大判例

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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和32年(う)174号 判決

記録によれば金達南に対する賍物故買被告事件原審第一回公判調書には検察官の起訴状朗読及び刑事訴訟法第二百九十一条第二項の機会における同被告人及び弁護人の同被告事件に対する陳述の記載のないことは所論のとおりである。併し昭和二十六年十一月二十日最高裁判所規則第十五号(昭和二十七年二月一日施行)により刑事訴訟規則第四十四条の規定が改正せられ、それ以来検察官の起訴状朗読は公判調書の必要的記載事項ではない。本件における原審第一回公判期日が右最高裁判所規則の施行後たる昭和三十一年十二月二十日であることは記録上明白であるから原審第一回公判調書に検察官の起訴状朗読の記載がなくても右手続が履践されたことは当然に推定せられているものと解釈すべく、原審公判調書に起訴状朗読の記載がないからと云つて、そのことそれ自体は何等法令に違反するものでない。(所論援用の判例は右規則改正前のもので本件に適切でない)。之に反し刑事訴訟法第二百九十一条第二項の機会になされた被告人及び弁護人の被告事件に対する陳述は、改正後の刑事訴訟規則第四十四条第一項第十号によれば公判調書の必要的記載事項たることが明白であるから、原審第一回公判調書にその記載を欠くこと叙上のとおりであるとすれば原審は斯かる訴訟手続を履践しなかつたと認めるの外なく、従つて原審の訴訟手続は刑事訴訟法第二百九十一条第二項に違反するものとしなければならない。併し乍ら刑事訴訟規則第四十四条第一項第十号が被告人及び弁護人の被告事件に対する陳述を公判調書の必要的記載事項とした所以のものは、公訴に対する被告人の防禦権を遺漏なく行使させるにあるから、被告人及び弁護人が公訴に対し些かでも之を争う場合には、其の主張を調書によつて明確にすべきものであり、此の場合に其の記載を欠くときは、其の訴訟手続上の瑕疵は判決に影響すると解すべきであろうが、被告人又は弁護人において公訴に対し些かも之を争わない趣旨が窺われる場合には、たとえ公判調書中に此の点に関する記載を欠くとしても、叙上の瑕疵は必ずしも判決に影響するものでないと解すべきである。即ち本件についてみるに第一回公判調書には被告人金達南及び弁護人の被告事件に対する陳述の記載がないことは前記説示のとおりであり、第二回公判調書には検察官の証拠調請求の全部につき弁護人の同意があり右証拠調がなされ、第三回公判調書には弁護人より同被告人の家庭事情被害弁償等の事実立証のため証人尋問請求があり原審はこれを採用し、第四回公判調書には同被告人に対する検察官の昭和三十二年五月二十八日附追起訴状の朗読があり同被告人及び弁護人は右追起訴にかかる被告事件に対する陳述として「その通り相違ありません」と陳述すると共に、弁護人は検察官の右追起訴にかかる公訴事実の証拠調請求全部につき同意をなし原審はその証拠調をなし且つ同被告人の情状に関し証人尋問をなし、第五回公判調書には検察官の論告、弁護人の弁論及び被告人の最終陳述が行われ、右弁論において弁護人は縷々情状を述べて寛大なる裁判を賜わりたい旨の弁論をなし、被告人は右最終陳述において「今後絶対に斯様なことは致しませんから寛大に願います」と陳述していること及び原審において適法に証拠調をなした同被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書において同被告人は本件公訴事実の前過程たる被疑事実につき全部詳細具体的に自白しているものであること本件記録上明白である。そうだとすれば原審の訴訟手続には、その第一回公判廷において同被告人及び弁護人に対し被告事件について陳述する機会を与えなかつた違法があると言うべきであるが、これによつて同被告人及び弁護人の防禦権の行使が妨げられたわけではないから、右の訴訟手続上の瑕疵は未だ以て判決に影響するものではない。論旨は理由がない。

(裁判長裁判官 沢田哲夫 裁判官 山田正武 裁判官 辻三雄)

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