和歌山地方裁判所 平成8年(わ)646号 判決 1997年3月24日
本店所在地
和歌山県有田市野一八七番地の一
木本産業株式会社
右代表者代表取締役
木本秀夫
本籍
和歌山県有田市野三八二番地の三
住居
右同所
会社代表者
木本秀夫
昭和五年一二月二八日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宮崎昭出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人木本産業株式会社を罰金一八〇〇万円に、被告木本秀夫を懲役一〇月にそれぞれ処する。
被告人木本秀夫に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人木本産業株式会社(以下「被告人会社」という。)は、肩書地に本店を置き、土木建築設計施工、クレーン工事等を業とするもの、被告人木本秀夫は、被告人会社の代表取締役として、その業務全般を統括していたものであるが、被告人木本秀夫は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て
第一 平成四年一一月一日から平成五年一〇月三一日までの事業年度における実際の所得金額が三億七〇二九万〇三二三円でこれに対する法人税額が一億三七三一万四一〇〇円であるのに、架空の外注費を計上するなどして所得の一部を秘匿したうえ、同年一二月二七日、和歌山県有田郡湯浅町湯浅二四三〇-七六所在の所轄湯浅税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二億六八七五万六三八六円でこれに対する法人税額が九九二三万八九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により右事業年度の正規の法人税額一億三七三一万四一〇〇円との差額三八〇七万五二〇〇円を免れた
第二 平成五年一一月一日から平成六年一〇月三一日までの事業年度における実際の所得金額が四億六〇四三万〇〇〇六円でこれに対する法人税額が一億七一三一万八九〇〇円であるのに、売上の一部を除外し、架空の減価償却費を計上するなどして所得の一部を秘匿したうえ、同年一二月二七日、前記湯浅税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三億八七一〇万〇五四三円でこれに対する法人税額が一億四三八二万〇二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により右事業年度の正規の法人税額一億七一三一万八九〇〇円との差額二七四九万八七〇〇円を免れた
第三 平成六年一一月一日から平成七年一〇月三一日までの事業年度における実際の所得金額が一億七九二三万八六二三円でこれに対する法人税額が六五九四万七一〇〇円であるのに、前同様の行為により所得の一部を秘匿したうえ、同年一二月二七日、前記湯浅税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一億四一二七万七二〇四円でこれに対する法人税額が五一七一万一七〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により右事業年度の正規の法人税額六五九四万七一〇〇円との差額一四二三万五四〇〇円を免れた
ものである。
(証拠の標目)
判示各事実について、被告人会社代表者兼被告人木本秀夫の当公判廷における供述のほか、記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)甲乙に記載の次の番号の各証拠
判示第一の事実について
甲2、5、8、9、17、18、22ないし29、31ないし33、35、37、39ないし42、44、46ないし51、53ないし63、65ないし77、乙1ないし5、7ないし10、13ないし15、17ないし19、22
判示第二の事実について
甲3、6、8ないし13、15、17ないし22、29、31ないし33、35、37ないし43、46、49ないし63、65ないし68、71ないし77、乙1ないし5、7、9ないし15、17ないし19、22
判示第三の事実について
甲4、7ないし10、14ないし22、29ないし37、40ないし42、44ないし46、49、51、53ないし68、71ないし77、乙1ないし7、9ないし11、13ないし19、22
(法令の適用)
刑法は、平成七年法律第九一号附則二条二項、三項により、同法による改正後のもの
被告人会社関係
罰条 各事業年度ごとに法人税法一五九条一項、一六四条一項、いずれも情状により同法一五九条二項を適用
併合罪の処理 刑法四五条前段、四八条二項(各罪所定の罰金額を合算)
宣告刑 罰金一八〇〇万円
被告人木本秀夫関係
罰条 各事業年度ごとに法人税法一五九条一項
刑種の選択 いずれも懲役刑
併合罪の処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)
宣告刑 懲役一〇月
刑の執行猶予 刑法二五条一項(三年間)
(量刑の事情)
本件は、被告人木本秀夫が、被告人会社の代表者として、三事業年度にわたり、被告人会社の所得の一部を除外して確定申告をし、その法人税合計七九八〇万円余を脱税したという事犯である。
納税は国民等の義務であり、脱税は国民等全体の犠牲において、不当に利益を得るものであって、国家財政の基盤を危うくするばかりでなく、過少申告による脱税は、申告納税制度をその根幹から破壊する反社会的な行為というべきところ、被告人木本秀夫は、専務取締役に指示するなどして、架空外注費の計上や売上除外、架空減価償却費の計上等の多岐にわたるほ脱手段により、長期間脱税を繰り返していたものであって、犯行は計画的であり、その態様は悪質であること、ほ脱税額は前記のとおり相当の多額であること、脱税の動機は、税金はできるだけ払いたくないという考えや簿外の接待交際費等として使用する裏金がほしかったなどということにあって、酌むべき点は乏しいことなどを考え併せると、犯情はよくなく、被告人木本秀夫及び被告人会社の刑事責任は軽くはないといわざるをえない。
しかしながら、本件のほ脱率は三事業年度合計で二一パーセント強に止まっており、それほど高いものとはいえないこと、被告人木本秀夫及び被告人会社は、本件を反省して事実を素直に認め、各事業年度についていずれも修正申告をし、脱税した法人税の本税についてはもちろん重加算税や延滞税についても納付をすませ、さらに法人特別税、消費税については本税及び重加算税や延滞税の納付をすませ、法人事業税、法人県市民税についても本税の納付をすませていること、被告人木本秀夫及び被告人会社は、今後の税務申告が適正になされるように、被告人会社の経理システムを改善するとともに、新たに顧問税理士に依頼して指導助言を受けるようにしていること、被告人木本秀夫には、昭和四七年に業務過失傷害罪により罰金刑に処せられた以外に前科がないこと、被告人会社は、本件で告発ないし起訴されたことにより、近畿地方建設局長や和歌山県土木部長から指名停止処分を受けていることなどの、被告人木本秀夫及び被告人会社のために酌むべき事情も認められるので、被告人木本秀夫及び被告人会社をそれぞれ主文の刑に処し、被告人木本秀夫についてはその刑の執行を猶予することとする。
(検察官の科刑意見 被告人会社について罰金二五〇〇万円、被告人木本秀夫について懲役一年)
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 森岡安廣)