和歌山地方裁判所 昭和27年(ワ)217号 判決
原告 昭和化学工業株式会社
被告 木村義雄
一、主 文
被告は原告に対し金参拾弐万円及之に対し昭和二十七年六月二十七日より完済に至るまで年五分に相当する金員を支払うべし。
訴訟費用は被告の負担とする。
第一項は仮に執行することを得る。
被告に於て金拾壱万円の担保を供するときは右仮執行を免るることを得る。
二、事 実
原告は主文同旨の判決を求めその請求原因として、
一、原告は染料の製造卸販売を目的とする会社で訴外朝日興業株式会社に対し昭和二十六年十二月二十一日染料八百斤代金三十二万円で売渡し、その支払として額面金三十二万円、支払期日昭和二十七年二月十五日支払地振出地和歌山海草郡西山東村、支払場所株式会社紀陽銀行山東支店、振出日昭和二十六年十二月三十日、振出人株式会社木村織布工場専務取締役木村義雄、受取人朝日興業株式会社と記載した約束手形一通を右受取人会社代表取締役広瀬熊二郎署名による裏書によりその譲渡を受け之を所持している。
依て原告は右手形の支払期日に支払場所に手形を呈示し、その支払を求めたところ印鑑相違預金不足の理由で不払となつたので調査したところ、右株式会社木村織布工場は株主総会の決議により昭和二十六年八月三十日解散、同月三十一日その登記を了し被告は清算人となり、会社の工場設備織布機械等全部包括して被告に譲渡し、同年十月三十一日清算を結了、同年十一月一日その登記を了していることが判明したので被告に右手形金の支払を求めたが被告は之に応ぜず、
二、前記の事実で被告は自ら清算人となり清算を結了してその登記をなし、己に会社は消滅したに拘らず尚存続する如く装い専務取締役と記載し、会社代表者として手形を振出したもので手形は裏書により転々することは手形振出の当時より被告の容易に予期し得るものでその手形を取得し損害を蒙つた者に対してその賠償を為すべきは法律上道徳上当然であつて被告に対し本訴を提起する所以である。
と陳述し、更に原告は本件手形の所持人として手形上の権利によつて被告に対し手形金の支払を求むるもので被告は自ら清算人となり清算を結了し、その登記を完了し既に存在しない株式会社木村織布工場の専務取締役社長名義で代理権なきに拘らず代理表示して右手形を振出したものであるから被告自ら右約束手形上の義務あるものである従前の陳述中右趣旨に反する主張は撤回し、約束手形金請求訴訟と訂正すると述べた。<立証省略>
被告は原告の請求を棄却するとの判決並に敗訴の場合は仮執行免除の宣言を求め、その答弁として、
被告は原告主張の如き手形を振出した事実なく従て原告の請求には応じ難いと述べた。<立証省略>
三、理 由
証人広瀬弘の供述、被告木村義雄本人尋問の結果並にこれ等の供述によりてその成立を認むる甲第一号証を総合すれば、被告は昭和二十六年四、五月頃訴外朝日興業株式会社取締役広瀬弘の依頼により同社の染料購入の為め当時存続中の株式会社木村織布工場振出名義の約束手形に専務取締役社長として記名捺印した所謂白地の手形を右広瀬弘に融通交付し、同人に対し手形金額その他所要の手形要件を補充する権限を与え、右訴外朝日興業株式会社は昭和二十六年十二月三十日右広瀬弘の補充完成したる額面金三十二万円の本件約束手形を染料代金支払の為め、その代表取締役広瀬熊二郎の署名による裏書によつて之を原告会社に裏書譲渡した事実を認むべく、更に成立に争いなき甲第二号証によれば右株式会社木村織布工場は昭和二十六年八月三十日解散して同年九月十三日その登記を了し、同年十月三十一日清算結了した事実を認められ、他に右各認定を動かすような証拠はない。従つて被告が右広瀬弘に補充権限を賦与して本件手形に署名し、之を同人に交付したのは昭和二十六年四、五月頃であるが、右手形の各記載が補充完成されたのは同年十二月末であり、而して手形の振出行為は手形の署名並にその交付行為のみを謂うものではなく、その他各手形要件の記載を包括指称するものであつて、白地手形はその要件補充完成の時手形の振出行為ありと解するを相当するので結局被告は振出人たる株式会社木村織布工場の解散による清算結了後、本件約束手形を振出したものと謂わざるを得ない。従つて会社の解散により代理権を持たない被告がその専務取締役社長として本件手形に記名捺印したものであつて、被告は自ら本件手形の振出による義務を負うべく、本件手形金並にその満期日以後の法定利息金支払いの義務を有し、その範囲内に於ける原告の本訴請求は正当であつて、之を容認すべく本件訴状の送達が昭和二十七年六月二十六日であることは記録に徴し瞭かである。
仍て民事訴訟法第八十九条、第百九十六条に則り主文の通り判決する。
(裁判官 宇都宮綱久)