名古屋高等裁判所金沢支部 昭和59年(ラ)33号 決定 1985年9月05日
抗告人 斉藤武雄
相手方 斉藤信子
主文
一 原審判主文第2・3項を次のとおり変更する。
1 抗告人は相手方に対し、未成年の子斉藤寛明の養育費として昭和58年9月以降毎月末日限り1か月金1万4630円の割合による金員を支払え。
2 当事者双方の共有財産を次のとおり分割する。
(1) 別紙共有財産目録(一)記載の土地・建物を抗告人の取得とする。
(2) 同目録(二)記載の有体動産のうち、A欄記載のものは相手方の、B欄記載のものは抗告人の各取得とする。
(3) 抗告人は相手方に対し右分割の調整として金76万0811円を支払え。
二 抗告人のその余の抗告を棄却する。
三 本件調停・審判・抗告の費用は各自の負担とする。
理由
第一抗告の趣旨及び理由
別紙(三)記載のとおりである。
第二当裁判所の判断
一 親権者の指定について
当裁判所も抗告人と相手方間の未成年の子斉藤寛明の親権者を相手方斉藤信子と定めるのを相当と判断するところ、その理由は原審判理由中該当部分(原審判2枚目表2行目から4枚目表9行目まで)記載と同一であるからここにこれを引用する。そして右引用にかかる原審認定事実その他記録に表れた諸般の事情に照らすと、抗告人の当審における主張は理由がなく採用できない。すると本件親権者指定の審判は相当というべきであるから、この部分に対する本件抗告は理由がない。
二 未成年者の養育費について
原審判は、前記未成年者の養育費として1か月1万4630円の支払を命じているが、終期は成人に達するまでであることが明らかであつて、あえて記載する必要はないとしても、始期及び支払時期の記載がなく金銭の給付を命ずる審判の主文としては特定を欠くきらいがあるといわねばならない。そして記録によれば、抗告人は右未成年者の親権者が相手方と決つた場合は養育費などは一切支払うつもりのない旨を述べており、養育費の額さえ定めれば、あとは当事者間で任意履行が期待できる状況にあるとは認め難い。一方記録によれば、両者は昭和54年頃から生活費の分担をめぐつて対立するようになり、昭和56年9月に相手方から離婚調停が申立てられ、これは昭和57年11月不調に終り、両者の仲は何ら改善されないまま本件調停申立に至つたことが認められ、従つて養育費支払の始期が定められないと、相手方から昭和56年或いは更に遡つて昭和54年以降の分まで請求されかねない状況にあることが明らかである。すると、本件においては、単に養育費の額を定めるのみでは更に紛争を生ずる虞れがあり、扶養に関する処分としては不十分であつて、1か月当りの養育費の額のほか、その支払の始期と毎月の支払期日を定める必要があるというべきである。従つて本件養育費に関する原審判は相当でないのでこれを取消し、上記理由に照らし自ら審判に代わる裁判をするを相当と認めて以下自判することとする。
当裁判所も未成年者の養育費は、いわゆる労研方式によつて算定するを相当と判断するところ、これによると本件養育費は1か月1万4630円になることは、原審判理由中該当部分(同2枚目表2行目から6枚目表1行目まで)記載と同一であるからここにこれを引用する。そして記録によれば、相手方は昭和58年8月27日原審に夫婦関係調停の申立をし、長男寛明の養育費の支払を求めたことが明らかであるから、本件養育費の支払の始期は昭和58年9月、支払期限は抗告人が給与生活者であることに照らせば、毎月末日とそれぞれ定めるのが相当である。よつて抗告人に対し、未成年の子斉藤寛明の養育費として昭和58年9月以降毎月末日限り1か月金1万4630円の割合による金員を相手方に支払うよう命ずることとする。なお始期及び支払期日の記載のない金員支払を命ずる原審判主文第2項を右の如く変更しても、前認定の事情に照らせば抗告人にとつて原審判が不利益に変更されたことにはならないと解するのが相当である。
三 財産分与について
原審が、婚姻中の夫婦が金融機関から金員を借入れ、同資金をもつて土地を購入し、地上に建物を建築し、右借入金につき抵当権を設定し、同借入金を月賦返済中の本件土地・建物(別紙共有財産目録(一)記載)を本件財産分与の対象としたことは相当というべきであるが、右不動産の価額を評価するに当り、それまでに支払つた割賦弁済金の総額をその価額とみたのは相当でない。割賦弁済金は借入金に対する利息を含んでいるところ、支払利息は金員借入のための対価として債権者に支払われたもので借主からみれば経費として費消してしまつたものであり、資産として借主側に形を変えて残存するものではない。
割賦弁済金中元金充当分が借入金を減少させ実質所有権を増価させて行くものであるから、同元金充当分の合計額が当時の本件不動産の実質的価値を表しているとみるのが相当である。すると、原審が別居時を基準とし、同日までに支払つた元利合計額を830万4600円と計算し、その2分の1を相手方の取得分と認定したのは、本件不動産の誤つた評価を前提とするものであつて相当でなく取消を免れない。そこで自判するを相当と認めて以下判断するに、一件記録によると、抗告人と相手方は昭和50年6月2日婚姻し共稼ぎをして共同生活を営んでいたが、同人らは抗告人名義で昭和52年6月共済組合から200万円、昭和53年5月○○銀行から900万円、同年同月住宅金融公庫から470万円、昭和55年7月共済組合から50万円以上合計1620万円を借受け、昭和53年4月抗告人名義で本件土地を買受け、同地上に本件建物を建築し抗告人名義で所有権保存登記をし、前記借入金のうち約650万円を土地購入代金に、約970万円を建物建築代に当て、右土地・建物につき○○銀行及び住宅金融公庫に対し右借入金のための抵当権設定登記手続をしたこと、そして以上の各借入金を月賦返済していたが、昭和56年頃から不仲となり、婚姻費用分担に関する約束が破棄され、日常の生活費は各自が別々に支払うようになり、前記借入金の返済は抗告人が自分の収入で行なうようになつたこと、昭和56年11月現在における○○銀行借入分残元金は823万2266円、住宅金融公庫分410万3151円、共済組合分202万2000円以上合計1435万7417円であり、同日現在の元金充当分合計額は184万2583円であることが認められる。すると、昭和56年11月の時点で夫婦の共同生活関係はすでに破綻し、双方の協力に基づく共有財産形成行為は止んだものと認めるのが相当であり、同日現在の本件土地・建物を評価し、その額に従つて財産分与を考えるのが相当である。そして同日現在の借入金元本充当分は184万2583円であるから、他に資料がない本件においては、これを同日現在の本件土地・建物の実質的価値とみて、その2分の1に当る92万1291円をそれぞれの取得分と認めるのが相当である。抗告人は分与における各人の取得割合は収入額に応じて定めるべきであると主張するが、収入金額のみならず、非金銭的協力をも総合して判断すべきところ、本件記録によるも、抗告人と相手方間に共同生活継続中に右協力の程度に差異があつたとは認められないからこれらは平等と推定すべく、抗告人の右主張は採用することができない。そして本件土地・建物は現在抗告人が使用しているので、これらの権利全部をいずれも抗告人斉藤武雄に取得させることとし、抗告人は相手方に対し実質的持分価額92万1291円を調整金として支払うことにするのが相当である。次に金銭並びに有体動産につき判断するに、別紙目録(二)記載の有体動産のうち、A欄記載のものは相手方斉藤信子に、B欄記載のものは抗告人斉藤武雄に取得させ、調整として相手方から抗告人に16万0480円を支払わせるを相当と判断するところ、その理由は原審判理由中該当部分(同6枚目表6行目から7枚目表7行目まで及び10枚目表10行目から同裏末行まで)記載と同一であるからここにこれを引用する。すると抗告人から相手方に支払う調整金は差引76万0811円となる。抗告人は、共有財産の認定及びその配分方法につき種種主張するが、本件記録に照らせばいずれも理由なく採用できない。
四 よつて、原審判を一部変更し、その余の本件抗告を棄却することとし、本件各手続費用の負担につき民事訴訟法第96条、第89条、第92条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 井上孝一 裁判官 三浦伊佐雄 森高重久)
別紙<省略>
〔参照〕原審(福井家 昭58(家)858号、859号、918号 昭59.10.23審判)
主文
1 未成年者斉藤寛明の親権者を申立人と定める。
2 相手方は申立人に対し上記未成年者の養育として1ヶ月14,630円支払え。
3 当事者双方の夫婦共有財産をつぎのとおり分割する。
(1) 別紙共有財産目録(一)記載の土地、建物を相手方の取得とする。
(2) 同目録(二)記載の有体動産は、うちA欄記載のものは申立人の、B欄記載のものは相手方の各取得とする。
(3) 相手方は申立人に対し上記分割の調整として3、991、820円を支払え。
4 本件調停、審判の費用は各その支出当事者の負担とする。
理由
一 婚姻小史
申立人と相手方は昭和47年頃知り合い、同50年6月に婚姻、同53年3月までに福井市○町の借家で生活、同年4月同市○○○○(現相手方肩書住所)に新住宅を建築して移転、同54年11月に長男寛明が出生。しかしその少し前頃から夫婦仲が不和となり、申立人は同56年9月離婚調停を申立てたが同57年11月1日不成立となり、その後同58年6月申立人は長男寛明を伴つてその肩書住所に別居、同58年8月再度離婚調停を申立て、同年10月21日相手方との間で離婚についての調停成立、その余の長男寛明の親権者指定、養育費請求について合意に達せず、同各申立は審判に移行(当庁同年(家)858号、859号)、さらに申立人は同年11月財産分与の審判申立て(同年(家)918号)をした。
二 親権者の指定
(一) 生活状況
1 未成年者寛明
未成年者寛明は生まれてから相手方の肩書住所で申立人、相手方との三人で生活していたが同58年6月申立人が相手方と別居してその肩書住所に移り住むとともに申立人に伴われてその住所に移り、現在同所で申立人と二人で生活している。特に大きな病気をすることもなく順調に成長。同58年4月に○○幼稚園に入園したが、同年6月申立人の転居に伴って○○幼稚園に転園、その他別段問題はない。
2 申立人
(1) 相手方との別居以来肩書注所に未成年者と居住、同住居は福井市街外縁の住宅地にあって現在の建物そのものは申立人の実父が申立人の弟のために建てたもので、建物、土地の名義は申立人の弟になっている。構造は木造2階建、1階は8畳2間、6畳、台所、2階は8畳、6畳。なお申立人の実家までは車で5分の距離。
(2) 申立人は実父が実家で自営している有限会社○○設備(配管業)に事務員として勤務、毎日午前8時過ぎ未成年者を幼稚園に送り出した後実家で就労、午後4時未成年者を迎えて帰宅、なお実家には申立人の父母、弟があり上記営業に当っているが、近いため未成年者もしばしば実家の世話になっている。
(3) 申立人の収入は上記勤務からの月収手取りで約10万円、そのほか児童扶養手当毎月32、700円受給、その他に資産、負債はない。健康上の問題もない。
3 相手方
(1) 相手方は申立人と未成年者が転居した後肩書住所に単身居住、同住居も福井市近郊の新住宅地、同住宅は前記のように昭和53年4月に新築(土地、建物とも相手方名義)、構造は木造2階建、1階6畳、14畳、8畳、2階8畳、6畳、7.5畳の間取り。
(2) 相手方は○○大学教務員として勤務、週三回午後出講すれば後は比較的拘束を伴わない勤務で足りる。月収は税引きで20万円。しかし現在上記新築住宅の土地建物のローンの返済に月約10万円をあてるので手元に残る生活費は月約10万円。
(3) 資産として上記住宅、負債として同住宅ローンのあるほかとくになし、健康上の問題はない。
(二) 上記のような申立人、相手方の各生活条件からみれば申立人も相手方もいずれも未成年者を養育監護するだけの能力を有することができるけれども、しかし、未成年者は未だ4歳の幼児であることから母親である申立人により多く精神的に依存しているとみられ、また申立人の実家が近くにあって、比較的容易に実家の親族の協力、援助などをうけることができる等の観点からみれば、現時点においては申立人は親権者として養育監護に当らせる方が未成年者の成育にとつてより良好に思われる。
三 養育費の算定
(一) 当事者双方の養育費負担基準額
(1) 前記二(一)2(3)のとおり申立人の月収は約10万円(これを10万円とする)、児童扶養手当の受給月32,700円。したがつてその生活費は1ヶ月132,700円。
(2) 前記二(一)3(2)のとおり相手方の月収は約20万円(これを20万円とする)、このうち住宅ローン等貸付金返済に1ヶ月約10万円支出(これも10万円とする)、なお相手方の収入のうち期末手当(ボーナス)にあたるものはそれぞれ特別返済に当てられているのでその収入、支払とも月々の収支には加えない。したがって相手方の生活費は月10万円。
(二) 労研方式による未成年者の養育費の算定
(1) 消費単位
申立人120(60歳未満、軽作業、単身、女性)。相手方130(60歳未満、軽作業、単身、男性)。未成年者45(4歳~6歳の児童)
(2) 可支出所得
申立人132,700円(申立人の就労場所が実家であるため職業費は特に認めない)相手方 生活費100,000円から職業費として10%の控除を認めると90,000円となる。
100,000円-(100,000円×(1/10)) = 90,000円
(3) 未成年者の生活費
ア 申立人と同居の場合
132,700円×(45/120+45) = 36,191円≒36,200円
イ 相手方と同居の場合
90,000円×(45/130+45) = 23,143円≒23,100円
上記ア、イのうち額の多いアの36,200円をもって未成年者の生活費とする。
(4) 当事者双方の未成年者の生活費の分担
上記未成年者の生活費を当事者双方が各自の可支出所得の割合で分担すると
ア 申立人の負担額
36,200円×(132,700円/(132,700円+90,000円))=21,570円
イ 相手方の負担額
36,200円×(90,000円/(132,700円+90,000円))=14,630円
したがって相手方は申立人に未成年者寛明の養育費として1ヶ月14,630円を支払わなければならない。
四 財産分与
(一) 夫婦共有財産
1 当事者の夫婦共有財産と認められるものは別紙共有財産目録(一)記載の土地・建物および同目録(二)記載の各有体動産である。
2 (1) 当事者双方の審問調書添付の別紙(一)(相手方提出の申立人が持出したとする物件目録)記載1三菱ボイラー用ヒーター2台、同26ヘヤーサロンドライヤー1個は上記審問結果(以下たんに審問結果という)から申立人の特有財産と認められ、また同7鍬等一式、同10装飾壺1個は審問結果によれば申立人の実家の所有物件であって申立人らが借用していたものと認められ、さらに同9二畳用、三畳用絨毯2枚、同27ソニー8インチテレビ1台はともにその所在が明らかでなく、いずれも共有財産に含めない。
(2) 上記審問調書添付別紙(二)(申立人提出の申立人が持出したとする物件目録)記載10スキー1台は審問結果から申立人の特有物件と認められ共有財産に加えない。
(3) 上記審問書添付別紙(三)(申立人提出の相手方住所に残された物件目録)記載21物干し竿4本、同22物干台1組は調査官の調査結果(以下調査結果という)から申立人の特有財産と認められ、また同26スキー2台は審問結果から相手方の特有物件と認められ、さらに同3布団3組はその所在が明らかでないのでいずれも共有財産に加えない。
(4) また調査結果によれば申立人は上記別紙(三)記載2犬1頭は申立人の特有財産である旨主張しているが、その根拠が明らかでないため共有財産と推定する。
3 また申立人が存在を主張する200万円の貯金(調査結果6エ)はその存在を裏付けるに足る資料もなく共有財産に加えない。さらに申立人が要求する申立人の実家が申立人、相手方のためになした貸付金、立替金等計約673,000円の清算は申立人と相手方間の共有財産の分与と関係がないので除外する。
(二) 不動産の分割
1 別紙共有財産目録(一)記載の不動産は前記一のとおり申立人らが夫婦で昭和53年4月その土地を取得し、その上に建物を建築したものである。
2 そこで当事者双方の持分額を算定するに、
(1) 調査結果からは
ア 相手方は同土地、建物の購入資金にあてるために、昭和53年5月○○銀行から900万円、同年同月○○銀行から470万円、同52年6月共済組合から200万円(住宅貸付)、同55年7月同組合から50万円(一般貸付)の合計1620万円を借受け、このうち建物建築に約970万円を、その余の650万円を宅地の購入にあてたこと。
イ 上記借入金の相手方の返済負担は、
A ○○銀行借入れ900万円分 昭和53年5月から1ヶ月60,970円、ただし7月、1月は132,828円
B ○○銀行借入れ470万円分 昭和53年5月から1ヶ月19,826円、ただし8月、2月は108,048円
C 共済組合借入れ200万円分と50万円分 1ヶ月25,830円、ただし昭和52年6月~同55年6月の間はこれを按分して20,664円支払ったものとみな
25,830円×(200万円/200万円+50万円) = 20,664円
し、同55年7月より上記25,830円の返済をしているものと推認する。
の各事項が認められる。
(2) そこで上記返済金を当事者が別居するに至つた昭和58年6月まで累計すると、
A ○○銀行分
昭和53年度分(60,970円×7ヶ月)+132,828円 = 559,618円
同54年度~同57年度分(60,970円×10ヶ月)+132,828円×2ヶ月) = 875,356円
875,356円×4ヶ年 = 3,501,424円
同58年度分(60,970円×5ヶ月)+132,828円 = 437,678円
以上の計 559,618円+3,501,424円+437,678円 = 4,498,720円
B ○○銀行分
昭和53年度分(19,826円×7ヶ月)+108,048円 = 246,830円
同54年度~同57年度分(19,826円×10ヶ月)+(108,048円×2ヶ月) = 414,356円
414,356円×4ヶ年 = 1,657,424円
同58年度分(19,826円×5ヶ月)+108,048円 = 207,178円
以上の計 246,830円+1,657,424円+207,178円=2,111,432円
C 共済組合分
昭和52年度分 20,664円×7ヶ月 = 144,648円
同53年度、同54年度分(20,664円×12ヶ月)×2ヶ年 = 495,936円
同55年度分(20,664円×6ヶ月)+(25,830円×6ヶ月) = 278,964円
同56年度、同57年度分(25,830円×12ヶ月)×2ヶ年 = 619,920円
同58年度分(25,830円×6ヶ月) = 154,980円
以上の計 144,648円+495,936円+278,964円+619,920円+154,980円 = 1,694,448円
以上の総計 4,498,720円+2,111,432円+1,694,448円 = 8,304,600円
すなわち上記土地・建物はいずれもその取得の際の借入金のため住宅金融公庫(債権額470万円および利息損害金)、○○銀行(債権額900万円および利息損害金)の抵当権の負担があり、それらを含む関係債務が完済されてはじめて時価に相応する価値を取得するものであるところ、当事者双方が別居した当時での上記借入金の返済合計額は8,304,600円であるので同金額をもって夫婦の持分額とみなす。
(3) 共有財産における夫婦の持分の割合はたんに夫婦双方の収入あるいは生活費拠出額の割合によるものではなく、非経済的労務提供、精神的寄与等夫婦共同生活でのすべての要素を考慮して決定されるべきであって、したがって特段の事情のない限り夫婦の持分は平等と推定される。それ故申立人と相手方の本件土地建物についてそれぞれの持分額は4,152,300円となる。
8,304,600円×1/2 = 4,152,300円
3 上記土地建物は現在相手方が居住使用しているのでこれらをいずれも相手方が取得することにする。したがって相手方はその取得に代え申立人にその持分価額4,152,300円を支払うことになる。ただし後記(三)2のとおり申立人も相手方に対し160,480円の支払債務を負担しているのでこれを差引き減額し、支払うべき額を3,991,820円とする。
4,152,300円-160,480円 = 3,991,820円
(三) 有体動産の分割
1 当事者双方の夫婦共有の有体動産は別紙共有財産目録(二)記載のとおりであるが、同有体動産は申立人が別居後その一部を逐次相手方住所から持出して申立人の現住所に運んだ結果現在では同目録記載のとおり分れて所在するようになり、かつそれぞれ自己の住所にあるものを占有保管している現況にある。そこで当事者双方は各その保管している共有有体動産を取得することにする。
2 そうすると当事者双方の各取得する有体動産の価格は申立人は1,170,160円、相手方が849,200円となり、申立人が320,960円過分に取得することになるので、調整としてその半額に当る160,480円を相手方に返還することにする。
(1,107,160円+849,200円)×(1/2) = 1,009,680円
1,170,160円-1,009,680円 = 160,480円
五 結語
以上のとおり当事者間の離婚後の紛争について審判する。なお本件調停、審判に要した費用は家事審判法7条、非訟事件手続法26条によりその各支出者の負担とする。
別紙<省略>