名古屋高等裁判所金沢支部 昭和31年(う)369号 判決
所論の要旨は、覚せい剤取締法第十四条第一項にいわゆる所持とは、現実に現品を自己に占有握持するものを指称するものであつて他人をして代理占有せしめる場合を含まないものである。原審は原判示事実中後段において「昭和三十年九月中旬頃より昭和三十一年三月五日頃までの間富山市岩瀬白山町九十三番地北村彦太郎方において覚せい剤粉末三百十三瓦位を所持していたものである。」と認定したるも右覚せい剤を預つて占有保管していたのは北村彦太郎であり同人が所持者であつて、被告人は占有者でもなく所持者でもないというにある。しかし覚せい剤取締法第十四条にいわゆる「所持」とは人が物を保管する実力支配関係を内容とする行為をいうのであつて、その実力支配関係の持続する限り所持は存続するものというべきである。本件につき、被告人の検察官に対する供述調書中「昨年昭和三十年八月中旬頃二階を取片付けた際、原末の入つた瓶を螢光灯のスタンドを入れたボール箱に入れて一時二階の六畳間の机の横に置いてあつたのですが夫れを持つていることに不安を感じて母に相談したところ、北村彦太郎さんの家に一時仕末つて貰うように話が決まり、同年九月中旬頃北村さんがその原末の入つたボール箱を私の家から同人の家に持つて行つたのであります。」との供述記載その他原判決挙示の証拠を綜合すれば、被告人は覚せい剤の取締が厳重となり本件覚せい剤粉末を自宅において保管することに不安を感じ母森チヨと相談の結果昭和三十年九月中旬頃母森チヨを介し右北村彦太郎に一時保管を依頼しこれを同人に引渡したこと、同人はこれを自已の納屋に保管していたこと、右北村彦太郎は森チヨと相談の上昭和三十一年三月五日頃これを足谷要に譲渡したこと、その間被告人は本件覚せい剤につき間接に占有しかつ処分権も有していたことの各事実が認められ被告人は昭和三十年九月中旬頃より昭和三十一年三月五日頃まで本件覚せい剤につき実力支配関係を持続していたことが明らかであるからその間被告人の所持は存続していたものというべきである。従つて原判決が被告人は本件覚せい剤を北村彦太郎方において所持したものと認定し覚せい剤取締法第十四条第一項第四十一条第一項第二号に問擬したのは正当であつて、原判決には所論のように事実の誤認はなくまた法令の適用に誤りはない。論旨は理由がない。
(裁判長判事 高城運七 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)