名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(う)741号 判決
原判決が論旨同旨の原審における弁護人の主張に対し判断しているように本件証第五号の真正な平和不動産株式会社増資新株式申込証拠金領収証及びこれを見本として被告人が作成した証第七号などの偽造証書には「平和不動産株式会社増資新株式百株に対する申込証拠金領収証」と題して同会社増資新株式百株の申込証拠金一株につき金五十円の割合による金五千円及び外に額面超過金一株につき百六十円の割合による金一万六千円を領収したことを示す文字を記載した上「追つて右は払込期日において払込金に振替充当し本証をもつて払込金領収証に代え株券発行の上は平和不動産株式会社に於て本証と引替に株券を交付します」との文言を掲げ発行の年月日と共に発行者及び名宛人を示す文字印章を表わし更に注意書として「本証をもつて新株券を発行するまで名義書替を御取扱い致します、本証の裏書譲渡は取扱いませんから売渡委任状を添附して下さい」との文言が附記されているので右領収証は単に増資新株式申込証拠金及び額面超過金を領収したとの事実を証明する文書たるに止まらず、払込期日の到来と同時に利益又は利息の配当に付株主と同一の権利に転化し(現行商法第三百五十二条)資本の増加の登記と共に株主権として完成し(同法第三百五十八条)且つ株券交付請求権を発生せしめる株式引受人又は株券発行前の株主の地位に伴う諸権利を表彰し、これら権利の譲渡又は行使の為にはその占有を必要とするものであることが明白である。故に本件領収証は刑法第百六十二条にいう有価証券に該当するものと認むべきである。尤も商法第百九十条第一項第三百七十条第二百四条第二項によると右のような株式の引受に因る権利及び株券発行前の株式の各譲渡はいわゆる権利株の売買として当事者間に其の効力を認められるに止まり会社に対し法律上効力のないものではあるが、前記の通り本件増資新株式申込証拠金領収証は「株券を発行するまではこの証書で名義書替を取扱い且つ白紙委任状附で売買することが出来る」旨規定して会社自ら本証書記載の権利の譲渡を公認しているのみでなく、右のような権利の譲渡がいわゆる権利株の売買として株式申込証拠金領収書の形式において株券発行前株券と同様の白紙委任附方式で取引界に転々流通する商慣習の存在することも亦原判示の通りであるから、かかる流通証券たる性質を具備し且つ会社自身によつて同性質を認容せられている本件証書が刑法上の有価証券として、其の取引の安全を保護される必要のあることは株券其の他の一般有価証券と何ら異るところがないものと認められる。よつて本件証書を刑法第百六十二条の有価証券と認めた原判決に所論のような違法はない。論旨を採ることは出来ない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)