名古屋高等裁判所金沢支部 昭和52年(ラ)10号 決定 1977年6月20日
抗告人
沖本喜代栄
同
石本正二
同
木津外栄
右三名抗告代理人
嘉野幸太郎
外一名
主文
抗告人沖本喜代栄、同木津外栄の抗告をいずれも却下する。
抗告人石本正二の抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
一抗告人らは、「原決定を取消す。」旨の決定を求め、その理由とするところは抗告人沖本喜代栄については別紙(一)のとおり、抗告人石本正二については別紙(二)のとおり、抗告人木津外栄については別紙(三)のとおりである。
二よつて検討するに、
1 本件競売は破産法第二〇三条に基づく破産財団に属し別除権の目的たる不動産の換価のための競売であるところ、破産者は破産宣告により破産財団に属する財産については管理処分権能を失なつているのであるから、破産者である抗告人沖本喜代栄は、同人の破産手続における破産財団に属する不動産の換価のための本件競売手続においては利害関係人たる地位にはなく、競落許可決定に対する即時抗告権を有しないものと解するのが相当である。
すなわち、破産財団に属する財産が不当な廉価ではなく適正な価額で換価されるか否かは、破産債権者に対する配当額の多少に影響し、その結果破産手続終了後に残存する破産者の債務額の多少にかかわる(免責がなされるか否かは別問題である)ことは明白であり、その点において破産財団に属する財産の換価のための競売手続が破産者の経済的利益に関係があることは否定できない。
しかし、破産財団を構成する財産について管理処分の権限を奪われている破産者たる抗告人は本来の債務者ではあるが、民事訴訟法第六四八条所定の利害関係人に該当するものとは解しえず、その競落許可決定に対する即時抗告権を有しないものとするのが相当である。
そして、このように解することは、破産法が破産財団に属する不動産等の重要財産の換価につき民事訴訟法に定める方法の外監査委員の同意、裁判所の許可、債権者集会の決議等を経て任意売却による方法を定めている場合においても 破産法はその換価については、遅滞の虞のない場合に破産者の意見を聴くことを管財人に義務付けているのみで、破産者に対して不服申立の途を開いておらないことに相応するものというべきである。
2 つぎに、抗告人石本正二は、本件競落建物につき賃借権を有する者で本件競売の利害関係人であり、競売期日の通知を受ける権利を有するところ、原裁判所は本件競売手続にあたり抗告人石本正二に対して何らの通知をなすことなく本件競落許可決定に至つたもので違法である旨主張する。
しかし、抗告人石本正二が本件競落物件についてその主張のとおりの賃借権を有するものとしても、その旨の届出をなし必要な場合にはその権利を証明してはじめて民事訴訟法第六四八条第四号の利害関係人となるものであるところ、同人は昭和五二年五月一一日当裁判所へ提出した抗告理由書中で右のような権利を有する旨の主張をするまで原裁判所に対しそのような届出をしていないから、原審の競売手続がなされた当時、競売期日等の通知を受けるべき利害関係人の地位にはなかつたものであり、同人に対し競売期日等の通知がなされかつたとしても本件競売手続には違法の点はなく、原決定にはその他何らの瑕疵もない。
3 さらに、抗告人木津外栄は本件競落建物の一部が同人の所有にかかる別個独立の建物である旨主張するが、同人がその主張する建物部分につき登記を有することは認められず、また同人がその主張部分につき所有権を有することの証明もないから、同人は民事訴訟法第六四八条第三号、同第四号所定の利害関係人には該当せず同条のその余の各号所定の利害関係人にもあたらない。
従つて、同人は本件競落許可決定に対する即時抗告権を有するものではない。
なお、競売対象物件の全部又は一部につき登記名義を有しないが所有権者である旨主張するものは第三者異議の訴により競売手続の取消しを求めるべきものである。
三以上のとおり抗告人沖本喜代栄、同木津外栄の本件即時抗告はいずれも不適法であるからこれを却下し、抗告人石本正二の本件即時抗告は理由がないのでこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(西岡悌次 富川秀秋 西田美昭)
別紙(一)、(二)、(三)<省略>