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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和27年(う)68号 判決 1952年6月13日

控訴人 検察官 雪下陽三郎

被告人 大仏清

検察官 宮崎与清関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月及罰金千円に処する。

右罰金を完納できないときは金百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中原審証人土田忠志、安川一郎及び当審国選弁護人山村辰治に支給した分は被告人の負担とする。

理由

福井地方検察庁検事正雪下陽三郎の控訴趣意は同検察官提出控訴趣意書記載の通りである。

仍て記録を精査、原審に顕れた本件各証拠を検討するに本件に対する原判決は事実誤認に出づるものと思料する。即ち本件につき公訴事実の通り被告人が昭和二十六年十月二日午後九時頃肩書自宅に於て窪田彰の持参した中古自転車一台を代金八百円で買受けたことは被告人及窪田彰の原審公判に於ける供述に依り明かであり又該自転車は窪田彰が同日福井競輪場にて他から騙取したものであることは窪田彰の原審に於て自供するところである。そして窪田彰の原審公判に於ける供述及被告人の検察官に対する各供述調書に徴すれば被告人が窪田彰の持参した本件自転車を買受ける際盗品ではないかと云う疑念を抱いたことはこれを認むるに十分であつて、被告人は右は土田忠志に対し自転車の購入斡旋方を依頼してあつたところ窪田が土田から頼まれて持参したと申し疑わしいものでないと云うたから買受けたものであると弁解し、窪田が当時土田方に厄介になつて居た者である点及原審証人土田忠志の証言に依り認められる被告人が中古でも良い自転車を欲しいと洩して居たことのある事実は被告人の右弁解を証する一資料となるようであるけれども、被告人の検察官に対する各供述調書の供述記載に依れば被告人は窪田より本件自転車を買受けた翌日その自転車に取付けてあつた福井市の鑑札番号を取外して塵箱に棄て尚車体を黒エナメルで塗替えた上同日武生市役所に赴き新鑑札を受け更に一旦塵箱に棄てた福井市の鑑札を日野川に投棄した事実を認むるに足る。この買受後の処置と前示被告人が当初賍物でないかとの疑問を抱いた事実とに徴すれば被告人は本件自転車の買受けの際には盗品ではないかとの疑念を抱きながらその侭買受けたものである結果右のような処置を構じたものと認むるを相当とする。従つてこれに対し被告人が賍物たるの情を知らなかつたものとして本件につき無罪の言渡を為した原判決は失当であつて破棄を免れない。

叙上説明の通り被告人に対する本件公訴事実は証明十分であつて被告人の所為は刑法第二百五十六条第二項罰金等臨時措置法第二条第三条に該当するから所定刑の範囲内で被告人を懲役六月及罰金千円に処し刑法第十八条刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 村上久治)

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