和歌山地方裁判所 平成24年(ワ)220号 判決 2016年1月15日
主文
1 被告Y1社,被告Y2及び被告Y3は,原告に対し,各自,411万8000円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告Y1社,被告Y2及び被告Y3に対するその余の請求並びに原告の被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の50分の29と被告Y1社,被告Y2及び被告Y3に生じた費用の各50分の9と被告Y4に生じた費用を原告の負担とし,原告に生じた費用の50分の7と被告Y1社に生じた費用の50分の41を被告Y1社の負担とし,原告に生じた費用の50分の7と被告Y2に生じた費用の50分の41を被告Y2の負担とし,原告に生じた費用の50分の7と被告Y3に生じた費用の50分の41を被告Y3の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
被告Y1社,被告Y2及び被告Y3は,原告に対し,各自,500万0700円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
(1)主位的請求
被告Y4は,原告に対し,473万7700円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)予備的請求
被告Y4は,原告に対し,433万7700円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
原告は,被告Y4との共有に係る不動産を被告Y2が取締役を務める被告Y1社の媒介により売却し,その売却代金の管理及び売却代金からの必要経費等の支払を被告Y4に委任していたところ,被告Y1社及び被告Y1社とともに上記不動産の売却に関わった被告Y3が原告の取得すべき売却代金からコンサルティング料等の名目で金員を取得したことに関し,①被告らには共謀による弁護士法違反,横領,背任等の共同不法行為が成立する,②被告Y4が被告Y1社,被告Y2及び被告Y3(以下,この3名を併せて「被告Y1社ら」という。)と共謀していない場合には被告Y1社らには詐欺の共同不法行為が成立する,③被告Y4には原告が取得すべき売却代金の管理等に係る委任契約上の債務不履行があるなどと主張し,被告Y1社ら各自に対し,不法行為責任に基づく損害賠償として,500万0700円及びこれに対する不法行為の後の日である平成23年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(第1事件),被告Y4に対し,主位的に,不法行為責任又は債務不履行責任に基づく損害賠償として,473万7700円及びこれに対する不法行為の後の日である平成23年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を,予備的に,委任契約に基づき,原告の取得すべき売却代金の残金433万7700円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた(第2事件)。
1 前提事実(末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア 原告は,昭和6年12月*日生まれの男性である。(甲24)
イ 被告Y1社は,宅地建物取引業の免許を有し,不動産売買の仲介等を目的とする会社である。(甲6)
ウ 被告Y2は,被告Y1社の代表者(取締役)
である。(甲6)
エ 被告Y3は,宅地建物取引主任者の資格を有し,「□□」の名称で不動産取引等に関する業務を行っている者である。(甲7の2,乙25)
オ 被告Y4は,原告とその妻のA(以下「A」という。)の間の長女である。(弁論の全趣旨)
カ B(以下「B」という。)は,原告とAの間の長男である。(弁論の全趣旨)
(2)原告の不動産の所有等
平成22年7月21日当時,原告が別紙物件目録記載1の土地(以下「和歌浦南の土地」という。)の2分の1の共有持分,同目録記載2の建物(以下「和歌浦南の建物」といい,和歌浦南の土地と併せて「和歌浦南の不動産」という。)の所有権,同目録記載3の土地(以下「和歌浦中の土地」という。)の2分の1の共有持分,同目録記載4の建物及び同目録記載5の建物(以下,両建物を併せて「和歌浦中の建物」といい,和歌浦中の土地と併せて「和歌浦中の不動産」という。)の所有権をそれぞれ有し,Aが和歌浦南の土地及び和歌浦中の土地の各2分の1の共有持分を有していた。
この当時,原告及びAが和歌浦中の建物に居住し,Bとその家族が和歌浦南の建物に居住していた。(甲4の1,4の2,乙2,3)
(3)Aの死亡等
Aは,平成22年7月21日,死亡した。
Aは,生前,財産を原告及び被告Y4に各2分の1の割合で相続させる旨の遺言を作成しており,同年12月16日,同遺言に基づき,和歌浦南の土地のAの持分(全体の2分の1の持分)につき,原告及び被告Y4に各2分の1(全体の各4分の1の持分)の割合で移転する旨の登記手続がなされた。
また,原告は,同月10日,被告Y4に対し,和歌浦南の土地の4分の1の持分を贈与し,同月16日,その旨の登記手続がなされた。
以上により,和歌浦南の不動産については,原告と被告Y4が和歌浦南の土地の各2分の1の持分を有し,原告が和歌浦南の建物の所有権を有することになった。(甲4の1,4の2,乙41)
(4)原告の施設への入所等
原告は,平成22年9月7日,急性硬膜下血腫等を発症して××病院に入院し,同年11月17日以降,介護老人施設「Z荘」(以下「Z荘」という。)に入所している。(甲12,28)
(5)被告Y1社に対する和歌浦南の不動産の売却依頼
原告及び被告Y4は,平成22年12月,被告Y1社の事務所において,被告Y2及び被告Y3に対し,和歌浦南の不動産の売却を依頼し,平成23年2月2日,被告Y1社との間で,和歌浦南の不動産の売買の媒介を被告Y1社に依頼する旨の専属専任媒介契約を締結した。
原告は,被告Y1社に和歌浦南の不動産の売却の協力を依頼した頃,被告Y1社に対し,契約の諸費用に充てるためとして25万円を預けた。(甲1,乙1,47)
(6)和歌浦南の不動産の売買契約の締結等
原告及び被告Y4は,被告Y1社の媒介により,平成23年2月10日,C(以下「C」という。)との間で,代金2150万円で和歌浦南の不動産をCに売却する旨の売買契約を締結した(以下「本件売買契約」という。)。なお,上記売買代金の内訳は,和歌浦南の土地が2150万円,和歌浦南の建物が0円であった。
被告Y4は,原告から和歌浦南の不動産の売却代金の管理及び売却代金からの必要経費等の支払を委任されており,平成23年2月10日,Cから手付金200万円及び和歌浦南の不動産の固定資産税20万0518円の支払を受け,同年3月8日,紀陽銀行和歌浦支店において,Cから残代金のうち1750万円の支払を受けた。(甲2,3,17,18,20,乙47,48)
(7)Bの転居等
B及びその家族は,原告及び被告Y4が和歌浦南の不動産を売却することになったため,和歌浦南の建物から和歌浦中の建物に転居することになり,平成23年3月上旬,被告Y1社に家財の搬入・搬出等をしてもらい,和歌浦南の建物から和歌浦中の建物に転居した。
Bは,和歌浦中の建物に転居する前の平成23年2月,原告及び被告Y4との間で和歌浦中の土地のAの共有持分(全体の2分の1)をBが取得する旨の遺産分割協議を行うとともに,原告から和歌浦中の土地の原告の共有持分(全体の2分の1)及び和歌浦中の建物の所有権の贈与を受け,和歌浦中の不動産につき自己への所有権移転登記手続をした。(乙2,3)
(8)和歌浦南の不動産の売却代金の精算
ア 被告Y4は,平成23年3月8日,Cから和歌浦南の不動産の売却代金の支払を受けた後,被告Y1社の事務所を訪れ,被告Y3から別紙「X様Y4様最終清算書」(以下「本件清算書」という。)と同じ内容の手書きのメモに基づいて原告及び被告Y4の負担する経費等に関する説明を受け,被告Y3に対し,説明を受けたとおりの金員を支払い,同月26日,被告Y3から本件清算書の交付を受けた。
ただし,本件清算書では,原告と被告Y4がそれぞれ譲渡税分として各215万円を預けたという記載になっているが,この金員を預けたのは原告だけであり,被告Y4は預けていない。
また,本件清算書の「引渡し時の支払い分」の200万円については,和歌浦南の不動産の引渡時にCから被告Y3に支払われ,その後,原告が被告Y3からこれを受け取った。(甲1,12,乙48)
イ 被告Y1社は,平成23年3月8日,被告Y4が支払った上記金員から,本件清算書記載の仲介料として80万3200円,「コンサルティング及び管理料」(以下「コンサルティング料」という。)として304万5000円,「X様家屋内(家財の搬出,廃材処分費)」(以下「和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費」という。)として125万円,「B様引越し費用」(以下「Bの引越費用」という。)として39万9000円,「引渡し証書費用1(土地)」(以下「和歌浦南の土地の証書費用」という。)として1万3800円,「引渡し証書費用2(建物)」(以下「和歌浦南の建物の証書費用」という。)として1万3800円,契約書印紙として1万5000円,別途(譲渡税分)預かり金(以下「譲渡税の預り金」という。)として215万円を受け取った。
また,被告Y3は,同日,被告Y4が支払った上記アの金員から,本件清算書記載の「Y3への支払い分」(以下「本件謝礼金」という。)として100万円を受け取った。
被告Y1社及び被告Y3が受け取った上記金員について,原告と被告Y4が負担した額は本件清算書に記載のとおりである。(甲1)
(9)被告Y2及び被告Y3の役割
和歌浦南の不動産の売却に関する本件清算書に記載の各業務は,被告Y1社の代表者である被告Y2及び被告Y2から指示を受けていた被告Y3が担当していたものである。(弁論の全趣旨)
(10)被告Y3の原告に対する説明
被告Y3は,平成23年3月23日,Z荘を訪れ,原告に対し,本件清算書を示して和歌浦南の不動産の売却に関して原告が負担する経費等について
説明し,最終的な原告の取得額が215万3718円となることを伝えた。(甲1,乙22の1,22の2)
(11)被告Y4の原告に対する送金
被告Y4は,被告Y3から指示を受け,平成23年3月24日,原告の銀行口座に215万3298円(215万3718円から手数料420円を控除した額)
を送金した。(乙48)
(12)原告による訴訟提起等
原告は,平成24年4月12日,原告が負担したコンサルティング料203万円,和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費125万円,Bの引越費用39万9000円,和歌浦南の土地の証書費用6900円,和歌浦南の建物の証書費用1万3800円,本件清算書記載の「Bさん登記費用(和歌浦中の所有権移転分)」(以下「和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用」という。)の28万8000円,譲渡税の預り金215万円(以下,これらを併せて「本件コンサルティング料等」という。)及び本件謝礼金50万円の合計663万7700円及び弁護士費用66万3000円の損害を受けたとして,被告Y1社ら各自に対し,上記合計730万0700円及びこれに対する平成23年3月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める内容の第1事件の訴訟を提起した。
被告Y1社は,平成24年5月18日,訴訟代理人を通じて,原告に対し,譲渡税の預り金215万円を返還した。
原告は,平成26年9月9日,被告Y4に対し,第2事件の訴訟を提起し,同月10日,第1事件について,Bの引越費用39万9000円のうち15万円及び譲渡税の預り金215万円の合計230万円の請求を減縮して請求額を500万0700円とするとともに,遅延損害金の起算日を平成23年3月24日とする内容の訴え変更申立書を提出した。
なお,上記訴え変更申立書による請求の減縮については,平成26年9月24日の本件弁論準備期日において被告Y1社らが同意した。(乙9,当裁判所に顕著)
2 争点
(1)被告Y1社による本件コンサルティング料等の取得につき被告Y2及び被告Y1社に不法行為が成立するか(争点1)
(2)被告Y3による本件謝礼金の取得につき被告Y3に不法行為が成立するか(争点2)
(3)被告Y1社による本件コンサルティング料等の取得及び被告Y3による本件謝礼金の取得につき被告らに共同不法行為が成立するか(争点3)
(4)被告Y4が本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったことが債務不履行に該当するか(争点4)
(5)原告の損害(争点5)
(6)原告が被告Y4に委任契約に基づき本件コンサルティング料等及び本件謝礼金に相当する金員の支払を求めることができるか(争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告Y1社による本件コンサルティング料等の取得につき被告Y2及び被告Y1社に不法行為が成立するか)について
(原告の主張)
(1)コンサルティング料
被告らは,被告Y1社が,原告及び被告Y4との間で,原告のBに対する貸金問題を処理して債権を回収すること,和歌浦南の不動産からBを退去させてこれを売却して現金化することを内容とするコンサルティング契約(以下「本件コンサルティング契約」という。)を締結し,別紙「コンサルタントの内容と詳細(金額含む)」(以下「本件コンサルタント業務説明書」という。)の「コンサルタント料及び管理費」の欄に記載された各業務を行ったと主張する。
しかし,原告は,被告Y1社との間で,本件コンサルティング契約を締結しておらず,被告Y1社が本件コンサルティング契約に基づいて実施したと主張している具体的業務に関する原告の認否反論は,本件コンサルタント業務説明書の「具体的な業務内容」欄の「原告の主張」の箇所に記載のとおりである。
また,原告が被告Y1社との間で本件コンサルティング契約を締結していたとしても,本件コンサルタント業務説明書の「売却物件(和歌浦南)
諸経費」のうち「和歌浦南調査費」及び「専属選任契約」の各欄に記載の行為については,和歌浦南の不動産の売却の仲介に含まれるものであるから,被告Y1社がこれらの行為に関して仲介料とは別にコンサルティング料として報酬を得ることは宅地建物取引業法46条2項に違反する。
そして,本件コンサルタント業務説明書の「売却物件(和歌浦南)諸経費」のうち「売却の諸経費」,「①家族内のトラブル解消」,「②B様退去交渉」,「③B様の家賃回収」及び「④B様の借金回収」の各欄に記載の行為については,被告Y1社が報酬を得る目的で業として法律事務を取り扱うものであるから,これらに関する本件コンサルティング契約は,弁護士法72条に違反する事項を目的とするものであり,公序良俗に違反して無効である。
したがって,被告Y1社が原告からコンサルティング料203万円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
(2)和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費
原告は,被告Y1社に対し,和歌浦中の不動産の家財や廃材の処分を依頼したが,被告Y1社がしたのは和歌浦中の建物内にあったゴミの一部の廃棄だけであるから,原告には被告Y1社が取得した和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費を支払う義務がない。
したがって,被告Y1社が原告から和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費125万円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
(3)Bの引越費用
原告は,被告Y1社に対し,和歌浦南の建物から和歌浦中の建物へのBの引越しの手配を依頼したが,その引越しは15万円程度の費用でできるものであるから,被告Y1社が取得した39万9000円と15万円の差額である24万9000円については原告に支払義務がない。
したがって,被告Y1社が原告から上記24万9000円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
(4)和歌浦南の不動産の証書費用
原告が和歌浦南の不動産の証書費用を負担する理由がなく,原告には支払義務がない。
したがって,被告Y1社が原告から和歌浦南の不動産の証書費用2万0700円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
(5)和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用
被告Y1社は,Bから和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用として28万8000円を受け取っているから,原告から更に同費用を徴収することはできず,原告には支払義務がない。
したがって,被告Y1社が原告から和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用28万8000円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
(6)譲渡税の預り金
被告Y1社は,和歌浦南の不動産の譲渡税を支払う意思がないにもかかわらず,譲渡税を支払うなどと虚偽の説明をして原告から215万円を徴収したものである。
したがって,被告Y1社が原告から譲渡税の預かり金として215万円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
(7)被告らは,原告が,平成23年3月23日,被告Y3から原告が負担する本件コンサルティング料等について説明を受け,その内容について納得した上で合意していると主張する。
しかし,原告は,平成22年9月に急性硬膜下血腫等を発症してから平成23年4月11日に手術を受けるまでの間は,意思能力が欠如していたか少なくとも著しく低下した状況であった上,平成23年3月23日になされた原告と被告Y3の会話の録音内容からしても,原告が本件コンサルティング料等を負担することに同意したとはいえない。
そして,被告Y3は,同日,原告に対し,本件コンサルティング料等に関して領収書が全部あるなどという虚偽の事実を述べて同意を求めていることからすると,仮に,原告が本件コンサルティング料等を負担することを同意したとしても,被告Y3の詐欺行為に基づくものであるから,被告Y1社及び被告Y3による本件コンサルティング料等の取得を正当化するものではない。
また,被告Y1社が取得した本件コンサルティング料については,公序良俗に違反する無効な契約によるものであるから,その支払を原告が同意したからといって,不法行為に該当することが否定されるわけではない。
(被告らの主張)
(1)コンサルティング料
被告Y1社は,平成22年12月,原告及び被告Y4との間で,原告のBに対する貸金問題を処理して債権を回収すること,和歌浦南の不動産からBを退去させてこれを現金化することを内容とする本件コンサルティング契約を締結し,本件コンサルタント業務説明書の「コンサルタント料及び管理費」の欄に記載された各業務を行った。なお,本件コンサルタント業務説明書は,被告Y1社が清算金額を決めた際に内部資料として作成したものである。
被告Y1社が本件コンサルティング契約に基づいて行った業務の内容は,本件コンサルタント業務説明書の「具体的な業務内容」欄の「被告の主張」の箇所に記載のとおりであるから,被告Y1社が原告及び被告Y4から受け取ったコンサルティング料304万5000円は相当な金額である。
なお,原告は,被告Y4が負担すべきコンサルティン料のうち50万7500円を負担しているが,これは原告と被告Y4の合意に基づくものである。
原告は,本件コンサルティング契約の一部が弁護士法72条に違反すると主張するが,被告Y1社が報酬を得て法律事務を取り扱ったのは本件コンサルティング契約だけであり,業として本件コンサルティング契約に基づく業務を行ったものではないから,同条には違反しない。
(2)和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費
被告Y1社は,原告の依頼を受けて和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分を行ったが,和歌浦中の不動産の前面道路の幅が2mと狭くて2トン車が入れなかったため,搬出する廃材等をいったん軽トラックに積み込んで2トン車に積み替える作業が必要になったこと,庭木の伐採や土間のコンクリート工事が追加されたことなどから,作業時間が大幅に増えた。
そのため,被告Y1社は,平成23年2月16日から同月19日,同月21日及び同月22日にかけて和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分を行ったものであり,125万円という費用は正当な金額である。
(3)Bの引越費用
被告Y1社は,原告の依頼を受けて和歌浦南の建物から和歌浦中の建物へのBの引越しを行ったが,作業を開始するまでに梱包作業が行われていなかったこと,和歌浦中の不動産の前面道路の幅が2mと狭かったため,軽トラックによる搬出搬入を要したことなどから,作業時間が大幅に増えた。
そのため,被告Y1社は,平成23年3月6日から同月9日にかけてBの引越作業を行ったものであり,39万9000円という費用は正当な金額である。
(4)和歌浦南の不動産の証書費用
被告Y1社は,司法書士に対し,和歌浦南の不動産の売渡証書の作成を依頼し,その費用として和歌浦南の土地につき1万3800円,和歌浦南の建物につき1万3800円を支払ったから,このうち和歌浦南の不動産の原告の持分(土地の2分の1,建物の全部)に対応する2万0700円については原告が負担すべきものである。
(5)和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用
被告Y1社は,Bから和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用28万8000円を受け取っており,原告からは受け取っていない。
(6)譲渡税の預り金
被告Y1社は,原告の承諾に基づいて,和歌浦南の不動産の売買にかかる税務処理の費用として215万円を預かったものであり,原告に虚偽の説明をしていない。
(7)以上に加え,原告は,平成23年3月23日,被告Y3から本件コンサルティング料等の原告の負担分について説明を受け,負担することを合意したのであるから,被告Y1社が原告から本件コンサルティング料等を取得したことは不法行為に該当しない。
2 争点2(被告Y3による本件謝礼金の取得につき被告Y3に不法行為が成立するか)について
(原告の主張)
原告は,被告Y3に謝礼を支払う旨の約束をしておらず,原告が負担した被告Y3への謝礼金50万円については,原告に無断で徴収されたものである。
また,被告Y3への本件謝礼金は,被告Y3が被告Y1社とともに業として法律事務を取り扱ったことに対する報酬であるから,原告が被告Y3に謝礼金を支払う旨を合意していたとしても,弁護士法72条に違反する事項を目的とする合意であるから,公序良俗に違反して無効である。
したがって,被告Y3が原告から本件謝礼金50万円を取得したことは原告に対する不法行為に該当する。
(被告らの主張)
原告は,被告Y4との間で,それぞれ50万円ずつ負担して合計100万円を被告Y3に謝礼として支払うことを相談して決め,被告Y4を通じて原告の負担分として50万円を支払ったものであるから,被告Y3による本件謝礼金の取得は原告に対する不法行為に該当しない。
3 争点3(被告Y1社による本件コンサルティング料等の取得及び被告Y3による本件謝礼金の取得につき被告らに共同不法行為が成立するか)について
(原告の主張)
被告Y2,被告Y3及び被告Y4は,共謀の上,原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から本件コンサルティング料等及び本件謝礼金の合計663万7000円を被告Y1社及び被告Y3に取得させたのであるから,被告らには横領又は背任による共同不法行為が成立する。
仮に,被告Y4が被告Y1社らと共謀していないのであれば,被告Y2及び被告Y3は,共謀の上,原告の代理人である被告Y4に対し,原告が本件コンサルティング料等及び本件謝礼金の支払義務を負っていることを装い,原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から本件コンサルティング料等及び本件謝礼金として合計663万7000円を支払わせたことになるから,被告Y1社らには詐欺の共同不法行為が成立する。
(被告らの主張)
否認する。
上記1,2の(被告らの主張)のとおり,そもそも被告Y1社による本件コンサルティング料等の取得及び被告Y3による本件謝礼金の取得は原告に対する不法行為に該当しない。
4 争点4(被告Y4が本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったことが債務不履行に該当するか)について
(原告の主張)
被告Y4は,原告との間で,原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金の管理及び売却代金からの必要経費等の支払に係る委任契約を締結していたところ,原告が本件コンサルティング料等及び本件謝礼金の支払義務を負わないにもかかわらず,漫然と原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から本件コンサルティング料等及び本件謝礼金をそれぞれ支払ったものであるから,委任契約上の債務不履行がある。
(被告Y4の主張)
被告Y4は,原告の依頼に基づいて,本件コンサルティング料等及び本件謝礼金をそれぞれ支払ったものであるから,被告Y4に債務不履行はない。
5 争点5(原告の損害)について
(原告の主張)
(1)本件コンサルティング料等及び本件謝礼金 433万7700円
原告は,被告らの共同不法行為により,原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から支払われたコンサルティング料203万円,和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費125万円,Bの引越費用のうち24万9000円,和歌浦南の不動産の証書費用2万0700円,和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用28万8000円,譲渡税の預り金215万円及び本件謝礼金50万円の合計648万7700円の損害を受けたが,第1事件の訴訟提起後に被告Y1社から譲渡税の預り金215万円の返還を受けたから,残額は433万7700円となる。
(2)弁護士費用
ア 被告Y1社らの関係 66万3000円原告は,弁護士に依頼して被告Y1社らに対する第1事件の訴訟を提起したものであるが,被告Y1社から譲渡税の預り金215万円の返還を受けたのは第1事件の訴訟提起後であり,この譲渡税の預り金215万円に関しても弁護士費用を支払う義務があるから,被告Y1社らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は66万3000円とすべきである。
イ 被告Y4の関係 40万円原告は,弁護士に依頼して被告Y4に対する第2事件の訴訟を提起したものであり,被告Y4の不法行為又は債務不履行と相当因果関係のある弁護士費用の損害は40万円を下らない。
(被告らの主張)
原告の上記主張は否認ないし争う。
6 争点6(原告が被告Y4に委任契約に基づき本件コンサルティング料等及び本件謝礼金に相当する金員の支払を求めることができるか)について
(原告の主張)
被告Y4は,原告との間で,原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金の管理及び売却代金からの必要経費等の支払に係る委任契約を締結していたのであるから,原告に対し,同委任契約に基づき,原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から売却に伴う必要費用を支払った後の残金を引き渡す義務を負っている。
被告Y4は,原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったが,このうち648万7700円(本件コンサルティング料等及び本件謝礼金の合計額からBの引越費用のうち15万円を控除した金額)は支出することが許されないものであるから,上記委任契約に基づき,原告に対し,上記648万7700円から被告Y1社が返還した譲渡税の預り金215万円を控除した残金である433万7700円を引き渡す義務がある。
(被告Y4の主張)
被告Y4は,原告の依頼に基づいて,本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったものであるから,これを原告に引き渡す義務はない。
第4 当裁判所の判断
1 事実認定
前提事実並びに証拠(甲12,乙1,24~26,48,証人B,被告Y2本人,被告Y3本人,被告Y4本人及び各項末尾に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)被告Y3は,被告Y1社などの複数の業者に勤務して不動産取引に関する業務に関わってきた者であり,平成22年12月頃からは個人で不動産取引等に関する事業を開始し,被告Y1社から依頼を受けて業務を行うこともあった。
(2)被告Y4は,平成22年7月21日に死亡した母Aの遺言により和歌浦南の土地の共有持分を取得した後,同土地を売却したいと考えるようになり,原告にその旨を相談して了承を得た。
原告及び被告Y4は,平成22年12月10日,被告Y1社の事務所を訪れ,被告Y2及び被告Y3に対し,和歌浦南の不動産を売却したいが,和歌浦南の建物にはBとその家族が居住しており,和歌浦南の土地の一部については駐車場として第三者に賃貸していることや,原告がBにお金を貸しているが返してもらえないことなどを説明し,和歌浦南の建物からBとその家族を退去させて和歌浦南の不動産を売却すること,原告のBに対する貸金の回収などを依頼した。
被告Y1社は,原告及び被告Y4の上記依頼を引き受け,被告Y2と被告Y3が協議して処理方針を決め,具体的な活動については主に被告Y3が行うようになった。
(3)被告Y3は,平成22年12月14日付けの和歌浦南の不動産の売却に関する物件概要書を作成し,原告にこれを交付して和歌浦南の不動産の売却に関する業務について説明した。
同概要書には,和歌浦南の不動産の売却に要する経費として,「駐車場退去交渉費用・・・30万円」,「B様退去費一式・・・一般的退去費100万円」,「B様退去交渉費用・・Y1社支払い分30万円」などと記載され,追伸として「現状では,B様が建物に住んでいます。親子間の賃貸の場合,裁判所においては使用貸借とみなされ,B様の言い分,権利(相続権等)が強く,裁判に持ち込んでもX様外1名(所有者)が負けるケースが多い。(X様からの借入金も親子関係,取り返すことは難しい)法律においては,親子間の紛争は,話し合いで解決することが一般的です。」などと記載されていた。(乙39)
(4)被告Y3は,平成22年12月15日,和歌浦南の建物を訪れ,Bに対し,原告と被告Y4から和歌浦南の不動産の売却の依頼を受けているので,和歌浦南の建物から退去してほしいと伝えるともに,原告からの借入金の返済などを求めた。
Bは,被告Y3に対し,和歌浦南の建物からの退去に関しては,和歌浦中の建物を片付けてもらえれば和歌浦南の建物から和歌浦中の建物に転居するなどと伝えたが,原告からの借入金については,返済した分があるし,母Aの相続の放棄により,現時点では残っていないなどと説明した。
被告Y3は,同月16日,原告及び被告Y4に対し,Bとの上記交渉状況について説明した。
(5)原告,被告Y2,被告Y3,被告Y4及びBは,平成23年1月13日,Z荘に集まり,和歌浦南の不動産を売却するためにBとその家族が和歌浦南の建物から和歌浦中の建物に転居することを前提に,その転居費用やBが原告に支払うことになる和歌浦中の建物の賃料に関する協議を行った。
(6)その後,被告Y3は,原告及び被告Y4に代わってBとの交渉を重ね,Bが原告から立退料として200万円を受けとることや,転居先の和歌浦中の不動産の所有権をBが取得することなどの合意を取り付けた。
そして,Bは,平成23年2月,原告及び被告Y4との間で,和歌浦中の土地のAの共有持分(全体の2分の1)をBが取得する旨の遺産分割協議書を作成するとともに,原告との間で,原告から和歌浦中の土地の原告の共有持分(全体の2分の1)及び和歌浦中の建物の所有権の贈与を受ける旨の贈与契約書を作成し,これに基づいて和歌浦中の不動産の所有権移転登記手続をした。なお,この遺産分割協議書及び贈与契約書を手配したのは被告Y3である。(乙2,3)
(7)原告及び被告Y4は,平成23年2月2日,被告Y1社との間で,和歌浦南の不動産の売買の媒介を被告Y1社に依頼する旨の専属専任媒介契約を締結した。なお,同契約締結時に作成された専属選任媒介契約書には,約定報酬額について
「売買契約金額×3%+6万円(略式計算)」に消費税(5%)を加算した金額とする旨が記載されていた。(乙47)
(8)原告及び被告Y4は,被告Y1社の媒介により,平成23年2月10日,Cとの間で,代金2150万円(内訳は和歌浦南の土地が2150万円,和歌浦南の建物が0円。)で和歌浦南の不動産をCに売却する旨の本件売買契約を締結し,被告Y1社から同日付けの本件売買契約に関する重要事項説明書の交付を受けた。同重要事項説明書には,仲介手数料が74万0250円(内消費税等相当額3万5250円)であると記載されていた。
被告Y4は,同日,Cから本件売買契約の手付金200万円及び和歌浦南の不動産の固定資産税20万0518円の支払を受けた。(甲2,3,17,20)
(9)被告Y3は,平成23年2月11日,和歌浦南の土地の駐車場を閉鎖する旨の「緊急のご連絡」と題する駐車場の利用者宛ての書面を作成し,これをBに渡して駐車場の利用者に配布してもらった。なお,同書面には連絡先として被告Y3の氏名・住所・電話番号等が記載されていた。(乙38)
(10)被告Y1社は,原告の依頼に基づき,平成23年2月16日頃,Bとその家族が転居するために和歌浦中の不動産の家財の搬出や廃材の処分を行うとともに,同不動産の庭木の伐採や土間のコンクリート工事を行った。(乙12)
(11)被告Y3は,平成23年2月21日,原告の遺産の分与に関する提案を記載した「○○家遺産分与(案)」と題する書面を作成し,被告Y4及び原告にこれを交付した。(乙10)
(12)被告Y1社は,原告の依頼に基づき,平成23年3月6日頃,和歌浦南の建物から和歌浦中の建物へのB及びその家族の引越作業を行った。
(13)被告Y1社は,D司法書士に依頼してCに交付するための和歌浦南の不動産の売渡証書を作成してもらい,平成23年3月8日,同司法書士に対し,その作成費用として和歌浦南の土地及び同建物につきそれぞれ1万3800円を支払った。(乙7,8)
(14)被告Y4は,平成23年3月8日,紀陽銀行和歌浦支店において,Cから残代金のうち1750万円の支払を受け,その後,被告Y3の運転する自動車で被告Y1社の事務所を訪れた。
そして,被告Y4は,被告Y1社の事務所において,被告Y3から本件清算書と同じ内容のメモに基づいて原告及び被告Y4の負担金に関する説明を受け,被告Y3に対し,原告の負担分として,仲介料40万1600円,コンサルティング料203万円,和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費125万円,Bの引越費用39万9000円,和歌浦南の土地の証書費用6900円,和歌浦南の建物の証書費用1万3800円,被告Y3への本件謝礼金50万円,契約証書印紙7500円及び譲渡税の預り金215万円を支払った。(甲1)
(15)Cは,平成23年3月10日頃,和歌浦南の不動産の引渡しを受け,被告Y3に対し,本件売買契約の残金200万円を交付した。
原告は,被告Y3から上記200万円の交付を受け,その後,Bに対し,和歌浦南の不動産からの立退料としてこの200万円を支払った。(甲19)
(16)被告Y3は,平成23年3月14日,Bから和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用として28万8000円を受け取り,これを被告Y1社に交付した。(甲13)
(17)被告Y3は,平成23年3月23日,Z荘を訪れ,原告に対し,本件清算書を示しながら,原告が負担するコンサルティング料等や謝礼金の内容を説明した。
原告は,その際,原告の負担分については被告Y4が決めればいいので口を出さないという趣旨の発言をし,被告Y3からの個別の説明に対しては「ああ」,「うん」などと返答し,その説明内容に明確な異議を述べなかった(原告は,被告Y3の説明の疑問点について質問をするなどしており,意思能力が欠如した状態であったとは認められない。)。(乙22の1,22の2)
(18)原告は,平成24年2月21日,和歌浦南の不動産の譲渡所得税63万4600円を納付した。(甲8)
(19)原告の依頼を受けた畑純一弁護士(以下「畑弁護士」という。)は,平成24年3月5日,被告Y1社に対し,和歌浦南の不動産の売却代金から原告が負担した本件コンサルティング料等に関し,「コンサルティング及び管理料とはなんでしょうか。また,このような項目を売買代金から差し引くことができる法律上の根拠も併せてご説明ください。」,「預かり金2,150,000円について,どうしてこれを貴社が預かったのか,どうして返還に応じないのかについて,ご説明ください。なお,当方はすでに譲渡所得税を税務署に納付済みです。」などと記載した内容証明郵便を送付し,同月6日に同内容証明郵便が被告Y1社に配達された。(甲9の1,9の2)
(20)原告は,被告Y1社から上記内容証明郵便に対する返答がなかったため,平成24年4月12日,和歌山地方裁判所に対し,原告が負担したコンサルティング料等の合計663万7700円及び弁護士費用66万3000円の損害を受けたとして,被告Y1社ら各自に対し,上記合計730万0700円及びこれに対する平成23年3月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める第1事件の訴訟を提起した。
被告Y1社は,平成24年5月18日,訴訟代理人を通じて,原告に対し,譲渡税の預り金215万円を返還した。
2 争点1(被告Y1社による本件コンサルティング料等の取得につき被告Y2及び被告Y1社に不法行為が成立するか)について
(1)コンサルティング料について
ア 被告らは,被告Y1社が,原告及び被告Y4との間で,原告のBに対する貸金問題を処理して債権を回収すること,和歌浦南の不動産からBを退去させてこれを現金化することを内容とする本件コンサルティング契約を締結し,本件コンサルタント業務説明書の「コンサルタント料及び管理費」の欄に記載された各業務を行ったとして,被告Y1社が原告及び被告Y4から受け取ったコンサルティング料304万5000円は相当な金額であると主張する。
イ 上記1の認定事実によれば,被告Y1社は,平成22年12月10日,原告及び被告Y4との間で,被告らが主張する内容の本件コンサルティング契約を締結し,その後,被告Y1社の代表者の被告Y2から指示を受けた被告Y3が,Bとの間で,和歌浦南の建物からの退去や原告からの借入金の返済等に関する交渉を行い,これにより,Bとその家族が和歌浦南の建物から和歌浦中の建物に転居すること,原告からBに立退料200万円を支払うこと,和歌浦中の不動産の所有権をBが取得することなどの合意がされたことが認められるが,本件コンサルティング契約の内容及びこれに基づく被告Y3の上記行為は,不動産の明渡しや貸金問題という法律事件に関して法律事務を行うことにほかならない。
また,証拠(被告Y2本人)によれば,被告Y1社は,本件のほかにも,仲介物件に賃借人がいる場合に立退交渉を行うことがあり,立退交渉が成功した場合には依頼者から「お世話料」という名目で報酬を受け取っていることが認められるから,被告Y1社は反復的に報酬を得る目的で法律事務を取り扱っているというべきである。
そして,上記1で認定のとおり,被告Y3作成の平成22年12月14日付けの物件概要書においても,交渉費用が計上されていることからすると,被告Y1社が当初から報酬を得る目的で本件コンサルティング契約を締結したことは明らかである。
そうすると,被告Y1社による本件コンサルティング契約の締結及び同契約に基づく被告Y3による上記交渉等は,報酬を得る目的で,法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業とするものであるから,強行法規である弁護士法72条に違反するというべきである。
また,和歌浦南の不動産の売却の媒介業務に関して被告Y1社が取得することのできる報酬の上限は74万0250円([2150万円×0.03+6万円]×1.05(消費税)=74万0250円)(宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額を定める告示・昭和45年10月23日建設省告示第1552号参照)であるところ,被告Y1社は,原告及び被告Y4から仲介料として報酬の上限を超える合計80万3200円を取得しているのであるから,本件コンサルティング契約に基づく業務に和歌浦南の不動産の売却の媒介業務も含まれるのであれば,強行法規である宅地建物取引業法46条2項にも違反することになる。
したがって,本件コンサルティング契約は公序良俗に違反するものとして無効というべきである(民法90条)。
ウ ところで,本件コンサルタント業務説明書には,コンサルティング料の内訳として「和歌浦南調査費」として10万5000円,「専属選任契約」として19万4250円,「⑤和歌浦中家財整理」として13万6500円,「⑥管理業務」として27万7950円の金額が計上されているところ,これらの業務に関しては弁護士法72条違反の問題は生じない。
しかしながら,被告Y2は,本人尋問において,原告代理人から「⑥管理業務」のうちの「トータル管理費16万4550円」について説明を求められた際,「それは僕もちょっと認識してませんね。
それは。トータル管理料ってなんですのん。」と供述しており(被告Y2本人調書19頁),コンサルティング料を取得した被告Y1社の代表者の被告Y2自身,その内訳を把握していない。そして,本件コンサルタント業務説明書には「担当:Y3
平成24年3月」と記載されていること,この時期は原告の依頼を受けた畑弁護士が被告Y1社に内容証明郵便を送付してコンサルティング料について説明を求めた時期であることからすると,本件コンサルタント業務説明書は,被告Y1社が畑弁護士からの上記内容証明郵便を受け取った後に被告Y3に指示して作成させたものと推認される(被告らは被告Y1社が清算金額を決めた際に内部資料として本件コンサルタント業務説明書を作成したと主張するが,同主張は採用できない。)。
そうすると,本件コンサルタント業務説明書は,被告Y3が事後的にコンサルティング料の内訳を考えて作成したものと推認され,その内容が具体的な根拠を伴うものとは到底考えられないから,本件コンサルタント業務説明書の記載を前提とするのは相当でない。
この点は措いて本件コンサルタント業務説明書の内訳に基づいて検討しても,まず,「和歌浦南調査費」及び「専属選任契約」については,和歌浦南の不動産の売却の媒介業務に関するものであるところ,上記のとおり,被告Y1社は,仲介料として報酬の上限を超える金額を受領しているのであるから,これに加えてコンサルティング料として報酬を受領することは許されない(なお,被告Y1社が媒介報酬とは別に業務に要した実費分を請求することができるとしても,被告Y1社が実費分を明らかにしていない以上,実費分については被告Y1社が報酬の上限額を超えて取得した仲介手数料に含まれるものと解するのが相当である。)。
また,「⑤和歌浦中家財整理」の13万6500円についても,被告Y1社がコンサルティング料とは別に取得した和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費に含まれるものと考えられるし,本件清算書では和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費125万円全額を原告が負担するとされているにもかかわらず,本件コンサルタント業務説明書では「⑤和歌浦中家財整理」の半額を被告Y4が負担するとなっているのも不自然であるから,本件コンサルタント業務説明書の「⑤和歌浦中家財整理」の13万6500円は,二重請求あるいは架空の費用を計上したものと推認される。
そして,「⑥管理業務」についても,上記のとおり,そもそも被告Y2自身がその内容を把握していない上,被告Y1社に譲渡税の預り金を預けていない被告Y4がその管理費用を負担することになっている点も明らかに不自然であるから,これについても架空の費用を計上したものと推認される。
したがって,被告Y1社が取得したコンサルティング料203万円(原告負担分)については,その全てが公序良俗に反する本件コンサルティング契約に基づく報酬というべきである。
エ 以上によれば,被告Y1社が原告からコンサルティング料203万円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負うと解される。
なお,原告は,平成23年3月23日,被告Y3からコンサルティング料の説明を受けた際に異議を述べていないが,そもそも本件コンサルティング契約が公序良俗に違反する無効なものであるから,原告がコンサルティング料の負担を了承したからといって不法行為該当性が否定されるものではない。
(2)和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費
上記1のとおり,被告Y1社は,原告の依頼に基づき,平成23年2月16日頃,Bとその家族が転居するために和歌浦中の不動産の家財の搬出や廃材の処分を行うとともに,同不動産の庭木の伐採や土間のコンクリート工事を行い,その費用として125万円を取得していることが認められる。
この点,被告らは,和歌浦中の不動産の前面道路の幅が2mと狭くて2トン車が入れなかったため,搬出する廃材等をいったん軽トラックに積み込んで2トン車に積み替える作業が必要になったこと,庭木の伐採や土間のコンクリート工事が追加されたことなどから,作業時間が大幅に増えたと主張し,その費用が125万円になる旨の明細書(乙5。以下「本件明細書1」という。)を証拠として提出している。
しかしながら,証拠(甲11の1)によれば,和歌浦中の不動産の前面道路には2トン車が進入することは可能であることが認められるし,被告らが提出するBの引越費用に関する明細書(乙6。
以下「本件明細書2」という。)には軽トラックを使用した旨の記載があるが,本件明細書1には軽トラックを使用した旨の記載はないのであるから,軽トラックを使用したために作業時間が大幅に増えたという被告らの上記説明は信用できない。また,被告らは,被告Y1社が和歌浦中の土地にあった3本の庭木を伐採したことを示す図面(乙11)を提出しており,本件明細書1の内容もこれを前提としているものと解されるが,証拠(甲11の2,証人B)によれば,被告Y1社が伐採した庭木は1本だけであることが認められる。そうすると,本件明細書1は,被告Y1社が実際に行った作業内容を前提とするものではなく,架空の作業内容を前提として過大な費用を計上しているものと推認される。そして,被告Y1社が実際に行った作業の具体的内容は明らかでないが,被告Y1社が庭木を1本しか伐採していないにもかかわらず3本伐採したとして作業費を算出していることなどの事情を考慮し,被告Y1社が取得した125万円の約3分の1に相当する40万円については原告に支払義務があるが,これを超える85万円については原告に支払義務がないものと認めるのが相当である。
なお,原告は,平成23年3月23日,被告Y3から和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費が125万円になる旨の説明を受けた際に明確な異議を述べていないが,上記のとおり同金額は架空の作業内容を前提とする過大な金額であり,原告が被告Y1社の実際の作業内容を把握していたというわけでもないから,原告が被告Y3から説明を受けて明確な異議を述べなかったからといって,被告Y1社が和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費として過大な金額を取得したことの違法性が否定されるわけではない。
したがって,被告Y1社が原告から和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費として40万円を超える金額を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
(3)Bの引越費用
上記1のとおり,被告Y1社は,原告の依頼に基づき,平成23年3月6日頃,和歌浦南の建物から和歌浦中の建物へのB及びその家族の引越作業を行い,その費用として39万9000円を取得していることが認められる。
この点,原告は,和歌浦中の建物から和歌浦南の建物へのBとその家族の引越費用が15万円である旨の引越業者の見積書(甲15)を提出するが,被告らが提出するBの引越費用に関する本件明細書2によれば,被告Y1社が家財の引越作業だけでなく,和歌浦南の不動産の廃材処分もしていることが認められること,Bの引越費用に関しては被告Y1社が架空の作業を前提として請求をしていることを認めるに足りる具体的な証拠もないこと,引越費用については時期や業者によって変動が生じるものであることなどの事情を考慮すると,被告Y1社が取得した39万9000円という金額が過大なものとまで認めることはできない。
したがって,被告Y1社が原告からBの引越費用39万9000円を取得したことについては,原告に対する不法行為に該当するとは認められない。
(4)和歌浦南の不動産の証書費用
上記1のとおり,被告Y1社は,D司法書士に依頼してCに交付するための和歌浦南の不動産の売渡証書を作成してもらい,平成23年3月8日,同司法書士に対し,その作成費用として和歌浦南の土地及び同建物につきそれぞれ1万3800円を支払ったことが認められる。
そして,和歌浦南の不動産の原告の持分(土地の2分の1,建物の全部)により上記売渡証書の作成費用を割り付けると,原告の負担分は,和歌浦南の土地の売渡証書費用のうち6900円及び同建物の売渡証書費用1万3800円の全額の合計2万0700円となる。
したがって,被告Y1社が原告から上記合計の2万0700円を取得したことに問題があるとはいえず,これが不法行為に該当するとは認められない。
(5)和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用
被告らは,被告Y1社が原告から和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用28万8000円を取得したことを否認しているが,被告Y3作成に係る本件清算書では,原告が和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用として28万8000円を負担した旨の記載があり,被告Y4が原告に送金した最終的な金額も本件明細書に記載された原告の取得額215万3718円から手数料420円を控除した215万3298円であるから,被告Y1社は,本件清算書に記載のとおり,原告から和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用として28万8000円を取得したものと推認される。
そして,上記1のとおり,被告Y1社は,Bから和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用として28万8000円を受け取っており,原告から重ねて同費用を取得することは許されないから,被告Y1社が原告から和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用28万8000円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
(6)譲渡税の預り金
被告Y1社は,和歌浦南の不動産の譲渡所得税の預り金として,原告が取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から215万円を受領したものであるが,その後,被告Y1社が原告の譲渡所得税の申告手続を行っておらず,原告が自ら申告して譲渡所得税を納めていること,実際の譲渡所得税の額は63万4600円であり,被告Y1社が受領したのはその3倍以上の金額であること,被告Y1社は,第1事件の訴訟提起前,畑弁護士から原告が譲渡所得税を納付した旨が記載された内容証明郵便を受け取ったにもかかわらず,第1事件の訴訟提起がされるまで譲渡税の預り金を返還していないことからすれば,被告Y1社は,当初から,原告の譲渡所得税の申告手続をする意思がないにもかかわらず,これがあるかのように装って,原告から譲渡税の預り金名目で215万円を詐取したものと推認される。
したがって,被告Y1社が原告から譲渡税の預り金として215万円を取得したことについては,被告Y1社の代表者である被告Y2に不法行為が成立し,被告Y1社も会社法350条により不法行為責任を負う。
3 争点2(被告Y3による本件謝礼金の取得につき被告Y3に不法行為が成立するか)について被告Y3が原告から取得した本件謝礼金は,上記2(1)で検討したとおり,被告Y3が公序良俗に違反する本件コンサルティング契約に基づいて行った業務に対する報酬にほかならないから,原告の承諾があるからといって違法性が否定されるものではない。
したがって,被告Y3が原告から本件謝礼金50万円を取得したことについては,原告に対する不法行為が成立する。
4 争点3(被告Y1社による本件コンサルティング料等の取得及び被告Y3による本件謝礼金の取得につき被告らに共同不法行為が成立するか)について
(1)被告Y1社らについて
上記認定のとおり,和歌浦南の不動産の売却に関する本件清算書に記載された各業務については,被告Y2と被告Y3が協議して処理方針を決め,具体的な活動については主に被告Y3が行っていたものであり,被告Y2及び被告Y3は一体となって上記2,3で認定した不法行為を行ったというべきであるから,被告Y2及び被告Y3には共同不法行為が成立し,被告Y2が代表を務める被告Y1社も会社法350条により共同不法行為責任を負うと解される。
(2)被告Y4について
被告Y4は,原告から和歌浦南の不動産の売却代金の管理及び売却代金からの必要経費等の支払を委任されていたものであるが,自らコンサルティング料や本件謝礼金を負担しているのであって,原告と同様に被害者の立場にあるといえ,本件コンサルティング料等及び本件謝礼金の支払義務がないことを知りながら,被告Y3や被告Y2と共謀して原告にこれらを負担させたとは認められない。
そして,原告は,平成23年3月23日に被告Y3から原告が負担する本件コンサルティング料等及び本件謝礼金の内容の説明を受けた際,原告の負担分については被告Y4が決めればいいので口を出さないという趣旨の発言をし,被告Y3の説明
内容に異議を述べていなかったのであるから,被告Y4が本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったことは当時の原告の意思に基づくものであったといえ,かかる状況においてこれらの金員を支払った被告Y4に過失があると認めるのも相当でない。
したがって,被告Y4が原告の取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったことが原告に対する不法行為に該当するとは認められない。
5 争点4(被告Y4が本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったことが債務不履行に該当するか)について
被告Y4は,原告から和歌浦南の不動産の売却代金の管理及び売却代金からの必要経費等の支払を委任されていたものであるが,上記4(2)で検討したところからすると,被告Y4が原告の取得すべき和歌浦南の不動産の売却代金から本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったことが,原告との間の委任契約上の義務に違反する債務不履行に該当するとまで認めることはできない。
6 争点5(原告の損害)について
(1)本件コンサルティング料等及び本件謝礼金相当額 366万8000円
上記2ないし4の検討によれば,原告は,被告Y1社らの共同不法行為により,コンサルティング料203万円,和歌浦中の不動産の家財の搬出・廃材処分費のうち85万円,和歌浦中の不動産の所有権移転登記費用の28万8000円,譲渡税の預り金215万円及び被告Y3への本件謝礼金50万円の合計581万8000円の損害を受けたものと認められるが,第1事件の訴訟提起後に被告Y1社から譲渡税の預り金215万円の返還を受けているから,残額は366万8000円となる。
(2)弁護士費用 45万円
弁論の全趣旨によると,原告が第1事件の訴訟の提起・追行について原告訴訟代理人に委任したことが認められ,上記(1)の損害額に加え,本件訴訟の内容・審理の経過,被告Y1社が譲渡税の預り金を返還したのが第1事件の訴訟提起後であることなどの一切の事情を考慮すると,被告Y1社らの共同不法行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用は45万円と認めるのが相当である。
7 争点6(原告が被告Y4に委任契約に基づき本件コンサルティング料等及び本件謝礼金に相当する金員の支払を求めることができるか)について
被告Y4は,原告との間で,和歌浦南の不動産の売却代金の管理及び売却代金からの必要経費等の支払に関する委任契約を締結していたものであるが,上記4(2)で検討したとおり,被告Y1社及び被告Y3に本件コンサルティング料等及び本件謝礼金を支払ったことが当時の原告の意思に基づくものであったことからすると,後になって原告が同委任契約に基づき被告Y4に本件コンサルティング料等及び本件謝礼金に相当する金員の支払を求めることはできないと解される。
第5 結語
以上によれば,原告の請求は,被告Y1社ら各自に対し,不法行為に基づき,損害金411万8000円(上記第4・6(1),(2)の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成23年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この限度で認容し,原告の被告Y1社らに対するその余の請求及び原告の被告Y4に対する請求にはいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
別紙
物件目録<省略>
X様Y4様最終清算書<省略>
コンサルタントの内容と詳細(金額含む)<省略>