頁五行目「同条が、」とあるのを「同条二項で準用する同法一四条四項が、」と改める。
3 原判決五二頁三行目「平成二年三月二六日」を「平成二年一二月一九日」と改め、同五行目「その違法性は明らかである。」とあるのを「その余の点について判断するまでもなく、宗教法人法の趣旨に反するものとして行政手続上違法なものであることは明らかである。」と改め、同五三頁初行目から二行目までを削除する。
4 原判決五六頁四行目から同八行目までを次のとおり改める。
「第一審被告は富山県知事が本件窓口預かりを継続した理由について縷々主張するが、結局は、同知事は、本件申請を受理して認証についてめ決定をした場合には、認証した場合でもしない場合でもその決定に不服な当事者から訴訟が提起されるなどして瑞泉寺が大谷派からの分離独立を企図したことを巡る紛争や混乱に巻き込まれることになることを恐れて本件申請の受理をせず、解決を先延ばしにしていたに過ぎないことは否定できないのであるから、富山県知事は、宗教法人法に定める規則変更の認証申請を受理し、これに関する決定を法定の期間内にするという所管庁としての本来の任務を怠ったというほかはない。そして、富山県知事が結果的に宗教法人法に定める三月間の審査期間をはるかに超える約一一年もの長きにわたって「本件窓口預かり」を継続し、本件申請についての決定をしなかったことは、その任務懈怠の程度及びこれによる影響、結果の重要性を考慮すれば、申請者である瑞泉寺に対してのみならず、その信者である第一審原告ら(その詳細は後記二の2で認定のとおり)の信教の自由を直接侵害するものとして、単なる行政手続上の違法を超えて国家賠償法上の違法性を有する(同知事には少なくとも過失があった)というべきである。なお、本件窓口預かりの継続中の昭和五五年一一月二二日には瑞泉寺の代表役員であった大谷暢道(住職)が京都簡易裁判所において大谷派宗務総長らとの間で瑞泉寺の代表役員の地位を住職から輪番に移すことに同意する旨の即決和解を成立させたことなどにより、その後平成二年三月に上野諦が特命住職に任命されるまでの間は、富山県知事において瑞泉寺の真実の代表者が誰であるかについて明確を欠く状態となり、申請者である瑞泉寺が本件規則変更の認証申請の意思を維持しているかについて判断が困難な状態に陥ったこと自体は第一審被告の指摘のとおりであるとしても、もともと富山県知事において本件申請を適法に受理し、法定期間内に認証に関する決定を行っておれば、そのような異常な事態は発生しなかったのであるから、右の事情は同知事による「本件窓口預かり」が国家賠償法上も違法であるとの判断を左右するものではない。
そして、前記のとおり宗教法人の被包括関係の廃止は、所轄庁である都道府県知事が被包括関係を廃止する旨の規則変更を認証して初めて効力が生じるものであるところ、本件規則変更の認証申請について、本件窓口預かりがなく、当初から適法に受理されておれば、本件申請が認証され、瑞泉寺が大谷派から分離独立することが可能であったというべきである(第一審被告は、本件申請に関し責任役員及び総代の資格について疑義があった旨主張するものの、昭和五四年一二月の本件申請時点において申請者である瑞泉寺の代表者(代表役員)が申請書の記載どおり大谷暢道(当時の住職)であったこと自体は実質的に争っておらず、本件申請が当初から適法に受理された場合において、所轄庁である富山県知事においてこれを認証できなかったことについての適切な主張・立証はない。)から、富山県知事は、国家賠償法上も違法な本件窓口預かりによって、瑞泉寺の大谷派からの分離独立を阻止するという結果をもたらし、これによりその信者である第一審原告らの信教の自由を侵害したものと評価するほかはない。」
5 原判決五七頁三行目から同八行目までを次のとおり改める。
「富山県知事による本件窓口預かりが宗教法人法の趣旨に反するものとして行政手続上違法なものであることは前述したとおりであるところ、本件規則変更の認証申請を受理し、審査をしたうえで法定の期間(三月間)内に認証に関する決定をすべき都道府県知事の義務は、本来は申請者である宗教法人(瑞泉寺)に対する宗教法人法の所轄庁としての行政手続上の作為義務であって、右知事に申請者である宗教法人に対する行政手続上の義務があることから、宗教法人の信者に対する国家賠償法上の作為義務が直ちに根拠づけられるものではないことは第一審被告の指摘のとおりである。
しかしながら、本件規則変更の認証は被包括宗教団体が包括宗教団体との被包括関係を廃止して分離独立するために不可欠なものであり、前述した宗教法人法二八条二項が準用する同法一四条四項の規定の趣旨及び前記(二)で検討した宗教法人とその信者との間の密接不可分な関係並びに被包括宗教団体が包括宗教団体から分離独立することの自由は、その被包括宗教団体の信者個々人の信教の自由の重要な要素をなすもの(分離独立により、例えば、信者個人の信仰の拠所や宗教団体の運営、宗教活動の内容等に直接影響を及ぼす。)とみるべきであることなどを考慮すると、富山県知事は、本件規則変更の認証申請の申請者(瑞泉寺)の信者に対しても、宗教法人法上あるいは条理上、国家賠償法上の違法性判断の前提となる作為義務(必要書類が整っている場合には規則変更の認証申請を受理し、審査をしたうえで法定の期間内に認証に関する決定をすべき職務上の義務)を負うものと解するのが相当である。
6 原判決五九頁五行目「この直門徒により、」とあるのを「この直門徒のみによって」と、同六一頁末行目から同六二頁初行目にかけて「前記2(一)に判示した原告ら」とあるのを「第一審原告ら」とそれぞれ改め、同六〇頁七行目から同六一頁三行目までを次のとおり改める。
「しかして、第一審原告らについては、瑞泉寺の直門徒あるいは右に列挙した瑞泉寺の末寺の檀家組織の構成員又は役員のいずれかに該当し、右に判示した活動、役割を担ってきたものと認められるから、その精神的苦痛に対する損害賠償を請求することができるものというべきである(第一審原告松岡昭について甲六一号証の直門徒名簿により瑞泉寺の直門徒であることが認められる)。」
7 原判決六三頁五行目、一〇行目及び同六四頁二行目から三行目にかけて各「平成二年三月二六日」とあるのをいずれも「平成二年一二月一九日」と改め、同六四頁九行目の「本件申請の取下げ申請」及び同一〇行目の「右取下げ申請」の次にそれぞれ「及び富山県知事による本件申請書の上野諦への返還行為」と加え、同六五頁五行目末尾に行を改めて、次のとおり付加する。「さらに、第一審原告乙ら(第一審原告松岡昭を除く)は、第一審被告が消滅時効を援用することは信義誠実の原則に違反し、権利の濫用である旨主張するが、右第一審原告らが主張する富山県知事による本件申請書の返還行為の効力如何が右消滅時効の完成を左右するものでないことは前述したところから明らかであるし、本件全証拠によっても第一審被告の消滅時効の援用が信義誠実の原則に違反しあるいは権利の濫用であると評価するに足りる事情を認めることはできない。」
二 以上のとおりであるから、第一審原告甲ら及び第一審原告松岡昭の本訴請求は、第一審被告に対し国家賠償法による損害賠償として各慰謝料三万円及び右各金員に対する平成五年三月二七日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、第一審原告松岡昭を除く第一審原告乙らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。
第三 結論
したがって、原判決中、右と結論を異にする第一審原告松岡昭に関する部分は相当でないが、その余の第一審原告らに関する部分は相当である。
よって、原判決中第一審原告松岡昭に関する部分を取り消した上、同第一審原告の本訴請求について金三万円及びこれに対する平成五年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度でこれを認容し、その余の請求を棄却することとし、第一審原告松岡昭を除くその余の第一審原告らの本件控訴及び第一審被告の本件控訴をいずれも棄却する(ただし、原判決中原告南部正に関する部分については、同人の死亡による相続人南部信子及び南部治夫への訴訟承継に基づき原判決の主文を変更する。)こととし、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 窪田季夫 裁判官 氣賀澤耕一 本多俊雄)