名古屋高等裁判所金沢支部 昭和44年(行コ)2号 判決 1969年12月22日
控訴人(原告) 高橋武夫
被控訴人(被告) 福島伊平
主文
原判決を取消す。
被控訴人は福井県南条郡今庄町に対し金一五万円およびこれに対する昭和四一年一一月五日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は福井県南条郡今庄町に対し金三〇万円およびこれに対する昭和四一年一一月五日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、書証の認否は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
控訴人が福井県南条郡今庄町の住民であり、被控訴人は同町の町長をしていたものであること、被控訴人は町長在任中昭和四〇年度一般会計追加更正予算の執行として福井市西宝永町二丁目一一〇八番地弁護士斉藤実に対しいずれも報償金として同年七月六日に金一〇万円、同年一〇月一八日に金一〇万円、同年一二月二〇日に金一〇万円を支払つたこと、右報償金は控訴人および訴外東正三が今庄町を代位して控訴人主張のごとき内容で今庄町町長(当時被控訴人が在任)および被控訴人個人を相手方として提起した福井地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第一号及び第二号行政処分取消等請求訴訟の応訴費用であること、以上の事実は当事者間に争がない。
控訴人主張の右各訴は控訴人らが訴外今庄町に代位して個人としての被控訴人をして訴外今庄町に対し違法な予算執行によつて得た利得を返還させることを目的としたものであることは成立に争のない甲第一、二号証、第五号証の三、四、九、一〇に徴して明らかである。
右訴訟の目的よりみれば、訴外今庄町の町長としての被控訴人に対し予算の執行行為である金員の支出行為の取消を求める訴は、被控訴人個人に対する不当利得返還請求の前提問題にすぎないとはいえ、控訴人らが右町長たる被控訴人に対する行政処分取消訴訟を被控訴人個人に対する不当利得返還訴訟と併合して提起した以上、今庄町の町長である被控訴人は個人としての応訴のほか、訴外今庄町の代表者としても応訴せざるをえなかつたというべきであるから、訴外今庄町の町長としての応訴費用を訴外今庄町において負担することは違法と称しえないけれども、被控訴人個人としての応訴費用を訴外今庄町が支出することは違法といわなければならない。
ところで、被控訴人個人より斉藤弁護士に報酬金を支払つたことについてはこれを認むべき証拠なくこれを肯認しえない以上、今庄町より斉藤弁護士に支払われた報償金は、町長としての被控訴人と個人としての被控訴人の報酬金として支出されたものと推認するほかはない。
控訴代理人は右各訴は実質的には被控訴人個人を相手としたものといえるから、応訴費用は被控訴人個人が全額負担しなければならないと主張するが、成立に争のない甲第五号証の二ないし一一によれば、右報償金の受領者たる訴外弁護士斉藤実は前訴において町長としての被控訴人および個人としての被控訴人双方の訴訟代理人として訴訟行為をしたことが認められるから、たとい実質が被控訴人個人を相手とするものであつても、形式上両名の代理人として訴訟活動がなされた以上、これを一方の依頼者たる被控訴人個人をして全額負担させるべき合理的根拠はない。
しかしながら、前記応訴費用金三〇万円のうち町長としての応訴費用と個人としての応訴費用の占める割合についてはこれを認むべき証拠がない。
もつとも出張旅費、日当、宿泊料について考えれば、訴訟依頼者両名において平等負担するのが相当と認められ、成立に争のない甲第八号証の三によつて認められるごとく、その全額が訴外今庄町より支出されていることは明らかに不合理というべく、それ以外の報償金についても、前記のごとく応訴費用の分担割合についての証拠のない本件においては、町長たる被控訴人と個人たる被控訴人において平等負担すべきものと解するのが相当である。
してみれば、斉藤弁護士に対する報償金の支出のうち金一五万円についての訴外今庄町の支出は違法というほかなく、被控訴人は右金一五万円を自ら支払うべきであるのに訴外今庄町に支出させて同額の不当利得をしたものというべく、右利得は現に存在しているということができる。
なお、被控訴人を悪意の受益者と認むべき証拠はないけれども、民法第一八九条第二項を類推適用して本訴の提起をうけたときから悪意の受益者としての責任を負うべきものと解される。
よつて、控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断を加えるまでもなく、訴外今庄町に代位して被控訴人に対し右不当利得金一五万円およびこれに対し本訴状送達の後であること記録上明らかな昭和四一年一一月五日より右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却を免れない。
以上の次第ゆえ、右と結論を異にする原判決は維持できないからこれを取消すこととし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九二条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 中島誠二 黒木美朝 井上孝一)