大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和29年(う)113号 判決

職権により調査するに、原判決は罪となるべき事実冐頭に、被告人は友人高登外雄及び川田毅がそれぞれ生糸類窃取の企図あるを知つて、と判示し第二、前段において「昭和二十七年二月二十五日頃自宅において右外雄に対し同人が同所から犯行現場に臨み且つ贓物の運搬の具に供するため自己の自転車を貸与し以て、同外雄が同日午后八時頃石川県能美郡根上町字浜イ二百四十五番地高畑義雄方において生糸九貫匁時価十二万六千円相当を窃取するにあたりその犯行を容易ならしめ」と認定し第三、において「同年(同月とあるは誤記)三月二十四日頃自宅において右外雄に対し前掲第二と同一趣旨のもとに自己の自転車を貸与し以て同外雄が同月二十五日午前零時頃根上町字福島ヨ七十番地竹内(竹田の誤記)清政方においてスフ糸百封度時価二万円相当を窃取するにあたりその犯行を容易ならしめ」と認定し、更に第四、前段において「同月末頃自宅において右外雄に対し前掲第二と同一趣旨のもとに自己の自転車を貸与し以て同外雄が同月末頃午前一時頃同根上町字福島タ三十五番地仙台伝三方において生糸十六貫匁時価二十一万九千二百円相当を窃取するにあたりその犯行を容易ならしめ」と認定し、いずれに対しても刑法第二百三十五条、第六十二条一項を適用し、窃盗幇助罪として処断していることが明かである。そして右判示第二、にあたる、昭和二十八年八月十日附起訴状に公訴事実として「第一、被告人浜永欣一は(一)いずれも肩書記載の同人方において相被告人高登外雄に対し(ロ)昭和二十七年二月十八日頃生糸の方がよいから夫れを盗んで来い旨申し向け窃盗を教唆し因つて、前記高登をして同月二十六日頃午後八時過頃能美郡根上町字浜イの二百四十五番地織物製造業高畑義雄方において、同人所有の生糸九貫匁時価十二万六千円相当を窃取せしめたものである。」と記載し、右原判示第三、にあたる、同起訴状に公訴事実として、「第一、被告人浜永欣一は(一)いずれも肩書記載の同人方において相被告人高登外雄に対し(ハ)昭和二十七年三月中頃糸を持つて来い旨申し向けて窃盗を教唆し、因つて前記高登をして同月二十四日頃の午前零時過頃能美郡根上町字福島ヨ七十番地織物製造業竹田清政方において同人所有のスフ糸約百封度時価二万円相当を窃取せしめたものである」と記載あり。右判示第四、前段にあたる、昭和二十八年七月三十一日附起訴状には公訴事実として「被告人浜永欣一は昭和二十七年二月末頃肩書記載の被告人宅において相被告人高登外雄に対し生糸を盗んで来い、生糸は一貫匁一万円もする、売り口は自分が世話をしてやる等申し向け窃盗を教唆し因て右高登をして同年三月末頃の午前一時過頃能美郡根上町字福島タの三十五番地織物業仙台伝三方土蔵内において生糸十六貫俵一袋時価二十一万九千二百円相当を窃取せしめたものである」と記載し、いずれも罪名及び罰条として、窃盗教唆、刑法第二百三十五条第六十一条を掲記している。そして被告人に対する原審第七回公判調書によると検察官は本件公訴事実中窃盗教唆に対し予備的に窃盗幇助を追加する旨述べたことが記録上明かである。右検察官の訴因の追加はそれ自体よりして、前記特定された公訴事実に対する法律評価の面においてのみなされたものと認めざるを得ないのである。そうだとすると、右原判示第二の前段において昭和二十七年二月十八日頃生糸がよいから、それを盗んで来いと告げて窃盗を教唆し、または幇助したという公訴事実に対して、原判決が昭和二十七年二月二十五日頃犯行現場に臨みかつ贓物の運搬の具に供するため自己の自転車を貸与し窃盗の犯行を容易ならしめたものと認定したのは訴因として特定した事件以外の事実を認定したもので審判の請求を受けない事件につき判決をしたものというべきである。なお原判決は同原判示第三、において、昭和二十七年三月中頃糸を持つて来いと告げて窃盗を教唆し、または幇助したものである。との公訴事実に対して、昭和二十七年三月二十四日頃右原判示第二と同一趣旨のもとに自己の自転車を貸与し窃盗の犯行を容易ならしめたものと認定し、また同原判示第四、前段において、昭和二十七年二月末頃生糸を盗んで来い、生糸は一貫匁一万円もする売り口は自分が世話をしてやる等告げて窃盗を教唆し、または幇助したものである。との公訴事実に対して、右原判示第二、と同一趣旨のもとに自己の自転車を貸与し、窃盗の犯行を容易ならしめたものである。と認定しているから同じく敍上のとおり審判の請求を受けない事件につき判決をしたものであつて、以上の点において原判決は破棄を免れない。

つぎに原判決は、罪となるべき事実第八後段において、被告人は「次で佐藤昭治と共謀し右情を知りながら同県能美郡湊村右昭治(照治とあるは誤記)兄宅方において売買周旋のため同毅から右盗贓品たる生糸の引渡を受けその頃その一部を同県石川郡美川町崔出伊方において同人に対し二回に亘り合計六千円にて、残部を前記木下一郎方において同人に対し四万五千円余にて売渡し以て贓物牙保を為したものである。」と認定しているが、被告人に対する昭和二十八年七月二十日附起訴状の公訴事実は「被告人浜永欣一は佐藤昭治と共に昭和二十八年七月四日頃の午後八時頃石川郡美川町神幸町所在古物商金山二郎こと崔出伊方において同人に対し川田毅等が窃取した贓物であることを知りながら糊付生糸約二貫七百匁位を代金四千百六十円位で売却する周旋をして贓物の牙保をしたものである」と記載あり、同昭和二十八年七月三十日附起訴状の公訴事実は第一被告人浜永欣一は(二)昭和二十八年六月六日頃の午後九時過頃福井県豊島中町七十九番地木下一郎方において同人に対し盗贓物たることを知りながら生糸約七貫匁余を売却方の斡旋を依頼して贓物の牙保をなしたものである」と記載している。ところが、被告人に対する原審第七回公判調書によると、裁判官「尚昭和二十八年七月三十日附起訴状事実中訴因第一の(二)、第四の臟物牙保を一個としてはどうか」検察官「贓物牙保の点は一個として訂正します」弁護人及び被告人「右訂正には異議がない」裁判官「右検察官の訴因の訂正を許容し同時に山口の点も訂正し、被告人浜永と一括する旨各決定」とあり。右昭和二十八年七月三十日附起訴状第四、には「被告人佐藤昭治は(一)相被告人浜永欣一と共謀して昭和二十八年七月四日の午後八時過頃石川郡美川町神幸町所在屑物商崔出伊方店舗において同人に対し前記川田等の盗贓物たることを知りながら生糸約二貫七百匁余を代金四千百円相当で売却する斡旋をして以て贓物の牙保をなし(二)単独で同月六日頃の正午頃右同所において同人に対し盗贓物たることを知りながら生糸約一貫匁余を代金二千円で売却する斡旋をして以て贓物の牙保をなしたものである」と記載しある。右のとおり原審は昭和二十八年七月三十日附起訴状第一の(二)と同第四の贓物牙保の事実を一個と訂正せしめたのみでこれを許容し、前掲のとおり包括一罪と認定したことが明かである。しかし右起訴状の第一、の(二)の贓物牙保は被告人浜永の単独犯として、同第四の(二)の贓物牙保は弁論を分離した被告人佐藤の単独犯として各起訴されたものであることは起訴状によりこれまた明かである。かかる、被告人浜永と佐藤の各贓物牙保の単独犯を共犯として被告人浜永の包括一罪を認定する場合、被告人浜永の単独犯を佐藤との共犯と認定することは被告人浜永に対する関係において、訴因につき法律評価を異にするに過ぎないので被告人の防禦に実質上の不利益がないかぎり必ずしも訴因の変更手続を要しないと解すべきも、佐藤の単独犯として起訴された部分を被告人浜永に対する関係において、被告人浜永と佐藤との共犯によるものとして、被告人浜永を問責し得るためには、たとえ該事実が被告人浜永の既に起訴された他の罪と包括一罪の関係にあるため新な起訴を要しないとしても少くとも被告人浜永に対する従来の公訴事実に対し、訴因追加の手続を要するものと解すべく、しかるに検察官は前記の如く単に被告人浜永に対する公訴事実の第一、の(二)の贓物牙保と佐藤に対する公訴事実第四の贓物牙保とは一個である旨原審公判廷において陳述したに止まり訴因の内容を何等具体的に明示するところがなかつたことは前段において説示したとおりであり、かような検察官の措置のみによつては到底訴因追加の効力を認め得られないこと多言を要せずして明かである。しかるにかかる検察官の措置を是認し、前掲のとおり被告人浜永と佐藤との共犯の点につき包括一罪の認定をした原審の訴訟手続には法令の違反があるといわねばならない。この違反は判決に影響を及ぼすことが明かであるからこの点においても原判決は破棄を免れない。

(裁判長判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫 判事 岩崎善四郎)

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