名古屋高等裁判所金沢支部 昭和53年(ネ)183号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
本訴の請求原因の要旨は「原告らはいずれも被告(全金労組石川地本オリエンタルチエン工業支部)の元組合員であるが、被告の組合大会において、組合員がストライキによつて賃金債権を失つた場合にこれを補う目的で、組合員各自が毎月一定額の闘争積立金を被告に預託する、被告はこれを一括してその名義で石川県労働金庫に預金する、積立者が退職、死亡その他組合員資格を失つた場合にはこれを積立者に返還する旨の決議がなされ、原告らは、被告の組合員であつた期間中、右決議に基づき積立金を被告に預託したが、その後原告らは、被告を脱退し、組合員の資格を喪失した。よつて、被告に対し、右の預託金及びこれに対する遅延損害金を請求する。」というもので、これに対して被告は「原告らは、被告の分裂ひいては破壊を企図していた会社に加担して脱退したものであり、右脱退は、組合の団結に対する著しい背反行為である。被告は現在組合員数一九名までに減少し、しかも会社側の不当な攻撃にさらされている。原告らはいずれも右のような被告と会社の労使関係の実態を知悉しながら、あえて被告の財産的基盤を弱化せしめるため本件請求を行なおうとするものであつて、原告らの本件請求は権利濫用に該当する。」として抗争する。
【判旨】
権利の濫用について
〔<証拠>を総合すると、選定者らは被告から脱退のうえ、昭和四九年八月訴外オリエンタルチエン工業株式会社の従業員のうちの圧倒的多数を組合員とする新労働組合を結成したこと及び原告らの被告からの脱退、新組合の結成が右訴外会社による労働組合法七条三号に該当する不当労働行為である旨地方労働委員会によつて認定されたことが認められ、被告の組合員数が現在一九名という少数であることについては当事者間に争いがない。〕(編注――以上は原判決理由説示の引用部分)
「しかしながら、本件積立金制度が設けられたことの主眼は、ストライキによる賃金カツトに備えて平素から組合員各自に闘争時の生活資金を積立てさせることにあり、組合が積立金の徴収、管理を行うのは組合の統制力により積立の実行を強制し制度に実効性を持たせるためであつて、組合自体の財産的基盤を充実させるためではないと解される。もつとも、組合が積立金保管の方法として金融機関にこれを預金すれば、組合として預金利息を得られるから組合自体の資産の充実にある程度役立つということもあるが、これはあくまでも付随的な目的とみるべきである。従つて、選定者らが控訴人組合の組合員資格を喪失した原因が控訴人主張のようなものであつたと仮定しても、組合員資格が失われた以上積立金の預託を継続させる実質的根拠は薄弱であり、積立金返還請求が控訴人組合の財産的基盤を弱化せしめるとの非難も当を得ない。また、本件積立金の前記性質にてらすと、選定者らが組合の団結を破つたことに対する制裁的、報復的措置としてその返還を拒否し得ると解することも相当でない。結局、控訴人の権利濫用に関する主張は理由がなく、他に本件積立金返還請求をもつて権利の濫用とみるに足りる事情は認められない。」
相殺の主張について
選定者らが前記闘争積立金明細表記載の脱退年月日にそれぞれ控訴人組合を脱退したことは当事者間に争いがなく、その頃選定者らによつて新組合が結成されたことは前記認定のとおりである。
そして控訴人は、右脱退と新組合の結成、即ち控訴人組合の分裂は、使用者である訴外オリエンタルチエン工業株式会社の不当労働行為によつてもたらされたものであり、選定者らのうち控訴人が主張する三三名は訴外会社と意を通じ右分裂工作に加担したものであるから、訴外会社と共に共同不法行為者として控訴人の蒙つた損害を賠償する義務があると主張する。
たしかに、<証拠>によれば、前記分裂の過程において前記訴外会社により不当労働行為とみられる支配介入のなされたことが認められないではないが、組合からの脱退および新組合の結成という行為の主体は労働者であり、労働者にとつてこれらは本来結社の自由および団結権に由来する正当な行為であるから、これらをなすにつき使用者の支配介入があつたからといつて直ちにその行為が違法性を帯びることはなく、脱退あるいは新組合結成がことさらに従前の組合の団結を乱し使用者に利益を与えることを目的としてなされる場合のように、もはやそれらを自由権あるいは団結権の正当な行使とみることのできない特段の事情の存するときにはじめて右行為は違法性を帯び、不法行為の成立が肯定されると解すべきである。そして、本件全証拠によるも選定者らのなした控訴人組合からの脱退および新組合の結成につき右特段の事情の存在を認めることはできない。
従つて、控訴人の相殺の抗弁は、自働債権の存在が認められないから理由がない。
(黒木美朝 川端浩 清水信之)