大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和28年(う)156号 判決

本各論旨を通貫する主張の根本は本件の被害者田中勘三郎が被告人の本件行為につき刑事訴訟法第二百六十二条により福井地方裁判所に対して行つた審判請求並にこれに対して同裁判所の行つた事件を管轄裁判所の審判に付する旨の決定及びこれに基く原審有罪判決のそれぞれ内容となつている事実はいずれも刑法第百九十四条所定の職権濫用罪を構成する事実であつて、同法第百九十五条第一項の暴行凌虐罪を構成する事実ではないからこれを暴行凌虐罪として審理判決した原審の措置は違法であるということに帰着する。

しかし所論の事実が職権濫用罪を構成し暴行凌虐罪に当らないとの所論は弁護人独自の見解であつて、当裁判所の採用できないところである。即ち前記審判請求並に決定及び原判決の対象事実を証拠に照らして掌握すると被告人は国家地方警察福井県巡査部長として三国地区警察署砂子坂巡査部長派出所に勤務し警察官の職務を行う者であつたが、管轄区域である福井県坂井郡大安寺村島山梨子第十一号四十四番地農業元小学校長田中勘三郎満六十七年が同村御所垣内に住む垣内宏耕作の田地に対し所有権を主張して無断同所に生立する垣内占有の麦を刈取つた事件について訴を受け捜査の結果右行為は窃盗の嫌疑十分であるとして原判示日時大安寺村巡査駐在所勤務巡査西沢静を帯同して右田中方に赴き証拠品として前記麦を押収しようとしたところ偶々勘三郎は自家の田圃の除草に赴いていたので更に同所に赴いて同人を附近農道に呼び寄せ、「盗んだ麦を出せ」と申し向けその任意提出方を求めたところ、勘三郎は「盗んだ麦などはない、出せと云うなら令状を見せてもらいたい」と述べて、被告人の要求に抵抗したので、被告人は同人を足蹴に仆し「生意気なことを云いさらす、令状がなくとも逮捕出来る。二百十条を知らぬか、この糞爺い、腐れ校長め、」なぞと罵り西沢と共同して同人の体を四米位持ち運んで下に落した上同所から同人宅まで連行する間四辺を構わぬ大声で「泥捧、垣内の麦を盗んだ泥棒、昔校長をしたと思つて生意気を云う。二百十条を知らぬか、この糞爺、糞隠居め」なぞと口汚く面罵して同人宅に到り前記麦を押収後更に同人を警察に連行するに際し同人の妻や息子の嫁の哀訴愁嘆を顧みず何らの暴行にも出ていない同人に対し「こんな者は手錠を掛けて連れて行くのだ」と云つて西沢巡査に命じて右手首に手錠を掛けさせ屋外に引擦り出そうとしたところを敷居に躓いて俯伏せになつた同人を後ろ手に捩ぢ上げて引き起し幾度か転倒して泥塗れになつた野良着のままの同人に着替も許さず跣足の同人を同人宅よりその居住部落を過ぎて前記砂子派出所に連行する途次の街道を西沢巡査に手錠の繩尻を持たせ、見送る妻女が気転に冠せた笠を態々阿彌陀に直し途上近隣に聞えよがしの大声で「よい見せしめだこのざまを見て貰え」などと暴言を吐き散らして通つたという一連の事実であつて、これらの事実は被告人が警察官の職務行為として先づ窃盗被疑者に対し盗物と認められる物の任意提出を求めたところ被疑者が辞を構えてその提出を拒んだので刑事訴訟法第二百十条の緊急逮捕の要件を具備するに至つたものと信じ緊急逮捕権の行使を発動したものであること及びそのが行使の仕方が被疑者の言動に私憤を触発せられ著しく適正を欠き甚しく正常な軌道を逸脱する暴行凌虐の所為に亘つたものであることを明かに示顕するのであつて、被告人の右所為が、職務行使と何らの関係のないものであるとする弁護人の論説は到底妥当な見解とは認められない。それ故論旨は採用に値しない。

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