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和歌山地方裁判所 平成6年(行ク)1号 決定 1994年3月18日

申立人

山本千修(X1)

山本照美(X2)

山本艶子(X3)

右申立人ら代理人

山崎和友

阪本康文

池内清一郎

相手方

和歌山県収用委員会(Y)

右代表者会長

谷口昇二

右指定代理人

島田睦史

嶋田昌和

松本悦夫

栩野耕一

山岡勢児

山本幸生

南和實

東利明

〆木新悟

理由

第一  当事者が求めた裁判

一  申立の趣旨

1  相手方が、申立人らに対し、別紙物件目録記載の物件について、平成五年一二月一五日になした収用裁決の処分は、和歌山地方裁判所平成五年行ウ第一二号土地収用裁決取消請求事件の判決が確定するまでその効力を停止する。

2  申立費用は相手方の負担とする。

二  申立の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二  当事者の主張

申立人の主張は、別紙行政処分執行停止申立書及び平成六年三月九日付意見書のとおりであり、相手方の主張は別紙平成六年三月七日付意見書のとおりである。

第三  当裁判所の判断

一  裁決処分の存在

本件疎明資料によると、起業者和歌山市の申立てにより、相手方が、別紙物件目録記載の物件について、平成五年一二月一五日付で、申立人らに対して、権利取得の時期を平成六年一月一三日、明渡の時期を同年二月二八日として、その権利を取得し(権利取得裁決)、明け渡すべき旨の裁決(明渡裁決)(以下、両者を合わせて「本件処分」という。)をしたことが認められる。

二  本件申立について

行政事件訴訟法二五条二項ただし書には、「処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、することができない。」と規定されている。同条二項に規定する「執行停止」は、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要がある場合に認められるものであるから、ある処分の効力の停止を求めても、当該処分に後続する一連の処分の執行又は手続の続行の停止によって目的を達することができる場合には、右当該処分の効力の停止をすることができないと解するのが相当である。本件処分である権利取得裁決及び土地明渡裁決について、これらに後続する一連の処分として行政代執行法所定の代執行手続が考えられる。そこで、右代執行手続の続行を停止することにより本件処分の効力停止の目的が達成できないかについて以下検討する。

土地収用法によれば、権利取得裁決は、起業者において、その裁決に定められた時期において、権利を取得するという観念的な効力を有するに過ぎない(同法一〇一条)が、前記のとおり本件処分においては、権利取得裁決と明渡裁決とが一連一体の裁決としてなされている。そして、本件処分のうち明渡裁決は、その裁決の相手方に、その裁決に定められた時期までに、裁決の対象たる物件の引渡義務等を課す(同法一〇二条)のみであり、その義務が履行されず、現実に明渡がない場合には、行政代執行法所定の代執行手続によらなければ明渡の強制ができない(土地収用法一〇二条の二第二項)。申立人らが発生すると主張する損害は、いずれも本件土地の明渡を強制される結果生じるものであるから、その後続処分たる代執行手続の執行を停止することによって、右効力停止の目的を達することができる。

したがって、仮に本件収用土地の明渡により申立人らに回復困難な損害が発生するとしても、申立人らは本件処分に後続する、一連の行政代執行手続の執行停止を求めることによって、その目的を達することができるから、行政事件訴訟法二五条二項ただし書の適用により、本件権利取得裁決及び明渡裁決の効力を停止することはできない。

三  以上の次第であって、本件申立ては、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないので、これを却下することとし、申立費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 林醇 裁判官 中野信也 釜元修)

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