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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和41年(う)38号 判決 1967年3月25日

被告人 山岸与四郎 外五名

主文

原判決を破棄する。

被告人山岸与四郎、同宮本末蔵、同前義男、同宮丸寛を各懲役三月に、被告人吉倉実、同宮前茂雄を各懲役二月に処する。

本裁判確定の日から一年間、右各刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用中、証人牧選一、同河尻量正(但し原審第一一回公判期日の分)、同二本杉民子、同村田元雄、同織田広、同島谷誉富、同松下太衛、同西尾知善、同高尾幾美子、同米村敏子、同高桑時男、同本田貢、同高村文吉、同荒川正、同浅野義栄、同土田和美、同大道秀治、同安田与一、同山内仁七に支給した分は被告人六名の連帯負担、証人四十万谷登清に支給した分は被告人山岸与四郎の負担、当審における訴訟費用は被告人六名の連帯負担とする。

各被告人の本件各控訴は何れも、これを棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、検察官提出の控訴趣意書、及び弁護人梨木作次郎、同豊田誠、同吉田隆行共同名義の控訴趣意書に記載されている通りであるから、これを引用する。

一、検察官の控訴趣意について

所論は要するに、原判決は被告人等六名に対する本件公訴事実中、建造物侵入の点については、公訴事実の通り、これを認定したが、被告人等六名に対する

「一、昭和三七年一月三一日午後五時頃、金沢市南町七四番地所在株式会社金沢タクシー(以下会社と略称)本社において金沢タクシー労働組合(以下組合と略称)組合員約二〇数名と共に多衆の威力を示し、四つ切大の新聞紙等に『協約を守れ』『村田課長すみやかに出て行け』『助平社長女をおさえるわけには行かぬぞ全自交』等と記載したビラを、二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉及び同室の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立等に約三〇枚それぞれ糊を用いて貼りつけ

二、同年二月一日午前一〇時頃、前記会社本社において、同労組員約二〇数名と共に多衆の威力を示し、四ツ切大の新聞紙等に前同様の内容を記載したビラを、二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁及び社良室の扉に約三〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚等に約二〇枚それぞれ糊を用いて貼りつけ

三、同年二月二日午後四時三〇分頃、前記会社本社において、同労組員約三〇数名と共に多衆の威力を示し、四ツ切大の新聞紙等に前同様の内容を記載したビラを、二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁及び社長室の扉に約三〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚等に約三〇枚それぞれ糊を用いて貼りつけ

四、同年二月三日午後四時頃、前記会社本社において、同労組員約三〇数名と共に多衆の威力を示し、四ツ切大の新聞紙等に前同様の内容を記載したビラを、二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉及び同室の壁に約五〇枚、事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室窓ガラス、衝立等に約三〇枚それぞれ糊を用いて糊りつけ

以て建造物を損壊すると共に多衆の威力を示し且つ数人共同して器物を損壊したものである」

との建造物損壊並びに暴力行為等処罰に関する法律違反の公訴事実に対し、その外形的事実は全部これを認定しながら、刑法二六〇条、二六一条等に所謂「損壊」の法意に関し、建造物や器物が実用的効用を主とし、その外観(美観)に、さほど重きを置かないものである限り、然も、これに対する貼り紙等の行為による汚損の程度が軽微且つ一時的であつて、原状回復が、さほど困難でない場合、該所為について別罪(軽犯罪法一条三三号)が成立するのは已むを得ないとしても、少くとも刑法上の損壊罪には該当しないと解するのが妥当であるとの前提に立つて、会社本社事務所の建造物は、所謂バラツク建に近い質素な木造の家屋であつて、既に建築後一〇数年を経過しており、その間二階事務室、社長室等の白壁は、冬季の暖房の煤煙等により相当汚染し、又昭和三一年頃には本件建物より出火したり、その後にも近火があつたりしたが、諸所に応急手当がなされていたのみであつたので、タクシー会社の執務の場所としての実用的な用途の外に、その外観の点において、重要な用途を有していたものとは、とうてい認めるを得ないし、又窓ガラス、入口引戸、書棚、衝立等の器物についても、建物と同様、その実用的な用途以外に、その外観に特殊な文化的価値を有していたとは認められず、従つて該建造物及び、これら器物に対してなされた本件ビラ貼り行為によつて、事務室、社長室、通路の外観を害し、然も白壁等には、これを剥取つた後も、若干のシミが残る程度の汚染を与えたことは否定し得ないとしても、その程度が比較的軽微であり、これを以て本件建造物を有形的に毀損し、その外観的効用を侵害したと認めるに足らない」との見解の下に、結局本件建造物損壊及び暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の訴因については、犯罪の証明はなく罪とならないとし、唯そのビラ貼付の程度、態様等からして、被告人等の本件所為に対して軽犯罪法一条三三号違反の罪が成立するに過ぎないと認定したのは、重大な事実の誤認と法令の解釈適用の誤りを犯したものである、と言うのである。

そこで記録を調べ、当審において為した事実取調の結果に徴すると、右公訴事実の外形事実については、原判決の挙示する証拠によつて十分にこれを認めることができるが、そのビラ貼付の状況を更に詳述すると次の通りである。即ち

(一)昭和三七年一月三一日から二月三日までの四日間に、被告人等は二〇数名の組合員と共に、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉及び同室の壁等に合計約一六〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立等に合計約一一〇枚、総計約二七〇枚の四つ切大の新聞紙、包袋紙等に右公訴事実記載の如き文言を墨汁又はマジツクインキで大書したビラを、或いは予め洗車ブラシを用いて右壁、ガラス等に糊を塗りつけておいて貼りつけ、或いは右ビラの裏面に糊をつけて貼りつけた。その間会社側は被告人等が貼付したビラ多数を剥ぎ取つたが、被告人等は、その跡に更に重ねて貼りつけた。このように右ビラの相当数が剥ぎ取つてあるけれども、なお昭和三七年二月五日現在のビラが貼付された情況、及びこれを剥ぎ取つた跡の同月九日現在、の情況は、それぞれ、昭和三七年二月一〇日附司法警察員作成の実況見分調書二通の記載、及び右調書添附の写真の通りである。(二)このように新聞紙等に墨書したビラを貼つたので貼られた場所は非常に汚なく、見苦しくなり、特に社長室、事務室は恥づかしくて客を案内できない程であつた。(三)事務室の窓ガラス、入口引戸のガラス等にもビラを貼つたので、階段が非常に暗くなり、又事務室も暗くなり、従来の事務室と違つた他の事務所のような感じになつた。(四)貼られたビラの端から、はみ出したり垂れて来た糊が机と壁の間を通る者の衣服に附着した。(五)壁に貼られたビラは糊の水分が壁にしみ込んで容易に剥がれず、結局会社は森口組に依頼してこれを剥がせたが、人夫約三人で二、三日を要し手間賃約五万円を支払つた。人夫等は当初は雑巾を濡らして、こすつて見たが取れないので、金属製のハツカー、金鋸等を使用して壁を削るようにしてビラを剥いだ。その為壁は変色し、傷つき、ビラを剥いだ跡が歴然として残り、見苦しくなつたので、クリーム色のペンキを塗つた。又書棚、引戸扉等にニスが塗つてあつたのが、ビラを剥がした後はニスがむくれたようになつて取れてしまい、ニスの塗りかえをしなければならなかつた。以上の通りである。

ところで刑法二六〇条の建造物損壊罪、同法二六一条の器物損壊罪の「損壊」とは物質的に物の全部、もしくは一部を害し、又はその物の本来の効用を失わせる行為を言うものであるが、その効用の中には、その物の美観も含まれると解すべきである。そして物には、すべてその物の機能、価値等に応じて、それ相当の美観があり、この美観を害する行為は、その物の本質的機能を害するまでに至らなくても、なお「損壊」に当ると言わねばならない。

もつとも、同じく物の美観を保護法益とするものに軽犯罪法一条三三号の規定があるが、その区別は、結局物の美観に対する侵害の程度の量的差異に帰着すると考えられる。原判決は、「軽犯罪法一条三三号の規定との対比において刑法二六〇条、二六一条の法意を考える時は建造物であると器物であるとを問わず、物の性質上、その実用的意義における用途、目的の外、その外観において特殊の文化的価値を有するものである時は格別、さもない限り、換言すれば、建造物や器物が実用的効用を主とするものであつて、その外観(美観)には、さほど重きを置かないものである限り、然も、これに対する貼り紙等の行為による汚損の程度が軽微且一時的であつて、原状に近い状態に回復することが、さほど困難でない場合には、該所為について別罪が成立するのはやむを得ないとしても、少くとも刑法上の損壊罪には該当しないと解するのが妥当である。何故ならば、若し、この程度の行為も又刑法二六〇条等に該当すると解するにおいては、軽犯罪法一条三三号の法意は全く没却されるに至ると考えられるからである」と述べているが、その刑法二六〇条、二六一条の損壊罪と軽犯罪法一条三三号の罪との差異について説示するところは必ずしも明確ではたい。若し、それが物の美観を害することによる刑法二六〇条、二六一条の損壊罪は、特殊の文化的価値を有する物についてのみ成立し、実用的な効用を主とし外観(美観)には、さほど重きを置かない物については成立する余地がないと言う趣旨であれば狭きに失し賛成できない。けだし前述の如く物には、すべて、その物の機能、価値等に応じて、それ相当の美観があり、何れも刑法二六〇条、二六一条によつて保護するに値すると考えられるからである。然し原判示が、特殊の文化的価値を有する物の美観を害する行為は、その汚損の程度が軽微であつても、刑法二六〇条、二六一条の損壊罪を構成するが、実用的効用を主とし、その外観には、さほど重きを置かない物の美観を害する行為は、その汚損の程度が軽微である時は、刑法二六〇条、二六一条の損壊罪を構成せず軽犯罪法一条三三号の対象になることがあるに過ぎないとの趣旨であれば、それは当審の前記の見解と必ずしも矛盾するものではない。同一の行為が、ある物については著しく、その美観を害し、刑法の損壊罪の対象となるが他の物については、その美観の軽微な侵害と評価されて軽犯罪法一条三三号の対象となるに過ぎない場合があることは当然であつて、物には、すべて、その物の機能、価値等に応じて、それ相当の美観があると言うのは、正にこのことを指すのである。

そこで本件について、これを考えて見ると、前記認定の事実関係の下においては、被告人等の所為は、建物及び器物の美観を著しく害したものであつて、刑法二六〇条、二六一条の損壊罪に当ると言わねばならない。

原判決挙示の証拠によれば、本件建物及び本件窓ガラス、入口引戸、書棚、衝立が専ら実用を目的としたもので、その外観に特殊の文化的価値を有せず、又特にその外観を重んずる物ではなかつたこと、本件建物は終戦後間もなく建築された質素な木造家屋で、当初は居住用として建築されたものを、その後改造して階下を車庫に、二階を事務室及び社長室に当てたもので本件当時には既に十数年を経過して古びており、又可成汚れていたこと、昭和三一年頃には本件建物から出火したり、その後にも近火があつたりした為諸所に修理を要する個所を生じたが、何れの場合にも応急手当をしたのみで、根本的な修理は行われなかつたこと、昭和三九年三月、会社は金沢市泉本町に社屋を新築して移転し、本件建造物は取り壊されるに至つたが、本件発生当時、既に新社屋の敷地の物色中であつたことは原判決の指摘する通りである(もつとも本件建物が荒削りの柱を使用して建てられたバラツクに近い建物で荒壁も塗つてなく板張りで美観など問題にならないものであつた旨の安田与一の原審における証言、本件建物の壁が冬季の暖房の煤煙等により甚しく汚損していた旨の大道秀道の原審における証言は、前記各証拠、特に司法警察員作成の実況見分調書添付の写真と対比し誇張に失する)。然し、以上の諸点を考慮に入れても、本件建物にはタクシー会社の社長室、事務室、これに至る階段、通路として具備する、それぞれの美観があり、又本件器物にはタクシー会社の執務の場所に備えつけられた器物として具備する、それぞれの美観がある。被告人等の本件所為は、この美観を著しく害したものである。

のみならず、被告人等の本件所為によつて、前記認定の如く事務室の窓ガラス、入口引戸のガラス等に多数のビラが貼られた為階段及び事務室が暗くなり、貼られたビラの端からはみ出したり垂れて来た糊が机と壁の間を通る者の衣服に附着し、又壁に貼られたビラを剥ぐ為に相当の手間と費用を要し、然も剥いだ痕跡が歴然と壁に残り、書棚、引戸、扉はビラを剥がした後でニスがむくれたようになつて取れてしまつたのであつて、これは取りも直さず、本件建物及び器物の美観を害したに止まらず、物質的にその一部を損壊し、或いは、その実用的効用を害したものと言わねばならない。

して見れば本件ビラ貼り行為は、本件建物及び器物を有形的に毀損したと認め得ないのは勿論のこと、その外観的効用を侵害したと解することは困難であるとした原判決は事実を誤認したものであつて、論旨は理由があり、原判決は、この点において破棄を免れない。

二、弁護人の控訴趣意第一点、事実誤認の論旨について

所論は要するに、原判決は原判示のビラ貼りの事実について、軽犯罪法一条三三号を適用しているけれども、本件建物は終戦直後建築資材の欠乏していた時建てられたバラツクに類する建物で、その上冬期間石炭ストーブを使用していたので煤煙の為薄ぎたなく汚れ、加うるに昭和三四年一月二五日、二階階段附近から出火し、同年四月頃には近所の湖南荘に火災があつて放水等の為甚しく損傷もしくは汚損された、従つて本件建物には、特別に意義あるものとして社会的に是認され、認識されている美観はなかつたのであるから、被告人等の本件所為によつて本件建物は何ら侵害を受けず従つて、それは軽犯罪法一条三三号の罪も構成しない、又同法四条は、同法の適用に当つて、国民の権利を不当に侵害し、他の目的の為に濫用することがないように戒めているが、本件の如き「ビラ貼り行為」と言う最も基本的な労働組合の活動について同法一条三三号を適用することは正に同法四条が否定するところである、と言うのである。

然しながら被告人等の原判示所為が、単に軽犯罪法一条三三号に当るに止まらず、刑法二六〇条の建造物損壊罪を構成するものであることは、前記、検察官の控訴趣意に対する判断において述べた通りであつて、論旨は採用できない。

三、弁護人の控訴趣意第二点、法令の適用の誤の論旨について所論は要するに、原判決は、「ビラ貼りは、労働者及び労働組合にとつて最も重要な情宣活動の一つであり、且つ基本的な争議戦術の一つであつて、本件ビラ貼り行為も(従つて又本件建造物への立入行為も)原判決冒頭記載の如き事態の解決を図る為の正当な争議行為として行われたものであるから、労働組合法一条二項本文、刑法三五条により、その違法性が阻却される」旨の弁護人の主張に対し、「本件ビラ貼り行為は、ビラの紙質、その大きさ、貼られた枚数、貼られた個所等からすれば、労働組合の情宣活動ないしは争議戦術として通常許容される限度を遙かに逸脱したものであると認めざるを得ない」旨判示して、これを斥けているけれども、これは「ビラ貼り行為」と言う争議行為に、市民法的違法性を、そのまま持ち込んだものであつて、原判示自体も軽犯罪法一条三三号の罪として違法性が最小限度であると認定している本件にあつては必然的に正当なる争議行為として労働組合法一条、刑法三五条によつて違法性が阻却されると言うのである。然しながら前記認定の如く被告人等の原判示のビラ貼り行為は単に軽犯罪法一条三三号の罪を構成するに止まらず、刑法二六〇条の建造物損壊罪、及び暴力行為等処罰に関する法律一条一項違反の罪を構成するのである。又前記各証拠によれば、従前会社が本件の如きビラ貼り行為を認容した事例がなかつたことが認められるし、所論のいわゆる会社の不当労働行為に対する抗議としても本件所為は常軌を逸し、その程度を超えたものである。それ故に本件各所為は労働組合法一条二項但書の「暴力の行使」に当り、正当な争議行為と認めることはできないから違法性は阻却されない。

従つて又右違法な争議行為を目的とした本件建造物への侵入行為も違法性が阻却されない。論旨は採用できない。

以上の通りであつて、被告人等の本件各控訴は理由がないので刑訴法三九六条により、何れも、これを棄却し、検察官の本件控訴は理出があるので、同法三八二条、三九七条一項により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所において更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人等は何れも株式会社金沢タクシー(当時金沢市南町七四番地所在、以下会社と略称)の従業員であつて、被告人山岸与四郎は同会社労働組合(以下組合と略称)の執行委員長、同宮本末蔵は組合副執行委員長、同前義男、同宮丸寛は組合執行委員、同吉倉実、同宮前茂雄は組合職場委員であつたところ、昭和三七年一月一九日組合から七名の組合員が脱退して新に金沢タクシー新労働組合を結成した為、組合においては右脱退組合員のうち二名を除名し、会社との間に締結されていた労働協約に基づき、同月二三日頃から右両名の解雇を要求して、会社当局と団体交渉を重ねたが、会社側が容易に、これに応ずる態度を示さなかつたので、同月三〇日頃早期に事態の解決を図る手段として、以後数日間にわたり、会社本社二階事務室等に多数のビラを反復貼付し、会社側で、これを剥がしても、直ぐ、その跡に又ビラを貼るようにし、経営者を困惑させることにより、その譲歩を求めようと企て

第一、被告人山岸、同宮本、同前、同宮丸、同吉倉、同宮前は多数の組合員と共謀の上

(一) 同月三一日午後五時頃会社本社において、組合員二〇数名と共に、多数の威力を示し、四つ切大の新聞紙等に「協約を守れ」との趣旨等を記載したビラを、二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側及び同室内部の壁に約五〇枚、同事務室のガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約三〇枚、それぞれ糊を用いて貼りつけ、

(二) 前記ビラの大部分を会社側が剥がした跡に同年二月一日午前一〇頃、会社本社において、組合員約二〇数名と共に、多衆の威力を示し、四つ切大の新聞紙等に前同様の文言を記載したビラを二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁及び社長室の扉の外側に約三〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚に約二〇枚、それぞれ糊を用いて貼りつけ、

(三) 前記ビラの大部分を会社側が剥がした跡に、同月二日午後四時三〇分頃、会社本社において組合員約二〇数名と共に、多衆の威力を示し、四つ切大の新聞紙等に前同様の文言を記載したビラを、二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁及び社長室の扉の外側に約三〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚に約三〇枚、それぞれ糊を用いて貼りつけ、

(四) 前記ビラの一部分を会社側が剥がしたのみで、相当のビラが残存しているところに、更に重複して、同月三日午後四時頃、会社本社において、組合員二〇数名と共に、多衆の威力を示し、四つ切大の新聞紙等に前同様の文言を記載したビラを、二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉及び同室内部の壁に約五〇枚、事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室窓ガラス、衝立に約三〇枚、それぞれ糊を用いて貼りつけ

以て建造物を損壊すると共に、多衆の威力を示し、且つ数人共同して、器物を損壊し

第二、被告人宮丸、同吉倉、同宮前は、同年一月三一日判示第一(一)の行為を為すに当り、被告人山岸、同宮本、同前、同宮丸、同吉倉、同宮前は、同年二月三日判示第一(四)の行為を為すに当り、何れも外数名の組合員と共謀の上、ビラ貼りの目的で、会社本社二階社長室出入口から同室内に立入り、以て故なく人の看守する建造物に侵入したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人等の判示第一、(一)、(二)、(三)、(四)の各所為は包括して、建造物損壊の点は刑法二六〇条、六〇条に、多衆の威力を示し且つ数人共同して器物を損壊した点は昭和三九年法律一一四号による改正前の「暴力行為等処罰に関する法律」一条一項、刑法二六一条右改正法附則二項、罰金等臨時措置法三条に(被告人宮前は判示第一、(三)の事実について実行行為に参加していないので右事実について、同人に対し刑法六〇条を適用)、判示第二の各所為は何れも刑法六〇条、一三〇条、罰金等臨時措置法三条に当るが、右建造物損壊の罪と暴力行為等処罰に関する法律違反の罪とは刑法五四条一項前段の観念的競合であり、判示第一の各所為と判示第二の各所為とは同条一項後段の牽連犯であるから、同法一〇条により最も重い建造物損壊の罪の刑で処断することとし、その刑期範囲内で被告人山岸、同宮本、同前、同宮丸を各懲役三月に、被告人吉倉、同宮前を各懲役二月に処し、情状により刑法二五条一項を適用して本裁判確定の日から各被告人とも一年間右刑の執行を猶予することとし、原審及び当審における訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文、一八二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小山市次 斎藤寿 寺井忠)

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