名古屋高等裁判所金沢支部 昭和29年(う)151号 判決
記録に依れば、原審検察官は、本件公訴を提起するに当り、罰金刑を以て処断すべき事案と認め、原裁判所に対し、昭和二十九年三月三十日付起訴状をもつて、略式命令を請求したところ、原審は、略式命令によるを相当とせず、同月三十一日、通常の手続に依り審判する旨の決定を為し、同年四月十九日第一回、同月三十日第二回の各公判を開廷し、その間、本件を地方裁判所に移送する旨、決定することもなく審理を遂げ、右第二回公判廷に於て、被告人に対し、禁錮参月二年間執行猶予の刑を言渡したものであることが明白である。仍て案ずるに、本件公訴事実は、業務上過失致死傷の所為をもつて、その内容とするものであり、裁判所法第三十三条第一項第二号に所謂選択刑として罰金の定められている罪に当るから、簡易裁判所は、同条第二項の制限に従い、罰金以下の刑をもつて処断すべき場合に限り、これに対して第一審の裁判権を有するものと言うべく、若し禁錮以上の刑に処するを相当と認めるときは、裁判所法第三十三条第三項刑事訴訟法第三百三十二条等の規定に従い、事件を地方裁判所に移送しなければならぬことは、此処に説明する迄もないところである。しかるに敍上認定に依れば、原審は、前記の公訴事実につき、禁錮以上の刑を科すべきものと認めながら、しかも、該事件を地方裁判所に移送せず、簡易裁判所の裁判権の限度を超えて自ら判決したものであつて、右は刑事訴訟法第三百七十八条第一号に定める「不法に管轄を認めた場合」に該当することが明かであるから、同法第三百九十七条第三百七十八条第一号に則り、原判決は、これを破棄すべきである。ただ、原審証拠調の結果を検討するに、本件に於ては、量刑に影響すべき諸般の状況について、記録上、必ずしも十分に審理されたものと認め難く、従つて、果して罰金以下の刑をもつて処断すべきや、又は禁錮以上の刑により処断すべきやの点につき、原審をして、さらに審理を遂げしめた上、地方裁判所に移送すると否とを、自ら決定せしめるのが相当であると認められるところ、刑事訴訟法第三百九十九条本文は、管轄第一審裁判所に対する「移送」についてのみ規定し、特に原審に「差戻す」べき場合あることについて言及していないけれども、本件に於けるが如き場合、判決前の一応の管轄裁判所たる原審に対し、当該事件を「差戻す」ことを、同条は、当然のこととして、許容するものであると解することが出来るから、此処に前敍同条の趣旨に従い、本件を原審裁判所に差戻すべきものとする。
(裁判長判事 成智寿朗 判事 伊藤寅男 判事 沢田哲夫)