名古屋高等裁判所金沢支部 昭和46年(う)156号 判決 1971年12月23日
被告人 森田幸夫 外二名
主文
本件各控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中各六〇日を各被告人に対する原判決の各刑にそれぞれ算入する。
理由
本件各控訴の趣意は被告人森田の弁護人梨木作次郎、被告人宮崎の弁護人岡田義明、被告人平松の弁護人玉田勇作の各控訴趣意書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを各引用する。
被告人森田に関する梨木弁護人の控訴趣意第一点の(一)並びに被告人平松に関する玉田弁護人の控訴趣意第二点法令の適用の誤りの主張について
各所論は要するに、被告人等が甲野乙子(以下甲野と称す)を自動車内に引きずり込もうとした本件所為は、仮りに強姦の意図の下になされたとしても、未だ強姦罪の着手段階に入つたものとは解し得ないのに、これを強姦罪の着手に当ると解釈し、被告人等に対し強姦未遂罪を適用した原判決は、法令の解釈適用を誤つたものであるから破棄を免れないというにある。
よつて審案するに、原判示証拠を綜合すると、
(1)、被告人等三名は本件犯行日の夕刻から被告人宮崎の自家用乗用自動車に乗車して金沢市内に赴き、適当な女性を誘つて同乗させ、誘いに応じた女性を人気のない場所に連行し順次姦淫しようと暗黙裡に意思相通じ、同市内を物色し通行中の女性を誘つたが容易に被告人等の誘いに応ずる女性がなかつたこと、
(2)、そこで遂に暴力を以つて通りがかりの女性を拉致しようと合意し、これが実行に当つては被告人宮崎は自動車を運転し、被告人森田、同平松は女性を車内に引きずり込むこととし、同日午後八時過金沢市西金沢駅付近に車を停車させて適当な女性の通行を待ち伏せていたこと、
(3)、暫時の後に、甲野が一人で付近を通りかかつたのを認め、誰れいうとなく提案し、ここに三名で協力して同女を拉致し、強姦しようと決意し、宮崎において自動車の前照灯を消し同女に気付かれない様にして同女を追尾し、人通りのない本件犯行現場に至り同女に追いつき、先づ被告人平松が下車して、同女の後からその頭部に予め用意していたジヤンパーをかぶせて同女の身体を押え、続いて下車した被告人森田が同女の前に廻り二人して同女を抱えて自動車に引きずり込もうとし、被告人宮崎は自動車を近づけ、同女を車内に引きずり込んだら直ちに発進出来る様に用意していたこと、
(4)、しかるに同女は必死の抵抗をして暴れ、その内に頭からかぶせられていたジヤンパーの下から顔が出たので大声で助けを求めるや、被告人平松において同女の口を手で塞ぎ、同被告人等両名で同女を車内に引きずりこもうとして数分間を費したが、極めて激しい同女の抵抗にあい容易に同女を車内に引きずり込むことができなかつたこと、
(5)、この間の状況を自動車の運転台からみていた被告人宮崎がこのままでは、その犯行を人にみつけられると判断し「逃げろ」と合図し、被告人森田、同平松は同車に逃げ込み被告人宮崎の運転で現場から逃走したものであること、
(6)、本件犯行現場付近は市街地内ではあるが辺りは工場等で人気もなく、夜間は人通りも殆んどない場所であつたこと
がそれぞれ認められる。
これ等の事実によれば、被告人等の同女を強姦する意図は計画的なものであり、又その暴行の態様や激しさからみても、その犯意は強固なものであつたと認められ、本件犯行場所も容易に助けを得られない場所で、甲野の抵抗が通常のものであつたならば、容易に車内に引きずり込まれる客観的状況下にあり、被告人等の行動、使用した自動車の構造からすれば、同女が車内に引きずり込まれたならば、直ちに人気の全くない場所に連行され被告人等の輪姦を受けることは必至の状況であつたと推認されるので、被告人等の本件所為は、その段階において強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められ、その時点において強姦行為の着手があつたと解するのが相当である。
従つて、本件について強姦未遂罪を適用した原判決の法令の適用は相当であり、各論旨は採用できない。
被告人森田に関する梨木弁護人の控訴趣意第一点の(二)法令の適用の誤りの主張について
所論は要するに、被告人等は自己の意思により本件犯罪を中止したのに、これを障碍未遂であるとした原判決は法令の適用を誤つたものであるから破棄を免れないというにある。
よつて審案するに、証拠によつて認められる前叙(4)・(5)の如く被告人等が本件犯行を止めたのは被害者の予想外の必死の抵抗にあい、大声で助けを求められる等したために、その犯行を他人に発見されることをおそれたためであつて、右は外部的障碍によつて止めたものというべきであるから、被告人等に対し中止未遂を認めなかつた原判決の法令の適用は相当であり、論旨は採用できない。
被告人森田に関する梨木弁護人の控訴趣意第二点事実誤認の主張について
所論は要するに、被告人等は甲野を自動車に乗せることを共謀したが、未だ同女を強姦することを共謀した事実がないのに、これをあるとした原判決は事実を誤認したものであるから破棄を免れないというにある。
よつて審案するに、証拠によつて認められる前叙(2)、(3)の如く、言葉に表現された内容は女性を拉致することにあつたが、被告人等は何れも内心同女性を強姦することを意図し、相互にその意図を了解し合いながら本件犯行を敢行したものであるから被告人等は甲野を強姦することを共謀したと認定した原判決の事実認定は相当であり、論旨は採用できない。
被告人森田に関する梨木弁護人の控訴趣意第三点、被告人宮崎に関する岡田弁護人の控訴趣意、被告人平松に関する玉田弁護人の控訴趣意第三点各量刑不当の主張について
所論は要するに、被告人等に対し刑の執行を猶予しなかつた原判決の各量刑は重きに失し不当であるというにある。
よつて審案するに、記録を調査し当審の証拠調の結果をも加え、証拠によつて認められる本件犯行の動機・態様・結果並びに各被告人の経歴・性行・環境等ことに本件犯行は強姦の目的を以つて自動車の機動力を利用し市街市を通行中の女性を強力な暴力を以つて拉致しようとした計画的悪質大胆な犯行であると共に、被告人宮崎は恐喝罪の犯歴を、被告人平松は窃盗・恐喝未遂罪等の犯歴を各有し、同人等は何れも従来素行の治まらなかつたものであることにこれを徴すると、所論のうち被害者の慰藉につとめた等肯認できる諸事情を各被告人の有利に斟酌しても、なお、原判決が被告人森田、同平松に対してそれぞれ懲役二年を、被告人宮崎に対し懲役一年六月を科した原判決の各量刑は相当であると認められ、これ等を重きに失するものとは認められない。
各論旨は採用できない。
よつて本件各控訴は、何れもその理由がないので刑訴法三九六条に則り、これ等を各棄却することとし、刑法二一条を各適用して当審における未決勾留日数中各六〇日を各被告人に対する原判決の各刑にそれぞれ算入することとし、主文のとおり判決する。