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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和28年(ネ)104号 判決

被控訴人富山税務署長が富山県下新川郡加積村上村木百七十五番地訴外北陸鋳造株式会社に対する国税滞納処分として昭和二十五年八月二十一日富山地方法務局東岩瀬出張所登記受付第三八九八号を以て差押えた別紙目録記載の土地に対し昭和二十六年十月二十二日被控訴人実正漣子を競落人として為した公売処分の無効なることを確認する。

被控訴人実正漣子は同被控訴人を権利者として昭和二十六年十月二十九日富山地方法務局東岩瀬出張所登記受付第一六四一号を以て前項の土地について為した所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人等は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の主張は、控訴代理人に於て一、原審は自作農創設特別措置法に基く農地買収処分に関し昭和二十八年二月十八日言渡された最高裁判所判例を以て本件を律することは出来ない旨を判示しておるが、国家が権力的支配関係においてその公権力を発動して財産所有者の意思如何にかかわらず一方的に処分の効果を発生させる点において彼此同視すべく、従つて本件においても民法第百七十七条の適用なきものと解すべきである。二、控訴人は昭和二十一年二月十五日魚津税務署長に対し、本件土地を自己の所有なる旨の財産申告を為し同署長は右申告に基き財産税を賦課徴収したものであり、而も右土地が登記簿上訴外北陸鋳造株式会社の所有名義なることを知りながら右申告に基く財産税の賦課徴収を為したのであるから、国は本件土地が控訴人の所有なることを認めたものに外ならない。従つてその後に於て国は控訴人の所有権取得について登記の欠缺を主張し得る正当な利益を有する第三者に該当しないことは勿論であつて、国の行政機関たる被控訴人富山税務署長に於ても同様である。一旦国が控訴人の所有権を認めた以上行政庁が何人であつても之と異る主張を為し、或は所有権取得について登記の欠缺を主張することができないことは当然である。三、被控訴人富山税務署長が右訴外会社の滞納国税徴収のため昭和二十五年八月二十一日本件物件を差押えたので控訴人は同年九月十日小林弁護士を代理人として滞納処分取消申請書(甲第九号証)を提出したのに対し被控訴人富山税務署長は之を無視し、何等の措置を為すことなく滞納処分を強行して公売処分を為しながら本訴に於て行政訴訟特例法第二条の手続の欠缺を主張するは全体の奉仕者として常に誠実公平に真実と正義の保持に努むべき職責を有する国の機関の態度として遺憾に堪えないところである。要するに控訴人が昭和二十一年二月十五日魚津税務署長に対して為した本件土地が登記名義は訴外株式会社北陸製作所(北陸鋳造株式会社と商号変更)となつているが真実は自己の所有である旨の財産申告を認め、該申告に基いて財産税を徴収した以上、爾後反対の主張を許されないことは勿論、本件公売処分を為したり、或は本訴において登記の欠缺を主張するは信義誠実の原則に反し、又権利の濫用であつて民法第一条第二項第三項により許容せられないことであると述べ、被控訴人富山税務署長指定代理人に於て仮に民法第百七十七条が本件公売処分の如き国家公権力の作用に基く処分に適用がないものと仮定するも本件公売処分の違法は単に取消の原因たるに止まり当然無効の原因とはならない。然るに控訴人は未だ右処分の取消につき何等の救済を求めていないのであるから本件処分の無効を主張し得ない。而して本件仮処分の違法が単に取消の原因たるに止まり当然無効の原因とならないと言う根拠は次のとおりである。即ち行政処分は一旦それがなされたならば国家もその処分の相手方たる国民もこれに拘束され、又一般の第三者もこれを信頼して行動するのが常であるから、行政処分を無効とするには右のような諸利益を犠牲にするも止むを得ないと言う場合でなければならぬ。従つて行政処分の瑕疵が軽微な場合やそれが重大であつても客観的に明白でない場合に之を無効とすることは前記諸利益を不当に害する結果となるから、その瑕疵が重大且つ明白な場合にのみ之を無効とすべきである。然るに本件公売処分は正当な権限を有する被控訴人富山税務署長がその権限に基づき国税徴収法により差押及公売処分をなしたもので、この処分自体に何等の法規違反もなく、且つ租税徴収のため登記簿の記載を信じて登記名義人に対し公売処分を為したに過ぎないのであつて何等明白な瑕疵も存しないのであるから之を目して無効と言うを得ないと述べた外原判決事実摘示と同様であるからここに引用する(証拠省略)。

三、理  由

本件土地が元訴外株式会社北陸製作所の所有であり、同会社は昭和二十一年十二月二十七日北陸鋳造株式会社と商号を変更したこと被控訴署長が右会社に対する同二十四年度滞納国税等のための滞納処分を訴外魚津税務署から引継ぎ同二十五年八月二十一日控訴人主張の如く右土地を差押えてその旨登記し次いで同二十六年十月二十二日被控訴人実正漣子を競落人として右土地の公売処分をなし同月二十九日同被控訴人を権利者とする控訴人主張のような所有権移転登記がなされたこと、他方控訴人が同二十一年二月十五日魚津税務署長に対し右土地を自己の所有である旨の財産申告をなし、同署長において右申告に基き控訴人からその財産税を徴収したこと同二十五年八月三十一日控訴人が右会社との売買に因る右土地の所有権移転登記を為したこと、控訴人が該土地を買受けたとする同二十一年二月八日当時の右会社の代表者が訴外石田由正であつたことは当事者間争がない。

依つて原審証人石田由正の証言によつてその成立を認めうる甲第二、三、八号証成立に争のない同第五号証の一乃至五第六号証の一、二に前示石田証人原審証人大島三佐雄、同松本伊作の各証言を綜合すると本件土地は元訴外会社の所有敷地であつたが昭和二十年の終戦前同工場は強制疎開のため撤去を命ぜられて、その使用不能となつたので同会社は魚津駅前に工場を設け終戦後同会社はその工場の改良費その他の事業資金に充当するため、右土地を売却すべく同二十一年一月三十日と同年二月五日の二回に亘り右土地譲渡の新聞広告をなしたので、控訴人は訴外松本伊作を通じて同年五月八日その当時の会社代表者石田由正との間に本件土地をその他の物件と共に金七万八千円にて買受けその所有権を取得したことが認められ丙第四号証を以ては、右認定を覆し難く、その他右認定を左右すべき資料がない。尚被控訴人実正漣子において右売買は通謀虚偽のものであると主張するが、これを支持すべき証拠はなく又被控訴人等は右の売買は右石田由正の独断専行にいづるもので無効であるという主張については、仮にその様なことがあつたとしても、同会社内部の事情であり控訴人においてその点に悪意であつた証明のない本件としては、その代表権限の瑕疵は主張し得ない。

次に被控訴人等は行政法上の行為であつても、私法上の場合と等しく民法第百七十七条の適用を受けるのであるが、本件差押当時本件土地について控訴人の所有権取得の登記がなかつたのであるから、控訴人はその所有権を第三者たる被控訴人等に対抗し得ないと主張し、これに対し控訴人は、行政法上の行為には民法第百七十七条は適用せられないと抗争するところである惟うに同じく国家権力発動の場合といいながら、滞納処分としての差押、公売処分の場合は自作農創設特別措置法における場合のように、自作農創設のため国家が農地を一旦買上げて、更にこれを自作農として適当な者に売渡すのと異り徴税のため単に国家機関が強制的に私人間の売買に関与するに止まり、本質的には普通の強制執行に国家機関が介入する場合と同様であるから、滞納処分による差押公売処分の場合は民法第百七十七条の適用があるとするのが正当である。然しながら、我国の不動産登記は公信力がないのであつて、その登記欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者にその登記欠缺の抗弁権が附与せられておるだけであるから、若しその第三者にその抗弁権行使を許し得ない事情を生ずれば最早その第三者はその抗弁権を行使し得ないとすべきことは当然であり、前段に説示したように本件差押当時控訴人は本件土地について所有権取得の登記はなかつたが、既にその以前の同二十一年二月十五日魚津税務署長に対し本件土地を自己の所有として申告し同署長は該申告を受理して以後控訴人から徴税したのであるから、国家は控訴人を本件土地所有者として取扱うたのであり(そのことが真実に合致することは既に認定の通り)その後においてはこれを飜し登記欠缺の理由を以て控訴人の本件土地に対する所有権を否定し得ないものとなさざるを得ない。蓋し特段の事由のない限りその登記欠缺に拘らず一旦その所有者としての取扱をして置きながらその後の都合次第で、その登記欠缺を口実にその所有権者たるを否認するような背信的行為は一私人であろうと国家であろうと許さるべきではなく、且つそのことは偶々国家を代表する数個の機関の間の連絡の不十分であつたことや、又その機関を構成する個人の過失の有無や又被控訴人等の主張する財産申告制度の趣旨乃至事務取扱の難易等の理由によつて左右し得べきものではない。而して控訴人が本件土地について、本件公売処分による競落以前既にその所有権取得登記を経由したことは争のないところであるから、被控訴人等はいずれも控訴人の本件土地に対する所有権を否認し得ないものとせねばならず、従つて、本件差押はこれを許すべからざるものであり、これを基礎とする公売処分による競落の効力も亦これを否定せざるを得ない。

然り而して、被控訴人等は更に本件差押公売処分に控訴人主張の瑕疵があつても明白且つ重大なものではなく、又その手続自体欠陥がないから取消さるべきものであつても当然無効でないと争うところであるが、滞納処分においてその目的物件の所有者を誤ることは、その実体面において最も基本的且つ重大な誤を犯したものというの外なく、仮令その瑕疵が外見上明白でもなく又その手続の形式において欠陥がなくとも当該行政処分は当然無効とするのが相当であり、被控訴人等においてその無効を争う以上その無効確認を求むる必要があるから、本訴各請求はこれを是認すべきに拘らずこれを拒否した原判決は失当であつて本件控訴は理由があるから民事訴訟法第三百八十六条、第九十三条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田市平 村上久治 伊藤寅男)

(別紙目録省略)

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