和歌山地方裁判所 平成9年(わ)54号・平9年(わ)88号
右三名に対する各所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官田中宏明出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人上野俊数を懲役一〇月及び罰金五〇〇万円に処する。
右罰金の全部またはその一部を納めることができないときは、金二万円を一日に換算した期間、被告人上野俊数を労役場に留置する。
被告人上野俊数に対し、この裁判確定の日から三年間その懲役刑の執行を猶予する。
二 被告人藤井秀紀を懲役一〇月及び罰金六〇〇万円に処する。
右罰金の全部またはその一部を納めることができないときは、金二万円を一日に換算した期間、被告人藤井秀紀を労役場に留置する。
被告人藤井秀紀に対し、この裁判確定の日から三年間その懲役刑の執行を猶予する。
三 被告人川波重信を懲役一年及び罰金一二〇〇万円に処する。
被告人川波重信に対し、未決勾留日数中五〇日をその懲役刑に算入する。
右罰金の全部またはその一部を納めることができないときは、金四万円を一日に換算した期間、被告人川波重信を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人上野俊数は前記肩書地に住所を有するものであるが、被告人上野俊数及び被告人川波重信は、前田隆司、松下庸泰及び影山元哉と共謀のうえ、被告人上野が平成三年一一月二二日にその所有する和歌山県那賀郡岩出町大字西国分字西野々五二七番六他一筆の土地を一億五六〇〇万円で譲渡した譲渡所得にかかる所得税を免れようと企て、被告人上野の平成三年分の分離長期譲渡所得金額が一億三五〇五万一四一六円、分離短期譲渡所得金額が一四六万五一一五円で、これに対する所得税額が三二三四万八七〇〇円であるにもかかわらず、被告人上野が片山大の前記前田他一名に対する債務の連帯保証人として、同年一一月二二日に右前田らに対し右譲渡収入等で一億六〇〇〇万円を支払ったが、右片山に対する求償が不能である旨仮装するなどの不正の行為により所得を秘匿したうえ、平成四年三月一六日、同郡粉河町粉河一五一四所在の所轄粉河税務署において、同税務署長に対し、分離課税の所得は長期譲渡所得のみであり、同所得金額が零円でこれに対する所得税額が零円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により所得税三二三四万八七〇〇円を免れた
第二 被告人藤井秀紀は前記肩書地に住所を有するものであるが、被告人藤井秀紀及び被告人川波重信は、楠本昌弘及び影山元哉と共謀のうえ、被告人藤井が平成五年七月一四日その所有する和歌山県那賀郡岩出町大字中島字味野筋七七八番一他二筆の土地を二億五二三七万八〇〇〇円で譲渡した譲渡所得にかかる所得税を免れようと企て、被告人藤井の平成五年分の分離長期譲渡所得金額が二億〇一三六万一六六六円、総合課税の総所得金額が二五七万円で、これに対する所得税額が六〇四六万八六〇〇円であるのにもかかわらず、被告人藤井が株式会社エヌ・ティー・エーの被告人川波に対する債務の連帯保証人として、同年一二月二〇日に被告人川波に対し右譲渡収入で一億三〇〇〇万円を支払ったが、同社に対する求償が不能である旨仮装したほか、前記譲渡は、被告人藤井から日本商事株式会社に対しなされたものであるのに、被告人藤井から泉州マイホーム株式会社他一社に対しなされ、同社等から日本商事株式会社に転売がなされた旨仮装して、被告人藤井からの譲渡価格を圧縮するなどの不正の行為により所得を秘匿したうえ、平成六年三月八日、同郡粉河町粉河八〇七所在の所轄粉河税務署において、同税務署長に対し、分離課税の長期譲渡所得が八七六万八一九五円、総合課税の総所得金額が二五七万円で、これに対する所得税額が二六九万〇七〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により所得税五七七七万七九〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
判示第一の事実について
一 被告人上野俊数及び被告人川波重信の当公判廷における各供述(被告人上野関係では、被告人川波重信の第三回公判期日における供述を除く)
一 被告人前田隆司及び被告人松下庸泰の当公判廷における各供述(第一回公判期日におけるもの)
一 被告人川波の第三回公判供述調書(被告人上野関係)
一 記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)甲に記載の番号2ないし27、29ないし35、乙に記載の番号2、5ないし10、13、15、18、20の各証拠
判示第二の事実について
一 被告人藤井秀紀及び被告人川波重信の当公判廷における各供述
一 記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)甲に記載の番号37ないし86、乙に記載の番号23ないし25、27ないし29の各証拠
(法令の適用-刑法は、平成七年法律第九一号による改正前のもの)
一 被告人上野関係
罰条 刑法六〇条、所得税法二三八条一項
刑種の選択 懲役と罰金を併科
宣告刑 懲役一〇月及び罰金五〇〇万円
労役場留置 刑法一八条(金二万円を一日に換算)
懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項(三年間)
二 被告人藤井関係
罰条 刑法六〇条、所得税法二三八条一項、二項
刑種の選択 懲役と罰金を併科
宣告刑 懲役一〇月及び罰金六〇〇万円
労役場留置 刑法一八条(金二万円を一日に換算)
懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項(三年間)
三 被告人川波関係
罰条 いずれも刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項、二項
刑種の選択 いずれも懲役と罰金を併科
併合罪の処理 刑法四五条前段
懲役刑について 刑法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)
罰金刑について 刑法四八条二項(各罪所定の罰金額を合算)
宣告刑 懲役一年及び罰金一二〇〇万円
未決勾留日数の算入 刑法二一条(五〇日を懲役刑に)
労役場留置 刑法一八条(金四万円を一日に換算)
(量刑の事情)
判示第一の犯行は、被告人上野及び被告人川波らが共謀の上、被告人上野の不動産譲渡所得にかかる所得税を免れようと企て、架空の連帯保証債務の履行を仮装するなどの不正の行為により、所得税三二三四万円余を脱税したという事案であり、判示第二の犯行は、被告人藤井及び被告人川波らが共謀のうえ、被告人藤井の不動産譲渡所得にかかる所得税を免れようと企て、架空の連帯保証債務の履行を仮装し、譲渡価格を圧縮するなどの不正の行為により、所得税五七七七万円余を脱税したという事案である。
本件各犯行は、被告人上野あるいは被告人藤井が納税義務者として自己の所得税の確定申告をなすにあたり、いわゆる脱税請負人である被告人川波らに依頼してなしたほ脱事犯であるが、脱税請負は、納税義務者から正規税額より低い金額で申告と納税を請け負い、その全部あるいは一部を自らの手数料等として取得する行為であって、適正に行われるべき申告納税制度を損ない、納税義務者に不当な利益を得させるとともに、国に納めるべき税を脱税請負人らにおいて着服する悪質な反社会的犯罪であり、この種事犯の頻発は善良な市民の納税意欲にも悪影響を及ぼしかねないこと、判示第一の犯行では、架空の保証債務の主たる債務者として故人の名義を冒用するとともに、債権者として同和を名乗る団体の代表者である共犯者名等を用い、判示第二の犯行では、架空の保証債務の主たる債務者として倒産会社名を用い、譲渡価格圧縮のための架空取引の主体として赤字会社を介在させるなどしたうえ、それぞれ多数の内容虚偽の文書を作成し、口裏合わせをするなどの仮装行為が行われており、いずれも巧妙な手口による計画的な犯行であること、本件各犯行のほ脱額はいずれも前記のとおり相当に多額であり、そのほ脱率は判示第一の犯行では一〇〇パーセント、判示第二の犯行では約九五パーセントと非常に高いこと、被告人上野あるいは被告人藤井及び被告人川波は、本件各犯行後の税務調査に際しても、なおほ脱の事実を隠蔽するための工作をしていたこと、特に被告人川波については、脱税請負人グループの一員として本件各犯行において重要な役割を果たし、その報酬やその後の税務調査への対応の報酬として一〇〇〇万円余の多額の不正な利益を得ていながら、今日に至るもいまだその利益を返還するなどしていないことなどを考え併せると、被告人川波の刑事責任は重く、また被告人上野及び被告人藤井の各刑事責任も決して軽いものではないといわざるをえない。
しかしながら、被告人三名ともいずれも罪を認め、現在では反省していること、本件各ほ脱所得税については、被告人上野及び被告人藤井においてそれぞれ修正申告をし、本税のほか、重加算税、延滞税等について支払いを済ませていること、被告人上野及び被告人藤井については、少しでも税金が少なくなればよいとの納税者心理に付け込まれ、脱税請負人らに多額の手数料等を支払いながら、ほ脱事犯とし摘発されたことにより、自業自得とはいえ多大な経済的損失を負うに至っていること、被告人川波については、本件各犯行による不正な利益を脱税請負人グループの中で特に多く得ていたわけではないし、その利益についても返還する意志を有しており、昭和五九年七月に覚せい剤取締法違反幇助罪により懲役六月、二年間執行猶予の判決を受けた以外に禁錮以上の刑に処せられた前科がなく、また本件で三か月以上の期間身柄拘束を受けているうえ、その健康状態があまり良くないこと、被告人上野についてはこれまで前科がなく、被告人藤井については業務上過失傷害罪による罰金以外に前科がないことなどの、被告人三名のためにそれぞれ酌むべき事情もある。
そこで、被告人三名をそれぞれ主文の刑に処したうえ、被告人上野及び被告人藤井に対しては、その各懲役刑の執行を猶予することとする。
(検察官の科刑意見 被告人上野につき懲役一年及び罰金八〇〇万円、被告人藤井につき懲役一年及び罰金一〇〇〇万円、被告人川波につき懲役二年及び罰金一八〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 森岡安廣)