名古屋高等裁判所金沢支部 昭和27年(ネ)12号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は控訴代理人に於て本件宅地については昭和二十五年三月十日受付第二四二号を以て訴外山田重一に自作農創設特別措置法第十六条の規定に基く政府売渡により所有権の登記を経たものであるからその後に為された被控訴人主張の調停に依る被控訴人と訴外山田重一間の賃貸借契約は無効であると述べ、被控訴代理人に於て本件は該登記の原因である行政処分を争うものであるから控訴人の右主張は失当であると述べた外原判決摘示の事実と同一であるから此処にこれを引用する(証拠省略)。
三、理 由
控訴人直村農業委員会(当時、直村農地委員会、以下同じ)が、訴外山田重一の申請に依り、被控訴人の所有に係る別紙目録記載の宅地につき、昭和二十五年二月二十六日自作農創設特別措置法第十五条に基く買収計画を定め、これに対し、被控訴人より同委員会に異議の申立をしたが、理由なしとして却下されたため、さらに其の頃、控訴人石川県農業委員会(当時、石川県農地委員会、以下同じ)に訴願の申立をしたところ、これまた、同年三月二十九日付の裁決により、其の理由なしとして却下されるに至つたこと、並に、被控訴人が、同年四月七日該裁決処分を知つたことは、いずれも当事者間に争がない。控訴人は、「農地買収計画の取消を請求する訴であつて、訴願に対する裁決を経たものの出訴期間は、自作農創設特別措置法第四十七条の二及び行政事件訴訟特例法第五条第四項等に依り、当事者が訴願の裁決を知つた日から起算し、一個月以内と定められている。しかるに、被控訴人が本件裁決を知つたのは、昭和二十五年四月七日であり、同人が本訴を提起したのは、同年五月八日であるから、本訴は法定の出訴期間経過後になされたものであつて不適法である。」と、主張するので案ずるに、行政事件訴訟特例法第五条第四項の趣旨に則り、自作農創設特別措置法第四十七条の二を解釈するときは、農地買収計画取消の訴は、訴願に対する裁決を経た場合、当事者が裁決を知つた日より一個月以内に、これを提起するを要し、且、これをもつて足ると為すべきこと、勿論であるけれども、しかしながら、叙上第四十七条の二は、単に「当事者が、処分(裁決)のあつたことを知つた日から一個月以内に、これを提起しなければならない。」旨、定めるのみであつて、此の外、期間の計算方法につき、特に初日を算入する旨、明文をもつて定めたものが存しないから、従つて、該期間を計算するに当つては、民法第百三十八条第百四十条の原則に基き、当事者が裁決を知つた日の翌日を起算日とし、暦に従つて一個月の期間を定むべきである。蓋し出訴期間に関する法律の規定は、訴権の行使に対する一の重要な制限であるから、法律の明文に定めるものの無い限り、他の法規、たとえば、行政事件訴訟特例法第五条第四項中、起算日に関する規定の趣旨を、これに類推することに依つて、さらに一段と出訴期間を短縮する様な解釈を下すべきでないと考える。従つて、本件出訴期間の満了日は、被控訴人が裁決を知つた日である昭和二十五年四月七日の翌日より起算して一個月に相当する同年五月七日であり、同日は日曜日であつたことが暦算上顕著であるから、出訴期間は其の翌日である同年五月八日をもつて満了するものと認むべきである。そうして見れば、昭和二十五年五月八日提起されたものであることが記録に依つて明白である本訴は、法定の出訴期間内に為された適法なものであるから、控訴人の右の主張は、其の理由なしとして、排斥されなければならぬ。次に、被控訴代理人は、「本件宅地は、舟小屋の敷地であり、専ら、漁業の用に供せられているものであつて、農業用施設でないから、これを農業用施設と認めて、買収処分に附した、直村農業委員会の決定は違法である。」と主張し、これに対し、控訴代理人は、「訴外山田重一は、本件宅地を農作物の干し場とし、該地上の小屋を農事作業納屋として、それぞれ使用しているものであり、該宅地は、同人が農業を営むにつき、必要不可欠のものである。」旨、主張するを以てさらに此の点について審案するに、訴外山田重一先代重吉が、本件宅地を被控訴人から賃借して該地上に小屋を建設し、現在、訴外山田重一が前記の小屋に伝馬船一艘を格納していることは当事者間に争がなく、原審並に当審各検証の結果を綜合すれば、本件宅地は、海岸線まで十九・五米、満潮時水際まで一六・四米の距離に所在し、その中間に遮蔽物なく、叙上の小屋は宅地の略中央部に建設され、杉、松、竹を骨子とし、藁をもつて屋根を葺き、入口は海に面して設けられ、且、戸扉等の設備もなく、その構造形式は其の附近にある他の舟小屋と同様であること、小屋の内部は砂地であり、これに格納してある伝馬船によつて占められる床面積は、全床面の約三分の二に当ることそれぞれを認め得べく、以上の諸事実に、なお、成立に争なき乙第六号証の記載、いずれも原審並に当審に於ける証人若木伸二郎、亀田久太郎、米田松右衛門、田中孫盛の各供述を綜合考覈するときは、訴外山田重一先代重吉は、被控訴人から右宅地を、舟小屋建築の目的で借受けたものであつたこと、右宅地は、主として、前示建造物の敷地として使用されて居るものであり、該建造物の使途は、其の現況、構造、位置、環境等よりして、主として、訴外重一所有の漁舟の格納にあることを認定するに足る。原審並当審証人山田重一、山田ノギ、今井栄次郎、当審証人塩梅平作の各供述中前記認定と牴触する証言部分は俄かに措信し難く、他に右認定を左右するに足る資料が存在しない。尤も、原審並当審に於ける証人山田重一、山田ノギ、亀田久太郎、干場一雄、田中孫盛の各供述等に依れば、訴外山田重一は本件宅地を稲干場に利用し、また、前記の小屋内に於て脱穀等の農作業を行つていることを窺知し得ないでもないが、しかしながら、また、いずれも成立に争なき乙第一、二号証及び甲第二号証の各記載、いずれも当審並に原審に於ける証人垣内孫六、亀田久太郎の各供述に、原審並に当審各検証の結果を綜合するときは、訴外山田重一は、農及び漁業を併せ営む者であつて、耕地面積は三反歩余、其の内政府払下の田畑は二反二畝歩余に過ぎないこと、同人方居宅裏手には約二十坪の空地が存在し、同人が本件宅地に於て行つて居る程度の作業は、右空地又は田の端等に於ても十分にこれを為し得る状況にあること、右空地は、その一部に、ねぎ、トマト、胡瓜等若干を植栽し、自家副食物を補充する用途に使用せられている外、何等格別の用途に使用されていないこと、すなわち、本件宅地を、農作業場として使用することにより、訴外山田重一は若干の便益を享受する関係にあるけれども、農業を営むにつき、これを「必要」とするものではないことを肯認するに十分である。言うまでもなく、自作農創設特別措置法により、買収の対象とされる宅地は、同法により売渡される農地を耕作するため、必要なものであることを要する。しかるに、本件宅地は、叙上の如く、此の要件を備えて居らないから、同法第十五条により、これを買収すべきでないと言わなければならぬ。すなわち、本件宅地の使用については、民法、借地法等による保護を附与すれば足り、自作農創設特別措置法によつて、その安定を計る必要が認められないものである。果して然らば、別紙目録記載の宅地に対する控訴人直村農業委員会の買収計画、並にこれを是認した控訴人石川県農業委員会の訴願却下の裁決は、違法であつて取消を免れないから、其の余の争点につき、判断する迄もなく、被控訴人の本訴請求は其の理由ありとしてこれを許容し、控訴人の本件控訴は其の理由なしとして民事訴訟法第三百八十四条に則りこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 吉村国作 小沢三郎 沢田哲夫)