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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和28年(ネ)245号・昭28年(ネ)238号 判決

第一審原告 坂本彌三郎

第一審被告 小松瓦斯株式会社

一、主  文

原判決を次のように変更する。

第一審被告は第一審原告に対し、金八万百二十円を支払うべし。

第一審被告の本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

二、事  実

第一審原告は、原判決中「原告その余の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との部分を取消す。第一審被告は第一審原告に対し、金八万百二十円を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。との判決を求め、第一審被告は、原判決中「原告その余の請求を棄却する。」とある部分を除きそのほかを取消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。との判決を求め、当事者双方は、たがいに相手方の控訴に対して控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、

第一審原告において、

(一)  元来会社重役の受ける報酬金は、官公史等に支給せられる給与に相当し、生活資料の基礎をなすものであるから、かならず各営業期のはじめにおいてこれを定めるべきものであつて、期末にいたつて定めるようなことは給与と同一である報酬の性質に反し普通にはあり得べからざるところである。第一審被告(以下単に被告という)においても、いわゆる社内重役の報酬は、従来毎期のはじめに、取締役会で株主総会の限定した金額の範囲内でこれを決定してきたのであつて、昭和二十七年一月一日からはじまつて同年六月三十日で終る第五十八期のそれは、同年二月七日の取締役会で決定されたのであつた。被告主張のように同年六月の期末に及んで定めるというようなことはあり得ないのである。右二月七日の取締役会では、まず社長及び専務取締役以外の重役の報酬を定め、社長及び専務取締役の毎月の報酬は、慣例にしたがつて、社長に一任することを満場一致で可決したので、社長である第一審原告(以下単に原告という)は、右決定により、いままでの例にならい、社長と専務取締役の報酬額を定めることにし、両名の間の摩擦を避けるため、一応専務取締役宮越久作に対してその受くべき額を示し協議をしたのであつたが、同取締役はこれに同意しなかつたので、原告は止むをえず取締役会から託された権限に基いて、社長の受くべき額を一ケ月二万三千円、専務取締役の受くべき額を一ケ月二万千円と決定し、この旨を会計兼務取締役和田学次に口頭を以て告知し、ここに右報酬額は確定をみたのである。

(二)  この点に関して、原判決は、自己の報酬を定めるのに社長がその決議に加わることは、商法第二六〇条の二、第一、二項、第二三九条第五項及び第二四〇条第二項の規定に反し無効であると判示したが、これは原審が右法条の趣旨を誤解した結果であつて、たとえ原告がかような決議に加わつたとしても決議の数から除外すれば足りるのであつて、決議全体を無効とすべきものではない。そして社長一任の前記決議をしたのは列席取締役全員の賛成によつたのであるから、原告を除いても多数決たることには異なるところはなく、右決議は有効である。

(三)  原告は被告会社の三百六十株の株主であつて、同株式の一株の金額は五百円であり、全額払込ずみのものであることは、原告が原審第五回口頭弁論期日において主張したところである。したがつて、右株式に対する年一割二分の割合による一期分(半年)の利益配当金は金一万八百円であることは算数上明らかであるのに、原審が一株の金額を金五十円と誤認し、右配当金額を千八十円と認定したのは失当である。

なお、被告は、原告において被告会社に対し所定の請求書並びに領収書を提出して右配当金の請求をしないから、これに応ずる義務はないと主張するけれども、右主張は否認する。被告に配当金支払義務のあることは、昭和二三年六月二八日法律第六四号の規定によつても明白である。

と述べ、

第一審被告において、

(一)  原告の前記(一)の主張は否認する。被告会社の昭和二十七年二月七日の取締役会は、取締役社長の原告及び専務取締役宮越久作の報酬額の決定を原告に一任したことはない。右取締役会の経過は、乙第一号証の記載によつて明らかなように、はじめ専務取締役宮越久作からこれを社長に一任してはどうかと提言したが、他の取締役の反対があつて結局この案は撤回され、あらたに会計兼務取締役和田学次の提案にしたがい、同年六月の定例取締役会まで決定を見合わせ、それまでは社内取締役の報酬は必要に応じて仮払いすることに決定せられたのである。そして、報酬額の具体的な決定は、会社の営業実績、各取締役の勤怠の状況等を勘案してしなければならないものであることにかんがみて、右提案は会社の経営にあたるものの心掛けとして極めて妥当なものといえよう。原告は右乙第一号証には原告の押印のないことをあげて、同書証の成立を否定するが、原審証人中田正行の証言によれば、同証は議事の経過を忠実に記録したものであつて、たとえ議事録に一部押印しなかつた者があつても、記載内容は真実と一致しているのである。

また、取締役和田学次は原告主張のような報酬額の示達を受けたことはない。同取締役は右取締役会の決議にしたがつて、原告に対して、仮払いとして、金二万円宛二回、その後更に金二万円の支出をしたのみである。もし真実原告主張のように報酬額の決定が社長に一任され、社長からその額が二万三千円であると告げられたものであれば、同取締役はこれにしたがつて原告に月額二万三千円の支払をしたはずであるが、実際にはさような事実はなかつたので、前記のように仮払いをしたというのが事実である。

(二)  そもそも、報酬額を社長に一任するという決議ができたなどということは、原告が本訴ではじめて言い出したことであるが、社長たる原告が自己の受くべき報酬を、自己の一存で決定することができるというようなことは、原審が述べたように商法の趣旨にも反し、あり得べからざることであつて、原判決がこれを無効としたことは当然といわなければならない。

(三)  原告は、被告会社の昭和二十七年六月十一日及び同年七月一日の取締役会の決議は無効であると主張するが、右両取締役会の招集手続及び決議内容には原告主張のような違法はない。右取締役会の開催はいずれも原告に通知ずみであり、また取締役会は一日議決された原告の報酬を後日変更し得ないとする理由はなく、たとえそれが第五十八期において決定されたものであつても、次期取締役会でこれを改め得ることはもちろんである。しかし、もし原告主張のように右各取締役会の決議が成立しないものとするならば、原告に対する報酬額は昭和二十七年一月二十八日の株主総会以後全く未決定のままであるといわざるをえないのである。原告は乙第二号証の成立を争うけれども、原告提出の甲第一号証は取締役解任等の登記の際に添付した議事録謄本であつて、登記事項に関係のない部分を省略したまでであつて、同号証に重役報酬額決定の顛末が書いてないからといつて、後日の偽造というがごときは誣いるもはなはだしい。

(四)  被告会社の株式一株の金額が五百円であることは争わない。

と述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

<立証省略>

三、理  由

第一原告の報酬金請求についての判断

原告が昭和二十五年七月二十八日被告会社の株主総会において同会社取締役に、昭和二十六年一月十一日被告会社の取締役会において同社長に選任せられたが、昭和二十七年六月十一日の被告会社取締役会において社長を、同年七月五日の同会社臨時株主総会において取締役をそれぞれ解任せられたこと。昭和二十七年一月二十八日開催の被告会社第五十七期臨時株主総会において、被告会社の第五十八期(昭和二十七年一月一日から同年六月三十日まで)における同会社の取締役及び監査役の受くべき報酬総額を金四十万円と決定し、各取締役及び監査役に対する右報酬金の支払並びに分配方法を取締役会の決議に一任したことはいずれも当事者間に争いがない。

原告は、右株主総会の委任事項に基いて、昭和二十七年二月七日の被告会社取締役会の決議は、社長及び専務取締役の受くべき第五十八期報酬額を定め、その支払並びに分配方法を当時の社長であつた原告に一任したと主張し、これに対して被告がわでは右報酬額並びに分配方法の決定は同年六月の定例取締役会に譲られたと主張するので、以下この争点について調べてみる。

成立について争いのない甲第五号証、当審における原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第六号証と原審証人筒井又七、当審証人八田安吉(第一、二回)の各証言及び原審並びに当審における原告本人尋問の各結果を合わせ考えると、次の事実を認めることができる。

昭和二十七年二月七日、被告会社において、前記報酬金四十万円配布の件について、取締役会が開かれた。右取締役会には取締役八田安吉を除く全取締役が出席し、監査役二名立会のうえ、議事は当時社長であつた原告が議長となつて進められ、議長の提案により順次左のように決議された。すなわち、右四十万円のうち、社外取締役(社長、専務取締役及び会計兼務取締役を除いたその他の取締役)三名及び監査役二名の第五十八期の報酬を一人当り一万五千円、期末報酬(期末に支払われる賞与)を一人当り六千円合計十万五千円とすること。次に会計係兼務社内取締役和田学次に支給すべき右同期報酬を一万円、期末報酬を六千円とすること。更に社長及び専務取締役の同期期末報酬を各六千円とすること。以上合計十三万三千円を四十万円から差引いた残額二十六万七千円を、社長及び専務取締役の第五十八期報酬に当てることとし、右両名の間における報酬の配分並びに支払方法を、社長たる原告に一任すること。右はいずれも出席者全員の賛成により可決されたものである。そして社長及び専務取締役に対する報酬の配分並びに支払方法を取締役会が社長に一任することは、被告会社では異例でなく、第五十六、七期にも行われて来たものであつて、第五十八期においても従来の慣行にしたがつたものであつた。そこで原告は右取締役会の決議に基いて、二三の配分案を作成してこれを当時の専務取締役宮越久作に提示したが、いずれも同取締役の承諾を得ることができなかつた。これは右決議後被告会社において右宮越久作を中心とする一派の重役連が社長たる原告を排斥しようとする動きが生じたためであつて、右動きを察知した原告は同取締役の同意を得ることは期待することができないものとして、前記配分方法に関する取締役会の決議に基いて社長の受くべき報酬を月額二万三千円、専務取締役の受くべき報酬を月額二万千円と決定し、同年三月二十七日その旨を会計係取締役和田学次に告げて、その支払を請求したのである。

以上のように認定することができる。

原審証人中田正行、原審並びに当審における証人和田学次の各証言及び被告会社代表者宮越久作の各供述中、右認定に反する部分は前記各証拠に照し合わせて信用することができない。もつとも、乙第一号証(取締役会議事録)には右認定に反し、第五十八期の社長及び専務取締役の受くべき報酬の配分方法を同年六月の定例取締役会まで未決定のままにしておく旨被告の主張に副うような記載があるが、同証には前記二月七日の取締役会に出席した取締役五名のうち、原告ほか取締役一名の自署及び押印を欠いていること、同議事録は被告会社の保管するものであつて、原告を除外すれば、前認定の原告排斥派の取締役において後日改ざん又は偽造することが可能の文書であること等にかんがみると、右書証の成立に関する原審証人中田正行、和田学次の各証言及び原審並びに当審における被告会社代表者宮越久作の各供述は、前記原告本人の各供述に照して措信しがたく、他に同証が真正に成立したものとする証拠はないので、右書証を以て事実認定の資料とすることはできない。その他前段認定を動かして前記取締役会では報酬金の配分は議決されなかつたという被告の主張を認めるに足りる確証はない。

そこで、原告が自己の報酬を決定する取締役会の決議に加わることは、商法第二六〇条の二第一、二項、第二三九条第五項、第二四〇条第二項の規定に反するものであつて、決議自体無効となるか、どうかについて考えてみよう。思うに、特別の利害関係ある取締役は、取締役会において表決権を行使し得ないとする右規定の趣旨は会社または取締役会と相対立する利害関係のある特定の取締役の議決権行使を排除して、取締役会における決議の公正を担保しようというのがそのねらいであると解すべきであるから、株主総会が取締役の報酬及び賞与金の総額のみを決議し、取締役各自に対する支給額の決定を取締役会に一任した場合に、取締役会に出席した取締役が各自の配分につき表決に加わり、または特定の取締役にその配分方法を一任することは、取締役全体の一般的事項を議するものであつて、ある特定の取締役にのみに関する事項を議決する場合にみられるような利害が対立するものではないから、決議の公正を害するものとすることはできない。従つて原告が取締役会の各取締役に対する報酬配分の決議に加わり更にその委任に基いて、自己の報酬を定めることは、すこしも前記規定に反するものではなく、もとより有効としなければならない。

してみると、原告が被告会社から受ける第五十八期の報酬は、一ケ月金二万三千円であり、その期末報酬は金六千円と決定したものというべきである。

よつて、次に右のように確定された報酬の額を、その後において変更することが許されるか、どうかについて考えてみるに、およそ会社が取締役に対して支払う報酬は、取締役が会社の業務を執行したことの対価として受けるもので会社と当該取締役との間に結ばれる契約に基くとみるべきものであるから、一旦具体的に定められた報酬の額は当該取締役の同意がない限り、会社はこれを後日にいたつて一方的に減額することは許されないものといわなければならない。(尤も会社から当該取締役に対する不法行為なり債務不履行に基く損害賠償債権その他何等かの反対債権があつて差引するというのは別問題である)被告はその昭和二十七年六月十一日の取締役会の議決により、原告の受くべき第五十八期報酬を六万円とし、更に同年七月一日の取締役会において右額を四万に減額したと主張する。しかしながら、被告の全立証資料によつても、右減額について原告の同意を得たと認められる形跡はないので、右両取締役会の招集手続及び決議内容に原告の主張するような瑕疵があつたか、どうかの争点を判断するまでもなく、被告の右主張は採用に価しない。

果してそうだとすると、原告は被告会社に対して、昭和二十七年一月一日から、原告が被告会社の社長たる地位を解任せられた日の前日である同年六月十一日まで、被告会社の第五十八期取締役社長としての報酬として、被告会社から一ケ月二万三千円の割合による五ケ月と十日分の報酬十二万二千六百六十円、更に同年六月十一日から同月三十日までは、社外取締役として在任した二十日間の前記社外取締役報酬を日割で計算した千六百六十円及び前記期末報酬六千円のうち原告が本訴で請求する内金五千円以上合計金十二万九千三百二十円の請求権を持つものというべきところ、現在までにその内金六万円の支払を受けたことは原告みずからの認めるところであるから、被告会社は原告に対し、右金額を控除した残金六万九千三百二十円を支払う義務あるものとしなければならない。

第二原告の利益配当金請求についての判断

被告会社の株式一株の金額が五百円であることは当事者間に争いがなく、原告が同会社の三百五十株(全額払込ずみ)の株主であること、昭和二十七年七月二十八日の同会社株主総会において同年一月一日から同年六月三十日まで各株主に対し年一割二分の割合による利益配当をする旨の決議をしたことはいずれも被告の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなすべきである。してみると、原告は右株主総会の決議により、前記持株につき右配当率による合計金一万八百円の具体的利益配当請求権を取得したものといわなければならない。被告は、原告において被告会社に対し所定の請求書並びに領収書を提出しないから、原告の利益配当請求に応ずる義務がないと抗争するが、株主は株主総会の利益配当に関する決議によつて、会社に対し債権者的権利として特定金額に対する具体的な利益配当請求権を持つにいたるものであるから、かような書類の不提出によつて、その請求を拒み得るものではないので、右主張は採用しない。更に被告の相殺の抗弁もまた前認定のとおりその前提となる反対債権の存在がないので採用の限りではない。

以上の説明により、被告は原告に対し報酬金六万九千三百二十円及び利益配当金一万八百円以上合計金八万百二十円を支払うべき義務あるものといわなければならない。

よつて、原判決中、原告の請求を棄却した部分は失当であるから原告の本件控訴はその理由あるものというべきであり、他方被告の本件控訴はその理由なしとして棄却しなければならないので、民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田市平 伊藤寅男 岩崎善四郎)

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