和歌山地方裁判所 平成11年(行ウ)3号 判決 2002年12月17日
主文
1 原告の主位的請求のうち,被告社会保険庁長官に対する同被告が平成9年10月15日付けでした障害基礎年金の過誤払による支給額を老齢基礎年金の内払とみなす国民年金法21条1項による調整処分の無効を確認する訴えを却下する。
原告のその余の主位的請求をいずれも棄却する。
2 原告の予備的請求のうち,被告国に対する訴えを却下する。
原告の被告社会保険庁長官に対する予備的請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
(主位的請求)
(1) 被告社会保険庁長官が,原告に対し,平成9年9月12日付けでした障害基礎年金の平成5年8月分に遡っての支給停止処分が無効であることを確認する。
(2) 被告社会保険庁長官が,原告に対し,平成9年10月15日付けでした障害基礎年金の過誤払による額を老齢基礎年金の内払とみなす国民年金法21条1項による調整処分が無効であることを確認する。
(3) 被告国は,原告に対し,212万7460円及びこれに対する平成11年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,被告らの負担とする。
(5) (3)につき,仮執行宣言
(予備的請求)
(1) 被告社会保険庁長官が,原告に対し,平成9年9月12日付けでした障害基礎年金の平成5年8月分に遡っての支給停止処分を取り消す。
(2) 被告社会保険庁長官が,原告に対し,平成9年10月15日付けでした障害基礎年金の過誤払による額を老齢基礎年金の内払とみなす国民年金法21条1項による調整処分を取り消す。
(3) 被告国は,原告に対し,212万7460円及びこれに対する平成11年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,被告らの負担とする。
(5) (3)につき,仮執行宣言
2 被告社会保険庁長官
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 被告国
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
(3) 担保を条件とする仮執行免脱宣言
第2事案の概要
1 事案の要旨
原告は,被告社会保険庁長官が原告に対して平成9年9月12日付けでした障害基礎年金の平成5年8月分に遡っての支給停止処分(以下「本件第1処分」という。)及び同年10月15日付けで行った障害基礎年金の過誤払による額を老齢基礎年金の内払とみなす国民年金法21条1項による調整処分(以下「本件第2処分」といい,本件第1処分と本件第2処分とを併せて「本件各処分」という。)につき,(1)その根拠となる複数の年金の併給の調整について定めた同法20条1項が,日本国憲法(以下「憲法」という。)25条,13条及び14条1項に違反し無効であることを理由として,同被告に対し,主位的に本件各処分の無効確認を求め,予備的に前記(1)の理由のほか,(2)同被告は,何らの告知聴聞手続を行わずに本件各処分を行ったから,本件各処分は憲法31条に違反すること,(3)本件各処分は,原告が平成5年8月から平成9年2月までの5年間地方公務員等共済組合法(平成6年法律第99号による改正前のもの)附則19条に基づく退職共済年金と障害基礎年金との併給を受けたことにより原告に生じた併給を受けることについての信頼を害するものであり,信義誠実の原則に違反することを理由として,本件各処分の取消しを求めるとともに,被告国に対し,主位的には本件各処分の無効,予備的には本件各処分が取り消されるべきことを前提として,同法26条,27条,30条,33条に基づき,本件第1処分がなければ得られたであろう平成9年8月分から本訴を提起した平成11年4月分までの障害基礎年金171万8335円及び本件第2処分がなければ得られたであろう平成9年3月分から同年12月分までの老齢基礎年金のうち支給を受けなかった40万9125円の合計212万7460円並びにこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である平成11年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
これに対し,被告らは,原告の上記各主張を争い,(1)国民年金法20条は,憲法25条,13条及び14条1項に違反しない,(2)本件各処分をする際に告知聴聞の機会を与えなくても憲法31条に違反することはない上,被告社会保険庁長官は,原告に対し,本件各処分に際し,実際上告知聴聞の機会を与えた,(3)本件各処分は,信義則に違反するものではないと主張した。
2 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲1,乙1の1ないし3,乙2,原告本人)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1) 原告(昭和7年2月16日生)は,昭和24年1月2日,ラジオを組立中に部品の電解コンデンサーが爆発する事故に遭い,左手首を切断するとともに,両眼外傷性角膜裂創の傷害を負い,両眼を失明した。
(2) 原告は,昭和35年2月22日付け裁定により,国民年金法(昭和60年法律第34号による改正前のもの)による障害福祉年金の受給資格を昭和34年11月1日に遡って取得した。ただし,原告は,同法66条により,昭和38年5月分から昭和61年3月分まで,その全部の支給を停止されていた。
原告は,国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則25条1項により,昭和61年4月1日以降,国民年金法30条の4第1項に該当するものとみなされ,原告が有していた障害福祉年金の受給資格は,裁定替えにより,障害基礎年金の1級の受給資格となった。ただし,原告は,国民年金法(平成6年法律第95号による改正前のもの)36条の3により,昭和61年4月分から同年7月分まで及び昭和62年8月分から平成5年7月分まで,その全部の支給を停止された。
(3) 原告は,昭和37年4月1日から平成4年3月31日まで,a学校において勤務し,公立学校共済組合に加入していた。そして,同年5月21日付けの裁定により,同年4月分からの地方公務員等共済組合法(平成6年法律第99号改正前のもの)附則19条に基づく特別支給の退職共済年金の支給を受けることとなった。
原告は,平成9年2月15日,前記特別支給の退職共済年金につき,公立学校共済組合理事長により,地方公務員等共済組合法78条に基づく退職共済年金への切替を受け,平成9年3月からその支給を受けることとなった。
(4) 原告は,妻のbを介して,平成9年4月4日,和歌山東社会保険事務所の担当者に対し,老齢基礎年金の裁定請求書を提出した。この際,同担当者において,原告が,地方公務員等共済組合法76条1項1号(平成9年法律第48号による改正前のもの)により併給が許されない障害基礎年金と退職共済年金の併給を受けていたことを認識するに至った。
bは,同日,同担当者の要請に従い,障害基礎年金,老齢基礎年金及び退職共済年金の併給の選択に関し,「支払金額の多い方に選択します」とのゴム印が押印された年金受給選択申出書を提出した。
原告は,同年5月1日,被告社会保険庁長官の委任を受けた和歌山県知事から,老齢基礎年金を同年3月分から支給する旨の裁定を受け,同月分からの同年金の支給を受けることとなった。
(5) 被告社会保険庁長官は,原告がbを介して前記(4)のとおり提出した年金受給選択申出書に基づき,平成9年9月12日付けで,原告の障害基礎年金の支給を同年3月分から停止し,併せて,平成5年8月分から平成9年2月分までの障害基礎年金についても,この間原告が退職共済年金を受給していたことを理由として,遡って支給停止とする処分をした(本件第1処分)。
同被告は,平成9年10月15日付けで,原告が既に受給した平成5年8月分から平成9年2月分まで(以下「A期間分」という。)の合計371万8991円及び同年3月分から同年7月分まで(以下「B期間分」という。)の合計40万9125円の障害基礎年金の支払は過誤払であったとして,その金額を同年3月分から原告に支給されるべき老齢基礎年金の内払とみなす処分(以下「本件第2処分の原処分」という。)をした。
(6) 原告は,本件第1処分及び本件第2処分の原処分を不服として,平成9年11月10日,和歌山県社会保険審査官に対し,審査請求をした。同審査官は,平成10年2月27日付けで,原告の審査請求を棄却するとの決定をした。
(7) 原告は,前記決定を不服として,平成10年4月22日,社会保険審査会に対し,再審査請求をした。
同年10月13日の同審査請求の公開審理の際,同被告は,本件第2処分の原処分のうち,A期間分に原告に支給された障害基礎年金が過誤払であったとして,老齢年金の内払とみなす支払調整処分については,法律上の根拠を欠くものであったとして,これを取り消した。そして,同被告は,同年12月支給分から原告の老齢年金についての支払調整を取りやめ,平成11年1月14日,A期間分についての前記支払調整処分により原告に対して支給されていなかった老齢基礎年金37万6947円を清算支給した。
同審査会は,同年1月29日,本件第1処分についての原告の再審査請求を棄却し,本件第2処分の原処分についての原告の審査請求のうち,A期間分に関する支払調整処分については,前記清算支給により申立ての利益が失われた不適法な請求としてこれを却下し,B期間分に関する支払調整処分すなわち本件第2処分についてはこれを棄却するとの裁決をした。
(8) 被告社会保険庁長官は,原告に対し,平成11年3月18日,過誤払にかかるA期間分の障害福祉年金371万8991円を返納するよう告知したが,原告は,これを返納していない。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 国民年金法20条は,憲法25条及び13条に違反するか。
(原告の主張)
以下に詳述するとおり,障害者及び高齢者には,障害又は高齢のため必要となる出費すなわち特別の需要があるにもかかわらず,障害基礎年金の実態が,障害に基礎を据えた年金とはなっておらず,障害者の所得保障を十分に果たすものではないという現状において,国民年金法20条に基づくいわゆる一人一年金による選択された年金以外の支給停止という併給調整を受けることになると,当該受給者が憲法25条1項及び13条の要請する基礎年金制度による所得保障を受けることができなくなる。したがって,かかる併給調整規定は,憲法25条1項及び13条に違反し無効であり,これを根拠とする本件各処分は,無効か,仮に無効とはいえないとしても,取り消されるべきである。
ア 憲法25条及び13条における所得保障の意義
憲法25条1項及び13条が保障する健康で文化的な生活を追求し,幸福な生活を送ることができる権利を実現するためには,その生活を支える所得の保障が存在しなければならない。国民がその稼働能力に支障を来した場合,国民は,被告国に対し,「健康で文化的な生活」のための所得保障を要求することができるものである。そして,その所得保障は,単に従前の収入の保障という厳密な意味での「所得保障」ではなく,人間としての尊厳を維持する健康で文化的な生活の維持が目標であるから,「所得保障」を必要とする事由如何によって,従前の収入の減少以上の保障を必要とする場合もあることは当然である。
この意味での所得保障の実現に当たって,同被告がどのような制度をどのように創設するかは,ある意味で同被告に裁量が認められている部分であろうが,同被告がこのような所得保障を実現する制度を無視することは憲法上許容されるものではない。そして,創設された制度は,前述の健康で文化的な生活を追求し,幸福な生活を送ることができる制度でなければならず,その点において,同被告の自由裁量が許容されることがあってはならない。
イ 基礎年金制度の法的性格及び生活保護制度との関係
(ア) わが国において,前記アで述べた所得保障の役割を有する制度の根幹は,年金制度である。すなわち,国民年金法上の年金受給権は,憲法25条に由来する権利であるが,中でも基礎年金は,特に最低生活保障という性格が強度なものであるというべきである。
(イ) これに対し,被告らは,最低生活の保障は,生活保護制度によって図られるべきであるとする。
しかし,基礎年金という名称自体が,国民の最低限の生活を保障する趣旨を示すものとみることができるし,国民年金法1条は,憲法25条2項を根拠として,国民生活の維持を同法の目的に掲げている。
また,昭和52年12月9日の年金制度基本構想懇談会において,基礎年金方式による全年金制度の部分的統合及び年金制度間の財産調整の提起を内容とする中間意見が出され,同月19日の社会保障制度審議会において,全国民に保障するナショナル・ミニマム年金として新たに低額の基本年金制度を創設し,所得型付加価値税の導入による全額国庫負担で賄うものとし,現行制度を基本年金に上乗せする社会保険年金とし,国庫負担を廃止し労使の拠出で賄う社会保険方式で運営すべきであるとする「皆年金下の新年金体系(建議)」が出され,昭和54年4月18日には,同懇談会において,国民年金の給付部分について制度間に費用負担の共通化を図り,財政調整を行うことを提案した「わが国年金制度の改革の方向-長期的な均衡と安定を求めて-」という最終報告がまとめられた。この最終報告を基礎として,社会保険方式による基礎年金を軸とする年金改革が具体化され,現行の基礎年金制度が形成されたのであり,基礎年金制度の出発点においては,明確に,全ての者に対するナショナル・ミニマムの保障としての年金による最低生活保障,また,少なくともすべての者に対する最低保障年金による一定水準の所得の保障が理念とされたのである。さらに,昭和59年の時点において,基礎年金の算定根拠は,全国消費実態調査に基づく高齢者消費支出,生活扶助基準及び保険料負担との関係を考慮した上で,老後の基礎的部分の保障則ち高齢期の最低生活の保障を目的として,当初5万円と定められた。
そして,定額部分の基礎年金部分とその基礎年金に上乗せされる報酬比例部分の被用者年金からなる現行のいわゆる2階建て年金の制度は,1階部分に相当する定額の基礎年金が国民の最低生活を保障するためのものであり,2階部分に相当する報酬に比例した被用者年金が基礎年金と合わせて各人の生活事故発生前の生活水準を確保するためのものであるという制度設計を前提とするものと解される。
他方,生活保護法は,生活保護以外の制度によりまず生活の保障を図るべきであるとするいわゆる補足性の原理を採用している。
以上の諸事実によれば,最低生活の保障は,基礎年金制度によってこそ保障されるべきであり,生活保護制度のみによって保障されるべきではない。
ウ 障害及び老齢にかかる特別需要
人間としての尊厳,健康で文化的な生活を維持するのに必要な所得保障を実現するためには,その対象者の収入だけでなく,所得保障を要する事由に応じて特別の支出・必要といった特別需要があるかどうかを検討する必要があるところ,老齢,障害の各事由が特別の出費を発生させることは,統計,調査からも裏付けられる。
(ア) まず,障害は,特別の出費増をもたらす事由であり,特別の出費の典型として,交通費(タクシー代,自家用車の維持費),電話代,補装具に要する費用,医療費,介護費用,住宅改造費が挙げられる。
身体障害者調査委員会の調査によると,「障害があるための余分な支出があるか」との質問に対して,84.1パーセントがタクシー代,電話代,補助具,補装具に要する費用,医療費などによる支出増を訴えていることは,このことを裏付けるものである。また,実態調査の結果によれば,情報の収集については,家族,友人からが最も多く,充分な情報を入手するのも困難であることを示しており,外出については,全く外出しない人もあり,外出する人でも交通機関利用の不便さ,階段,エレベーター等の不備などのほか,経費がかかることを理由として,外出することに不安を覚えている。また,かかる事情から,不就業者が極めて多く,年金などでしか収入を得られない実態があり,ホームヘルパーについても制度を知りながら利用せず,もっと利用したいと望みながら,派遣回数,時間の少なさを嘆いている状態にある。
原告と同様の視力障害者についていえば,かかる特別需要としてまず挙げられるのは通信費である。視力障害者は,書籍,新聞等の墨字を読むことができないので,商品の性能についての情報,行政サービス情報,交通案内情報等文字通り生活全般にわたる情報の収集は電話に頼ることになる。したがって,通信費が健常者と比較して大幅に増加するものである。
また,視力障害者にとって,パーソナルコンピュータは情報収集にとって極めて期待できる機械であるが,視覚障害者にとって有用なソフトウエアや点字プリンタはいずれも極めて高価であり,少なくとも現段階では障害を持つ者がその収入で購入できるものではない。
次に視覚障害者の特別需要として挙げられるのは,交通費である。公共交通機関のバスは,郊外路線はその本数が少なく,本数の多い市街路線は頻繁に走っているが故に,1つのバス停に何台ものバスが停車するため,交通の喧噪の中で,バスの車体から流れる行先案内を聞き取れず,目的のバスに乗れないという事態も発生する。このため,タクシーの利用が増大することとなる。また,初めて行く場所の場合,その場所にたどり着くためドアトゥードアの性格を持つタクシーを利用せざるを得ないという事態も生ずる。また,遠距離移動には,ホーム転落の危険がある電車より飛行機を利用することが多くなり,費用が電車と比較して高くなる。
以上のように,障害者には健常者と比較して,その日常生活を送る上でさえきわめて重大な困難が存在する。
(イ) 一方,障害とは別に老齢も特別の出費を招来する。体力の衰えによる医療費の増加は,老齢による特別の支出と考えられる。また,実態調査によれば,特に,食料,光熱,水道などの基礎的な支出の割合,家具,家事用品及び交際費の割合が,各年齢階級の中で最も高くなっている。
さらに,老齢と障害が重複した場合には,稼働能力の喪失又は低下の程度に加重が認められる。すなわち,障害を持つ人々は,高齢になることによって,稼働能力の減退がいっそう加重することが窺える。また,一般に,高齢者になるとそれ以前よりも病気になる割合も高くなることから,障害に老齢が加わると,稼働能力の低下が一層進むということができる。
(ウ) これらの特別需要の存在は,原告の生活においても顕著である。
原告は,1級の重度視力障害を有しており,その日常生活においては,健常者と比較して多大の費用を必要としている。
原告は墨字で書かれた情報を読むことができないため,情報の収集はいきおい電話に頼ることとなり,生活全般にわたる情報を集めるため,平成2年から平成10年にかけて,1か月平均1万6859円の通話料を支出している。これに対し,平均的世帯における1か月当たりの平均通話料は,7661円である。
次に,交通機関の利用において,タクシー利用の頻度の多さとともに,遠距離移動においては電車よりも飛行機を利用することが多いことは,一般的な視力障害者の場合と変わるものではない。また,原告及び弱視である妻bの日常生活における移動のため,主に長男が,自動車により,原告らを送迎することが多いが,これにかかるガソリン代は,1か月当たり1万0078円(平成13年10月5日から同年11月3日まで)となっている。
エ 障害基礎年金の実態
障害基礎年金が,前記イのとおり,障害者の所得保障の趣旨を果たすためには,その水準は,前記ウのとおり,障害者の特別の需要を満たすものとして決定されなければならない。このことは,障害等級による年金支給額に差を設定していること,収入のない主婦にも年金が支給されていることから,国民年金法が予定しているものと解される。
しかしながら,現在の障害基礎年金は,障害に視点を据えた年金とはなっていない。
まず,障害等級2級の年金額は,老齢基礎年金と同額に設定されている。そして,老齢基礎年金の額は,老人の平均的な生活費のうち,その基礎的な支出を保障する,すなわち生活費の基礎的部分を保障したものとされているが,それは働ける間の収入,老後に備えた貯蓄,私的年金などの生活を支えるための手段があることを理由としている。しかし,障害者については,前記ウのとおり,特別の需要が存在するのであり,そのような事情が存在しない健常者と同一に扱うことは,障害基礎年金が真に障害を基礎としたものではないことを示すものである。
また,現行制度上,64歳で障害を負えば,認定手続を経て障害基礎年金が支給され,1級と認定されれば老齢基礎年金額の1.25倍の年金を受けられるのに対し,65歳になり老齢基礎年金の受給が開始された後に障害を負い,仮にその障害が1級に相当する障害であったとしても,2級の障害基礎年金に相当する老齢基礎年金しか受給できない。障害を負った高齢者が健常な老齢者と比べて特別の需要を有することは明らかであるにもかかわらず,この場合,一切の加算がされないこともまた,現行制度が障害者を無視していることの現れであるということができる。
さらに,常時介護を要するとされる1級該当者の障害基礎年金が,健常者の老齢年金の1.25倍にすぎず,その支給額が生活保護よりも低い水準とされているというのは,1級障害者の所得保障が保障されていないことにほかならない。
オ 国際的動向からみた併給調整規定の不合理性
昭和50年に国際連合が採択した障害者の権利宣言は,障害者が,可能な限り通常かつ十分に充たされた相当の生活を送ることができる権利を有すると宣言している。また,国際人権規約のいわゆるA規約11条は,生活水準の権利を保障し,いわゆるB規約の26条は,平等を規定している。
また,国際的条約中,社会保障の最低基準に関する条約(ILO102号条約)においては,障害給付を含む社会保障給付につき,その水準に関して,受給者及びその家族が健康かつ相応な生活をするために十分であることを要求しており,障害,老齢及び遺族の給付に関する条約(ILO128号条約)28条(c)は,「受給者及び家族が健康なかつ人間たるにふさわしい生活を営むため十分なものであり,かつ,第27条の要件に従って計算する当該給付を下回らないものでなければならない」と定めている。
さらに,ILO「所得保障に関する勧告」において,拠出制年金のみならず無拠出制の年金(社会手当)についても受給者の生活保障を十分に確保すべきことが既に打ち出されており,同「障害,老齢及び遺族の給付に関する勧告」では,国内法令は,最低生活水準を確保するように障害,老齢及び遺族給付の最低限を定めるべきである旨定めている。わが国を含めた先進工業国は,これらの勧告の水準まで関係国内法規を改善することが当然の責務となっている。以上の国際的動向をみる限り,基礎年金制度による生活の最低保障が図られるよう関係国内法規を整備することが,国の当然の責務になっているというべきである。
カ いわゆる一人一年金制の不合理性
被告らは,年金支給事由は,全て稼得能力喪失事由に当たるが,1人の人物が複数の事由を負っていたとしても,1つの事由しかないものに比べて,その能力の喪失程度が比例的に増えるわけではないとして,いわゆる一人一年金の制度は堅持されるべきとする。
しかし,前記ウ主張のとおり,年金の支給は,単に収入の減少だけでなく,年金支給事由に伴う支出の増加すなわち特別の需要も考慮すべきであり,この点を考慮していない被告らの主張は失当である。この点を措くとしても,同一人が,複数の支給事由を有している場合,1つの支給事由を有している者と比較して,比例的に稼得能力の喪失割合が増えないとしても,稼得能力喪失の割合が増加することは明らかであり,被告らの前記主張は,かかる稼得能力喪失もまったく考慮しておらず,合理性を欠くことは明らかである。
さらに,老齢基礎年金と遺族厚生年金のように,老後の生活保障,すなわち高齢期における所得の喪失,減少という同一の目的を達するためのものであるにもかかわらず併給が認められているものがあること(国民年金法20条1項後段かっこ書き),恩給法による増加恩給等戦争公務による障害等を支給事由とする年金給付と障害基礎年金は併給調整されていないことに照らすと,一人一年金制は,明らかに合理性を欠くものである。
(被告らの主張)
ア 憲法25条の意義と憲法適合性の判断基準
憲法25条1項にいう「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは,極めて抽象的・相対的な概念であって,その具体的内容は,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相互関係において判断決定されるべきものであるとともに,上記規定を現実の立法として具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多方面における複雑多様な,しかも高度の専門的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。
したがって,憲法25条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量に委ねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量権の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適さない事項であるといわなければならない。
イ 併給調整規定が立法裁量の範囲内にあること
一般に,社会保障法制上,同一人に同一の性格を有する2以上の年金が支給されることとなるべき,いわゆる複数事故において,そのそれぞれの事故それ自体としては支給原因である稼得能力の喪失又は低下をもたらすものであっても,事故が2つ以上重なったからといって稼得能力の喪失又は低下の程度が必ずしも事故の数に比例して増加するとはいえないことは明らかである。障害基礎年金と老齢基礎年金はいずれも国民年金法に基づき,それぞれ支給される年金である。これらの各年金は,支給要件こそ違うものの,共に公的年金制度に基づく社会保障であり,同一の性格を有する給付であるといえる。このような場合,社会保障給付の全般的公平を図るため公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは,立法府の裁量に属する事項とみるべきである。また,この種の立法における1つの年金の給付額の決定も,立法政策上の裁量事項であり,それが定額であるからといって当然に憲法25条違反に結びつくものということはできない。
このように,国民年金法20条の併給調整の規定は,立法府が裁量権を逸脱・濫用したものであるとはいえず,立法府の裁量の範囲内に属する事項といえるので,憲法25条には違反しない。
ウ 年金制度と生活保護制度の関係
また,国民年金法1条は,国民年金制度が憲法25条2項の理念に基づくものであることを明示して,わが国の社会保障の法体系の中における同制度の性格を明らかにするとともに,国民年金法の解釈,運用の指針を示したものであり,これによれば国民年金制度も,厚生年金保険制度等他の公的年金制度と同様,老齢又は障害による所得の減少ないし喪失あるいは死亡によって国民生活が経済的に損なわれることを,国民の協同連帯,具体的には,保険料納付義務を負う反面,これらの事情が生じた場合に保険給付が行われる社会保険方式によって,国民生活の安定が損なわれることを防止することを目的とする制度,すなわち,所得減少に対する防貧的な所得保障制度としての意義をもつものである。
このため,同法は,防貧施策として働くこととなるが,経済保障としての同法がすべての貧困者を救済することは不可能であり,これを補うために生活保護法による公的扶助があり,貧困者は最終的に同法によって健康で文化的な最低限度の生活が保障されることとなる。そうすると,国民年金法が障害基礎年金と他の公的年金との併給を制限したとしても,公的扶助たる生活保護がある以上,憲法25条の問題を生ずるものではない。すなわち,その被保障者の生活実体がもし給付を受けなければ,なお貧困の域を脱することができないというのであれば,当該被保障者には生活保護法による生活保障の途が残されているからである。
そして,年金は,老齢,障害又は死亡等の状態又は事故が生じた際に,生活の支えになるよう,一定の条件に該当する場合に,あらかじめ決められた給付が一律に支給されるものであるのに対し,生活保護は原因の如何を問わず,個人個人に収入や資産,世帯の状況を厳格に調査した上,最低生活の保障をする事後的な救済として,自己の収入等と生活保護基準との差額を支給するものである。すなわち,国民年金制度は,救貧的な公的扶助の制度である生活保護制度とは,目的,意義,役割とも異なっていることは明らかである。
上記のように,憲法25条1項にいうところの「健康で文化的な最低限度の生活」を満たすための手段は生活保護法によって実現されているのであるから,仮に併給調整により支給額が生活保護基準以下になったとしても,最終的には生活保護法の適用により最低限度の生活を維持することは可能であるから,国民年金法20条は憲法25条には違反しない。
(2) 国民年金法20条は,憲法14条1項に違反するか。
(原告の主張)
以下に述べるとおり,国民年金法20条は,憲法14条1項に違反し,無効な規定であるから,これを前提とする本件各処分もまた無効であるか,仮に無効とはいえないとしても,取り消されるべきである。
ア 恩給法の適用を受ける者との関係での不平等
原告は,老齢を理由とする年金の受給資格と,障害ゆえの年金の受給資格とを合わせ持っている。しかし,原告は,国民年金法20条により,これらの併給を許されていないため,前提事実(4)のとおり年金受給選択申出をした結果,障害を理由とする一切の給付を受給し得ない状態になっている。他方,恩給法においては,一定の障害を有する者は,増加恩給が支給されることになっているところ,この者には普通恩給も併給され,さらに一定の者(国民年金法36条の2第5項,同法施行令5条の3第3項)には障害基礎年金も併給される。仮に,原告が,昭和21年の恩給法改正前の同法21条に規定する軍人であれば,障害の程度は恩給法により特別項症に該当するから,平成11年度においては,普通恩給を除いても増加恩給,特別加給及び障害基礎年金を受給し得ることになる。かかる差別的取扱いには,何ら合理性がなく,恩給法の適用を受ける国民とそうでない国民とを合理的理由なく差別するものであるから,恩給法の適用を受けない国民に関し適用される国民年金法20条は,憲法14条1項に違反する。
イ 給与所得者と年金のみを収入とする者との間の差別的取扱い
国民年金法36条の3は,障害基礎年金の受給について所得による制限を設けている。これは,逆からいえば,上記制限所得と障害基礎年金の総額が保障されるということである。
しかし,その者が退職し,老齢基礎年金を受給することになれば,老齢年金は退職時の給与より減少することは措くとしても,同法20条により障害基礎年金と老齢年金のいずれかを選択しなければならなくなり,明らかに就業当時の状態より受給額が減少する。これは,明らかに得られる収入の性質により,当該人物の収入に差を設けるものであり,憲法14条1項に違反するものである。
ウ 健常者と障害者との間の差別的取扱い
前記(1)の原告の主張のとおり,障害者に健常者と同程度の生活を保障し,障害者と健常者との平等を実現するためには,障害年金を国民年金法20条の併給調整の対象とはしないか,または併給調整をするとしても障害者加算を考慮して,障害を有することにより生ずる特別の需要及び障害ゆえの稼得能力の喪失を考慮した所得保障を図るべきであった。
しかるに,昭和61年の年金制度の改正においては,かかる考慮がされず,同法同条の規定が創設されたものであり,これは,障害者の権利を積極的に侵害するとともに,健常者との間に不合理な差別的取扱いをするものにほかならず,憲法14条1項に違反するものである。
(被告らの主張)
憲法14条1項は,国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく,差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから,事柄の性質に即応して合理的と認められる区別をすることは,上記規定の否定するところではないものというべきである。
ア 恩給法の適用を受ける者と受けない者との区別について
恩給法による増加恩給等の受給権者が障害基礎年金を併給される場合があるが,これは旧軍人等またはその遺族に支給される増加恩給や公務扶助料等戦争公務に起因する年金給付は,その戦争公務による疾病や死亡に対する国家保障の趣旨を持っているなどの特殊事情があるため,一般の公的年金とは別の観点に立って障害基礎年金を併給することを認めたものである(国民年金法36条の2)。
したがって,恩給法による増加恩給等の受給権を有する地位の者に障害基礎年金との併給を認め,同受給権を有しない地位の者に併給を認めないとすることは,合理的理由のある区別であり,併給を原則として認めない国民年金法20条は,憲法14条1項に違反しない。
イ 所得による制限について
昭和60年法律第34号による改正前の旧国民年金法は,障害福祉年金について受給権者に前年において政令で定める額(いわゆる所得制限限度額)以上の所得がある場合,その年の8月から翌年7月まで,支給停止することを規定していた(旧国民年金法66条1項)。現在の国民年金法においても,保険料納付のまったくない年金制度加入前の障害に基づく給付について同様の規定を設け,前年の所得額に応じ,支給額の全部又は2分の1に相当する額の支給の停止を認めている(同法36条の3第1項)。これは,福祉年金の財源はすべて国の負担によって賄われ,国の負担能力には一定の限界がある以上,何の制限もしないで年金を支給することは,真に年金を必要とする者に少しでも高い額を支給することを困難にすることから,一定以上の所得があることによる支給停止をすることとしたのである。
原告の制限所得金額と障害基礎年金を加えた金額の合計が保障されるとする主張は,その前提が誤りであるばかりか,そもそも国民年金法20条の問題ではない。そして,前記のとおり,同法36条の3の所得制限についても合理的理由のある区別であるから,憲法14条1項に違反しない。
ウ 障害者と健常者の区別について
健常者及び障害者に支給される老齢年金,障害者に支給される障害年金という事故は,同一人について重畳的に加わる場合があり,これらの事故は,いずれも所得能力の喪失又は減退を招来するものではあるが,前記(1)の被告らの主張イのとおり,事故が2つ以上重なりあったとしても,その喪失又は減退の程度が比例的に加重されるものとは必ずしもいえない。したがって,同一人に2つ以上の事故があるとき,それぞれの年金を支給することとすると,二重三重の保障となり,かつ,定額の保険料を基礎とする年金財政に破綻を来すおそれがあることから,国民年金法20条1項による併給調整を定めたのである。
したがって,かかる趣旨に基づく併給調整には,合理的な理由があるといえ,障害基礎年金と老齢基礎年金との併給を認めていないことに合理的な理由があり,何ら憲法14条1項に違反しない。
(3) 本件各処分は,憲法31条に違反するか。
(原告の主張)
行政手続においても,憲法31条の適正手続の保障が及ぶことは今日では既に自明のことであり,行政処分特に侵害的行政処分を行うに際しては,同処分が国民の受けている利益を奪うものである以上,少なくとも告知,聴聞,弁解及び防禦の機会が与えられなければならない。
これを本件についてみると,本件各処分は,原告が平成5年8月から平成9年2月まで受けていた障害基礎年金の受給を過去に遡って不能ならしめる侵害的行政処分にほかならない。
さらに,本件各処分は,平成5年8月分からの受給権を停止するという過去にさかのぼっての調整処分であるから,①年金受給者の落ち度の有無及び程度といった過誤払がされるに至った経緯,②過誤払の期間,③内払調整をするか会計法上の返還請求をするかといった過誤払を返納させる場合の手法,④返納ないし内払調整により受給者の生活がどのような影響を受けるかという受給権者の生活実態等について調整を経た上で,処分を決さなければならない。
しかるに,本件において,被告社会保険庁長官は,本件各処分をするに当たり,和歌山東社会保険事務所の担当者をして,呼び出しを受けたbに対し,単に「選んでください」とのみ申し向け,同女が「どちらか多い方」と回答したことから,前提事実(4)記載の選択届出書にかかる選択届がされたと取り扱わせたことにより,原告に対してかかる弁解・防禦の機会を奪い,さらには上記①ないし④の考慮をすることなく,本件各処分を行ったものであり,これは憲法31条に違反するものである。したがって,かかる違憲違法な手続によりされた本件各処分は,取り消されるべきである。
(被告らの主張)
ア 告知聴聞の機会を与える必要性の有無
行政手続にも憲法31条の適正手続の保障が及ぶ場合があるとしても,一般に行政手続は,刑事手続とその性質においておのずから差異があり,また,行政目的に応じて多種多様であるから,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防禦の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない。
しかるに,本件各処分は,受給者からの年金受給選択申出書の届出が処分の端緒となることはあっても,そもそもが職権で行われるべき処分であり,国民年金法20条及び36条の2の文理からも明らかなように,受給者の届出を要件とする処分ではない。また,本件各処分は,国民年金法の許容しない年金の併給状態を解消し,適法な状態に戻す処分であり,画一的処理を要し,効果裁量の認められないものであるから,告知聴聞の機会を与えることが望ましいとしても,それを直ちに憲法上の要請と解することはできず,かかる機会を与えなくても憲法31条に違反することはないというべきである。
イ 本件各処分に際しての手続
和歌山東社会保険事務所の担当者は,前提事実(4)のとおり原告が妻bを介して老齢基礎年金の裁定請求書を提出した際,原告に対し,公的年金の種類によっては,いくつかの公的年金が支給停止になること,仮に2つ以上の公的年金が支給された場合には,既に支給された公的年金から内払調整がされる等の一般的な説明をして,年金受給選択の届出書を提出するよう指導したものであり,原告は,これに応じて同申出書を提出し,同担当者が,原告の意思を確認の上,前提事実(4)のとおり,「支払金額の多い方に選択します」とのゴム印を同申出書に押捺したものである。
また,原告は,前提事実(3)のとおり特別支給の退職共済年金の支給を受けるに当たり,同年金の裁定請求書を公立学校共済組合に提出した際,同組合の担当者から上記と同様の説明を受けた。
以上により,原告には,実際上も,併給調整に関して,告知等の機会が与えられていたというべきである。したがって,本件各処分に当たり,手続的な瑕疵は存在しない。
(4) 本件各処分は,信義則に違反し,取り消されるべきか。
(原告の主張)
ア 法律の規定に基づく侵害的行政処分であっても,行政官庁において法とは異なる公的見解を表示し,国民がその責に帰すべき事由がなくその表示を信頼した場合に,行政処分によって信頼に基づく利益が害され,これを放置することが正義に反するといえる事情があるときは,信義則の適用があるものと解することができる。最高裁判所昭和62年10月30日判決は,まさにこの理を示したものであり,殊に,同判決は,青色申告の申告受理及び申告納税額の収納は,当該申告書の内容を是認するものではないから,納税者が青色申告の用紙を使用して納税申告をしたとしても,これをもって青色申告の承認申請をしたものではなく,更正処分をしても被処分者に対する公的見解の表示に反しないとして,憲法84条の規定する租税法律主義に由来する厳格な画一的処理の必要のある租税法の分野においても,一般的に信義則違反が問題となり得ることを認めたものである。
そして,社会保障給付行政における行政行為は,憲法25条の規定する生存権に由来し,常に生存権の意味内容を個別,具体的生活実態に即して判断する必要がある点で,課税処分等とは本質的に異なるから,本件のような場合においては,上記判決のいうような厳格な基準は該当しないというべきである。
イ 原告は,前提事実(3),(4)のとおり,平成4年5月21日付け裁定から平成9年2月まで,特別支給の退職共済年金と障害基礎年金の併給を受けたことにより,併給が適法であると誤信したのであり,被告らから特段の指摘等を受けたわけでもないから,かかる誤信につき原告の責めに帰すべき事情はない。そして,かかる併給の継続は,原告にその受領に理由があることにつき信頼を与える公的見解と同視することができる。また,かかる併給の継続は,遅くとも平成2年には,総務庁(当時)より年金受給資格の権限について万全を期するよう国に対して勧告がされていることからすれば,原告の資格確認を怠った被告らに重大な落ち度があるというべきである。
そして,原告が上記既払金を生活のために費消したことは,既払金の支払が正当であるとの信頼によるものということができ,費消により原告にその利益が残存していないのであるから,既払金である371万8991円の返還を請求することは不可能を強いるに等しく,これを強制することは,公共の福祉の要請に照らしても許されないというべきである。
ウ 以上のとおり,原告と行政当局との間には,障害基礎年金が併給されることに対する信頼関係が構築されていたものであり,これを覆すためにはやむを得ない公益上の必要性が要求されると解される。
原則として年金の併給を認めないいわゆる一人一年金の制度は,前記(1)の原告の主張カのとおり,例外的取扱いも許容されている法制度上厳格に構築された制度ではない。また,既に年金に関する事務は,平成2年よりオンライン化されていたのであり,それにもかかわらず,原告の併給を発見し得なかったことから分かるとおり,一人一年金の制度は,行政実務上においても厳格に貫徹されるべき原則とは考えられていなかったのである。したがって,給付行政上の平等公平も併給禁止に関しては貫徹されるべき原理原則とはいえない。
以上を総合すれば,被告らには,原告に対する障害基礎年金の支給を停止する公益上の必要性はないから,本件各処分は,信義則に反し違法であり,取り消されるべきである。
(被告らの主張)
そもそも社会保障給付行政に信義則の適用があるかはともかくとして,仮に,社会保障給付行政にも信義則の適用があると解した場合,原告引用の最高裁判所昭和62年10月30日判決が示した基準に照らすと,①社会保障給付担当者が国民に対し信頼の対象となる公的見解を表明したこと,②国民がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと,③後にその表示に反する処分が行われたこと,④そのために国民が(経済的)不利益を受けることになったこと,⑤国民が社会保障給付担当官庁の上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて国民の責めに帰すべき事由がないことを考慮することが不可欠となると解される。
これを本件についてみると,およそ社会保障給付担当官庁が原告に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことがないのであり,信義則の適用はその前提を欠くことになる。この点,原告は,障害基礎年金と退職共済年金の併給状態こそがそれ自体で,またはその他の事情によって併給を適法とする公的見解の表示と同視できると主張するが,独自の見解にすぎない。原告が障害基礎年金と退職共済年金とを併給できたのは,公立学校共済組合理事長から原告の年金受給選択申出書が提出されていないことからみて,原告が,前提事実(3)のとおり特別支給の退職共済年金の支給を受けるに当たり,障害基礎年金の受給権があることを秘して同共済年金の裁定請求書を提出したからであると推測されるところであり,むしろ,原告の不相当な行為によるところが大きいといわなければならない。
また,信義則の適用は,法律による行政を犠牲にしてまで保護に値する信頼,回復すべき不利益を認めることであるから,前記②の信頼に基づいて何らかの行動をしたこととは,受益者が,財産的処分,有利な法的地位の放棄,保護に値する法的地位の取得等の積極的行為をした結果,または積極的行為に出ていなくても,受益者の生存の基礎が決定的に変更され,当該処分が受益者の生存の基礎を揺るがすことになる場合をいうと解すべきであり,併給を前提とした生活設計をしたこと等はこれに当たらないし,違法な併給の既払金を生活のために費消したこともこれに当たらないというべきである。
さらに,支給停止事由を規定する併給調整規程は,年金方式を採用した国民年金制度における給付相互間及び本件障害基礎年金の性質から生じた調整措置であり,年金制度の長期安定と受益の公平という目的を有するものであり,その目的には合理性があり,併給調整規程の例外なき適用には高度の公益性があるところ,本件では,かかる高度の公益性を犠牲にしても原告の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情は何ら存在しない。
したがって,本件各処分に信義則違反は認められず,原告の主張には理由がない。
第3争点に対する判断
1 本件各請求の適法性について
(1) 本件各処分の法的性質
国民年金法20条1項の併給調整規定は,年金給付の支給停止事由として規定されており,その要件該当性は客観的に定まり,支給停止の効果も客観的に生ずるものとされ(同法18条2項),支給停止事由該当性の判断及びこれによる効果について裁量の余地はないものとして規定されている。そのため,裁定にかかる年金受給権に基づく支分権である支給請求権は,支給停止事由の発生によって当然に停止すると解する余地もある。しかし,年金事務管掌者が,支給停止事由の存否を適時に把握することが困難であることから,受給者からの届出等により,支給停止事由の存在を確認したときに,支給行為を停止する処分(以下「支給停止処分」という。)を行い,同処分により,支給停止事由の生じた日の翌月分からの給付について停止の効果が生ずるものと解される。
したがって,支給停止処分は,支給停止事由の発生を確認し,年金受給権が支給停止の状態にあることを宣言し,当該事由の生じた日の翌月分からの支給行為を停止する処分ということになり,この処分により,支給停止事由の発生時以降の年金給付は,その根拠を喪失し,この年金給付の支給根拠の喪失が公定力をもって確定されることとなる。もっとも,この処分の効果としては,処分後に支払うべき給付については支給根拠が喪失し,支給拒絶の理由となるが,既にされた給付については,これを保持する適法根拠を奪うにとどまり,既払分についての返還債務の存在又はその額を確定するものではない。
ところで,2種類の異なる年金が併給されることとなり,同法20条により一方の年金の支給を停止して他方の年金を支給すべきであるにもかかわらず,双方の年金とも支給停止処分がされることなく支給されていた場合について,同法21条1項は,支給を停止すべき年金についての支払を支給されるべき年金の内払とみなす旨定めており,かかる支払調整にも効果についての裁量の余地はないものとされている。もっとも,前記支給停止処分の場合と同様,年金事務管掌者が,支給停止事由の存否すなわち併給状態の発生を必ずしも適時に把握することが困難であることから,支給停止事由の存在を確認し支給停止処分を行った上で,支払調整処分を行っており,この処分により,年金のみなし弁済の効果が発生するものと解される。この処分の効果は,処分後に支払うべき給付につき支給根拠を喪失させるものであり,支給拒絶の理由となる。
(2) 本件各請求の適法性
以上を前提として,本件各請求の適法性につき検討する。
ア 主位的請求における被告社会保険庁長官に対する本件各処分の無効確認訴訟と被告国に対する給付訴訟の併合提起の可否
原告は,被告社会保険庁長官に対し,主位的請求として,本件各処分の無効確認とともに,被告国に対し,国民年金法に基づき,本件第1処分により支給を停止された障害基礎年金のうち171万8335円及び本件第2処分により給付されなかった老齢基礎年金40万9125円並びにこれらに対する遅延損害金を請求している。
行政事件訴訟法36条後段は,行政処分の無効確認訴訟について,「その効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない」場合に限ると定めているところ,その意義は,民事訴訟における確認の利益と同様,行政処分の無効を確認することが現存する紛争を抜本的に解決するのに最も適切かつ必要であると認められる場合に,行政処分の無効確認訴訟の訴えの利益を認めたものと解される。
これを本件についてみると,原告は,前提事実(2),(4)のとおり,障害基礎年金及び老齢基礎年金の支給裁定を受けているから,本件各処分が無効であれば,被告国に対し,上記各給付請求を当然することができることになるが,その一方で,将来にわたる障害基礎年金の給付を受けるためには,被告国に対する前記給付請求だけでは足りず,本件第1処分の無効が確認される必要があるから,本件第1処分の無効確認の訴えの利益は,被告国に対する給付請求と併せて存在すると解される。
しかし,本件第2処分については,証拠(乙10)によれば,既に原告に支給されていた平成9年3月分から同年7月分まで(B期間分)の障害基礎年金40万9125円を,原告に支給される同年3月分から同年12月分までの老齢基礎年金の内払とみなす処分にすぎないものと認められ,その効果が将来にわたるものではなく,処分の無効を前提とする被告国に対する老齢基礎年金40万9125円の給付請求によって,その目的を達することができるものである。
したがって,主位的請求のうち,本件第2処分の無効確認を求める訴えは,確認の利益を欠き,行政事件訴訟法36条後段の要件を充たさない不適法なものである。
イ 予備的請求における被告国への給付訴訟の可否
原告は,予備的請求として,被告社会保険庁長官に対する本件各処分の取消しとともに,被告国に対する前記アと同様の給付訴訟を提起している。
しかし,原告の被告国に対する給付請求は,本件各処分の公定力に抵触するものであるから,原則として,本件各処分の取消訴訟の勝訴判決の確定を待たない限り,給付請求が認められないこととなる一方,当該勝訴判決が確定すれば,被告国は,原告が前提事実(2),(4)のとおり障害基礎年金及び老齢基礎年金につき支給裁定を受けている以上,同判決の趣旨に従って行動すべき義務を負い,その結果,上記給付をしなければならないことになる。したがって,原告は,原則として,本件各処分の取消訴訟と同時に,被告国に対して,本件各処分の効力と抵触する給付請求をすることはできず,例外的に,給付の内容が法令上明確に定められており,かつ,原告において,取消訴訟の確定を待っていては多大な損害を被るおそれがある場合に限り,かかる給付訴訟を処分取消訴訟と併せて提起することができると解される。
これを本件についてみると,一件記録上,原告が取消訴訟の帰趨を待っていても多大な損害を被るおそれがあるとは認められないから,かかる給付請求は,不適法である。
2 争点(1)(国民年金法20条の憲法25条1項,13条適合性)について
(1) 憲法25条1項は,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定しているが,同規定は,いわゆる福祉国家の理念に基づき,全ての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべき国の責務を国民の権利として宣言したものと解される。また,同条2項は,「国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定しているが,これは,同じく福祉国家の理念に基づき,社会的立法及び社会的施設等の創造拡充に努力すべきことを国の責務として宣言したものと解すべきである。そして,同条1項は,国が個々の国民に対して具体的・現実的に上記のような義務を有することを規定したものではなく,同条2項により国の一般的な責務とされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充を通じて,個々の国民に人間の尊厳にふさわしい生活を営む具体的権利を保障しようとする趣旨に出たものというべきである(最高裁判所昭和23年9月29日大法廷判決・刑集2巻10号1235頁参照)。
その意味で,最低限度の生活の保障は,国民の拠出の有無を問わず,これを必要とする国民に対して,まず実現することが期待されるのであって,最低限度の生活保障の制度の上にさらなる社会的立法及び社会的施設等の創造拡充の努力の結果,社会における最低限度の生活の水準そのものが向上するという関係は無視できないから,「最低限度の生活」と生活水準の向上,増進とを完全に切り離して理解することは相当でないということができるが,生活水準の向上,増進のための施策が,それ自体で最低限度の生活を保障すべきものと解することはできない。
ところで,「健康で文化的な最低限度の生活」という概念は,極めて抽象的・相対的なものであって,その具体的内容は,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものである。さらに,同条1項を現実の立法として具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができないことはもとより,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断が必要とされるのである。また,立法府は,公的扶助を含む所得保障や医療保障,さらには租税を始めとする負担についての種々の軽減措置等により,わが国の法制度全体を通じて憲法25条の趣旨を実現していくことが要請されているものであって,最低限度の生活の保障のための制度,社会的立法及び社会的施設等の創造拡充のための制度を,受給権者の拠出にかからせるか,給付の要件,内容をどのように定めるか,相互の給付間の調整方法等を含め,その趣旨に応えて具体的にどのような立法措置を講じていくかの選択的決定は,立法府の広い裁量に委ねられており,それが著しく合理性を欠き,明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわざるを得ない(最高裁判所昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。
これに対し,原告は,創設された制度は,健康で文化的な生活を追求し,幸福な生活を送ることができる制度でなければならず,その点において被告国の自由裁量が許容されることがあってはならないと主張する。しかし,社会保障制度の専門技術性のみならず,不可避的に財源措置が伴うべき社会保障政策の実現に当たってはその負担者である国民の意見及びその反映としての立法府の意思を無視することができないことに照らすと,原告の主張する点をしんしゃくしてもなお,社会保障立法に当たっての立法裁量は広く認めざるを得ない。
(2) 原告は,①国民年金法上の基礎年金は,最低生活の保障という性格を有するものであるべきこと,②障害者及び高齢者には障害,老齢ゆえに収入の減少だけでなく支出の増加という特別の需要もあるから,基礎年金により前記最低生活の保障をするに当たっては,単なる減収分の補てんというにとどまらず,かかる特別の需要をも考慮した広い意味での所得保障をすることが憲法上要請されること,③そうであるにもかかわらず,現行の年金制度においては,障害者の有するかかる特別の需要が考慮されておらず,その支給額は生活保護の水準よりも低額となっていることを前提として,国民年金法20条が憲法25条1項及び13条に違反すると主張する。そこで,これらの原告の前提とする主張について検討する。
ア 基礎年金の性格及び生活保護制度との関係
原告は,国民の健康で文化的な最低限度の生活の保障は,生活保護制度のみによって保障されるべきではなく,基礎年金制度によってこそ保障されるべきであると主張する。そして,証拠(甲B10,B12,乙11)及び弁論の全趣旨によれば,総理府社会保障制度審議会が昭和52年12月19日に出した「皆年金下の新年金体系」と題する基本年金を創設するする旨の建議において,基本年金が基礎的生活費に対応する給付となることが期待され,基本年金が,標準的な消費支出を基礎としてその5割程度の水準を確保することが望ましい旨述べられていること,昭和59年12月13日に開催された第102国会衆議院社会労働委員会において,老齢基礎年金の支給額の政府案を5万円とした根拠について,c厚生省年金局長が,老後の生活の基礎的部分を保障するような水準の額にしたいという趣旨で上記金額を提案したこと,昭和61年の国民年金法改正の立案過程において,基礎年金の水準を生活保護基準を上回るものでなければならないとの主張がされたことが認められる。
しかし,現行の法制度は,原告が主張するような法制度を採用していない。すなわち,生活保護法は,生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障することを目的とする(同法1条)ものであり,保護は,生活に困窮する者がその利用し得る資産,能力等を活用することを要件とし(同法4条1項),他の法律に定める扶助によってなお不足する保護を賄うものとされている(同法同条2項)。もっとも,かかる他法他施策の優先は,自己資源の活用と同様,生活保護の補足性に基づくものであって,他法他施策のみをもって生活保護法の要請する生活水準を達成すべきことを意味するものと解することはできない。
他方,国民年金法は,憲法25条2項に定める国の社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上,増進義務に基づき,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的として(国民年金法1条),国庫の補助の下(同法85条),保険料の額を原則として定額とし(同法87条4項参照),基礎年金の給付の額も,受給権者の所得の多寡に関係なく定額を原則とし(同法27条,33条,38条),老齢,障害又は死亡という稼得能力喪失の原因となる定型的な事故について,一律の保険給付をすることで所得保障をするものということができる。また,被用者年金各法は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行うことで,当該労働者又はその遺族の安定と福祉の向上に寄与することを目的とするものであり,稼得能力喪失の原因となる定型的な事故について,所得保障を目的とするという点で国民年金法の規定する年金と共通するが,保険料は標準報酬月額に基づき算定され,給付額も標準報酬月額及び被保険者期間によって算定されるものであり,法に規定する基礎年金よりも保険料と給付内容との報酬比例の性格が強いものとなっている。なお,原告が退職共済年金の支給を受けている地方公務員等共済組合法もかかる被用者年金各法と同様の法的性格のものと解される。
以上のとおり,現在の法制度は,最低限度の生活の保障を目的とする社会福祉施策の中心に,受給権者の拠出を前提としない生活保護制度を設置し,国民年金法又は被用者年金各法に基づく給付は,生活保護法とは別に,老齢,障害又は死亡といった稼得能力の喪失,低下に対する受給権者の拠出制年金として,要保護性の有無,所得の多寡を具体的要件とすることなく,稼得能力の喪失,低下を一般的に推認させる事故の発生を理由に所定の給付を行うものとしており,個々の国民の最低生活は,生活保護法を中心とする公的扶助法,身体障害者福祉法等の社会福祉法,国民年金法等の年金保険法のほか,国民健康保険法等の医療保険法の各法制度に基づく諸施策の総合によって実現されるものとしている。
このような現行法における社会福祉制度のあり方は,高度の政策的判断の結果といえるものであり,前記(1)説示のとおり,立法府の広い裁量に委ねられるべき事項にほかならない。したがって,国民の健康で文化的な最低限度の生活の保障が,基礎年金制度によってのみ保障されないからといって,直ちに,憲法25条,13条違反の問題を生ずるものと解することはできない。
イ 障害者及び高齢者の特別の需要に基づく多重の年金保障の要否
原告は,障害者及び高齢者には障害,老齢ゆえに収入の減少だけでなく支出の増加という特別の需要もあるから,基礎年金により前記最低生活の保障をするに当たっては,単なる減収分の補てんというにとどまらず,かかる特別の需要をも考慮した広い意味での所得保障をすることが憲法上要請されるべきものであると主張する。そして,障害ないし老齢が稼得能力の喪失のみならず特別の出費の原因となり得ること及び障害と老齢という複数の保険事故によって稼得能力の低下ないし喪失及び特別の出費の額について何らかの加重があることは容易に推認できる。
しかし,前記ア説示のとおり,障害基礎年金及び老齢基礎年金の目的は,稼得能力の喪失,低下を推認させる障害という保険事故に対して,一律の所得保障をすることを目的とするものであり,憲法25条の要請は他の社会福祉制度の諸施策との総合によって満たされることを前提として,現在の公的年金制度が構成されていることからすれば,現在の障害基礎年金及び老齢基礎年金に定型的な所得保障以上に個別的な需要ないし必要性に基づく給付を求める憲法上の権利があるということは困難というべきである。
また,障害と老齢という2つの保険事故による稼得能力喪失の加重の程度は,障害の種別や程度,その者の資産の有無等に応じて相当に異なるものであるし,ましてこれが比例的に加重するものと認めるに足りる証拠はない。そうすると,生活保護法,老人保健法及び身体障害者福祉法等に基づく障害及び老齢に対する種々の施策を前提に定型的かつ一律の保険給付を目的とする基礎年金については,重複給付を回避して負担と給付の公平を図るという見地から一律に障害基礎年金と老齢基礎年金との併給を禁止する国民年金法20条の規定が,立法裁量の範囲を逸脱し,不合理であると認めることはできない。
以上により,障害者及び老齢者の特別の需要を年金の支給に考慮すべきであるということを前提として,国民年金法20条の憲法25条違反を主張する原告の主張は,理由がない。
ウ 基礎年金の水準
原告は,現行の年金制度において,障害者の有する特別の需要が考慮されておらず,その支給額も生活保護の基準よりも低額となっていると主張する。
しかし,前記イ説示のとおり,障害者及び高齢者の特別の需要を基礎年金の額を定めるに当たり考慮すべきことが憲法上要請されているということは困難であり,これを前提とする原告の主張は採用できない。
他方,障害基礎年金の額については,生活保護基準が世帯構成,地域,年齢等によって差異が大きく,証拠(乙11)によれば,基礎年金の水準が生活保護の水準に比べて必ずしも低いとはいえないと認められる。また,仮に障害基礎年金の額が生活保護の水準以下であるとしても,前記ア説示のとおり,現在の法制度が,個々の国民の最低生活を生活保護法等の公的扶助法,身体障害者福祉法等の社会福祉法,国民年金法等の年金保険法,医療保険法の各法制度に基づく諸施策の総合によって実現されるものであることに照らすと,直ちに憲法25条,13条違反の問題となるような裁量の逸脱,濫用があるとはいえない。
(3) 国際的動向からみた併給調整の合理性の有無
原告は,被告国において,国際的動向をみる限り,基礎年金制度による生活の最低保障が図られるよう関係国内法規を整備する義務があるところ,かかる義務を果たしていない状況の下で,併給を規制する国民年金法20条は,憲法25条,13条に違反すると主張する。
しかし,国際人権規約A規約11条,同B規約26条及びILO第102号条約67条Cは,その文言が明確ではなく,基礎年金制度による生活の最低保障を図る義務及びかかる義務が果たされない限り併給調整を許さない趣旨であるとは解されない。また,原告の引用するILO第128号条約は,わが国において批准されておらず,わが国の立法裁量を何ら拘束するものではない。さらに,原告が引用する各ILO勧告は,あくまで勧告にすぎず,被告国の立法裁量を何ら拘束するものではない上,わが国が批准する前記ILO第102号条約69条は,併給調整について,「保護対象者に支給すべき給付は,次の期間中又は次の場合には,所定の範囲内において停止することができる。」とし,そのc項において,「その者が他の社会保障給付(家族給付を除き,かつ,現金によるものに限る。)を受けている期間及びその者が同一の事由について第三者から補償を受けている期間。ただし,停止される給付の部分は,当該他の社会保障給付又は第三者による補償の額を超えないものとする。」と併給調整自体を容認する旨規定しており,これに照らすと,原告が引用する各ILO勧告が,各給付相互間の併給調整を排除する趣旨とは解されない。
以上によれば,国際的動向にかんがみても,国民年金法20条が著しく不合理であるということはできない。
(4) いわゆる一人一年金制の合理性の有無について
原告は,①年金支給は単に収入の減少だけでなく,年金支給事由に基づく支出の増加も考慮すべきであること,②同一人が複数の支給事由を有している場合には,1つの支給事由のみを有している場合と比較して稼得能力喪失の割合が増加することは明らかであること,③老齢基礎年金と遺族厚生年金との併給及び恩給法による増加恩給等と障害基礎年金との併給が許容されることからすれば,障害基礎年金と老齢基礎年金の併給を認めないことは合理性を欠くと主張する。
しかし,①及び②の点については,前記(2)イ説示のとおり,これをもって,併給調整規定が著しく不合理であり,憲法25条及び13条に違反するということはできない。
また,③の点については,原告が併給を許容する場合として掲げるものは,いずれも本件の場合と対比するのに適切とはいえない。すなわち,国民年金法20条1項後段に基づく老齢基礎年金と遺族厚生年金との併給は,後者が報酬に比例する被用者年金であることにかんがみ,実質的にいわゆる2階建て年金の趣旨を全うするために,同条及び厚生年金保険法38条により遺族厚生年金に対応する基礎年金が遺族基礎年金又は老齢基礎年金とされたことの結果であり,基礎年金相互間の併給の調整とは状況が異なる。また,国民年金法36条の2第5項により戦争公務による障害等を支給事由とする年金給付と障害基礎年金とが併給調整されないのは,前者については,戦争犠牲者又はその遺族の精神的損害に対する補償という要素があることに基づくものである。したがって,原告が援用する諸規定は,いずれも複数の保険事故による要保障状態の加重に対して,併給を認める趣旨であるということはできない。したがって,この点に関する原告の主張も理由がない。
(5) 小括
以上のとおり,国民年金法20条が立法裁量の逸脱に基づくものであって,憲法25条及び13条に反するという原告の主張はいずれも理由がなく,国民年金法20条が,憲法25条及び13条に違反する点はない。
3 争点(2)(国民年金法20条の憲法14条1項適合性)について
憲法14条1項は,「すべて国民は,法の下に平等であって,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。」と規定しているところ,同条項にいう「社会的身分」とは,人が社会において占める継続的な地位を指すものと解されるから,障害基礎年金又は老齢基礎年金を受給することができるという地位は,社会的身分に当たるものということができる。そして,同条項の規定は,国民に対し,絶対的な平等を保障したものではなく,差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから,事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱いをすることは,同条項の否定するところではないものというべきである(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁参照)。
以上を前提に,原告の主張について検討する。
(1) 恩給法の適用を受ける者との関係
原告は,自らが障害基礎年金と老齢年金の併給を受けないことと,恩給法の適用を受ける者が,増加恩給及び特別加給と障害基礎年金を併給されることの差別的取扱いには,合理性が欠けるから,原告の併給を否定する国民年金法20条は,憲法14条1項に違反すると主張する。
しかし,前記1(4)説示のとおり,恩給法に基づく戦争公務による障害等を支給事由とする年金給付と障害基礎年金とが併給調整されないのは,前者については,戦争犠牲者又はその遺族の精神的損害に対する補償という要素があることに基づくものである。このように,通常の基礎年金と戦争公務に基づく公的年金との間にはその給付の性質に差異があることは否定できないから,両者の間に設けられた取扱の差異は,事柄の性質に応じたそれなりの合理的理由があるというべきである。したがって,国民年金法20条が,憲法14条1項に違反するという原告の主張は採用できない。
(2) 給与所得者と年金のみを収入とする者との間の差異
原告は,給与所得者であれば,国民年金法36条の3の定める限度で,給与と基礎年金の両方を取得できるのに対して,老齢基礎年金と障害基礎年金の双方の受給資格を有する者は,同法20条の併給調整のため,そのいずれかを選択しなければならないから,同法同条は,人の収入によって差別を図るものであり,憲法14条1項に違反する旨主張する。
しかし,基礎年金相互間の併給調整が不合理なものといえないことは,前記2説示のとおりである。また,前記2(2)ア説示のとおり,基礎年金は本来所得の多寡に関係なく一定額の給付をするものであるが,国民年金法36条の3は,障害基礎年金の所得保障の性質に照らして一定額以上の所得を有する者について支給停止事由を規定したものであって,他に所得を有する者を老齢基礎年金受給者より優遇したものと解することはできない。さらに,同法20条による公的年金の受給による支給停止と所得による支給停止は,それぞれ別個の収入を原因とする支給停止であり,公的年金等の受給権者であるため障害基礎年金について公的年金分の支給が停止する者でも,所得制限を超える所得があるときは,障害基礎年金の支給が停止されるのであり,他方,所得制限額以下の所得を有する者についても公的年金の受給による支給停止の適用があるから,同法20条が,公的年金受給権者と他に所得のある者とを区別するものとはいえない。
したがって,原告の主張は理由がない。
(3) 健常者と障害者との間の差異
原告は,障害者に健常者と同程度の生活を保障し,障害者と健常者との平等を実現するためには,障害基礎年金を国民年金法20条の併給調整の対象とはしないか,又は併給調整するとしても障害者加算を考慮して,障害を有することによる特別の需要及び障害ゆえの稼得能力の喪失を考慮して所得保障を図るべきであり,かかる考慮をしない同条は,健常者と障害者とを不合理に差別し,憲法14条1項に違反すると主張する。
しかし,前記2で説示したところに加えて,身体障害者福祉法,老人福祉法,老人保健法及び生活保護法等に基づく諸施策の存在も総合的に考慮すると,同法同条が障害者と健常者とを不合理に差別するものということはできない。
したがって,原告の主張は理由がない。
4 争点(3)(本件各処分の憲法31条適合性)について
(1) 行政手続における法定手続の保障は,生命,身体又は財産等に対する科刑手続に関する憲法31条の文理から直接導き出されるところではないが,同条の規定の趣旨に照らし,国民に不利益を課する行政処分についても,その行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等に応じて適正な手続が保障されるべきことはいうまでもない(最高裁判所平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参照)。
(2) ところで,原告は,本件各処分がされるに当たり,和歌山東社会保険事務所の担当者は,原告の代わりに出頭したbに対し,単に選んでくださいとのみ申し向け,本件各処分にかかる支給停止,みなし弁済について何らの告知もせず,弁解,防禦の機会を与えなかったと主張し,本人尋問においても同様の証言をする。
しかし,前記1説示のとおり,本件第1処分は,支給停止事由の発生したこと及び支給停止事由の発生後の支給停止部分につき支給根拠がないことを確認する処分であり,処分するか否か及びその内容について裁量の余地はなく,支給停止事由の存否を確認する端緒も届出に限定されておらず(国民年金法107条),支給停止処分が届出の提出を要件とするものではないことからすれば,本件第1処分に際しての届出に関する同社会保険事務所の担当者の対応が,仮に原告主張のとおりだとしても,本件第1処分の効力を左右するものではないから,支給停止事由の存在が明らかとなった場合にさらに告知,聴聞等の手続をしなかったことが,適正手続に違反するものということはできない。
また,本件第2処分は,老齢基礎年金の減額という直接的に不利益な効果を生ずるものであるが,前記1説示のとおり,同法21条1項の文理上,同処分にもその効果において裁量の余地がないこと,同条項の趣旨が,同法が許容しない年金の併給状態を解消し適法な状態に戻す画一的な要請を満たす点にあると解されること,金銭債権は代替性があり,事後の争訟において処分が否定されても,その段階で清算がされれば特に相手方に不利益は生じないことにかんがみると,やはり,告知聴聞の手続をしなかったことが,適正手続に違反するものということはできない。
(3) なお,原告は,本件各処分が,平成5年8月分という過去にさかのぼっての受給権の調整であることから,被告社会保険庁長官は,同各処分を決するに当たり,①年金受給者の落ち度の有無及び程度といった過誤払がされるに至った経緯,②過誤払の期間,③過誤払を返納させる場合の手法,④受給権者の生活実態等についての配慮が憲法上要請される旨主張する。
しかし,前提事実(4),(5),(7)のとおり,本件第2処分は,平成9年4月4日に原告が老齢基礎年金の支給裁定を請求し,同年5月1日から同年3月分からの同年金の支給を受けることになった結果,老齢基礎年金と併給状態となった同月分から7月分までの障害福祉年金受給権40万9125円についての内払調整処分であり,長期かつ高額にわたる支払調整処分とはいえないから,同処分については,原告の主張は前提を欠く。また,前記(2)説示のとおり,本件各処分について,法律上同被告に裁量が働く余地はないことに照らすと,原告の主張する配慮が,本件各処分の適用に際して,憲法上要請されるとはいえない。
以上により,原告の主張は,理由がない。
5 争点(4)(本件各処分が信義則に違反しないか)について
(1) 一般に,処分が違法又は不当であれば,処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては,自らその違法又は不当を認めて,処分の取消しによって生じる不利益と,取消しをすることなく処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し,当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り,これを取り消し得るものというべきである(最高裁判所昭和31年3月2日第2小法廷判決・民集10巻3号147頁参照)。いわゆる適法性の原則が支配すべき法治国家の下で,瑕疵ある授益的行政処分の取消しについてかかる制限が課せられるのは,授益的行政処分が相手方である私人に対して公的見解を示したことになるため,これに対する信頼を保護し,法的安定性を図る必要があること,これらの要請もまた広い意味での法律による行政の原理に内在するものであることに基づくものであると解される。また,法律の規定に基づく侵害的行政処分であっても,行政官庁において法とは異なる公的見解を表示し,国民がその責に帰すべき事由がなくその表示を信頼して行動した場合に,行政処分によって信頼に基づく利益が害され,これを放置することが正義に反するといえる事情があるときは,信義則の適用があるものと解することができる(最高裁判所昭和62年10月30日第3小法廷判決・訟務月報34巻4号853頁参照)。そうすると,本件第1処分又はこれに引き続く本件第2処分は,その法形式において受給権の根拠となる年金裁定そのものを取り消すものではなく,受給権の法的効果を制限する侵害処分であるが,年金裁定により付与された権利の一部を制限し,実質的には受給権の一部取消しと同視できることからすれば,法的根拠を欠く併給状態がそれ自体で,又はその他の事情によって併給を適法とする公的見解の表示と同視することができ,かつ,本件各処分の公益性と上記表示による信頼により国民が得た利益及び本件各処分によって生ずるかかる利益の侵害の程度とを比較考量して,本件各処分の効力を認めることが公共の福祉の要請に照らしても著しく不当であると認められるときは,信義則に違反したことにより処分は違法と評価されることになるというべきである。
(2) そこで,本件各処分が,前記の点から違法ということができるか否かについて検討する。
ア 本件第1処分のうち,A期間分(平成5年8月分から平成9年2月分まで)の障害基礎年金の支給停止処分は,前提事実(5)のとおり,特別支給の退職共済年金が併給されていたためであり,B期間分(平成9年3月分から同年7月分まで)の障害基礎年金の支給停止処分は,前提事実(5),(7)のとおり,同年3月分から支給事由が発生した老齢基礎年金が併給されていたためである。しかし,前記1説示のとおり,本件第1処分は,支給停止事由発生時以降の年金給付につき法的根拠を奪うにとどまり,既にされた給付についての返還又は調整については,別に履行督促(国の債権の管理等に関する法律13条2項)あるいは支払調整によることとなるから,既に支給された障害基礎年金の支給根拠を喪失させるだけでは原告にさほどの不利益を与えるものではなく,他方,国民年金法20条そのものが前記2,3説示のとおり有効であり,かつ,制度上の合理性があるから,併給状態を解消すべき公益性は存在する。以上を比較考量すると,併給状態の継続につき原告の信頼があるとしても,この期間に該当する給付に関する過払分の返還又は支払調整については別として,本件第1処分を信義則違反によって取り消すことはできない。
イ 次に,本件第2処分の支払調整処分について検討する。
前提事実(4),(5)のとおり,従前から障害基礎年金を支給されていた原告が,平成9年4月4日,妻bを介して,和歌山東社会保険事務所において,同年3月1日から受給資格を得ることとなった老齢基礎年金の申請をした際,同事務所担当者が,両年金の併給が禁止されていることを前提として,bを介して原告から前記のとおりの年金受給選択書を徴し,これにしたがい,原告に対し,同年5月1日付けで同年3月分から老齢基礎年金を支給する裁定がされ,同年9月12日付けで同年3月分に遡って障害基礎年金の支給を停止する本件第1処分がされ,同年10月15日付けで同年金として既に支払われた同年3月分から同年7月分までのB期間分の40万9196円を,国民年金法21条2項にしたがい原告の老齢基礎年金の内払とみなす支払調整を行う旨の本件第2処分がされたものであり,以上の経過によれば,以上の各処分をした被告社会保険庁長官が,老齢基礎年金との併給を是認してB期間分の障害基礎年金を支払っていたのではなく,同年金の支給停止処分が老齢基礎年金の支給裁定にやや遅れた結果,併給状態が生じたにすぎないことも明らかである。そうとすると,上記併給がB期間分継続したことをもって,同被告が併給を許す公的見解を示したとまで評価することはできず,よって,本件第2処分も信義則違反を理由に取り消すことはできない。
6 結論
以上によれば,原告の主位的請求のうち本件第2処分の無効確認の請求は,不適法であり,その余の請求については,国民年金法20条が違憲無効ということはできないから理由がない。
また,原告の予備的請求のうち,被告国に対する請求は,不適法であり,前記のとおり,国民年金法20条は違憲無効ではなく,また,本件各処分につき,憲法31条違反,信義則違反の点はないから,原告の被告社会保険庁長官に対する請求は理由がない。
よって,原告の主位的請求のうち本件第2処分の無効確認の請求にかかる訴えを却下し,原告のその余の主位的請求を棄却し,原告の予備的請求のうち,被告国に対する請求にかかる訴えを却下し,被告社会保険庁長官に対する請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 礒尾正 裁判官 間史恵 裁判官 成田晋司)