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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和29年(ナ)1号 判決

原告 酒井義雄

被告 富山県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は被告の原告が昭和二十八年十月十七日富山県中新川郡上市町町長選挙において訴外池田嘉吉の当選無効宣言を求めた訴願を棄却した裁決を取消す右池田嘉吉の当選を無効とする訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求めその請求原因として原告は昭和二十八年十月十七日施行された富山県中新川郡上市町における同町長選挙の選挙人であるが、同選挙において同日同町選挙管理委員会は訴外池田嘉吉に対する投票を有効としその当選を告示したけれども右池田嘉吉は適法な候補者でなかつたから原告は右委員会へ異議申立をしたが同委員会はこれを却下したので、更に原告は被告に対し訴願を申立てたが被告は該訴願を棄却する旨の決定をし右決定は同二十九年二月二十三日その交付を受けた。

然しながら右池田嘉吉の当選は次の理由で無効である。即ち

(一)  右町長選挙期日が告示されたのは同年十月七日であり右池田嘉吉の立候補は訴外青木憲治、神田福次郎、天助憲一等十一名作成の推薦届書によるものであるところ、右推薦届書の作成は右選挙期日告示前に係るものであるから不適法であり、推薦届書としての効力がなく池田嘉吉は同選挙の候補者たるの資格を取得しておらず、従つてその当選の決定は無効である何者立候補推薦届は選挙期日告示後においてなさるべきことは公職選挙法第八十六条によつて明白であるからである。而して選挙期日告示前の推薦届書作成行為は事前の署名運動に外ならぬのである。

(二)  又池田嘉吉は同月十日町長代行者としてその席で右天助憲一をして強制的に自己の推薦届書に調印せしめたものであり、従つて池田嘉吉の推薦届書はこの点においても無効のものである。

(三)  同町選挙管理委員会は右青木憲治及び神田福次郎外一名の三名であるが右青木、神田の両委員はその就任前に池田嘉吉の推薦届人となつたものであるから、地方自治法第百八十九条によつて同委員会の池田嘉吉の当選を決定した選挙会には自己一身上に関する事件として参与し得ないものであるに拘らず、これに参与したものであるから右選挙会の構成は不適法であり、従つて池田嘉吉の当選の決定は無効である。

(四)  更に池田嘉吉は職権を濫用して右の如く他人をして強制的に自己の推薦届書に調印せしめ、或いは役場吏員をして事前の署名運動をなさしめたり戸別訪問をなさしめて以て公職選挙法違反を敢てしておりその当選は無効である。

と述べ、尚池田嘉吉は公職選挙法違反によつて刑を受けたことはないと釈明した(立証省略)。

被告は主文同旨の判決を求め答弁として原告主張の各日に原告主張の期日告示並びに選挙が行われたこと、原告がその選挙において選挙人であつたこと、訴外池田嘉吉が同町選挙の選挙会で当選と決定し告示されたこと原告から夫々その主張の異議申立、訴願がなされ夫々排斥されたこと及び池田嘉吉の立候補は訴外青木憲治、神田福次郎、天助憲一等十一名の推薦届書によるものであり、且つその届書の作成が選挙期日告示前であること並びに右青木憲治、神田福次郎が右上市町選挙管理委員会の委員であり、その委員就任前池田嘉吉の推薦届人であつたが池田嘉吉の当選決定の選挙会に参与したことは認めるが、その余の事実を否認する原告主張の(一)の点については公職選挙法第八十六条は推薦届書の提出期間に関するものであり、その作成期間を規定していない。而して推薦届書の作成の如きは立候補準備行為として選挙期日告示前においても許されるものであり、その作成は選挙事由を知つた選挙人の自由になしうるところと解さざるを得ない。原告の所論は立候補準備行為と選挙運動たる署名運動とを混同するものであつて採るに足らない。次に原告主張の(二)の点については池田嘉吉が、右天助憲一に対し推薦届人となることを依頼した丈のことであり何等不当と認むべきことはない。原告主張の(三)の点については青木憲治及び神田福次郎が同町選挙管理委員会の委員就任前池田嘉吉の推薦届人であつたことを以て自己一身上に関係あるものというのであるが、そのことは右青木及び神田にとつて自己一身上に関係するものではないから池田嘉吉の当選決定の選挙会に参与したことを以て違法とはなし得ない原告主張の(四)の点については仮に原告主張の如き事実があつても当然に本訴を理由あらしめ得るものではないと反駁した(立証省略)。

三、理  由

原告主張の日に原告主張の選挙期日の告示並びに選挙が行われたこと、原告がその選挙において選挙人であつたこと、訴外池田嘉吉が同選挙の選挙会で当選と決定しその旨告示されたこと、原告からその主張の如く異議申立及び訴願がなされ夫々排斥されたこと及び池田嘉吉の立候補は訴外青木憲治、神田福次郎、天助憲一等十一名の推薦届書によるものであり且つその届書の作成が選挙期日告示前であること並びに右青木憲治、神田福次郎が右上市町選挙管理委員会の委員であり、その委員就任前池田嘉吉の推薦人であつたが池田嘉吉の当選決定の選挙会に参与したことは当事者間争のないところである。

然り而して原告主張の(一)の点について公職選挙法第八十六条は立候補推薦届書提出の期間に関する制限規定であり、その届書作成の期間の制限規定でないことはその立言自体から明瞭であり且つ又推薦届書の作成は特段の証明のない限り立候補準備行為と解すべきであるから、その行為は選挙期日告示の前後においてこれをなすと否とは各人の自由に委ねられておるものとせねばならない。然るに原告の立証を以ては右推薦届書作成行為がその形式に拘らず選挙運動であることを認め得ないのであるから単なる立候補準備行為であつたとなすべく、従つて右推薦届書作成行為を以て事前の署名運動であり、無効な推薦届書とするのは当らない。又原告主張の(二)の点について仮に原告主張の事実を認め得るとしても、推薦届人十一名中その一名の推薦が無効でも他の推薦に瑕疵がない以上(他の推薦が無効なる立証は存しない)この推薦届書は有効なものとなすべきである。次に原告主張の(三)の点について上市町選挙管理委員青木憲治及び神田福次郎の両名がその委員就任前池田嘉吉の立候補推薦人でありながら同人の当選決定の選挙会に参与したことは被告も認めて争わないところであるが、右の事情を以ては右青木及び神田の両名について未だ地方自治法第百八十九条に所謂自己一身上に関する事件とはなし得ないのであるから、右両名が池田嘉吉の当選決定に参与したことを以て違法であり、従つてその選挙会の構成が不適法であるとすることはできない。更に原告主張の(四)の点については仮に原告主張の事実があつたにしても池田嘉吉においてその公職選挙法違反によつて刑に処せられたことのないことは原告の主張自体から明かであるので直に池田嘉吉の当選無効を訴求し得ないものである。

以上説明のように本訴請求原因はいずれも理由のないものであるから、本訴請求はこれを棄却すべきものと認め民事訴訟法第八十九条に則つて主文のとおり判決する。

(裁判官 山田市平 伊藤寅男 岩崎善四郎)

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