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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和36年(う)169号 判決 1962年8月16日

被告人 力示健蔵 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は、被告人両名の平等負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人島崎良夫及び同高見之忠共同作成名義の控訴趣意書、同島田武夫作成名義の控訴趣意書、各記載のとおりであるから、これ等をここに引用する。

各所論は要するに、原判決の事実誤認と法令適用の誤りとを主張し、その理由として、原判決は被告人両名がそれぞれ石黒忠一から、同人が原判示候補者佐伯宗義に当選を得しめる目的を以て、同候補者のための選挙運動の報酬等として供与することを知りながら、現金五、〇〇〇円の供与を受けた旨、罪となるべき事実を認定判示しているが、右金員は佐伯宗義後援会の結成並びにその準備活動における労務の対価として授受されたものであつて、決して選挙運動をしたことの報酬として授受されたものではない。而してそのことは、原審において取り調べた各種の証拠によつて明らかである。そもそも右後援会は、政治資金規正法に基ずき、所轄選挙管理委員会に届け出て設立された政治団体であつて、同法により必要経費の支弁が認められ、而も右金員の支出は、同後援会会計責任者から、同委員会に報告ずみである。然るに原審が右金員を選挙運動の報酬等と認定し、これが供与を受けた行為に対し、公職選挙法の罰則を適用したのは、事実を誤認したか又はこれ等関係法規の解釈適用を誤つたものであつて、原判決は破棄を免れない、と言うのである。

本件における主要な争点は、原判示授受の金員が選挙運動の報酬であるか否かにあるから、先ずこの点につき審究するに、大審院以来の判例によれば、選挙運動とは特定の選挙につき、特定の議員候補者を当選させるため、投票を得又は得しめるのに、直接又は間接に必要且つ有利な周旋勧誘若しくは誘導その他諸般の行為をなすことを指称するものであるところ、原判決挙示の証拠(但し、7の回答書は被告人川西だけの証拠とし、回答書謄本は被告人力示だけの証拠とする)と当審における検証調書、当審証人石黒忠一に対する尋問調書、被告人両名の当公廷における各供述とを綜合すれば、被告人両名は石黒忠一から、佐伯宗義を原判示選挙に当選させる手段として、同人の後援会を結成するにつき、これに尽力方を頼まれるや、その情を知りながらこれを承諾し、その準備として右選挙の約二箇月前から、主として富山市内に居住する選挙人の地区別、性別等の名簿を作成したうえ、佐伯宗義をして一般選挙人に政見を発表させるとともに、右後援会への加入を勧誘する機会をつくるため、同市内十数校下(小学校の通学区域)別に、右佐伯を囲む座談会の開催を企画し、同選挙の前月(昭和三五年一〇月)中旬頃から、右佐伯の関係会社の社員又は従業員、関係政治団体の所属員又は同調者、出入商人等佐伯の支持者と見られる選挙人に対し、右座談会に出席方を勧誘する書面(当審検証調書添附(20)(21)の写真参照)を郵送し、一般選挙人に対しては、佐伯宗義を囲む座談会と大書し、その日時場所を附記した多数のポスター(前同(18)(19)の写真参照)を同市内各所に貼附して掲示するとともに、宣伝用自動車を使用して、広く右座談会に出席方を呼びかけ、次いで同市内十数校下別に開催された佐伯を囲む座談会においては、その都度参集した各選挙人に対し、佐伯の発表する政見を聴取させたうえ、同人の後援会に入会方を勧誘し、その入会者を取りまとめたこと、これ等選挙人に対する佐伯宗義を囲む座談会への出席勧誘並びに右後援会への入会勧誘は、これ等選挙人に対し、近く行われる原判示選挙に際し、右佐伯への投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動を暗黙に依頼する趣旨で行われ、或はこれ等選挙人の右投票並びに選挙運動を期待してなされたものであること、而も被告人両名のこれ等選挙人に対する行動は、その大綱においては石黒忠一の指示があつても、個々の活動においては、自己の意思に基ずき、或は自己の意思を交えた行動であり、単なる機械的労務ではなかつたことを各認定するに十分である。然らば被告人両名の叙上の行動は、原判示選挙において、佐伯宗義を当選させる目的を以て、同人に投票を得しめるのに直接又は間接に有利な勧誘又は誘導をしたことに該当し、選挙運動をなしたものと言わなければならない。所論は被告人両名の行為が後援会の結成又はその準備行為であることを理由に、選挙運動であることを否定するのであるが、ひとしく後援会と称する政治団体の結成又はその準備行為であつても(それが更に後日選挙管理委員会に届け出られたとしても)、その目的並びに行為の実質において、前掲選挙運動の観念に該当する限りは、刑罰法上において、これを選挙運動と観取されることは、やむを得ないことであるから、所論は採用の限りでない。而して被告人両名は司法警察員及び検察官に対する各供述調書において、原判示金員が佐伯宗義のために投票取りまとめの選挙運動をしたことに対する報酬と同種の選挙運動をすることに対する報酬として供与を受けた旨自陳しているのであつて、その任意性及び信憑性につき疑をさしはさむ余地がなく、右に所謂投票取りまとめの選挙運動をしたとは、少くとも、上来説明した後援会設立過程中に選挙運動をしたことを指称するものとして、理解することもできるのである。以上を要するに、原判決挙示の証拠(そのうち7の証拠が被告人両名中の関係的証拠であることは、前記のとおり)と当審における事実取調の結果たる各証拠とを綜合すれば、原判示各事実は、優にこれを認定することができ、記録及び証拠品を精査しても、原審の右事実認定に誤りがなく、またこれに対し、公職選挙法所定の罰則を適用した原判決には、法令適用の誤りも存しない。論旨はいずれも理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条に則り、本件各控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用は、同法第一八一条第一項本文に従い、これを被告人両名の平等負担として、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義盛 堀端弘士 松田四郎)

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