名古屋高等裁判所金沢支部 昭和54年(ラ)13号 決定 1980年3月25日
抗告人 甲野太郎こと 甲野一郎
一九三一年五月一九日生
相手方 乙野春子こと 乙野花子
一九三六年二月一〇日生
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一 本件抗告の趣旨および理由は別紙即時抗告申立書(写)記載のとおりである。
二 原審記録および調停事件記録を調査した結果当裁判所が認定した事実関係は、原審判書に「当裁判所の認定した事実関係」として記載されているところと同一であるからこれを引用する。
三 右事実によれば、当事者双方はともに外国国籍を有するものであるから、まず渉外事件である本件に適用されるべき準拠法を考えるに、本件は離婚に伴う財産分与を求める申立であり、財産分与については離婚の効力の問題として離婚の準拠法が適用されると解すべきところ、法例一六条によれば離婚の準拠法は離婚原因発生時の夫の本国法とされている。
ところで、本件の場合、夫である抗告人の本国朝鮮はいわゆる分裂国家であるから、本国法として朝鮮民主主義人民共和国法または大韓民国法のいずれを適用すべきかがさらに問題となる。
しかしながら、かりに朝鮮民主主義人民共和国法によるべきものとしても、現在当裁判所は同国法の内容を知ることができないから、結局、条理としての我国民法を適用せざるを得ず、また、大韓民国法によるべきものとした場合、同国法は離婚に伴う財産分与の制度を持たないから本件申立が認容される余地はないことになるが、離婚に伴う財産分与の制度を設けることは世界的な趨勢であるうえ、前認定のとおり、本件当事者は双方とも我国内で出生し、我国内で婚姻期間を過したものであり、今後も我国で生活することが予想されるところ、このように我内国秩序と密接に関連する生活関係の中に生じた離婚につき財産分与そのものを一切認めないとすることは、我国渉外法上の公序に反するものというべきであるから、法例三〇条により大韓民国法はその適用が排除されると解すべきであり、結局法廷地法である我国民法の適用があることになり、いずれにしても本件財産分与の申立については我国民法を適用すべきことになる。
四 原審判も同様の見地から本件につき、我国民法の適用があることを前提として具体的分与額を定めたものと解される。
そこで、前認定の事実関係、その他原審記録によって認められる諸事情を検討するに、原審判の結論および「分与額についての判断」として説示されているところはともに相当と認められる。
抗告理由1および3の点をみるに、原審判の理由説示は単純な計算処理をしているのではなく、記録上認められる諸事情にてらし、財産分与額を算出する過程において、抗告人の兄弟の積立金からの金二六〇万円の借入の点および弟二郎からの金一〇〇万円の借入の点は、同説示のような考え方で処理するのが妥当であるとの判断が示されているものと解すべきところ、当裁判所も右判断は相当でありこれを是認し得るものと考える。
また、抗告理由2の点も、本件離婚に至るまでの経緯および本件財産分与額の算定においては慰藉料的性格の金員が特に積算されていないことにてらし、かりに抗告人主張の事情が存するとしてもなお、原審判の分与額の算定が不当であるとはいえない。
五 よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 黒木美朝 裁判官 川端浩 清水信之)
<以下省略>