大判例

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呉簡易裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人を懲役二年に処する。

訴訟費用中証人浜口留五郞、同高畠ヨシエ、同高畠正美、同徳満シゲ子に支給した日当は全部被告人の負担とする。

窃盗未遂の点については、被告人は無罪。

理由

被告人は、昭和二十八年一月二十三日呉市海岸通二丁目呉市中央水産市場内において、浜口留五郞のズボン左ポケットにあつた現金五百七十円をすり取り窃取したものである。

右の事実は

一、証人浜口留五郞に対する尋問調書中同人の「証人は一月二十三日の午前八時過頃、呉市中央水産市場の第三売り場で、百円札四枚、十円札十七枚計五百七十円を一たばに巻き、ズボンの左側ポケットに入れ鯛を買つていたところ、たれかが上衣のポケットに触れたような気がしたので、思わずズボンの左側ポケットを調べたのであるがそれまであつた右五百七十円が何者かに盗られていた。

その際証人の左側には、ふるくからの知り合で信用のおける渡辺という魚屋が居り、同人と証人の中間後方には被告人が右渡辺と証人との両者に身体がくつつく位置に立つていた外他に人は全然いかなかつた」旨の供述記載

一、浜口留五郞作成の被害届書の記載

一、検証調書(添付図面共)の記載

を綜合してこれを認める。

被告人は、判示日時頃には本籍地である牛深町に帰郷し、叔父の森一郞方に出入して居た旨弁疏するが、これを認めるに足る証拠はなく、他に前掲諸証拠による判示認定を左右し得るような証拠も全くない。

法律に照すと、被告人の判示所為は刑法第二百三十五条に該当するので、所定刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項に従い、同費用中証人浜口留五郞、同高畠ヨシヱ、同高畠正美、同徳満シゲ子に支給した日当は全部被告人の負担とする。

本件公訴事実中「被告人は、昭和二十八年二月七日呉市海岸通二丁目呉市中央水産市場内において、広本輝一のズボン右ポケット在中の現金を窃取しようとして、同ポケットに手をかけたが、三浦茂に発見されてその目的を遂げなかつたものである」との点については、検証調書の記載及び証人浜口留五郞、同広本輝一に対する各尋問調書中の各供述記載を綜合すれば、被告人は右公訴事実に記載の日時場所において、広本輝一のズボン右ポケット内より在中物を窃取しようとして、右手を同ポケットの外側に触れたが、三浦茂に発見されてその目的を遂げなかつた事実を認めることができる、しかし右の如く単にポケットの外側に手を触れた程度では、その行為が、他人の事実上の支配を侵すについて密接な程度に達しているものとは解し難いので、いまだ窃盗の実行に著手してその目的を遂げなかつたものと認めることはできない。もつとも司法巡査作成の現行犯人逮捕手続書によれば、被告人は右広本輝一のズボン右側ポケット内に指先を突込んだ旨の記載があるが、前記証人三浦茂、同広本輝一に対する各尋問調書中の各供述記載に徴し右手続書の記載は到底是認することができないので、結局罪とならないものとし、刑事訴訟法第三百三十六条によつて無罪の言渡をする。

よつて主文の通り判決する。(昭和二八年五月二六日呉簡易裁判所)

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