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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和49年(ラ)5号 決定 1974年3月12日

抗告人 高島水紀

右代理人弁護士 金井和夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は、抗告の趣旨として、原決定を取消し、更に相当の裁判を求める旨申立て、抗告理由として別紙のとおり述べた。

一  よって案ずるに、競売手続の利害関係人は、競売期日の通知を受けること(競売法二七条四項、二項)により、競売期日に出頭して手続が適正に進められることを自ら確認しうる機会を与えられているものであって、されば、競売期日において競売を実施した執行官は、最高価競買人が決定した場合においては当該競売調書に必らず競売手続に出頭した利害関係人の署名捺印を求めなければならないのである(―もっとも、利害関係人が調書の作成前に退席したときは調書にその旨を附記すべきこととされている。―競売法三四条、三〇条、六六七条)。

二  これを本件についてみるに、本件記録によれば、本件不動産競売手続は競売に換えて入札払がなされることとなり、入札期日は昭和四九年一月一四日午前一〇時と定められていたこと、本件競売不動産の抵当権者として競売手続の利害関係人とされる福井信用金庫は、右入札期日の通知をうけ、代理人として同金庫管理課長である敦賀昇を当日原審裁判所に派遣し、同人が右期日の午前一〇時頃原審裁判所の執行官室に赴き、本件競売手続の記録を閲覧していたが、担当執行官の競買価額の申出催告がなされてから約一時間経過するも入札申出人が現われなかったこと、そこで、敦賀が本件入札実施担当執行官である甲野太郎に対し、「買手がないようだが、どうしたものでしょう。」と問いかけたところ、同執行官は、「今日は誰も落す人がいないから不能だなあ。」と答えたので、敦賀は「では次回に競落させてもらいます。」と告げて執行官室を立去ったこと、同執行官は敦賀の右退出に対しこれを引留めるような発言、振舞は何もしなかったこと、ところが、敦賀の退出後まもなく抗告人が本件入札の申出をなしたので甲野執行官はこれを受理したうえ、抗告人を最高入札人と認めたこと、そして、入札払調書に抗告人の署名押印を求めながら、敦賀の前記退席については右調書上に何らの附記もしていないこと、以上の事実を認めることができるのである。

三  以上の認定事実によれば、執行官甲野太郎のなした本件入札払手続には次の違法があるといわなければならない。

即ち、甲野執行官は本件競売期日に利害関係人である福井信用金庫の代理人敦賀昇の出頭を現認し、そして競買価額申出催告後約一時間が経過するもなお入札払競売に応ずる者のない時点で、同人から本件入札期日の帰すうについて質問をうけているのであるから、執行官として本件競売をなお終局させるべきでないと判断したのであれば(因みに、民事訴訟法六六五条二項は競買価額申出の催告後満一時間経過したからといって競売が終局とされなければならないと定めたものでないことは明らかである)、その旨を敦賀に告げ、退出しようとする同人に対し何らかの注意を促すべきであるのに、何らこのような措置をとらなかったばかりでなく、却って同執行官が敦賀に与えた回答は、当日の競売は結局不能に帰したと解するほかないような内容であり、しかもなお、敦賀が執行官の右回答を期日の終局を告知したものと理解して退出しようとしていることが極めて明らかなのにも拘わらずこれに対し何らの応答も示していないことから考えると、甲野執行官の敦賀に対する右発言は利害関係人に対する期日の終局を告知したものと解せざるをえないのである。

従って、甲野執行官は敦賀に対する右告知と同時に本件競売期日は終局とする旨の宣言をなすべきであったものというべきであり、かつ、爾後本件入札払手続の続行は許されないから、抗告人の本件入札の申出を受理し、入札払を実施した同執行官の措置は、競売法三二条二項、民事訴訟法六七二条一号に則り違法といわなければならない。

(なお、甲野執行官の敦賀に対する前記発言を期日の終局の告示と解しえないとしても、前記認定のような状況のもとで敦賀の退出を放置した甲野執行官は利害関係人の競売期日に出頭すべき機会を不当に奪ったと同然であり、しかも、敦賀の右退席について本件入札払調書上何らの記録もとどめられていない点にかんがみると、同執行官は右利害関係人代理人の出頭したことを無視して手続を進めたともいえるのであって、この点からみても本件最高価入札人の決定は違法たるを免れない。)

四  その他、本件記録を精査するも原決定に違法事由があることは認められない。

以上の次第で、利害関係人福井信用金庫の異議を正当と認めた原決定は相当であるから本件抗告は理由がなく棄却を免れない。

よって抗告費用を抗告人に負担させて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三和田大士 裁判官 夏目仲次 山下薫)

<以下省略>

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