名古屋高等裁判所金沢支部 昭和29年(う)317号 判決
本件起訴状二、の公訴事実は「被告人佐藤甲子男は右会社(親和商事株式会社)の設立登記をなすに際し株金の払込がないのに払込のあつたように所謂見せ金による保管証明書によつて設立登記を完了せんことを企て、昭和二十五年十一月十一日長田信より会社設立の登記を終る迄の間金十万円を借り受け同日これを福井市佐佳枝中町五十一番地株式会社福井銀行本店へ親和商事株式会社名義で預金し同月十三日前記銀行より同行発行の株式払込金保管証明書の下附を受けた上同日これを被告人外四名名義の株式会社設立登記申請書に添付し福井地方法務局に提出して会社設立の登記を完了し以て株金の払込みを仮装する預合をなしたものである。」とし、罪名並に罰条として、商法違反、商法第四百九十一条と記載している。これに対し原判決は判示事実第二において右公訴事実のとおり事実を認定し商法第四百九十一条(預合の罪)に問擬していることは所論のとおりである。
商法第四百九十一条にいわゆる預合とは、同法第四百八十六条第一項に掲げたる者が、株式の払込を取扱う銀行又は信託会社との間において、株式の払込を仮装するため、銀行又は信託会社から借財をなし、その借財をもつて株式の払込に充てるためこれをその銀行又は信託会社の預金とし、右借財の弁済あるまで或は右借財の弁済のためでなくてはその預金を引出さないことを約するをいうものと解すべきところ、原判決挙示の証拠によれば、被告人佐藤甲子男は親和商事株式会社の発起人として、株式引受人から株金の払込がないのに払込があつたように、いわゆる見せ金による金融機関の保管証明書によつて設立登記を完了する方便として、長田信から会社設立登記の終るまでの間金十万円を借り受け形式上株式の払込があつたように装い、株式会社福井銀行本店に予金し株式払込金保管証明書の交付を受けた上その設立登記を完了するや該金員の払戻しを受け右長田信に返済したことが認められ、株式の払込を仮装するため借財をしたのは右銀行に関係のない、右長田信からであつて、被告人と株式の払込を取扱つた株式会社福井銀行本店との間においては株式の払込を仮装するため借財をなしその借財をもつて株式の払込に充てるため預金し右借財を弁済するまで或は右借財の弁済のためでなくてはその預金を引出さないという契約のあつたことは毫も認められないのである。従つて本件は商法第四百九十一条の預合罪は成立しないものといわなければならない。しかるに原判決が本件を商法第四百九十一条に問擬し有罪と認定したのは法令の解釈適用を誤つたものというべく、この誤は判決に影響することが明らかであるからこの点につき原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)