名古屋高等裁判所金沢支部 昭和29年(う)83号 判決
原判決に、追徴の原則に反した違法ありとの論旨(被告人中谷文一、同黒田太兵衛、同羽田吉郎関係各論旨)について。
原審証拠調の結果を検討すれば、被告人中谷文一、同黒田太兵衛、同羽田吉郎の三名は、被告人高橋定栄から、金五万円を、選挙運動の報酬並に其の資金とする趣旨の下に、一個の行為をもつて供与され、被告人中谷が三名を代表してこれを受領したものであり、右金員の授受に際しては、右三名各自の取得分、報酬と費用との区別等について、何等の定めるところなく、単純且包括的に、其の処分方を一任されたものであつたことを認めるに十分である。思うに、選挙運動者が、選挙に関し報酬及び費用として、包括的に一定金額の供与を受けた場合、両者の割合について別段の定めがないときは、受領金額の全部を没収し又は追徴すべきであり、また報酬等として供与された金員の一部を、被供与者よりさらに他の者に供与した場合、該金員は第一次の被供与者(第二次供与関係の供与者)の利益に於て費消されたものであると言うことが出来るから、第二次供与関係に於て他人に供与した金額を、第一次被供与者より追徴するも違法ではない。記録によれば原判決は、被告人中谷文一、同黒田太兵衛、同羽田吉郎等が被告人高橋定栄より、報酬並に費用として、包括的に、且、共同の行為をもつて受領した金五万円につき、該金員は、すべて同被告人等の利益に於て既に費消され、最早没収することが出来ない状態に立至つたものと認め、これを三等分し、前記三名各自に対し、金一万六千六百十円宛の追徴を命じていることを認め得るが、敍上によつて明かである如く、原審の右措置は、これを目して違法となすを得ず、従つて原判決には、追徴の原則に対する違背が存しないから、論旨は理由がない。