名古屋高等裁判所金沢支部 昭和27年(う)350号 判決
荷馬車挽業者が杉丸太などの重量物を馬車の荷台に積み上げて道路を輸送する場合には積荷が荷台から落下して通行人に怪我をさせないよう特段の措置を施して進行すべき義務のあることは弁護人と雖も承認するところであろうと思う。それならば、その荷馬車を人通りのある狭い市中道路の片側に停止し、それに面する空地に右の積荷の荷卸しを行う場合にも同様の注意を払い予め反対側を通行する人に危害を及ぼさない程度の転落防止措置を講じて作業を進行するのが当然である。然るに被告人は何ら右のような措置を執らないで十五六本の杉丸太を積んだ原判示の荷馬車を判示人の通行する昼間の判示道路側に停車し、空地に面する側の上方から一本毎に荷おろしをしていた為め反対側の最上部位に積まれていた長さ約十二尺重量約六貫の杉丸太一本が、同側方へ転落し偶々通行中の谷田悦子(五才)の足に落下し同人に治療四十八日を要する右脛骨複雑骨折の傷害を与えたというのであるから、被告人は荷馬車挽業者として必要な注意義務を怠り、もつて人を傷害した責任を免れることが出来ないものと云わなければならない。弁護人は被告人において右被害者の通行を知らず、若し何人かに責任ありとすれば、独りその通行を目撃しながら、適当の処置を執らなかつた被告人の協力者黒土政吉のみ責に任ずべき旨主張するけれども右黒土政吉は被告人の作業に力を添えた手伝人に過ぎないのみでなく、被告人がその業務上負担する前記注意義務は偶々現実の通行人の通過を目撃すると否とに関係なく成立する義務であることは前記説明の趣旨により明白であるから右弁護人の主張は採用に値しない。尚お弁護人は荷馬車挽は一般に右のような場合に格別の予防措置を施さないのを例とし被告人もこの一般例に従つたのみであると主張するが、荷卸しの場所、時刻、その他の状況に応じ一様には云われないけれども、本件判示の時刻及場所における判示状況の下において右措置の必要なことは前記判示の通りであつて、他人の行為を援用して被告人の責任を回避するに由がないものと云わなければならない。