名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(う)18号 判決
記録に依れば原判決は、「被告人が昭和二十九年十月二十一日大阪簡易裁判所に於て、窃盗罪に依り懲役十月三年間執行猶予の判決を言渡され、同年十一月五日その確定を見るに至つた事実」、並に「被告人が昭和二十九年四月十五日頃より同年十一月二日頃迄の間前後二十五回に亘り武生市幸町西田泰三方外二十四個所に於て、それぞれ同人外二十四名の所有に係る現金合計一万七千二百四十円位、レジスター金庫外六十八点位を窃取した事実」を各認定した上、前記窃盗の各所為中、叙上大阪簡易裁判所の「判決言渡の日」すなわち、昭和二十九年十月二十一日より以前に行われたものを一括して判示第一とし、然らざるものを判示第二とし、判示第一の所為をもつて、前示確定裁判を経た罪と刑法第四十五条後段の併合罪の関係にありとするその反面、判示第二の所為については、前示確定裁判を経た罪と、斯る関係に立たないものとし、これ等各所為に刑法第二百三十五条其の他併合罪に関する規定等をそれぞれ適用し、結局被告人に対し、判示第一の所為につき、懲役四月(三年間執行猶予)の刑を、判示第二の所為につき、懲役一年(実刑)の刑を、同時に言渡しているものであることが明かである。よつて其の当否を案ずるに、刑法第四十五条後段は「若シ或罪ニ付キ、確定裁判アリタルトキハ、止タ其罪ト其裁判確定前ニ犯シタル罪トヲ併合罪トス」と定めているのであつて、同条に所謂「其裁判確定前ニ犯シタル罪」とは、さきに言渡された有罪判決の、確定するに至つた日時以前に行われた総ての犯罪を指称するものであること、法文の文理解釈上疑を容れないところである。原判決擬律部分括弧内の註釈に依れば、原審は、刑法第四十五条後段所定「其裁判確定前ニ犯シタル罪」なる措辞の意義を、「さきの裁判と同時に審理され得たであろう犯罪行為」の趣旨に解し、従つて、該判決言渡の日時をもつて、その然ると否とを区別する標準としているものの如くであるけれども、しかしながら、確定判決を経た罪の所謂余罪について、最高裁判所昭和二十八年六月十日大法廷判決の趣旨に則り、再度執行猶予の言渡を為し得るものと然らざるものとを区別する場合は兎も角、いやしくも刑法第四十五条後段の解釈としては、斯る標準に従つて其の併合罪であるや否やを判定すべきでない。記録に依れば、被告人の原判示第一、第二の所為は、総て、さきに大阪簡易裁判所に於て言渡された、前掲窃盗罪に対する懲役十月三年間執行猶予の判決の、確定するに至る以前に行われた犯罪行為であることを看取するに足り、従つて原判示第一、第二の所為は、いずれも前記確定裁判を経た罪と、刑法第四十五条後段に定める併合罪の関係にあることが明白であるにも拘らず、原判示第一の所為のみについて斯る関係を肯定し、原判示第二の所為について斯る関係を認めなかつた原判決は、畢竟するに刑法第四十五条の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響するから、論旨は理由があり、原判決はこれを破棄すべきである。
なお、原判決は、判示第一の罪につき、懲役四月(三年間執行猶予)の刑を、判示第二の罪につき、懲役一年(実刑)の刑を、同時に言渡し、二個の体刑について一方を執行猶予、他を実刑に処しているものであること、既に述べた通りであるところ、現行法上斯る裁判をもなお適法なりとする見解が成立し得ない訳ではないけれども、当裁判所の見る所に依れば、同時に言渡される二個の体刑につき、その一を執行猶予とし、他を実刑に付するが如きは、犯罪人を短期自由刑の弊より救済せんとする執行猶予制度の根本理念と明かに矛盾、背馳するものであつて、執行猶予制度より叙上の如き理念を捨去り、これを単なる恩典として解釈するような立場を採らない限り、適法説には賛同し難いと考えるものである。蓋し、斯る判決の執行猶予部分と実刑部分とが、若し同時に確定するときは、実刑の執行と執行猶予期間の進行とが、同時に競合するに至る結果、此の限度に於て、執行猶予の裁判は、制度本来の機能を完全に抹殺され、これを発揮する機会を得ずして了るからである。しかのみならず、これを専ら法適用の技術面より考察するも、適法説を執るに於ては、次の如き不合理な結果の発生を是認することとなる。すなわち、若し被告人に於て、実刑部分についてのみ控訴の申立をした結果、執行猶予部分が先づ確定し、次いで実刑部分が其の後確定するに至つた場合、被告人は控訴を申立てたが為、却つてさきの執行猶予を取消される不利益を招くこととなる。しかるに違法説を採用するときは、斯る不合理な事態を発生せしめる余地がない。只、違法説に依れば、被告人又は検察官より、同時に言渡された二個の刑の中いずれか一方について、控訴の申立があつたに過ぎない場合であつても、原判決を全面的に違法とする見地を執る以上、控訴審は原判決の全部に亘り、これを破棄した上、改めて相当の判決を為さざるを得ない筋合であるが、併合罪処理の技術上、形式的には二個の主文より構成されては居るものの、斯る裁判もまた実質的には同時に為された一個の裁判であり、二個の主文は常に相関連して取扱われるべきものとする見解が成立つものとすれば、形式上不服申立のない部分について判決することになるからと言つて、あながち、これをもつて行き過ぎた事件処理であるとなすべきでない。そうして見れば、同時に言渡された二個の体刑につき、その一方を執行猶予にすると共に、他の一方を実刑に処した原判決は、法令の適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響あるから、此の見地よりするも、原判決は破棄を免れないものである。
以上の理由により、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条に則り原判決を破棄した上、同法第四百条但書に従い、次の通り判決する。当審認定の事実は、原判決添付第一表第十四欄に、同年十月初め頃とあるを、同年十一月一、二日頃、第十五、第十六、第十七欄に同月とあるを、いずれも同年八月と各訂正する外、原審認定と同一であり、該事実認定の資料は、原判決挙示の証拠と同一であるから、此処にこれを引用する。
法律に照すに被告人の判示所為はいずれも刑法第二百三十五条に該当するところ、右の各所為は原判決冒頭掲記の確定裁判を経た罪と刑法第四十五条後段の併合罪の関係にあるので、同法第五十条に従い、未だ確定裁判を経ない本件の罪につき、さらに処断すべく、本件各所為はその間に同法第四十五条前段所定の併合罪の関係が存在するから、同法第四十七条第十条に則り、犯情の重い原判決添付第一表第十七の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役壱年に処すべく、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い、被告人をして、原審並に当審費用の全部を負担せしむべきものとする。よつて主文の通り判決する。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)