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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和33年(う)230号 判決

(検察官控の)訴趣意は昭和三十三年一月十四日付控訴趣意書記載の通りであるから、此処にこれを引用する。

検察官の論旨は、原判示第三の事実に対する原審量刑の当否に関するものであるが、論旨について判断するに先立ち、原判決中被告人丹後善一の判示第一の所為に対して言渡された部分につき、職権を以て違法の有無を検討するに、昭和三十二年八月十五日付起訴状(記録第九五五丁以下)の記載に依れば、公訴第一(一)(二)(三)の事実は「被告人丹後善一は(一)昭和三十年七月十五日頃勝山市芳野百十八の三番地東陽製材株式会社応接室内において、同会社社長田村由松の保管にかかる同社所有の現金壱万五千八百円を窃取し、(二)同年八月十五日頃右同所において、右田村由松の保管にかかる同社所有の現金約弐万円を窃取し、(三)同年九月七日頃金銭を窃取しようと企て、右会社へ侵入し、応接室内で金銭を物色したが、見当らなかつた為、その目的を遂げなかつたものである」と言うのであり、なお、該起訴状記載の罪名及び罰条に依り、右第一(一)(二)は、いずれも被告人丹後善一の窃盗の行為を訴因とし、第一(三)は同被告人の住居又は建造物侵入並に窃盗未遂の各行為を訴因とする趣旨であることを、それぞれ看取し得るところ、これに対し原判決は、判示第一の項に於て「被告人丹後善一は(一)昭和三十年七月十五日頃の午後二、三時頃福井県勝山市芳野第百十八号十三番地東陽製材株式会社(代表取締役社長田村由松)の北入口階段から二階を通つて階下応接室に侵入し、同所に置いてあつた木製の箱の中の手提金庫から、同会社所有の現金壱万五千八百円を窃取し、(二)同年八月十五日頃の正午過頃、前記同様の方法に依り前記会社の応接室に侵入し、前記手提金庫から同会社所有の現金約弐万円を窃取し、(三)同年九月七日頃、金銭を窃取しようと企て、前記同様の方法により、前記会社の応接室に侵入し、同所において金銭を物色したが、発見するに至らなかつた為、窃盗の目的を遂げなかつたものである。」旨の事実を認定し、前示(一)(二)の事実に対し刑法第二百三十五条を、(三)の事実に対し同法第二百三十五条、第二百四十三条を各適用した上、右(一)(二)(三)の罪と原判示の前科(この前科に関する原判示に、昭和三十年十月二十三日とあるのは、昭和三十年十月三十一日の誤記と認める。)との間には、同法第四十五条後段所定の併合罪の関係が存在し、また、(一)(二)(三)各罪相互の間には、同法第四十五条前段所定の併合罪の関係が存在するとして、同法第五十条、第四十七条、第十条等をさらに適用し、結局犯情が重いと認めた判示第一(一)の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、被告人丹後善一を懲役壱年に処したものであつたことを記録に依つて認め得る。ところで原判決理由第一(三)の項に「前記会社の応接室に侵入し」なる措辞の存在することは、既に説示した通りであるが、原判決事実理由中に、斯る措辞が見出されるにも拘らず、其の擬律部分には、判示事実に対して適用すべき各本条の規定として、刑法第二百三十五、第二百四十三条が挙示されていることを認め得るのみであり、住居又は建造物侵入の事実に対して適用すべき、刑法第百三十条を適用した形跡の認め得ないことは、敢て此処に説明する迄もなく、前掲の原審擬律によつて既に明かである。叙上の「応接室に侵入し」なる措辞が、果して犯罪構成要件としての住居又は建造物侵入の事実を肯定したものであるか、否かは、一つの問題であるが、(一)いやしくも原判決の叙上の措辞を以て、住居又は建造物侵入罪の成立を肯定したものと解するに於ては、原審の擬律が前示の通りである以上、原判決は自ら認定した住居又は人の看守する建造物侵入の事実に対し、当然適用しなければならぬ刑法第百三十条の規定を、擬律に際し適用しなかつたことに帰着し、此の見地よりすれば、原判決の事実理由と法律理由との間に、齟齬の存在することを肯定せざるを得ない。(二)若し原判決の叙上の措辞は、住居又は人の看守する建造物侵入罪の成立を肯定したものでないと解するに於ては、原判決は起訴状に明記された住居侵入の訴因について、有罪又は無罪の判断を示さなかつたことに帰着し、この見地よりすれば、原審は審判の請求を受けた事件の一部について、判決をしなかつたことに帰着する。(この点について附記するに、(イ)原判決の事実摘示は住居侵入罪の構成事件を完全に充足して居らず、例えば建造物に対する看守の有無についての判示、侵入行為の具体的判示などを欠いて居り、また(ロ)判示冒頭に被告人両名に対する強盗殺人、窃盗被告事件の件名のみを掲記し、被告人丹後善一に対する住居侵入、窃盗未遂被告事件の件名を表示していないのみならず、(ハ)住居侵入を訴因としない判示第一(一)(二)の窃盗の事実について、着手に至る迄の経過事実を説明するに当り「応接室に侵入し」なる措辞を、判示第一(三)の場合と同様に、漫然使用していることなどの諸点を、それぞれ原判文より看取し得るのであつて、これ等の諸点よりすれば、原判決は住居侵入を訴因とする場合と、然らざる場合とに於ける、審判手続上の差異について、別段の考慮を払うことなく、原判示第一(三)の場合に於ても、第一(一)(二)の場合と同じく、単に犯罪の情状を説明する意図の下に「前記会社の応接室に侵入し云々」なる措辞を使用したに過ぎず、結局、住居侵入の訴因を看過したものであつて、前記のような措辞を使用することに依り、住居侵入罪の成立を、認定しようとしたものではなかつたと解するのが、事の真相に近いように考えられる。)そのいずれであるにもせよ、以上の通りであるとすれば、原判決中被告人丹後善一の判示第一の所為に対する部分は、畢竟するに、その理由に齟齬のあるものでなければ、審判の請求を受けた事件について審判をしなかつたものであると言わざるを得ないから、これを破棄すべきである。

(裁判長裁判官 山田義盛 裁判官 沢田哲夫 裁判官 辻三雄)

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