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和歌山地方裁判所 平成10年(ワ)126号 判決 2000年4月14日

原告

オーミ工業株式会社

(以下「原告オーミ工業」という。)

右代表者代表取締役

迫間宏紹

有限会社オーミ工業環境部

(以下「原告オーミ工業環境部」という。)

右代表者代表取締役

迫間宏紹

右両名訴訟代理人弁護士

冨山信彦

豊田泰史

宮本和佳

被告

和歌山市

右代表者市長

旅田卓宗

右訴訟代理人弁護士

山本光彌

福田泰明

森薫満

主文

一  被告は、原告オーミ工業に対し、三九五六万五八五〇円及びこれに対する平成一〇年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告オーミ工業環境部に対し、三五八万一三三三円及びこれに対する平成一〇年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告オーミ工業と被告との間においては、同原告に生じた費用を五分し、その一を被告の負担とし、その余を各自の負担とし、原告オーミ工業環境部と被告との間においては、同原告に生じた費用を四分し、その一を被告の負担とし、その余を各自の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  原告オーミ工業

金額を一億七三二二万六二七一円とする外、主文第一項に同じ。

二  原告オーミ工業環境部

金額を一二五〇万五二五〇円とする外、主文第二項に同じ。

第二  事案の概要

一  本件は、和歌山市における一般廃棄物の分別収集の実施に際し、原告オーミ工業が、被告から同市指定ごみ収集袋の製造承認を受け、被告の定めた規格に適合したごみ収集袋(以下「本件指定袋」という。)を業者に発注して納入させた上、原告オーミ工業環境部(同オーミ工業から本件指定袋の発注や製造、販売等に係る業務を委託された。)とともに、本件指定袋の販売に向けた準備を進めたところ、被告が、分別収集に係る施策を変更し、本件指定袋の規格要件を緩和したため、より安価なごみ収集袋が市場に出回り、本件指定袋が全く売れなくなったとして、原告らが、被告に対し、在庫商品の仕入額等及び得べかりし利益(原告オーミ工業に関するもの)、右販売準備のための設備費用等(同オーミ工業環境部に関するもの)、慰謝料及び弁護士費用(原告らに関するもの)の損害ないし損失の内金について、主位的に、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償請求をし、予備的に、憲法二九条三項に基づく損失補償請求をした事案である。

二  本件の争点は、

1  被告の損害賠償責任(国家賠償法一条一項)の有無、具体的には、被告の前記施策変更が、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するもので、原告らとの関係において、違法性を有するか、

2  仮に右違法性が否定されたとしても、当該施策に係る原告らの信頼は保護されるべきもので、被告は、憲法二九条三項に基づき、施策変更に伴う原告らの損失を補償すべき責任を負うか、

3  損害ないし損失の発生及び額、特に、本件指定袋の販売に係る得べかりし利益や慰謝料が、損害賠償ないし損失補償の対象となるか、

の諸点である。

第三  当裁判所の判断

一  当事者間に争いがない事実、証拠(全体に関するものとして、証人小畑勝巳、同宮木多喜男、同玉井欽治、同迫間祥秀、原告代表者本人。個別の認定事実に関する証拠がある場合は、後掲する。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  当事者

(一) 原告オーミ工業は、土木工事業、建築工事業、産業廃棄物処理業及びプラスチック製ごみ袋の販売等を目的として設立された株式会社である。

(二) 原告オーミ工業環境部は、和歌山市指定のゴミ袋の販売等を目的として設立された有限会社である。

2  本件指定袋の規格要件変更に至る経緯等

(一)(1) 被告は、平成七年一二月一五日施行の容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(平成九年法律第五九号による改正前のもの。以下「容器包装リサイクル法」という。)により、容器包装廃棄物の分別収集に必要な措置を講じた上(六条一項)、分別収集に関する計画を定め(八条一項)、これに従って分別収集を実施すべき責務を負った(一〇条一項)。

(2) 被告は、平成八年ころ、和歌山市と人口や行政規模等が類似する市町村等に対し、一般廃棄物の分別収集状況を照会の上、同市においても、五種分別収集を実施することとし、併せて、被告指定のごみ収集袋の利用を義務付け、右以外のごみ収集袋を使用した場合、一切収集を行わないこと、ごみ収集袋の指定に当たっては、家庭用及び事業所用一般ごみ袋について、メントール及びサリチル酸メチル等を主成分とする忌避剤含有を規格要件とする旨の方針を立案した。

右忌避剤は、犬猫防除やごみ腐敗防止等の効果があるとされ、国内においては、株式会社ノンキャット・アゼックス(以下「アゼックス」という。)の製造に係るごみ収集袋(商品名「ノンキャット」)のみが、右規格に適合した商品であり、千葉県成田市外数市町村において、指定ごみ収集袋として採用されていた。原告オーミ工業は、アゼックスとの間で、和歌山県における地域総代理店契約を締結しており、県内における販売代理権を独占していた。(甲二、三〇ないし三二、乙一三、一四)

(3) 被告は、平成八年一一月ころ、分別収集モデル地区として、和歌山市湊地区、本町地区及び三田地区を指定し、平成九年一月から六月までの間、試験的に分別収集を実施することとし、平成八年一一月二〇日、原告オーミ工業との間で、忌避剤含有のごみ収集袋を単価一八円で購入する旨の売買契約を締結した上、モデル地区の住民に対して無料配布した。

被告は、平成九年一月、分別収集の試験的実施を開始し、その結果、同年三月ころには、一般廃棄物の収集量が前年に比して約一六パーセント減少するなど、一定の成果を見るに至った。被告は、その間、モデル地区においてアンケートを実施するなど、地域住民から分別収集に係る意見聴取をし、その結果、分別収集自体には、大方の賛同を得られたものの、ごみ収集袋の指定制度については、単価が高額である上、忌避剤の臭気が強く、アレルギー発症の原因になりかねないとして、本件指定袋自体に対する不満が寄せられるとともに、従前使用されていたごみ収集袋の処理に窮するなど、本件指定袋の使用を義務付けた点に関する苦情が言われた。

(甲三、二八、乙四の1、七)

(二)(1) 被告は、同年三月ころ、前記(一)(2)の方針に従い、同年七月一日から、市内全域において、容器包装リサイクル法に基づく一般廃棄物の分別収集を実施する旨を決定し、同年三月二六日、和歌山市指定ごみ収集袋の規格等に関する要綱(以下「本件要綱」という。)を制定した。本件要綱においては、本件指定袋の材質について、主成分を二種二層ポリエチレン製とした上、添加物として、炭酸カルシウム一〇パーセントの外、一般ごみ袋に関してはメントール及びサリチル酸メチルの忌避剤1.5パーセントを含有すること、本件指定袋の製造に当たっては、和歌山市長の承認を要するものとし、二年ごとに更新すべきこと、本件要綱違反の事由が認められる場合、右承認を取り消す場合がある旨が定められた。本件要綱は、同年四月一日、施行された。

被告は、同月一〇日ないし三〇日、本件要綱に基づく製造承認の申請を受け付けた上、同月一五日、原告オーミ工業、有限会社広谷商会(以下「広谷商会」という。)及び有限会社サンエイ(以下「サンエイ」という。)について、製造承認をした。被告は、同日、同原告らに対し、同年七月一日からの分別収集実施に向け、在庫不足を防止するため、家庭用一般ごみ袋(大)五〇〇万枚、同(小)一〇〇万枚及び事業所用一般ごみ袋一〇〇万枚等について、同年六月中の店頭販売が可能なように在庫準備すべき旨を指示した上、本件指定袋の販売協力に応じた市内店舗を具体的に明示し、同店舗への商品納入を指示した。同原告は、右承認に先立つ同月一日、同オーミ工業環境部に対し、本件指定袋の発注や製造、販売等に係る業務を委託した上、同月二四日、アゼックスに対し、本件指定袋七〇〇万枚を発注した。その仕入単価は、家庭用一般ごみ袋(大)一〇円、同(小)8.5円及び事業所用一般ごみ袋一〇円であった。同オーミ工業環境部は、その後、事務所設備を整えるなどの営業準備をした上、本件指定袋の販売等に係る業務に従事した。

本件指定袋は、同年六月中旬ころから販売開始され、その希望小売単価は、家庭用一般ごみ袋(大)一八円、同(小)一七円及び事業所用一般ごみ袋一八円であった。

(甲一、四ないし八、二五、二九、乙四の5)

(2) 被告は、同年四月ないし同年六月の間、市内各地区において説明会を開催し、分別収集の制度内容について説明した上、地域住民からの意見聴取を行った。その結果、本件指定袋の単価が高額に過ぎること、従前使用していたごみ収集袋の処理に窮すること、指定外のごみ収集袋を使用した場合、収集されず、ごみの腐敗等が進行し、収集場所付近の住民に多大な迷惑がかかる旨の指摘がされた。殊に、本件指定袋の単価に係る不満は強く、製造承認業者が少数で、寡占状態となっている点の批判があり、担当部署のみならず、市長ないし秘書課等に対する直接の苦情も極めて多かった。

(乙八ないし一〇)

(三)(1) 被告は、同年六月ころ、分別収集に係る前記(一)(2)の方針を見直し、同年七月一日からの五種分別収集は予定どおり実施するものの、暫定措置として、同年一二月三一日までの間、本件指定袋の外、内容判別可能な透明ないし半透明のごみ収集袋を使用した場合も収集する旨の方針を決め、和歌山市長尾崎吉弘は、同年六月一二日、和歌山市議会において、同旨の答弁をした。その後も、新聞等において、本件指定袋の単価が高額である旨を批判する内容の記事が繰り返し掲載された。

(甲一九、乙一、二、四の2ないし8)

(2) 被告は、同年七月一日、市内全域において、五種分別収集を実施した。その後も、新聞等において、本件指定袋の単価に係る批判が報じられた上、本件指定袋を値引販売した小売店に対し、卸業者が納入を停止するなど、独占禁止法違反の疑いある行為が見受けられる旨の記事等が掲載され、また、同年九月下旬ころには、和歌山市議会において、同議会議員から、ごみ収集袋の指定制度について、製造承認業者を増加させ、競争原理の導入によって価格低下を図る外、右指定制度を撤廃し、推奨制度とすべきである旨の一般質問がされ、新聞等においても、同旨の報道がされた。

被告は、同年七月ないし八月にかけて、本件指定袋の規格要件を維持したまま、単価引下げを図るべく検討を始めたものの、同年九月中旬ころには、規格要件自体の変更を検討するに至り、忌避剤含有を要件とせず、参入業者の増加を図ること、ごみ収集袋を一般廃棄物の種別ごとに細分せず、四種兼用とすること、一定の厚みを有すれば、一層ポリエチレン製でも可とした上、炭酸カルシウムの添加も求めない旨の方針を定めた。事業担当責任者である被告環境事業部長伊藤明は、同月下旬ころ、和歌山市議会において、ごみ収集袋の指定制度について再検討中であり、同年一〇月にも右結果を明らかにする旨を答弁した。被告は、同月初めころ、市内所在のスーパー等で配布されるレジ袋についても、透明ないし半透明に規格改善の上、使用可能とする旨の方針を定めた。被告は、この間、原告オーミ工業に対し、右検討の経緯について説明せず、前記(二)(1)の指示に代わる何らの指示ないし連絡もしなかった。

(乙四の9ないし16)

(3) 同オーミ工業は、広谷商会、サンエイ及びアゼックスらとともに、同年九月一〇日ころ、被告に対し、ごみ収集袋の指定制度について、同年七月一日からの実施を一方的に留保した上、その後も同原告らに何らの指示がない旨を指摘し、留保理由や右指定制度の具体的な実施予定等を回答すべき旨を通知し、同年九月二二日ころ、被告から、五種分別収集の実施に際しては、本件指定袋の使用が原則である旨の取扱いに変更なく、現行制度は、暫定措置として、同年一二月三一日までの間、透明ないし半透明のごみ収集袋の使用を認めるものである旨の回答を受けた。同原告は、同年一〇月二〇日、アゼックスに対し、本件指定袋七〇〇万枚を発注した。

同原告は、広谷商会及びサンエイとともに、同月二七日ころ、被告に対し、新聞記事等において、ごみ収集袋の指定制度の見直し等が報じられているところ、右指定制度の早期実施を明確にすべき旨を上申し、同年一一月一〇日ころ、被告から、右指定制度については、同月二八日付け和歌山市議会において報告の予定であり、その結果を踏まえ、通知する旨の回答を受けた。

(甲二〇ないし二三)

(四)(1) 被告は、同年一一月二八日、本件要綱を改正し、本件指定袋の規格について、一般廃棄物の種別ごとに細分せず、四種兼用とすること、忌避剤含有の要件を撤廃すること、一層ポリエチレン製でも可とした上、炭酸カルシウムの添加も求めない旨を定めた。右改正に係る要綱は、同年一二月二日施行された。

被告は、同月一八日、原告オーミ工業、広谷商会及びサンエイに対し、本件指定袋の規格変更に伴う措置として、同原告らの保有する在庫商品を仕入価格で買い取る旨を打診した。同原告は、これを拒否したものの、広谷商会及びサンエイは、その後、被告との間で交渉を継続し、平成一〇年一〇月二〇日、広谷商会について一〇八五万四二六一円、サンエイについて四六四四万〇七八〇円で、被告が在庫商品を買い受ける旨の即決和解が成立した。(甲一〇の1、2、四三、乙四の18ないし20、一六、一七、一九の1ないし3)

(2) 前記改正要綱の規格に準拠した四種兼用ごみ収集袋による分別収集は、同年一月から実施された。その後、本件指定袋に比して、相当安価なごみ収集袋が販売されるに至り(その小売価格は、約一〇円である。)、現在、本件指定袋は、市場に全く出回っていない。

(乙三)

二  争点1(施策変更の違法性)について

1  前記認定のとおり、被告は、和歌山市における一般廃棄物の分別収集を実施するに当たり、分別の徹底を図るべく、ごみ収集袋の指定制度を取った上、犬猫防除やごみ腐敗防止等の効果がある忌避剤含有のごみ収集袋を本件指定袋として採用し、本件要綱を制定したものの、多方面から、業者寡占の状態にあり、価格が高額に過ぎる旨の強い批判を受け、参入業者増加の必要に迫られ、右ごみ収集袋がアゼックス製の商品に限られており、県内における販売代理権も原告オーミ工業に独占されていたことから、忌避剤含有の規格要件を撤廃せざるを得ず、併せて、価格引下げのため、材質に係る他の規格要件等についても簡素化を図ることとし、本件要綱の改正に至ったものである。一定の行政目的実現のため、施策が立案され、実行に移されたとしても、社会情勢や経済状況の変化、地域住民の意見等を受け、柔軟かつ適切に施策を見直すことは、行政の性質上、当然の事柄というべく、本件における被告の施策変更にも、一定の合理性を認め得るところである。

2 しかしながら、被告は、右施策の立案当初から、当然、原告オーミ工業による販売代理権独占の事実を認識し、敢えてこれを採用したのであり、併せて、前記認定のとおり、同原告外二業者を製造業者として承認し、五種分別収集の実施に向け、本件指定袋七〇〇万枚等の在庫用意を求めるなど、短期間に多額の資本投下を要する販売準備を具体的に指示しており、被告の右対応こそが、同原告をして、本件指定袋の販売に係る事業展開を決意させた契機になったものというべきである。

もっとも、前記認定のとおり、新聞等において、本件指定袋の価格に関する批判が度々報じられ、平成九年六月一二日には暫定措置に係る和歌山市長の答弁がされ、五種分別収集の実施後も、ごみ収集袋の指定制度について改善ないし撤廃を求める声は強く、本件要綱の改正に至るまで、同趣旨の報道が繰り返されており、同原告においても、被告の施策変更の可能性を予測すべきとする余地はなくもない。しかしながら、被告は、前記認定のとおり、指定制度の実施見通しについて、同原告に何らの説明や指示をしていないばかりか、同年九月中旬ころには、部内において、既に規格要件の変更に係る検討を開始していたにもかかわらず、同原告に対しては、かえって、平成一〇年一月からの制度実施を示唆する旨の回答をし、ようやく本件要綱の改正直前に至り、制度の根本的改正を窺わせる内容の回答をしたのであって、同原告が、ごみ収集袋の指定制度について、若干の見直しを伴うにせよ、制度の中核部分に変更ないまま、相当期間維持されるものと信頼の上、相応の資金ないし労力を投下して事業活動を展開していったのも無理からぬところである。

そして、本件指定袋は、犬猫駆除等の特性があるものの、臭気が強いなどの欠点もあり、一方、ごみ収集袋は、その性質上、他の商品との差別化を図り難く、消費者にとっては、商品単価こそが大きな選択要素となるのであって、忌避剤含有の規格要件撤廃によって、本件指定袋よりもはるかに安価なごみ収集袋が市場に出回ったならば、売上げは激減し、やがて全く販売されなくなるであろうことは自明の理というべく、被告において、制度の根本的見直しは必至と判断したならば、製造承認業者に対し、速やかに改正の見通しを通知し、合理的な対処を促すべきであって、これを怠ったまま、原告らが既に投下した資金や労力等について、特段の代償措置をせず、本件要綱を改正した被告の施策変更は、原告オーミ工業との間で形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、違法というべきである(前記認定のとおり、被告は、本件要綱の改正後、同原告外二業者に対し、右代償措置に係る提案をしており、その内容も必ずしも不合理なものとはいい難いが、結果的に交渉決裂に至り、他の二業者は代償措置を受け、同原告のみこれを得ていないこと等の事情に照らせば、右結論を左右するには足らないというべきである。)。

また、同オーミ工業環境部は、事実上、同オーミ工業の一営業部門を独立させた関連会社と認められる上(原告代表者本人)、前記認定のとおり、同原告から本件指定袋の発注ないし販売等に係る業務を委託され、これに従事したもので、その事業活動は、同原告の抱いた信頼に依拠したものとも考えられるのであり、被告の施策変更は、同オーミ工業環境部との関係でも、違法の評価を免れない。

三  争点3(損害の発生及び額)について(別紙損害一覧表参照)

1  在庫商品の仕入額等

(一)(1) 原告オーミ工業は、前記認定のとおり、アゼックスに対して本件指定袋を発注し、納品させた上、現在、次のとおりの在庫商品を有している(甲一一、一二、三九、四二、原告代表者本人)。

① 家庭用一般ごみ袋(大)

一五六万三〇八〇枚

② 同(小) 五六万七三九〇枚

③ 事業所用一般ごみ袋

三九万一五二〇枚

(2) 右①ないし③は、いずれも忌避剤含有の商品であり、前記認定のとおり、現在、市場で全く販売されておらず、その特性に鑑み、今後も売上げの見通しは皆無に近いものと推認され、仕入価格である家庭用一般ごみ袋(大)一〇円、同(小)8.5円及び事業所用一般ごみ袋一〇円をもって算定した合計二四三六万八八一五円は、被告の加害行為と相当因果関係がある損害と認められる(なお、同じく同原告保有の在庫商品である家庭用かん袋、びん袋及びペットボトル袋並びに事業所用びん袋及びかん・ペットボトル袋は忌避剤含有の商品でなく、被告の施策変更のゆえに販売困難となった上、今後も売上げの見通しが立たない状態に至ったものとはいい難いのであって、右各商品の在庫分に係る仕入額は、被告の施策変更と相当因果関係がある損害とは認められない。)。

(二) 原告オーミ工業は、アゼックスへの右発注に伴い、次のとおり、合計一一五九万七〇三五円の諸費用の支払債務を負っており(甲一一、三九、原告代表者本人)、右は、被告の加害行為と相当因果関係がある損害と認められる。

① 汚損等による処分商品(単価は前同)

家庭用一般ごみ袋(大)

一九二〇枚

同(小) 一万二一一〇枚

事業所用一般ごみ袋

四四八〇枚

② 外袋(単価3.8円)

八七万九〇〇〇枚

③ 段ボール箱(同六〇円)

六六五枚

④ 倉庫保管料等 七六〇万円

⑤ 印刷版代 四五万円

2  設備費用等

(一) 車両

(1) 原告オーミ工業環境部は、平成九年四月、本件指定袋の販売等に係る営業活動のため、車両一台を購入し、その後、右車両を販売業者に返還の上、平成一〇年三月二日二〇万円、同月四日五万三三〇八円のローン残債務を支払った(甲一四の1、2、二六の1、2、証人迫間祥秀)。

(2) 右支払合計額二五万三三〇八円は、被告の加害行為と相当因果関係がある損害と認められる。

(二) 事務所設備等

(1) 原告オーミ工業環境部は、平成八年一〇月ころ、株式会社プロポーザルから、パソコン等を一五四万五〇〇〇円で購入した上、平成九年六月ころ、キイシステム株式会社から、電話設備を三五万円で購入した外、同年七月ころ、株式会社産九から、事務諸設備一式を三五七万円で購入し、その後、右電話設備を除く備品等について、同業者に対し、一括して二四八万六九七五円で売却した。右電話設備は、他への転用可能性なく、現在、ほぼ無価値である。

(甲一五の1、2、一六の1、2、一七の1ないし3、証人迫間祥秀、弁論の全趣旨)

(2) 右購入に係る備品等は、同原告の従事した本件指定袋の販売等に係る営業活動のため、購入されたものであり、売却価額との差額二九七万八〇二五円は、被告の加害行為と相当因果関係がある損害と認められる。

3  得べかりし利益

先に説示のとおり、行政に係る施策の変更が違法と評価される所以は、行政主体において、当該施策が相当程度維持される旨の信頼を与え、事業者等が、これに依拠して、相当の資本ないし労力を投下したにもかかわらず、何らの代償措置を取ることなく、施策変更がされたところにあるのであって、これに基因する損害賠償は、原則として、事業者等が現実に投下した資本回収の範囲に限られると解される。

本件において、得べかりし利益の損害賠償を是認すべき特段の事情は窺えず、これをもって、被告の加害行為と相当因果関係がある損害という原告らの主張に理由がないことは、明らかである。

4  慰謝料

原告らは、慰謝料の損害がある旨を主張するが、財産的損害は、失われた財産的価値に代わる金銭賠償によって償われるのが原則であり、特段の事情の認められない本件において、原告らの右主張に理由がないことは、明らかである。

5  弁護士費用

原告らが、原告ら訴訟代理人らに対し、本件訴訟の追行を委任したことは、当裁判所に顕著であり、これに費用及び報酬の支払いを約したことも、弁論の全趣旨により認めることができる。これらのうち、被告の加害行為と相当因果関係がある損害と認めるべきものは、同オーミ工業につき三六〇万円、同オーミ工業環境部につき三五万円をもって、相当とする。

第四  結論

よって、原告オーミ工業の請求は、三九五六万五八五〇円及びこれに対する平成一〇年三月七日(被告の加害行為後の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、同オーミ工業環境部の請求は、三五八万一三三三円及びこれに対する右同様の遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判長裁判官・東畑良雄、裁判官・大垣貴靖、裁判官・高島義行)

別紙損害一覧表<省略>

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