名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(う)214号 判決
原判決拳示の証拠を綜合すれば原判示第二の事実、すなわち、「被告人が貨物自動車富一―六〇二八一号を運転し、原判示日時速岩街道を時速約三十五粁で進行中、飲酒酩酊の結果前方注視を怠つた過失により、富山市粟島平井嘉三郎方前道路上に於て、朝岡善一が対向歩行して来るのに気付かず、同人を左側車体で跳飛ばして路上に転倒させ、因て、同人に対し脳底骨折及び左胸壁陥没骨折に基く内出血等の傷害を負わしめ、即時同所に於て死亡するに至らしめたものである。」ことを肯認するに十分である。弁護人は「被告人は若干酒気を帯びていたけれども、自動車の操縦に支障を来す程度迄、酩酊していたものでない。」旨主張するけれども、しかしながら、叙上事故発生の直前、原判示第一の通り、被告人が富山港線下奥井駅踏切に於て、車体を遮断機の柱に衝突させ、該柱を破損傾斜せしめて、その使用を不能ならしめる事故を起したことは審理上争なく、また、被告人に対する検察官作成の供述調書の記載に依れば、当時被告人は、相当酩酊して居り、前方を正確に注視することが出来ない状態であつて、被告人自身も自己の酩酊を自覚して居たにも拘らず、無謀にも自動車を運転しその結果、前記のような事故を発生せしめたものであつたこと、並に、被告人は斯る事故を惹起しながら、届出その他法令に定める必要な措置を講ぜず、そのまま自動車を走らせ、約十分間後再度事故を惹起し、叙上の如く、朝岡善一を死に致したものであつたことを各認め得べく、以上の事実に依れば、被告人は本件発生当時、相当に酩酊し、前方注視義務を完全に履行することが出来ない状態にあり、且、その事実を自覚しながら、敢て自動車を操縦した過失により原審認定の事故を惹起したものであることを認めるに足るから、論旨は採用するを得ない。弁護人は「原判決は、被告人の前方注視義務の懈怠が、如何なる点にあつたかを、具体的に明かにしていない。」旨論難し、また、原判決を閲すれば、酩酊と前方注視義務の懈怠との相互関係に関する原審の判示が些か不十分であることを認め得ない訳でないけれども、判文の前後を通読すれば、原審の言わんと欲するところは、畢竟するに前記当審見解と同趣旨であると認められるから、原判決はその理由に不備があるものでない。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)