名古屋高等裁判所金沢支部 昭和26年(う)659号 判決
記録に基いて原審第一回公判調書の記載を検討するに、審理開始の当初に於ける審判の対象は、原審相被告人中山義雄に対する昭和二十六年(わ)第一七二号被告事件であり、原審は、該事件の第一回公判開廷中、本件、すなわち福井簡易裁判所より移送された被告人東出良吉外三名に対する賍物故買等被告事件(原審同年(わ)第一〇三、第一〇四号事件)を、これに併合して審理する旨決定して告知し、次で本件につき、被告人の人定尋問検察官の起訴状朗読等、公判冒頭に於ける一切の訴訟手続を履践した後、証拠調の段階に入り、訴訟関係人の意見を聴取した上、職権をもつて、記録編綴の福井簡易裁判所に於ける公判調書、同裁判所に於て証拠調済の各証拠書類に対する証拠調手続を為したものであることを認め得る。弁護人は、「原審は、本件について審理を始めるに当り、開廷後裁判官に交迭があつたものとして、刑事訴訟法第二百十五条に従い、公判手続を更新する旨の決定をしなければならなかつたにも拘らず、斯る更新の措置を取ることなく、しかも移送前の公判調書及び同調書記載の各証拠書類に就て、職権による証拠調手続を施行しているものであつて、原審の訴訟手続は法令に違背するものである。」と主張するがしかしながら、記録によつて明白であるように、原審は、審理開始後に於て、必要と認められる一切の訴訟手続を、改めて履行しているものであるのみならず、前記の場合は、当初より或特定の裁判所に或特定の事件が繋属し、同裁判所に於ける審理中、偶々担当裁判官の交迭を見るに至つた場合と其の趣きを異にし、他の裁判所に於て審理せられていた事件について、原審が改めてこれを併合審理したものであつて、従つて、斯る場合には、刑事訴訟法第三百十五条の規定により、公判手続更新の決定を為すべきものでないと解するをもつて相当とするから、所論のような決定をしなかつた原審の訴訟手続は法令に違背するものでない。また、刑事訴訟法第二百九十八条第二項第二百九十九条第二項等の規定によれば、裁判所は必要と認める場合、訴訟関係人の意見を聴いた上、職権をもつて証拠調をすることが出来るから、原審が検察官弁護人の申請を待たずに、移送前の公判調書及び同調書記載の証拠書類に就て、職権をもつて証拠調をしたとしても、該訴訟手続に何等の違法不当の存することがない。論旨は理由がない。