大判例

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和歌山地方裁判所 昭和34年(行)1号 判決 1973年9月12日

原告

奥鈴雄

外三名

右四名訴訟代理人

浪江源治

外六名

被告

和歌山県教育委員会

右代表者

松林芳美

右訴訟代理人

月山桂

外二名

主文

被告が昭和三三年一一月一七日付で原告らに対してした別紙記載の各懲戒処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者が求めた裁判<省略>

第二、当事者の主張

(原告らの請求原因)

一、原告らの地位

原告らは、後記懲戒処分当時、いずれも和歌山県公立学校教員であつて、原告奥は同県立星林高等学校に、同川端は同県立日高高等学校に、同木村は同県立橋本高等学校に、同片山は同県立箕島高等学校に、それぞれ教諭として勤務していた。

そして、原告奥は、同県立高等学校の教職員をもつて組織する和歌山県高等学校教職員組合(以下和高教という。)の執行副委員長、同川端は書記長、同木村および片山はいずれも書記次長の各地位にあつた。

二、懲戒処分の存在

被告は、昭和三三年一一月一七日付で原告らに対し、「和歌山県高等学校教職員組合執行委員長(あるいは、副委員長、書記長、書記次長)として昭和三三年六月二三日から二五日にいたる三日間の同組合の勤務評定反対闘争に際して、その闘争を企画し、遂行を共謀したこと等は、教育公務員として、はなはだ不都合な行為であつた」との理由で、別紙記載のような各懲戒処分(以下、この各懲戒処分を総称して本件懲戒処分という。)をした。<中略>

(被告の抗弁)

本件懲戒処分の実質的な処分理由はつぎのとおりである。

一、はじめに<中略>

二、和高教の組織と運営

(一)、結成 和高教は昭和二六年に和歌山県立高等学校の教職員約一、二〇〇名をもつて結成された単一の職員団体であり、その本部を和歌山市雑賀屋町東ノ丁二八番地においている。

(二)、目的 組合員の強固な団結によつて、政治的・経済的・文化的地位の向上を図るとともに、教育および学問の振興につとめ、民主的文化国家の建設に寄与することを目的とする。

(三)、事業 右目的を達成するために、

(1)組合員の待遇改善および勤務条件の維持改善に関すること、

(2)高校教育の振興ならびに民主化に関すること、

(3)学術研究および教育の自由とその民主化に関すること、

(4)その他この組合の目的達成に必要なこと、

に関する事業を行なう。

(四)、組織 各職場ごとに分会を設け、婦人部、事業職員部等をおいている。

(五)、機関 大会、本部委員会、執行委員会、専門委員会等の機関をもつている。

大会は組合の最高議決機関であり、定期大会は、年一回五月に開き、臨時大会は、委員長が必要と認めたとき、または本部委員会あるいは組合員の三分の一以上の要求があつたときに開かれ、綱領、宣言、運動方針の審議、組合規約の審議等を行なう。本部委員会は、大会につぐ決議機関であり、月一回開くことを原則とし、分会ごとに選出された各一名の本部委員によつて構成され、役員の承認、大会から委任されたことの決定、大会選出議案の決定等を行なう。執行委員会は、正副委員長、書記長、書記次長および執行委員によつて構成される執行機関であり、決議機関から与えられた事項の執行、大会および本部委員会に提出する議案の作成等をなす権限を有する。

(六)、役員 執行委員長一名、執行副委員長一名、書記長一名、書記次長二名、常任執行委員、執行委員、監査委員各若干名がある。

執行委員長は、組合を代表し、執行副委員長は、執行委員長を補佐し、執行委員長に事故あるときその代理をし、書記長は、正副委員長を補佐し、組合の業務を掌握し、書記次長は、書記長を補佐し、書記長に事故あるときその任務を代行する。常任執行委員および執行委員は組合運営に必要な業務を行ない、監査委員は年三回以上会計監査をし、必要に応じ各機関に報告する。

各役員の任期は一年とするが、再任をさまたげない。

(七)、組合員の権利・義務 組合への加入は加入届を執行委員長に届け出ることにより、脱退は届出書を本部委員会に提出することにより認められる。

役員および組合員が、組合の規定に違反したとき、組合の統制をみだしたとき、組合の名誉および利益を毀損したときには、大会において懲罰処分を受け、あるいは役員を罷免されることがある。

(八)、勤評闘争時における闘争組織の編成 常任執行委員会をもつて本部闘争委員会とし、執行委員会をもつて闘争委員会とし、本部委員会と執行委員会の合同会議をもつて拡大闘争委員会としたものである。

三、本件勤評反対闘争の経過と態様

(一)、昭和二五年に制定された地方公務員法(以下、地公法という。)四〇条一項は、「任命権者は職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行なわなければならない」旨を決めている。

被告は、これを受けて、昭和二七年から和歌山県人事委員会とともに、人事院規則一〇―二(昭和二七年四月一九日)その他を基礎に検討をはじめたのであるが、他の制度や機構、ことに教育委員会制度の改変等のため、評定方法の研究や準備等に手が届かず、遷延していた。

その後、昭和三一年に地方教育行制の組織及び運営に関する法律(以下、地教行法という。)が制定され、市町村立小中学校教職員等県費負担教職員の場合も、都道府県教育委員会がその任命権者であることが明定されるにおよんで、ようやく翌昭和三二年から、教職員に対する勤評制度が具体的に実施の方向へ進むにいたつた。

(二)、昭和三二年一〇月に都道府県教育長協議会が開かれて、教職員に対する勤務評定制度が検討され、ついで、同年一二月に同協議会による「教職員の勤務評定試案」が発表され、各都道府県においても、右試案を基礎に教職員に対する勤評規則を検討することになつた。被告も、このころから、勤務評定制度を実施する方針のもとに、所管課である学事課に検討を命ずるとともに、市町村教育委員会あるいは市町村立小中学校校長会、高等学校長協会その他から意見を徴し、同年五月一〇日被告委員会事務局内に、「勤務評定規則に関する検討小委員会」を設置して規則案の作成に着手した。

他方、昭和三三年三月二八日和歌山県議会において、「職員の給与等に関する条例の一部を改正する条例案」(以下、給与条例という。)が提案され、即日可決された。その結果、「職員の給与等に関する条例」中に、「この条例中、勤務成績に基いて行うこととされている昇給又は勤勉手当の支給については、職員の勤務成績の評定の結果を参考として行わなければならない」との規定(六条の二)が新設された。

(三)、右のように勤務制度が検討されはじめるや、和高教および和歌山県教職員組合(以下、和教組という。)は、「教育公務員に対する勤務評定は不可能であり、責善教育を阻害する。」などの理由で、これに反対する態度を示した。

そして、昭和三三年五月一三日和高教、和教組、県教育委員会事務局職員組合、県庁職員組合、県地評、部落解放同盟和歌山県連、和歌山大学自治会の七者により、勤評反対七者共闘会議(以下、七者共闘会議という。)が結成された。

そこで、被告は、勤評問題について、和高教・和教組と昭和三二年一〇月二八日以降数回にわたつて話し合いを続け、昭和三三年五月二〇日には七者共闘会議と話し合つた。そして、同月二九日に行なわれた七者共闘会議との二回目の話し合いのさい、次回交渉日を同年六月四日と決めた。

(四)、このような状況にある間に、和高教は、同年五月一六日本部委員会を開いて、勤務評定阻止闘争の戦術としてハンストを採用するとの決定をし、同月一九日和高教指示第一号をもつて、執行委員長松野三郎から各分会長および本部委員にあて、つぎのような指示を発した。

(1) 一校一名のハンスト者の選出。右ハンスト者は、本部委員、分会長を除くこと。

(2) 救護員の選出。

(3) ハンスト付添の通信連絡員の準備。

(4) ハンスト中は、街頭進出班・行動役員等を除き、組合員は全員昼食を抜く。

(五)、このように、ハンストの態勢を整えるうち、七者共闘会議は、同月二九日から同年六月一日にわたつて情勢を検討し、その結果、六月四日の被告との交渉期日において話し合いが決裂することを予測し、六月四日以降に一斉休暇闘争・ハンスト闘争等の実力行使をすることを決議し、「教育委員会が現在の態度を改めない限り、共闘会議としては一斉休暇・同盟休校・ハンストを含む統一行動をもつて実力行使に入る。」旨の共闘会議議長の声明が新聞に発表された。

(六)、そして、和高教は、これを受けて六月一日桐蔭高校において緊急特別本部委員会を開き、つぎのような情勢分析をした。

(1) 勤評反対の力とこれを強行しようとする力との対決点が目前に迫つている。

(2) 勤評反対闘争は、全国的なものにもりあがつている。

(3) 全国各府県で勤評規則の制定を粉砕できなかつたが、和歌山県の場合は粉砕できる条件が整つている。

以上のように情勢を分析したうえ、前記のようなハンスト戦術を確認するとともに、つぎのような決定をした。

(1) 和高教組合員の子弟の登校を拒否する。

(2) これにともない、盟休子弟の指導のため、公民館・青年会場等適当な場所を設定し、そこへ教師を派遣する。

(3) 登校拒否子弟の教科履習上の不利益を生ぜしめないよう、登校した生徒に対しては、いわゆる足ぶみ授業をする。

(4) 原告らのうち幹部(委員長・書記長等)が逮捕されることのありうることを予想し、第二執行部として、委員長に原告奥、書記長に原告木村、書記次長に訴外富永・乾をあてる。

(5) 右闘争の具体的な時期・方法の細部については、執行部に一任する。

(七)、一方、日本教職員組合(以下、日教組という。)は、六月二日日教組近畿ブロック合同闘争本部を大阪から和歌山に移し、各府県支援団を和歌山に送り、主力を投入して強力な闘争の指導援助にのり出した。

(八)、被告は、六月二日から三日早朝にかけて、最終的な作業をし、三日勤評規則を制定・公布した。

そして、同日、さきの五月二九日に七者共闘会議との間で約束した六月四日の交渉については、「話し合いをうちきる」旨の声明書を高教組側に手渡した。

(九)、右のように、被告が勤評規則を制定・公布するや、和高教は、即日緊急拡大闘争委員会を開き、六月四日午後からハンストを実施することを決定し、直ちに各分会に対してつぎのような緊急闘争指令を発した。

(1) 各分会の本部委員は直ちに本部に集合すべきこと。

(2) 各校一名ずつのハンスト要員、救護員および連絡員は四日午後一〇時までに和高教の本部に集合すべきこと。

(3) 各分会は職場会議を開き、闘争態勢を強化すべきこと。

(4) 和歌山市内の各分会は職員の半数以上を動員しうるような態勢を整えるべきこと。

そして、原告川端は、六月三日午後三時から、県教育委員会事務局庁舎内において、単独でハンストに突入した。

(一〇)、ついで、六月四日、前記のような闘争指令にもとづいて参集した各分会のハンスト要員は、教育庁で行なわれていた交渉の席上で、「われわれは勤評反対のためただ今からハンストにはいる。」と宣言したうえ、同日午後一〇時から和歌山市雑賀屋町東ノ丁にある水産会館横の空地においてハンストに突入した。

このハンストは、同日から同月七日被告の要請にもとづいて撤収されるまで実施された(以下、この闘争を適宜第一波闘争という。)。

この間、各学校は、ハンスト要員一名、救護員一名、連絡員一名がそれぞれ職場を離れたほか、ハンスト実施者の激励や教育委員会との交渉のため、多数の職員が動員されて職場を離脱し、残つた職員もあるいは盟休生徒の指導のために学校を離れ、あるいは闘争態勢強化のために職場会議を開くなどした。

(一一)、七者共闘会議は、六月七日午後八時から翌八日午前二時にかけて、右闘争後の情勢を検討し、同月九日から二八日までを第二波闘争の期間としてたたかいをもりあげることにした。

ついで、同月九日に緊急会議を開き、被告に団体交渉の再開を要求するとともに、被告がこれに応じないときは、同月一三日に県下八か所で勤評撤回要求の郡市民大会を開催して抗議し、同月一六日を予定して、強力な実力闘争にはいる方針を決めた。

(一二)、七者共闘会議の第二波実力闘争の方針を受けて、和高教は、同月八日本部委員会を開き、第二波闘争に対する取り組みを討議した。その結果、具体的戦術の提案は執行部に一任された。

ついで、同月一二日に執行委員会を開き、七者共闘会議の第二波実力闘争にあわせて、各分会が三日間の動員態勢を準備するよう指示し、同月一五日に拡大闘争委員会を開いて具体的な戦術決定を行なうことを明らかにした。

右指示の内容はつぎのとおりである。

(1) 一六・一七・一八の三日間全組合員に対し、各職場ごとに、四・三・三割の動員指定をすること。

(2) 動員者の行動、例えば盟休生徒の指導・地教委との交渉・街頭宣伝等について、和教組支部と連絡をとり打合わせをすること。

(3) 一五日午前一〇時から拡大闘争委員会(本部委員会)を開き、

(イ) 一六・一七・一八の三日間の四・三・三割の動員を職務専念義務免除にするか、年次休暇にするか。

(ロ) 組合員子弟に登校拒否をさせるか否か。

の二点について決定すること。

(4) 各職場ごとに、一五日午後一時から職場会議を開いて行動の具体的な打ち合わせを行ない、拡大闘争委員会の決定通知があるまで職場で待機すること。

(一三)、しかし、六月一六日から実施する予定であつた右実力闘争は、和高教および和教組の組織内の歩調が整わないため、同月一四日、七者共闘会議はこれを延期することにした。

(一四)、和高教は、六月一五日に本部委員会を開き、各分会の意見を徴したところ、賛成一五、反対七、保留八、欠席二、棄権二であつた。このため、同日は、右票決をしなかつたことにし、二〇日に拡大闘争委員会を開くこと、各分会はそれまでに分会内で全員投票を行なうことを決めた、そして、あるべき四・三・三動員闘争について、原告ら執行部からつぎのような提案があり、決定された。

(1) その目標は勤評の撤回、交渉の再開および不当弾圧への抗議におき、学校ぐるみでこれを実施する。

(2) 当日の学校管理の方法として、責善教育の問題を討議するため、ホームルーム等の集会を開き、生徒総会を開かせる。

(3) 授業は足ぶみ授業の方法による。

(4) 盟休生徒の指導にあたつては、盟休の意義を理解させ、プリント学習に力を入れる。

その後、原告ら和高教幹部は、いずれ七者共闘会議で決定される第二波闘争の実施日(×日)に備えて拠点オルグを実施することにし、各執行委員等組合幹部は、各分会に赴いて闘争への参加を要請し、あるいは職場会議をしばしば開かせて意思統一をはかる等の努力を重ねた。

(一五)、六月二〇日拡大闘争委員会が開かれ、原告ら執行部の提案にもとづき、つぎのような方針が決定された。

(1) さきに、分会ごとに行なつた全員投票の結果が、四・三・三動員闘争に六〇パーセント以上の賛成であれば、これを実施する。

(2) 二三・二四・二五の三日間にわたる義務免による闘争の実施方法について、初日は措置要求大会に三割、盟休指導に一割、二四・二五の両日はいずれも措置要求大会に二割、盟休指導に一割、それぞれ職場を離れる。盟休指導は出張の形により、措置要求大会は義務免により参加する。

なお、右のほか、教育委員会の事務(調査報告等の事務)は拒否することを決めた。

そこで、右全員投票を開票した結果、投票総数一、二四二票のうち、有効投票数一、二二一票、賛成票数七五三票で、有効投票に対する賛成票の割合は六二パーセントであることが確認され、これによつて、第二波闘争に突入することが決定した。なお、新聞紙上へは、戦術上の考慮から八〇パーセントの賛成票が得られたとして発表する旨執行部の態度表明がされた。

(一六)、これよりさき、和歌山県高校長協会は、六月一四日午後一時から九時半ころまで、県立和歌山商業高校において、第二波闘争に対して校長のとるべき態度につき協議した。その結果、つぎのような申し合わせを行なつた。

(1) 四・三・三動員闘争は好ましくないからやめるよう組合に申し入れる。

(2) 四・三・三動員闘争を実施しても、年次休暇・義務免は与えない。

(3) 四・三・三動員闘争に参加するためということがわからず、単に組合活動のために必要であるという理由で義務免・年次休暇等を願い出た場合には、全体の一割程度の範囲内で許可する。

(4) 万一、四・三・三動員闘争が強行された場合には、できるだけ正常な授業ができるよう努力する。

(5) 生徒の登校拒否は欠席あつかいとする。しかし、登校拒否の生徒が就職・進学について不利益を受けないよう配慮し、出席した生徒との間に授業進度の差異が生ずるのを防ぐため、足ぶみ授業等の措置を講ずる。

(一七)、ついで、高校長協会は、六月二一日午前一〇時から午後一〇時半ころまで、前記のとおり延期された第二波闘争に対して校長のとるべき態度につき協議し、結局一四日に行なわれた高校長協会の方針を再確認した。

他方、原告ら和高教幹部は、和高教執行委員長であつた松野桐蔭高校長を通じて、校長が第二波闘争において義務免を承認する数は全体の一割に過ぎないことを聞知したことから、和高教の組合員でもある各校長に対し、第二波闘争へのいつそうの協力参加を求めるとともに、計画どおり四・三・三動員者に対する義務免の承認が得られるように説得するため、同日夕刻、原告ら全員が右高校長協会に赴いた。そして、主に原告川端が、「一割という線を出されては困る。もし、四・三・三動員闘争をしてくれないのであれば、この場でハンストを行なう。」などといつて、各校長に対し四・三・三動員闘争への協力参加を強く要請した。

そして、右協議会のあと、各校長は、組合幹部と各ブロックごとにわかれ、闘争当日の動員数その他について協議、打合わせを行なつた。

その結果、各校長としては、正規の義務免に対する承認はあくまで一割に限定するとの態度は固持しながらも、そのうち大多数の学校は、実質上四・三・三の動員ができるよう配慮するということであつた。

(一八)、そして、原告らは、六月二二日に各分会長あてにつぎのような電話指令をした。

(1) 高校長協会と話し合つたが、義務免承認を出し渋つている。動員については四・三・三をだいたい承認した。なお、職場には義務免承認の闘いが起つている。全体の態勢は整つた。各分会は既定方針どおり闘争に突入せよ。

(2) 和高教組合員の子弟の登校拒否については、郡市の七者共闘会議で決定される線にそつて行動せよ。

(3) 教育委員会からの電話・文書に対する応答は、直接校長・総務・事務長にさせず、本部委員・分会長と協議のうえ行なうよう校長に確認させよ。

(4) 義務免の承認数については、絶対教育委員会に報告するな。なお、取あつかいは追つて指示する。

(5) 二三日から二七日まで、各三時半から五時まで職場会議を開け。

(一九)、和高教の以上のような動向に対し、被告は、六月一九日に学第四〇五号をもつて各校長にあて、休暇闘争等によつて教職員が服務の厳正を欠き、学校の正常な運営が害されることのないよう指導監督すべき旨通知し、さらに、同月二二日電報により、県教育長職務代理名をもつて各校長にあて、「休暇闘争で業務を離れることを承認するな。」との命令を発した。

(二〇)、しかし、和高教の各分会は、前記指令にもとづき六月二三日から三日間、いわゆる四・三・三割権利行使動員闘争を行なつた(以下、この闘争を適宜第二波闘争という。)。

第二波闘争は、勤評撤回、団交再開、不当弾圧粉砕の要求貫徹を目的としたものであり、したがつて、動員の主な目的は右要求貫徹のための措置要求大会へ参加することにあつた。

そのため、七者共闘会議は、右三日間それぞれ県下五か所において措置要求大会を開いた。また、部落解放同盟は、子弟の登校を拒否したが、これにともない登校拒否の児童生徒に対し、地域ごとに集合場所の指定をした。

和高教の各分会は、二三・二四・二五の三日間、それぞれ四・三・三割の者が職場を離れ、三・二・二割の者が右の措置要求大会に参加し、残り各一割ほどの者が盟休児童生徒の指導のため、公民館・青年会議場等盟休生徒の集合場所に出向いた。なお、一部の者は地教委交渉、街頭活動のため職場を離れたし、ほとんどの学校では、連日指令にしたがい、職場会議が勤務時間内に長時間にわたつてもたれた。

四、本件闘争時における学校の実態および闘争による影響<省略>

五、原告らの行動

原告らは、和高教の本部闘争委員会および拡大闘争委員会の委員として、前記三、(四)、(六)、(九)項で述べたとおり、六月四日から七日までのハンスト闘争(第一波闘争)を企画、共謀し、同(一二)、(一四)、(一五)項で述べたとおり、六月二三日から二五日までの四・三・三動員闘争(第二波闘争)を企画、共謀し、同(一七)、(一八)、項で述べたとおり、高校長協会に出席した各校長および分会員である翼下各組合員に対し、それぞれ右第二波闘争をあおつた。

なお、原告片山は、勤評反対闘争の一環として、勤評反対七者連絡協議会等によつて行なわれた(一)昭和三三年八月一七日(二)同月一九日(三)同月二九日(四)同月三〇日の各集団行進にさいし、デモ隊を指揮煽動して和歌山県公安委員会の許可条件に違反し、それぞれ(一)和歌山市内公園前交差点(二)県庁前交差点(三)和歌山東、同西各警察署前、県庁正門前(四)和歌山地方裁判所前の各道路上において、道路の全幅員にわたる蛇行進を行なわせ、一般交通を妨害した。

六、処分根拠法令

以上の次第で、被告は、原告らに対し、地公法三七条一項、二九条一項一・三号をそれぞれ適用して、別紙記載のような本件懲戒処分をした。<中略>

(原告らの主張)

本件懲戒処分は、違法であるから取消されるべきである。その理由はつぎのとおりである。

一、本件ハンストおよび四・三・三動員闘争は「争議行為」ではない。

(一)、本件闘争の目的

本件ハンストおよび四・三・三動員闘争は、いずれも被告が勤評規則を強行的、かつ抜き打ち的に制定実施したことに反対する目的で行なわれたものである。

地公法四〇条、和歌山県立学校職員の勤務成績の評定に関する規則(昭和三三年県教育委員会規則一四号)八条、同市町村立学校職員の勤務成績の評定に関する規則(同年同規則一三号)九条に照らして考えれば、勤務評定は、教職員の執務について勤務成績を評定し、これを記録するものであり、それは当該評定期間中の教職員の勤務成績を示すものとして、人事の基礎資料として活用することを目的として作成されていることは明白である。したがつて、勤務評定は教職員の昇任・降任・転任・配置換え等の人事異動、昇給、表彰等の待遇、成績不良者の発見・矯正、不適格者と目される者の発見・排除等のために利用されるものである。

そうすると、勤務評定は、職員の勤務条件と密接なかかわり合いを有するものということができるのであるから、勤評規則の実施に反対することは、職員の勤務条件の維持・改善を図るという職員団体の正当な目的の範囲内の行動である。この際、ILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」の七一項が、「教員の職務遂行に関する職業上の基準は教員団体の参加のもとで定められ、維持されなければならない」としていることが銘記されるべきである。

勤評規則の制定・実施が、教職員の勤務条件にかかわり合いをもつものである以上、それが同時に地方公共団体の長その他の任命権者が法律上の職務として行なうものであり(地公法四〇条一項)、あるいは地方公共団体の管理運営事項たる側面を有するものであつても、職員団体がこれを地方公共団体の当局との交渉の対象とし(同法五五条一項)、あるいは規則の改廃、団体交渉の再開等の要求を貫徹するために団体行動を行なうことはなんら妨げないものである。

したがつて、本件闘争は、その目的においては、和歌山県下の公立学校に勤務する教職員の職員団体たる和高教が、教職員の勤務条件に関する主張を貫徹するために行なつたものとして、正当なものというべきである。

(二)、職務専念義務の免除と本件闘争の態様

1 本件当時施行されていた「職務に専念する義務の特例に関する条例」(県条例二〇号・昭和四三年県条例四四号による改正前のもの、以下義務免条例という。)二条は、職員が任命権者またはその委任をうけたものの承認を得て職務に専念する義務を免除される場合を定めていたが、右条例二条三号には「職員団体の業務に従事する場合」をあげていたほか、同条四号にもとづき制定された「職務に専念する義務の特例に関する規則」(昭和二六年県人事委員会規則四号・昭和三八年同規則二号による改正前のもの。以下、義務免規則という。)二条三号は「職員が法第五十五条第四項の規定にもとづき、当局に対し不満を表明し、又は意見を申し出る場合」を規定していた。<後略>

理由

第一、原告らの地位、懲戒処分と審査請求の存在

請求原因一ないし三項の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

第二、本件懲戒処分の処分理由

一、はじめに

(一)、被告が、昭和三三年六月三日勤評規則を制定・公布し、同日施行したこと、これに対し、和高教が、右規則の実施を阻止するため、同月四日から七日までの四日間ハンスト闘争を実施し、ついで同月二三日から二五日までの三日間四・三・三動員闘争を実施したこと、原告らが、右四・三・三動員闘争に関し、それぞれ和高教の執行副委員長、書記長、書記次長として右闘争を企画、共謀、せん動する等指導的な役割をはたしたことが本件懲戒処分の理由とされていることは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)、ところで、原告らは、被告が本訴において本件懲戒処分の理由として主張する事実のうち、原告らのハンスト闘争および原告片山の集団行進および集団示威運動に関する条例違反・道路交通取締法違反の各事実は、いずれも本訴においてはじめて追加主張されたものであつて、当初の処分理由説明書記載の事実とは内容を異にする別個の事実であるから、地公法四九条の趣旨に徴して許されない旨主張するので、この点について判断する。

地公法四九条は、職員に対し、懲戒処分その他その意に反すると認める不利益な処分を行なう場合には、その職員に対し「処分の事由」を記載した説明書を交付するよう任命権者に義務づけるとともに、その意に反して不利益な処分を受けたと思う職員に対し、その交付請求権を保障している。その趣旨は、不利益処分を受けた当該職員に処分時における処分理由を熟知させ、もつて人事委員会等に対する審査請求(四九条四項―昭和三七年法律第一六一号による改正前の規定、現行規定は四九条の二)をするかどうかの判断資料にさせ、よつて、当該職員の不利益処分に対する不服申立権を手続的に確保し、その身分の保障を図るとともに、懲戒処分の公正を確保しようとするにあると解される。したがつて、懲戒処分を行なう場合においては、その処分理由説明書には、当該処分の基礎となつた地公法二九条一項各号に該当する具体的事実を記載することが必要であると同時に、ひとたび、被処分者が審査請求をし、あるいは当該処分の取消を求める訴えを提起したのちにおいては、もはや処分理由説明書に記載された具体的事実と同一性のない事実を処分の基礎事実として主張することは、前記法条の趣旨にもとり許されないと解するのが相当である。

もつとも、およそ不利益処分を行なうにあたつては、処分の基礎となる具体的事実を確定するだけでなく、これに関連する諸般の情状をも総合的に考慮したうえで行なわれるものであるから、処分の量定に供された情状は、これも処分理由説明書にあわせて記載されるのが望ましいのであるが、右のような情状は、いわば懲戒権者が具体的な処分を選択するさいの裁量の資料にとどまるから、必ずしもこれを処分理由説明書に記載することは必要でなく、その後の審査請求や訴訟の段階において情状として追加主張することは必ずしも許されないわけではないと解するのが相当である。

これを本件についてみると、弁論の全趣旨によれば、本件懲戒処分の理由説明書には、原告らに対する処分理由として請求原因二項記載の事実が記載されていたことが認められるところ、これによれば、本件懲戒処分の基礎事実は、四・三・三動員闘争の企画・共謀であることが明白である。そして、四・三・三動員闘争の企画・共謀とハンスト闘争の企画・共謀・せん動および集団行進等に関するいわゆる公安条例違反・道路交通取締法違反の事実とは、明らかに事実関係を異にするから、前記処分理由説明書中の「闘争を企画し、遂行を共謀したこと等」の「等」の中に後者の事実を含ませて解するのは困難である。

ところで、この点に関し、<証拠>は、処分説明書の「等」ということの中には、本件勤評反対闘争におけるすべての行為を含ませる趣旨である旨供述するけれども、そのいわんとするところが、本件四・三・三動員闘争の企画・共謀のほか本件勤評反対闘争の過程におけるすべての行為を本件懲戒処分の構成要件的事実とする趣旨であるとすれば、処分理由説明書の中で「等」というあいまいな表現を用いることは、前記地公法四九条の法意に反するものといわなければならない。

したがつて、被告が本訴において、本件ハンスト闘争および原告片山の集団行進等に関するいわゆる公安条例違反等の事実を本件懲戒処分の別個の基礎事実として追加主張するものとすれば、それは違法であり許されない、しかし、前述のとおり、これを処分量定の情状の一つとして主張するとすれば、これは許されてもよいから、当裁判所は、被告のこれらの主張を本件懲戒処分の量定の情状を述べたものと解してあつかうことにする。

(三)、さらに、原告らは、仮に処分理由として処分理由説明書に記載のない事実のその後の主張が許される場合があるとしても、被告は、ハンストに関しては、これを理由とする懲戒権を行使しない旨の意思表示をしたから、これを本件処分の理由とすることはできない旨主張する。

<証拠>によれば、原告川端らが、同年六月五日ころ、和歌山県庁裏門付近でハンスト実施中であつたとき、被告委員会の小山委員および外山委員が右ハンスト現場に赴き、「勤評規則を抜き打ち的に実施したことは悪かつた。交渉を再開して勤評の是非論をあらためてやるからストは解いてくれ。ハンストを理由に処分はしない。」旨言明した事実が認められるところ、右事実によつても、被告が当時右ハンストを理由にして懲戒権を行使しないとまで決定していたとは必ずしもいえないのであるが、少くとも、被告委員会の構成メンバーである委員によつて右のように言明されたものであるから、原告川端らが右ハンストを理由にして処分はないものと信じたとしても無理からぬところである。のみならず、当時の教育次長であつた証人宮井龍が「その後被告委員会において本件処分を論議したさいには、右ハンストの事実は直接の処分理由として取りあげなかつたが、本件勤評反対闘争の過程における一連の行為として評価した。」旨供述しているところに徴すると、被告は、本件処分時においては、右ハンストの事実はこれを本件懲戒処分の構成要件的事実とは考えておらず、処分量定の事情として評価・取あつかいをしていたにすぎないものと認めるのが相当である。

そうすると、この点からしても、ハンストを本件懲戒処分の理由として追加主張することは許されないものというべきである(情状の一つとして主張することが許されることは前述のとおりである)。

二、和高教の組織と運営

被告の抗弁二項の事実は当事者間に争いがない。

三、本件勤評反対闘争の経過と態様

被告の抗弁三、(一)ないし(六)項の事実は当事者間に争いがない。

同(七)項の事実は、原告らが明らかに争わないから、自白したものとみなす。

同(八)、(九)項の事実は当事者間に争いがない。

同(一〇)項のうち、ハンスト実施の日、場所、経過およびハンスト要員、救護員、連絡員がそれぞれ職場を離れたことは当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、昭和三三年六月五日、六日、七日の各学校における教職員の職場離脱状況および職場会議開催状況は別表(三)記載のとおりであり、そのうち時間義務免による職場離脱の時間は長短さまざまであるが、最短時間は一時間、最長時間は昼の休憩時間や休息時間、放課後の時間をも含めて八時間であつたことが認められ、右認定を動かすにたりる証拠はない(なお、<証拠>によると、吉備高校では六月七日に三名の教職員が特別休暇をとつていることが認められるが、同証拠全体の記載内容からすると、右休暇は、本件闘争と関係ないものと推認される。また、<証拠>によると、青陵高校では六月五日、六日、七日に各一名の教諭が年次有給休暇または特別休暇をとつていたことが認められるが、同証拠全体の記載内容からすると、右休暇も本件闘争と関係ないものと推認される。そして、同証拠によれば、同校の義務免による職場離脱の最短時間は一七時から二一時までであることが認められるところ、同校は夜間の定時制であるから、定時制高校(夜間)の授業時間との関係で考えると、同校の義務免はいずれも全一日としてあつかうのが相当であると考えられる。)。

同(一一)、(一二)項の事実は当事者間に争いがない。

同(一三)項のうち、予定の闘争が延期されたことは当事者間に争いがない。

同(一四)項のうち、本部委員会の開催と各分会の意見および拡大闘争委員会開催と全員投票実施の決定の事実は当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、つぎの事実が認められ、この認定に反する証拠はない。すなわち、

六月一五日の本部委員会において、近日行なわれるべき四・三・三動員闘争については、

(1)  その目標を勤評の撤回、交渉の再開および不当弾圧への抗議におくこととし、学校ぐるみでこれを実施する。

(2)  当日の学校管理の方法として、責善教育の問題を討議するため、ホームルーム等の集会を開き、生徒総会を開かせる。

(3)  授業は足ぶみ授業の方法による。

(4)  盟休生徒の指導にあたつては、盟休の意義を理解させ、プリント学習に力を入れる。

以上が、原告ら執行部から提案され、了承、決定された。そして、その後、原告らが和高教幹部は、いずれ七者共闘会議で決定される第二波闘争の実施日(×日)に備えてオルグを実施することにし、各執行委員等組合幹部は各分会に赴き、闘争への参加を要請し、あるいは職場会議をしばしば開かせて意思統一をはかる等の努力を重ねた。

被告の抗弁三、(一五)項の事実は当事者間に争いがない。

同(一六)項のうち、高校長協会の協議会開催の事実は当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、六月一四日に開かれた右協議会における申し合わせ内容はつぎのとおりであつたことが認められる。すなわち、組合に対して、四・三・三割による動員闘争は望ましくないからこれをやめるように申し入れるが、組合の右闘争実施の決意もかたいことから、義務免をまつたく認めないとするとかえつて混乱が大きくなることが予想されるので、一割程度であれば義務免を承認する。しかし、四・三・三割による動員闘争が実施された場合にも、できるだけ正常な授業を行なえるよう努力し、登校拒否の生徒には、不利益にならないよう配慮するとともに、足ぶみ授業等の措置を講ずる。

右のような申し合わせをしたことが認められ、<証拠判断省略>

被告の抗弁三、(一七)項のうち、高校長協会の協議会開催と原告片山を除くその他の原告らの行動(ただし、原告川端の発言内容を除く。)および各ブロック別協議の事実はいずれも当事者間に争いがない。そして<証拠>を総合すると六月二一日に開かれた右協議会において、一割程度の義務免を承認することはやむをえないということが確認されたこと、前認定のような経緯で高校長協会の開催現場に赴いた原告川端は、闘争への協力参加を要請するなかで、「一割という線を出されては困る。もし、四・三・三動員闘争をしてくれないのであれば、この場でハンストを行なう。」などといつて、強く協力を求めたこと、ついで、右協議会のあとで行なわれた各校長と組合幹部との各ブロック別協議の結果、基本的には義務免の承認は一割程度であるが、最終的には、一人全一日ではなく交替で義務免をとる。いわゆるサミダレ式をも含めて、各学校の実情に応じ、校長と各学校の分会長・役員らとが話し合つて解決することになつたことが認められ、<証拠判断省略>

被告の抗弁三、(一八)項の事実は、指令(1)項の「義務免承認の闘いが起つている。」との部分を除き、当事者間に争いがない。そして、<証拠>中には、指令(1)項につき右のような記載があるが、この記載は、<証拠>と対比して容易に採用できず、他にこれを認めるにたりる証拠はない。かえつて、<証拠>によれば、右指令は、「義務免承認の闘いが残つている。」という内容であつたと認められる。

被告の抗弁三、(一九)項の事実は、原告らが明らかに争わないから、自白したものとみなす。

同(二〇)項のうち、和高教の闘争の実態に関する点を除いて当事者間に争いがない。

そして、<証拠>を総合すると、各学校の実情には若干の差異があるが、大略においては、同月二三日から二五日まで、いずれも全一日の参加者は約一割、その他授業のあき時間利用の参加者各学校若干名あて、合計延べ約六〇〇名くらいが、後述のような方法で所属学校長から義務免の承認を得て各郡市単位の集会に臨み、集会の代表者を介して県教育庁または地方指導室に対し、勤評規則の撤回と団体交渉の再開を求め、不満表明、意見の申し出をしたことが認められ、<証拠判断省略>

ところで、右の点に関し、前掲学校勤務実態名簿および学校実態調査書ならびに<証拠>によれば、同月二三日、二四日、二五日の各学校における教職員の職場離脱状況および職場集会開催状況は別表(三)記載のとおりであり、そのうち時間義務免または年次有給休暇による職場離脱の時間は長短さまざまであるが、最短時間は一時間、最長時間は昼の休憩時間や休息時間、放課後の時間をも含めて八時間であつたことが認められる(なお、<証拠>によると、吉備高校では六月二三日、二四日、二五日の三日間に、合計八名の教職員が特別休暇をとつていることが認められるが、同証拠全体の記載内容からすると、右休暇は本件闘争とは関係がないものと推認される。)。

しかし、<証拠>を総合すると、各学校によつて若干事情は異なるが、多くの学校においては、事前に学校長が義務免の承認の拒否を与えたものではなく、のち(第三の一、(三)項)に述べるような当時の慣行もあつて、本件四・三・三動員闘争に参加する組合員が一括して義務免の申請書を提出し、未だ学校長の承認のない状態のもとで職場を離れたけれども、各学校長も、すでに認定したような一割程度であれば各学校の実情に応じて義務免の許否を検討するとの抽象的基準にしたがつて、その後被告がした調査に対する報告のさい、右義務免申請者を、一割をこえないように配慮して六月二三日から二五日までの三日間に割振り、事後的に義務免承認者を選定し、処理したものであることが認められる。

そうすると、右学校勤務実態名簿および学校実態調査書等の記載だけから、右闘争の実態を判断するのは相当でないと考えられる。

四、本件闘争時における学校の実態および闘争による影響

<証拠>授業実態表および前掲学校実態調査書ならびに弁論の全趣旨によれば、第一、二波闘争当日の各学校における授業の実態は別表(一)および(二)記載のとおりであり、また同盟休校した生徒のいる学校では、いわゆる足ぶみ授業が行なわれたことが認められ、右認定を動かすにたりる証拠はない。

五、原告らの行動

被告の抗弁五項の事実中、原告らが本件ハンスト闘争および四・三・三動員闘争を計画、指導したこと、原告片山が勤評反対闘争の一環として、勤評反対七者連絡協議会等によつて行なわれた(一)昭和三三年八月一七日(二)同月一九日(三)同月二九日(四)同月三〇日の各集団行進に参加したことはいずれも当事者間に争いがない。

そして、原告奥、川端、木村らが昭和三三年六月二一日に開かれた高校長協会の協議会において、各校長に対し、四・三・三動員闘争への協力参加を要請したこと、同月二二日に原告らがその翼下各組合の分会長あてに、四・三・三動員闘争実施の電話指令を発したことはすでに認定したとおりである。

なお、被告は、原告片山の前記集団行進参加に関し、同原告は、デモ隊を指揮せん動して公安委員会の許可条件に違反し、蛇行進を行なわせて一般交通を妨害した旨主張するが、これを認めるにたりる証拠はない。

六、処分根拠法令

被告の抗弁六記載の事実は当事者間に争いがない。

七、むすび

以上によれば、本件懲戒処分は、和高教が実施した本件四・三・三動員闘争において、原告らが和高教の執行副委員長、書記長、書記次長として前記認定のような行動をしたことを基礎的理由とし、これに本件ハンスト闘争における前記認定のような行動をしたことを情状として考慮したうえ、地公法三七条一項、二九条一項一・三号を適用してされたものであると認められる。

第三、本件懲戒処分の適否

一、本件四・三・三動員闘争は「争議行為」であるか

(一)、本件四・三・三動員闘争の目的

本件四・三・三動員闘争が、勤評規則の制定・実施に反対する目的で行なわれたものであること、勤務評定の目的が原告らの主張一(一)項記載のようなものであることは当事者間に争いがない。

ところで、地公法四〇条一項は、「任命権者は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行ない、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない」旨規定しており、右規定と前記勤評規則八条の規定に照らして考えると、勤務評定は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行ない、その評定の結果に応じた措置を講ずる目的のため、これを記録するものである。すなわち、大量の職員の執務状況・実績・能力・適性等を組織的・統一的に評定することによつて、人事の管理・運営の適正・公平を期するための基礎資料の獲得を目的とするものと認められる。そうすると、勤務評定は、法律の規定にもとづいて任命権者がする人事管理・運営の一環をなすものであり、いわゆる勤務条件そのものではないといわなければならない。

しかしながら、勤務評定の結果が職員の昇任・降任・転任・配置換え等の人事異動、昇給・昇格・表彰等の待遇・成績不良者の発見・その者に対する研修および矯正・不適格者と目される者の発見・排除等のために広範に利用されるものであることは、制度それ自体の目的からして推測にかたくないところである。のみならず、和歌山県給与条例六条の二に「この条例中、勤務成績にもとづいて行なうこととされている昇給、又は勤勉手当の支給については、職員の勤務成績の評定の結果を参考として行なわなければならない」旨規定されている事例に徴しても右のことは明らかである。すなわち、勤務評定は、職員の勤務条件そのものではないが、これと密接・広範に関連する事項であることは明らかだというべきである。

そうすると、本件勤評規則による勤評制度は、職員の勤務条件と密接・広範に関連するから、それが同時に地方公共団体の長その他の任命権者が法律上の職務として行なうものであり、あるいは地方公共団体の管理運営事項たる側面を有するものであつても、職員団体である和高教が右勤評規則の是非を論議し、不満を表明し、その制定実施に反対し、和歌山県の当局との交渉の対象とし、あるいは実施された規則の改廃に関する措置を要求し、団体交渉の再開等の要求をすることは許されるものというべく、これらの目的を貫徹するために団体行動を行なつても、なんらさまたげられるところはないというべきである。

ちなみに、国際労働機構(ILO)・国連教育科学文化機構(ユネスコ)の合同専門家会議も、「教員の地位に関する勧告」の中でつぎのとおり指摘している。すなわち、

「教員の仕事を直接評価することが必要な場合には、その評価は客観的でなければならず、また、この評価は、教員に知らされなければならない。教員は、不当と思われる評価がなされた場合に、それに対して異議を申し立てる権利をもたなければならない。」(六四項)

「給与決定を目的としないいかなる勤務評定制度も、関係教員団体との事前協議およびその承認なしに導入し、あるいは適用されてはならない。」(一二四項)

右勧告は、「教育の進歩における教員の基本的な役割、ならびに人間の開発および現代社会の発展への彼らの貢献の重要性を認識し、教員が、この役割にふさわしい地位を享受することを保障すること」(前文)を目的として採択されたもので、中等教育終了段階までの学校における教員を適用の対象としている。

以上によれば、本件四・三・三動員闘争は、和歌山県下の公立学校に勤務する教職員の職員団体たる和高教が、勤評規則の制定・実施に関する前述の主張を貫徹するために行なつたものとして、その目的においては正当なものということができる。

(二)、職務専念義務免除の本質

原告らの主張一、(二)、1項の事実(義務免条例および義務免規則の存在)は当事者間に争いがない。

ところで、地公法三五条は、「職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」旨規定している。すなわち、職員の職務専念義務と呼ばれるものがそれである。そして、和歌山県義務免条例二条によれば、職員は、

(1)、研修を受ける場合

(2)、厚生に関する計画及びその実施に参加する場合

(3)、職員団体の業務に従事する場合(のちに昭和四三年一〇月一七日条例四四号で削除)

(4)、前三号に規定する場合を除く外、人事委員会が定める場合

においては、あらかじめ任命権者またはその委任を受けた者の承認を得てその職務に専念する義務を免除されることができる旨規定されており、さらに、義務免を承認する権限は、学校その他の教育機関の長に対する事務委任規程(昭和二九年和歌山県教育委員会訓令三〇号。昭和三七年同訓令二号による改正前のもの。)二条二号により、学校長に委任されていることが明らかである。

しかして、職員が義務免条例二条の規定にもとづき、あらかじめ任命権者またはその委任を受けた学校長より職務専念義務免除の承認を得た場合は、勤務時間中であつて、右免除を受けた期間(全一日あるいは時間義務免の場合がある。)、その本来の職責遂行の義務から解放され、同条同号に定める事項、すなわち、研修を受け、厚生計画やその実施に参加し、職員団体の業務に従事し、人事委員会が定める事項すなわち義務免規則二条各号、例えば当時の地公法四六条、又は四九条四項の規定による勤務条件の措置に関し要求し、不利益処分の審査請求をし、その審理に出頭し、同法五五条四項の規定にもとづき当局に不満を表明し、または意見を申し出る等をすることができる。すなわち、右のような便益を供与され、権利行使の機会を与えられるわけであるが、休暇のように職員がその期間なに事をするも自由であるということではない。

そこで、職員のする義務免申請の法的性質を考えてみるに、地公法三五条ならびに前記義務免条例および義務免規則の規定の趣旨に徴すると、職員の義務免申請は、任命権者等に対し承認の下命を求める請求権ではあるが、いわゆる形成権とまで解することはできないものであり、承認権の応否いかんに依拠するものである。他方、任命権者等のする義務免承認は、職務専念義務の免除によつて与えられる、権利行使の機会や有用業務へ参加する等の便益と、免除によつて影響を受けることのあるべき地方公共団体の事務の支障の有無・程度を彼此勘案してなされる裁量行為の性質を有するものと解するのが相当である。

したがつて、任命権者またはその委任を受けた学校長の承認がない限り、職員は義務免申請をしただけでは職務専念義務から解放されるわけではなく、また右の承認があつても、それが義務免制度本来の運用から逸脱していたり、その他権限濫用等の理由で適法なものでない場合は、前記のような職務専念義務免除の効力を生じないものといわなければならない。

(三)、本件四・三・三動員闘争における義務免の効力

本件四・三・三動員闘争のさいの和高教翼下の各組合員の職場離脱状況は前記第二の三項で述べたとおりであるが、以下に若干補足する。

右事実に、前掲学校勤務実態名簿、<証拠>を総合すると、つぎの事実が認められる。

1、義務免条例および義務免規則は、昭和二六年に制定・実施されたものであるが、制定当時から、教職員は、義務免は専ら組合活動の自由のために許されるものと考え、勤務時間中に組合の業務に従事する場合、当時の地公法四六条・四九条四項による勤務条件の措置要求、その他同法五五条四項の不満表明行為をする場合にこれを利用していたものであること、勤務時間中組合の用件で外出する必要がある場合には、当該教職員は学校長に口頭でその旨を告知するだけであり、学校長が常に書面により申請を出させ、その理由を調査し、これに明示の許否の応答をするような形式を採つたことはなかつたこと、教職員も学校長の明示の承認がなくとも、右の告知だけで事はたりるものと考えて行動していたこと、それが義務免制度運用上の慣行であつたこと。

2、和高教が、昭和三三年六月二三日から二五日にかけて、義務免の権利行使による本件四・三・三動員闘争を決定したことは、前述のとおりであるが、その後、原告奥副委員長および原告川端書記長は、同月二一日夜県立和歌山商業高校で開催されていた県下高校長協会に赴き、同協会に対して、四・三・三動員闘争への協力方、ことに、四・三・三動員闘争が教職員の義務免申請権の行使をその根幹の仕組みにしていること、義務免の法律的性質や前記のような運用上の慣行、承認の与え方について考えられる方法等を説明し、闘争参加学校の教職員から義務免申請があつた場合には、これを拒否することなく、すべてに承認を与えられたい旨強く要請したこと、これに対し協会側は、三日にわたり四・三・三の割合で義務免を承認したのでは学校の授業に著しい支障を生ずるので、全学校が一律に四・三・三の割合によつて義務免を承認することはとうてい承諾しがたい旨難色を示したが、当時は学校長も和高教の一組合員で、組合の活動方針には協力すべき関係にあつたので、協会側も、義務免承認をまつたく拒否することによつて生ずるであろう混乱を慮り、最後には、義務免承認の取あつかいについては、各学校それぞれの事情から学校運営上の影響の程度にも差異があるので、全学校一律に幾割を与えるとは決められないが、一割程度の承認であれば、各学校長がそれぞれ各自の学校の実情に応じて個別に承認数を考慮してもよい旨協会としての了解を与えたこと。

3、そこで、和高教の教職員は、高校長協会との右協議の結果に準拠し、各学校の実情には若干の差異があるが、大略においては、同月二三日から二五日まで、いずれも全一日の参加者は約一割、その他授業のあき時間利用の参加者各学校若干名あて、合計延べ約六〇〇名くらいが、所属学校長から前述のように義務免の承認を得て各郡市単位の集会に臨み、集会の代表者を介して県教育庁または地方指導室に対し勤評規則の撤回と団体交渉の再開を求め、不満表明・意見の申出をしたこと。

以上の事実が認められる。

そこで、右義務免の承認の効力について考察するに、まず右認定事実によれば、当時学校長は一方においては各学校の管理者たる立場にいながら、他面和高教の組合員として組合活動に参加し、その活動方針に協力すべき関係にあつたものであるから、各学校長のした義務免承認は、純粋に各学校の管理者の立場において学校の管理・運営上の問題点を配慮し判断した結果にもとづいてされたものとは認めがたく、また、各学校長は、各学校の多数の教職員が所属学校長の承認を得て一斉に職場を離脱すれば、各学校の平常の業務運営に障害をおよぼすべきことは当然に予想することができたものと認められる。そして、実際にも、本件四・三・三動員闘争実施当日には、前述のとおり多数の教職員が一斉に職場を離脱しており、そのため各学校においては、すくなくとも前記第二の四項で認定したような欠講による自習・授業のうちきりやホームルーム、庭球大会、映画観賞等が行なわれたのであるから、全体としてみると、本件四・三・三動員闘争により各学校における業務の正常な運営が阻害されたといわなければならない。

そして、本件四・三・三動員闘争が、勤評規則の制定・実施に反対するという和高教の主張を貫徹するため、集団的に行なわれたものであることもすでにみたとおりである。しかも、すでに認定したとおり、任命権者である被告から、本件四・三・三動員闘争が行なわれるに先立ち、六月二二日、県教育長職務代理者名で各学校長あてに「休暇闘争で業務を離れることを承認するな。」との職務命令が出されているのであるから、任命権者から受任をしたにすぎない各学校長としては、本件四・三・三動員闘争に参加するための義務免申請に承認を与えるのは、委任の趣旨に違背することになるのであるから、右申請はこれを承認すべきではなかつたといわざるをえない。

そして、そもそも、任命権者等がする義務免の承認は、前述のように裁量行為の性質を有するものであるが、それは義務免除によつて教職員に与えられる便益と義務免除の結果予想される地方公共団体の本来の業務運営上の支障の有無・程度を彼此検討・調整のうえ各申請ごとに個別にその許否が決せられるべき筋合のものであるところ、多数の者から一時にされた申請に対し、これに同時に承認を与えれば、多数の者が一時に職場を離脱する結果を生じ、平常の業務運営に多かれ少なかれ支障を招来するであろうことが当然予想されるのであり、そのような場合に、なんら申請の許否に選択を加えず一律に承認を与えるとすれば、それは職務専念義務免除の制度本来の運用から逸脱しており、承認権者の権限濫用とのそしりを免れないのである。

そうすると、本件四・三・三動員闘争にさいし、その参加者に対して各高校長が与えた義務免の承認は、義務免制度本来の運用ならびに学校長の義務免に関して有する裁量権を逸脱してされたものであつて違法であり、その本来の効力を有しないものというべきである。

(四)、結論

以上の次第で、本件四・三・三動員闘争は、原告らの所属する和高教が、勤評規則の制定・実施に反対・団交再開等の主張貫徹の目的でしたものであり、その目的は正当として是認しうるとしても、右闘争参加組合員に対する各学校長の義務免承認はその本来の効力を有しないものであるから、闘争参加組合員は監督者である各学校長の指揮・命令を排除して集団的に職場を離脱したことになるのであり、その結果各学校の業務の正常な運営に多少なりとも支障を生じさせたものであるから、右闘争はいわゆる同盟罷業であり、文理上は地公法三七条の争議行為に該当するものといわなければならない。

二、地公法三七条一項は憲法二八条に違反するか

(一)、公務員と憲法二八条

1、憲法二八条の意義

憲法二八条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」旨規定している。このいわゆる労働基本権の保障は、憲法二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、憲法二七条の定める勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障と相俟つて、経済上劣位に立つ勤労者に対しその地位の向上を図り、実質的な自由と平等とを確保することを目的とするものである。

そして、憲法一一条は、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」旨規定しているから、勤労者からこの労働基本権を剥奪することは許されない。それは、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、現在および将来の国民に永久不可侵の権利として信託された歴史的遺産ともいうべきものである。

2、公務員は憲法二八条の保障を受けるか

憲法二八条の「勤労者」とは、自己の労働力を他へ売ることによつて対価を得、その生活の資を獲得する者をいうと解されるところ、公務員もまた自己の労務を提供することによつて生活の資である給料を得る者である点において一般勤労者と異るところはないから、地方公務員や国家公務員も原則として憲法二八条の労働基本権の保障を受けるべきものである。

3、公務員の労働基本権の制約

しかし、このような労働基本権も、社会生活の場における他人とのかかわりあいの中で行使されるものである以上、他人の人権との間に矛盾・衝突を来たすこともあるべく、また公務員の担当する職務には、多かれ少なかれ、直接または間接に、私企業の労働者の場合とは異つた公共性が認められるのであるから、そのような見地からすれば、公務員の労働基本権についても、その職務の公共性に対応したなんらかの内在的制約が存するものと解するのが相当であり、絶対的無制約なものではありえない。

以上のとおり、公務員の労働基本権の制約の根拠が明らかになつたとすると、それではその制約の限度はどこに求められるべきであるか、この点に関し、最高裁は、前掲中郵判決でつぎの四条件を示した。

①労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者の適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は、合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならないこと。

②労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いものであり、したがつて、その職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきこと。

③労働基本権の制限違反に対する法律効果、すなわち、違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないように、十分な配慮がなされなければならないこと。

④職務または業務の性質上からして、労働基本権を制限することがやむを得ない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならないこと。

当裁判所も、右の四条件を基本的な基準として考慮すべきであると考える。

(二)、地公法三七条一項と憲法二八条

1、地公法三七条一項の沿革

昭和二〇年一二月に制定された旧労働組合法(昭和二〇年一二月二二日法律第五一号)四条は、「①警察官吏、消防職員及監獄に於て勤務する者は労働組合を結成し又は労働組合に加入することを得ず②前項に規定するものの外官吏・待遇官吏及公吏其の他国又は公共団体に使用せらるる者に関しては本法の適用に付命令を以て別段の定を為すことを得但し労働組合の結成及之に加入することの禁止又は制限に付ては此の限に在らず。」と規定したが、このような適用除外を規定した命令は定められなかつた。したがつて、当時は右のような警察官吏等を除き、一般の公務員は私企業の労働者と同様に争議権を保障されていたわけである。

ついで、昭和二一年九月に制定された旧労働関係調整法(昭和二一年九月二七日法律第二五号)三八条は、「警察官吏、消防職員、監獄において勤務する者その他国又は公共団体の現業以外の行政又は司法の事務に従事する官吏その他の者は、争議行為をなすことはできない。」と規定し、争議権の認められる公務員の幅が縮少された。それでも、いわゆる現業公務員等については私企業の労働者と同様に争議権が保障されていた。

昭和二二年五月三日から施行された日本国憲法二八条は、前記のとおり労働基本権を憲法上の権利として保障したが、昭和二三日七月三一日施行された政令二〇一号(昭和二三年七月二二日附内閣総理大臣宛連合国最高指令官書簡に基く臨時措置に関する政令)は、一条一項で、現業、非現業を問わず、すべての「公務員は、国または地方公共団体に対しては、同盟罷業、怠業的行為等の脅威を裏付けとする拘束的性質を帯びた、いわゆる団体交渉権を有しない。但し、公務員又はその団体は、この政令の制限内において、個別的又は団体的にその代表を通じて、苦情、意見、希望又は不満を表明し、且つ、これについて十分な話合をなし、証拠を提出することができるという意味において、国又は地方公共団体の当局との交渉する自由を否認されるものではない。」と規定するとともに、二条で、「公務員は、何人といえども、同盟罷業又は怠業的行為をなし、その他国又は地方公共団体の業務の運営能率を阻害する争議手段をとつてはならない。」(一項)、「公務員でありながら前項の規定に違反する行為をした者は、国又は地方公共団体に対し、その保有する任命又は雇傭上の権利をもつて対抗することができない。」(二項)と規定し、さらに、三条で、「第二条第一項の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。」と規定した。

このように、政令二〇一号によつて、公務員は、国家公務員たると地方公務員たるとを問わず、なに人も同盟罷業、怠業をはじめ、国または地方公共団体の業務の運営・能率を阻害する一切の争議行為を禁止されることになつただけでなく、これに違反した者は、刑罰をもつて処罰されることになつたのである。

そして、昭和二二年一〇月二一日に公布され、、附則二条を除いて、翌昭和二三年七月一日から施行された国家公務員法(昭和二二年一〇月二一日法律第一二〇号)には、争議権等に関する禁止規定はなかつたが、同年一二月三日法律第二二二号をもつて全面改正のうえ施行された同法九八条は、警察職員、消防職員および海上保安庁または監獄において勤務する職員の団結権を否定する(四項)とともに、「職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。」(五項)、「職員で同盟罷業その他前項の規定に違反する行為をした者は、その行為の開始とともに、国に対し、法令に基いて保有する任命又は雇用上の権利をもつて、対抗することができない。」(六項)と規定した(なお、昭和四〇年法律第六九号により、五項は二項に、六項は三項に、それぞれ改正された。)。そして、「何人たるを問わず第九八条第五項前段に規定する違法な行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者」は、三年以下の懲役または一〇万円以下の罰金に処することにし(一一〇条一項一七号)、現在におよんでいる。

そして、昭和二五年一二月に制定された地公法(昭和二五年一二月一三日法律第二六一号)三七条一項も、「職員は、地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をし、又は地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。」と規定し、二項で、「職員で前項の規定に違反する行為をしたものは、その行為の開始とともに、地方公共団体に対し、法令又は条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に基いて保有する任命上又は雇用上の権利をもつて対抗することができなくなるものとする。」と規定したうえ、国家公務員法と同様、「何人たるを問わず、第三七条第一項前段に規定する違法な行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者」は、三年以下の懲役または一〇万円以下の罰金に処することにし(六一条四号)、現在におよんでいる。

以上のような立法の沿革に徴すると、地公法三七条一項は、国公法九八条二項と同様に前記政令二〇一号の争議行為禁止規定の趣旨をそのまま引継ぎ、これを法律化したものであることが明らかである。

2、地公法三七条一項の立法目的と運用の実情

右のような沿革をもつ本条項の立法目的は、つとに最高裁が判示したように、「国民の権利はすべて公共の福祉に反しない限りにおいて立法その他の国政の上で最大の尊重をすることを必要とするものであるから、憲法二八条が保障する勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利も公共の福祉のために制限を受けるのはやむをえないところであ」り、地方公務員は、「国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ職務の遂行にあたつては全力を挙げてこれに専念しなければならない性質のものであるから、団結権、団体交渉権等についても、一般に勤労者とは違つて特別の取扱いを受けることがあるのは当然である。」(最高裁昭和二八年四月八日大法廷判決・刑集七巻四号七七五ページ参照)、という基本的見地のもとに、地方公務員の職務内容、性質等による公共性の差異およびその職務の停廃が国民生活に影響をおよぼす障害の程度等を個別的に判断することなく、すべての地方公務員のあらゆる争議行為を禁止しようとするにあつたものということができる。

そして、地公法が制定されて以来、今日まで争議行為を行なつた地方公務員に対し、捜査官憲による刑事訴追がされ、あるいは当局による行政処分がされてきたものであることは公知の事実である。

3、地公法三七条一項の違憲性

右にみたような本条項の沿革、当初の立法目的、運用の実情に照らしかつ本条項をその法文にそくして解釈するかぎり、本条項は、帰するところ地方公務員の職務の性質・内容に応じた公共性の強弱および争議行為の種類・態様のいかんにより、その職務の停廃が国民生活におよぼす障害の程度を論ぜずに、すべての地方公務員の一切の争議行為を一律全面的に禁止した趣旨のものと解さざるをえない。

そこで、地公法三七条一項が憲法二八条に抵触するかどうかについて、前述の基準に照らして判断する。

(1) すでに述べたとおり、労働基本権に対する制限は、基本的人権に対する制約であるから、必要やむをえない場合に、かつ、合理性の認められる必要最小限度にとどめられるべきであることは当然である。

ところが、地方公務員については、団結権と団体交渉権は否定されていないが、争議権は前述のとおり完全に否定されているのである。なるほど、団結権、団体交渉権と争議権は、相互に密接不可分の関係にたつものであることは明らかである。しかし、そのことは右三権のうち一つでも剥奪されれば、他の権利が実質上形骸化することを意味するのであつて、団結権と団体交渉権の保障さえすれば、労働者の地位の向上を図り、実質的な自由と平等とを確保するにじゆうぶんであるというものではないのである。労働者にとつて、争議権は、いわば最後の手段として行使すべき権利ではあつても、生存権を実現するための唯一かつ不可欠の権利であることを肯認しなければならない。

そうすると、本条項は、前述した公務員の労働基本権に対する制限は、必要やむをえない場合に、かつ、合理性の認められる必要最小限度にとどめられるべきであるとの要請にもとり、労働基本権を保障した憲法二八条の趣旨に反するものといわなければならない。

(2) しかも、すでにみたように、右禁止規定に違反して争議行為を行なつた職員は、免職等の懲戒処分を受けてもやむをえないものとされており(同条二項)、さらに、その企画・共謀等については三年以下の懲役刑を含む刑罰の対象とされている(六一条四号)のであるから、この点においても、前述した労働基本権の制限違反に対する法律効果すなわち、違反者に課せられる不利益は必要最小限度をこえないようにじゆうぶん配慮すべきである、との要請にも反しているといわざるをえない。

(3) のみならず、前述のように、地方公務員の労働基本権を制限することが、その職務の性質上やむをえないとしても、制限に見合う代償措置が講ぜられなければならないのであるが、それもじゆうぶんであるとはいいがたい。すなわち、地公法は、職員の給与は、その職務と責任に応ずるように生計費ならびに国および他の地方公共団体の職員ならびに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮し、また、その勤務時間その他職員の給与以外の勤務条件を定めるに当つては、国および他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮を払つたうえ、それぞれ条例で定めることとし(二四条)、地方公共団体には人事委員会または公平委員会を設置し(七条)、人事委員会に対しては、給与、勤務時間その他の勤務条件、厚生福利制度その他職員に関する制度について絶えず研究を行ない、その成果を地方公共団体の議会若しくは長または任命権者に提出すること、職員に関する条例の制定または改廃に関し、地方公共団体の議会および長に意見を申し出ること、人事行政の運営に関し、任命権者に勧告すること、職員の給与が地公法およびこれに基く条例に適合して行なわれることを確保するため必要な範囲において、職員に対する給与の支払いを監理すること(八条一項二・三・四・七号)、毎年すくなくとも一回、給料表が適当であるかどうかについて、地方公共団体の議会および長に同時に報告し、給与を決定する諸条件の変化により、給料表に定める給料額を増減することが適当であると認めるときは、あわせて適当な勧告をすることができること(二六条)、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件に関する措置の要求を審査し、判定し、および必要な措置をとること、職員に対する不利益な処分についての不服申立てに対する裁決または決定をすること(八条一項九・一〇号、四七条、五〇条)等の権限を与え、公平委員会に対しては、右の措置要求に対する審査等の権限および不利益処分の不服申立てに対する裁決等の権限を与え(八条二項一・二号、四七条、五〇条)、他方職員に対しては、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会または公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置がとられるべきことを要求することができること、また懲戒その他その意に反する不利益な処分を受けたときは、人事委員会または公平委員会に対し、その処分の審査請求をすることができることと定めている(四六条、四九条)。

以上によれば、地公法三七条一項が地方公務員の労働基本権の制限、ことに争議行為を全面的に禁止することに対応し、形式上は一応代償措置の制度が設けられていることが認められる。

しかしながら、前述の地方公務員に対する労働基本権保障の趣旨に照らすと、その制限、ことに争議権を剥奪する場合には、これに見合う代償措置も単に一応の形式的な制度が設けられているというだけではたりないのであり、職員または職員団体の意思の汲み上げと当局側の見解とが客観的に公平に調整できるよう構成されており、かつそれらの機構が真に勤労者である職員の生存権保障の実効性を有するものであることが要請されるといわなければならない。

ところが、以上みてきた代償制度を仔細に検討すると、形式上は一応整備された制度とはなつているが、職員あるいは職員団体の意思を反映させる仕組みは必ずしもじゆうぶんではなく、職員団体関与の度合いも低いことが明らかである。

また、地方公務員の給与その他の勤務条件に関する諸規定や人事委員会の勧告・意見等が、地方公務員の争議権剥奪に見合う代償措置として実効性をもち、職員の適正な勤務条件を確保する機能を発揮するためには、これらが地方公共団体の各機関によつて、迅速かつ完全に実施されなければならないというべきであるが、実際には、地方公共団体の議会その他の機関が、必ずしもこれらの勧告等を誠実に実施しない場合がありうる(現に誠実な実施をみられなかつたこともあることは公知の事実である。)にもかかわらず、人事委員会の右のような勧告や意見には相手機関を拘束する法的な効力はなく、相手機関が誠実に実施しない場合にとられるべき法的な措置も規定されていないのである。

のみならず、そもそも人事委員会の勧告についても職員団体が長年にわたり不徹底さに不満の意を表明してきたことは、公知の事実である(なお、地方公務員中には、地方自治法一八〇条の五第一項三号、二〇二条の二第一項・二項から明らかなように、人事委員会を置かない普通地方公共団体があり、それらにおいては公平委員会が職員の勤務条件に関する措置の要求および職員に対する不利益処分を審査し、ならびにこれについて必要な措置を講ずることになつているが、職員の勤務条件の維持・改善にはたす機能は低く、代償措置としてじゆうぶんでないことは明らかである)。

ちなみに、国際労働機構(ILO)の一九六五年九月一日「日本における公共部門に雇用される者に関する結社の自由実情調査調停委員会の報告書」(ドライヤー報告)も、地公法の代償措置についてつぎのように指摘している。

「地方庁においては、ストライキは絶対的に禁止されている。この部門において設置されている機関は、ストライキ権の否定に対してのみならず、労働協約が締結できないという事実及び団結権の保護に関し比較的明細でない規定が法律中に含まれている事実に対しても、代償とならなければならない。」(二一四九項)

「労働協約の締結は、地方公務員が法令による雇用条件等を享有しているとの理由により拒否されている。この点に関して、本委員会は、多くの場合において、労働協約締結権の否認に対する代償の役を果たすべき条例が全く存在しないか、または不十分もしくは不完全な形でしか存在していないことに注目する。とりわけ、法律が意図する通り条例により給与表を定めることを怠つている場合が広範にわたつて存在している。」(二一五〇項)

「設立されている代償機関は、各都道県府及び六大都市の場合は人事委員会、その他の自治体の場合は公平委員会からなる。人事委員会は三つの関連のある機能をもつている。第一に、人事委員会は、自らのイニシアティブによつて、現行給与及び勤務条件に関する報告を、必要とあれば勧告と共に、毎年地方公共団体に提出しなければならない。第二に、職員の要求があれば、人事委員会は、その適当と考える勧告をすることができる。第三に、人事委員会は、例えば、解雇のような不利益処分についての職員の申立てについて命令を下すよう請求される。第三の場合のみに人事委員会の決定は拘束力をもつ。公平委員会は、これらのうち第二及び第三の機能のみを果たす権限を有する。」(二一五一項)

「これらの委員会は、小数の例外を除き、三名の委員により構成されており、証拠によれば、これら委員会の委員に選ばれた委員が必要な不偏不党性を有しかつ一般にそれを有すると認められることを確保するための実質的なまたは実際的な保証措置が、とられていないように思われる。結社の自由委員会が指摘したとおり、これら委員会の構成がたんに公平であるというだけでなく委員会の中立性が一般の信頼を博し、かつ労働者の団体も委員の任命について発言権を有することを確保するように配慮しなければならないのである。法律は、各委員会のすべての委員が地方議会の同意を得て地方公共団体の長により任命されることを規定しているが、この手続が結社の自由委員会の勧告に適合したものと認められることはほとんど不可能である。本委員会は、これらの委員会の公平性を確保する問題を公務員制度審議会に付託することが望ましいことを指摘する。」(二一五二項)

「労働組合は、組合自体として委員会に対し、労働条件に関する措置を要求する権利を有していない。証拠によれば三三五名の者が同時に労働条件に関する措置につき、委員会に別々の要求を提出しなければならなかつた一つの例が明らかであるが、これは、集団の代表としての資格における組合に委託されることが通常期待される職務である。この点に関する現状は、変更されなければならない。故に、本委員会は、組合が組合員のために賃金及びその他の労働条件に関する措置を要求する権利を有すべきことを勧告する。」(二一五三項)

「地方公務員法の下では、ストライキも労働協約も存在しえないので、この部門における労働者は、代償保障を人事委員会及び公平委員会の勧告の完全かつ迅速な実施に依存している。証拠は、これらの勧告の大部分は実施されずに放置されていたか完全もしくは迅速に実施されなかつたことを示している。」(二一五四項)

以上のように指摘している。

そうすると、地公法三七条は、文理上・立法の沿革上、前述のように、地方公務員の一切の争議行為を一律に禁止しており、そのあおり等の行為に対しては刑罰をもつて臨んでいるのであり、この点において争議権の制限の程度が極めて強いのに対し、他方地公法が講じている前述のような代償措置の仕組みは、職員または職員団体の意思を反映させるにじゆうぶんでなく、その実効性も適正かつじゆうぶんなものとはいいがたいから、結局争議権剥奪の代償措置としては、その剥奪に見合う実質的な機能を営む構成となつているとは認めがたいというべきであり、争議権の侵害は否定しうべくもないといわなければならない。

(4) そうすると、地公法三七条一項は、すでに述べたような労働基本権を保障した憲法二八条の趣旨に反し、労働基本権に対する制限は必要やむをえない場合に、かつ、合理性の認められる必要最小限度にとどめられるべきである、との基準にもとり、しかも、その違反にともなう法律効果は必要限度をこえないようにじゆうぶんな配慮をすべきであるとの要請に反しているばかりでなく、その制限に見合う代償措置もじゆうぶんであるとはいいがたいから、結局本条項は憲法二八条に違反するといわざるをえない。

4、いわゆる合憲解釈について

(1) ところで、最高裁の前掲都教組判決は、地公法三七条一項が憲法二八条の趣旨に反し、違憲の疑いを免れないとしつつも、法律の規定は、可能なかぎり、憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう、合理的に解釈されるべきものであつて、この見地からすれば、規定の表現のみに拘泥して、直ちに違憲と断定すべきではなく、本条項の元来の趣旨は、「地方公務員の公共性にかんがみ、地方公務員の争議行為が公共性の強い公務の停廃をきたし、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活にも重大な支障をもたらすおそれがあるので、これを避けるためのやむをえない措置として、地方公務員の争議行為を禁止したものにほかなら」ず、「地方公務員の具体的な行為が禁止の対象たす争議行為に該当するかどうかは、争議行為を禁止することによつて保護しようとする法益と、労働基本権を尊重し保障することによつて実現しようとする法益との比較較量により、両者の要請を適切に調整する見地から判断することが必要であ」る旨判示し、いわゆる合憲解釈の法理によつて、地公法三七条一項の規定の表現にかかわらず、禁止されるべき争議行為の種類や態様についても、おのずから合理的な限界の存することが承認されるはずであるから、右条項は違憲無効であるとはいえない、とした。

(2) もとより、三権分立の精神に照らし、また、裁判官は直接国民によつて選任されるものではなく、また直接国民に対して責任を負うものでもないこと等に思いをいたせば、違憲法令審査権の行使はきわめて慎重に行なうべきであり、法令が憲法に適合するかどうかを判断するにあたつては、可能なかぎり憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう合理的に解釈すべきものであることは当然である。

しかし、合憲解釈に関する右一般法理は、法令の文言、立法目的・沿革等に鑑み二義的解釈が可能な場合、すなわち、一方で、最小限度の規制をしたものとして合憲的に解釈し得る場合には、他方で、右規制を超えたものとして違憲判断をすることが可能であつても、これを回避すべきであるとの原則であるから、そこにはおのずから一定の合理的な解釈基準が存するのであつて、いかなる法令も違憲と判断してはならないとするものではもちろんあり得ない。

いかに合理的・調和的に解釈すべきであるといつても、それが解釈であるかぎり、そこにはおのずから一定の限度ないし枠のあるべきことを否定できないのである。すなわち、どのように違憲性が明白な法令であつても、それを限定的に解釈することによつて、なにがしかの存在理由を見い出すことは可能であろうが、それはもはや法令解釈の域をこえて、立法作用を営むことになるといわざるをえない。そこで、つぎに右のような法令解釈の限度ないし枠をどのように考えるべきかが問題となるところ、その基準を定めることは必ずしも容易ではないが、一般的にいうならば、当該法規の文言、立法の沿革、立法趣旨からあまりにも逸脱した結果をもたらす場合には、解釈の限度ないし枠をこえることになるというべきである。

(3) これを、地公法三七条一項について検討するに、現代社会における行政機能の拡大にともない、公務とされる種類・性質は多岐多様にわたつており、地方公務員の職務内容・性質も公共性のきわめて強いものから、私企業のそれとほとんどかわらない公共性のきわめて弱いものにいたるまで、その公共性の程度・内容は強弱さまざまであり、しかも、ひとしく地方公務員の争議行為といつても、当然のことながら、その種類・態様もさまざまであるから、争議行為が国民生活におよぼす影響の程度も決して一様ではない。ところが、地公法三七条一項は、その文言にそくして解釈するかぎり、すべての地方公務員のいつさいの争議行為を禁止しているものであることは明白であり、その立法の沿革および立法の目的等に徴すると、一層明白になるのである。

しかるに、これを、公共性の強い公務の停廃をきたし、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれを避けるため必要やむをえない場合に、しかも合理性の認められる必要最小限度で地方公務員の争議行為を禁止したものと解することは、本条項の文言、立法の沿革、立法目的からあまりにも逸脱したものであつて、解釈の限度をこえると考えざるをえない。

(4) また、憲法の保障する基本的人権の制限ないし剥奪はきわめて重大なことがらであるから、その制限ないし剥奪の基準は法文上明確にされる必要がある。

ところが、「国民生活全体に対する重大な障害」という概念は、はなはだあいまいであるし、職務の「公共性の強弱」を判断する基準も必ずしも明確であるとはいえないだけでなく、争議権の剥奪が「必要な限度をこえない合理性の認められる最小限度のもの」であるかどうかの判断基準を具体化、客観化することも必ずしも容易ではないのである。したがつて、具体的に、どのような職務に従事する地方公務員の、どのような種類・態様の争議行為が国民生活重大な障害をもたらすおそれがあるものとして禁止の対象とされているのかを判断することは決して容易ではないといわなければならない。なるほど、複雑・多岐な社会事象を規律する法規にあつては、なに人もその判断に迷うことのないような一義的に明白な立法は技術的に困難をともなうであろうし、したがつてある程度の一般条項的な要素の存在を避けることはむずかしいであろうと考えられる。しかし、本件のように、あまりにも概念や基準にあいまいな要素が多く存在し、かつ、前記のような制限解釈によつて地公法三七条一項から憲法に反すると考えられる部分が除去されるとしても法文自体は依然としてもとのまま存在し続け、しかも、これをめぐる対立の激しい実情のもとにおいては、解釈する者の立場や主観によつて、それぞれにつごうのよいように解釈される危険がきわめて大きいといわなければならない。

そうだとすれば、地公法三七条一項の前記のような制限解釈は、労働基本権剥奪の基準として明確であるとはいいがたいといわざるをえない。

(5) 以上の次第で、地公法三七条一項に関して前記のような制限解釈を施し、これにより同条項が憲法二八条に違反しない、との結論を導き出すことは困難であると考える。

5、地公法三七条一項の合憲性に関する被告の主張について

被告は、「憲法二八条は原則規定であり、それが公共の福祉の面から制限されることは、憲法一二条・一三条の趣旨からして明白である。しかして、具体的にいかなる範囲で制限されるかは、立法者が労働関係の特殊性・業務の公共性等を勘案して法律の形で示すことになる。ところで、公務員は、憲法一五条二項に規定されているとおり全体の奉仕者であつて、使用者である国民または地域住民の信託をうけているものであり、その業務の内容が公共の福祉を目的とし、国民生活に密接につながり、その業務を罷めまたは怠ることは、直ちに公共の福祉と衝突する性質のものである点に鑑み、公務員に対しては労働基本権のうち団結権と団体交渉権とはこれを認めるが、勤務条件法定主義の基盤に立ち、協約の締結権と争議権は、これを否定することにしたのである。立法者がこのように公務員に対して争議権を否定しているのは、右のような制度的合理性を権利自身の内在的制約性ないし社会的必要に出たものであつて、憲法二八条に違反するものではない。」と主張する。

しかし、当裁判所は、つぎに述べる理由により右の見解には賛成しない。

(1) 憲法一五条二項は、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」と規定している。右規定は、公務員が旧憲法の官吏のように天皇に奉仕するいわゆる「天皇の官吏」ではないということを宣明するとともに、公務員の職務は社会全体の福利のためのものであつて、特定の政党・階級や社会勢力など国民の一部の利益のために奉仕すべきものではないとして、公務員が職務を逐行するにあたつての心構えを明らかにしたものであり、公務員の労働関係について定めたものではない。

そうすると、公務員が全体の奉仕者であることと団結権や団体行動権等の労働基本権を有することとは必ずしも相容れないことではないといわなければならない。

したがつて、右規定を根拠にして公務員の争議権に制限を加えることは許されず、まして、これを否定するようなことはすでに述べたような憲法二八条の趣旨と矛盾するものといわざるをえない。

また、「公務員は、使用者である国民または地域住民の信託をうけているものであるから、争議権は認められない」旨の主張は、「国民(地方住民)全体が公務員の使用者だから、公務員が、国民(地方住民)を代表する政府(地方公共団体の機関)の活動を阻害する争議行為をすることは許されない」という見解と同趣旨のものであると考えられる。

しかし、右のような見解は、国民(地方住民)と政府(地方公共団体の機関)と公務員の三者がまつたく同質であることを前提としてはじめて成り立つものである。ところが、現実の公務員の雇用関係は、使用者たる政府または地方公共団体の当局と労働者たる公務員との間で、労働的な従属関係をもち、するどく利害が対立しているのであつて、このような実態は、まさに資本主義社会における労使の関係にほかならないというべきである。

したがつて、前述のような見解は、公務員の雇用関係の実態を無視した観念論にすぎないといわざるをえず、とうてい賛成できない。

(2) つぎに、憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定している。

ところで、およそ基本的人権制限の一般的根拠を具体的論証を欠いたままで直ちに「公共の福祉」という抽象的観念に求めることは妥当でないし、まして団結権その他の労働基本権を否定し去ることはできないというべきである。「公共の福祉」を「国民全体の共同の利益」と解しても、なんら異るものではない。

もとより、公務員の担当する職務が、多かれ少なかれ公共性を有し、またその職務内容が原則として公共の利益に奉仕するものであることは明らかであるから、公務員の職務懈怠が多少とも公務の停廃をもたらし、ひいては公共の利益を害するにいたる可能性を有することは否定できない。

しかし、すでに述べたとおり、現代社会における行政機能の拡大にともない、公務員の担当する職務の内容も公共性のきわめて強いものから、私企業のそれとほとんどかわらない公共性のきわめて弱いものにいたるまで、種々さまざまであり、しかも公務員の争議行為もその種類・態様においで必ずしも一様ではないのであるから、争議行為のもたらす公務の停廃、ひいては公共の利益を害する程度も決して一様ではないのである。

そうだとすれば、争議行為制限の態様・程度も、争議行為によつてもたらされるであろう公共の利益侵害の内容・程度との相関関係にたつて決められるべきものであり、このような関係を考慮せず、公務員の争議行為を、その主体、種類、態様などのいかんにかかわらず、公共の利益侵害を理由に一律全面的に禁止することは、憲法二八条の存在を無視するものといわざるをえない。

したがつて、右見解にも賛成することができない。

(3) また、地方公務員の場合、地方自治法および地方公務員法により、またこれらの法律にもとづき議会が制定する条例と予算により、地方公務員の勤務条件はかなり詳細に規定され、予算的制約を受けていることが認められるのであり、この点において私企業の働者の労働条件が原則としてすべて労使間の交渉にもとづく合意によるのとは相違があることは明らかである。

しかしながら、公務員の勤務・労働の関係と一般私企業労働者の労働関係とは本質的に異なるものではないのであり、公務員の勤務条件が、その性質上団体交渉による決定になじまず、団体交渉の裏づけとしての団体行動を正当とする余地がないとすることはできないのである。憲法や法律が地方公務員の給与などの勤務条件に関する基準について、これを逐一法規によつて決定すべきことまで要請しているとは考えられないのであり、実際にも、流動してやまない社会・経済情勢のもとにおいては、右公務員の勤務条件について細大もらさず規定し尽すことはおよそ不可能と思われる。

のみならず、もし勤務条件の細部にいたるまですべてを法規によつて規制し、公務員の団体行動による影響力の行使の余地を完全に奪つてしまうとすれば、むしろそのような法規による規制自体が、憲法二八条に違反するとのそしりを免れないといわざるをえない。

結局、勤務条件法定主義を根拠にして、公務員の争議権を否定し去ることも許されないといわなければならないから、右見解にも賛成することができない。

(三)、むすび

以上、要するに、憲法二八条で保障される地方公務員の労働基本権も国民生活全体の利益の面からする制約が存するものであることはもちろんであるが、地公法三七条一項は、立法の沿革ならびに文理上すべての地方公務員の争議行為を一律に禁止するものと解さざるをえないとすれば違憲無効といわざるをえない。また可能な限り合理的限定解釈を施すとしても、地方公務員の禁止されるべき争議行為の種類・態様につき同条項の解釈として一般的・合理的な限界をもうけ、客観的に明確な基準を発見することは困難であり、同条項を限定解釈の名のもとに抽象的・不明確な基準のままで適用せんか、本来憲法上保障された労働基本権の行使として許容されるべき争議行為を禁止し、これがあおり行為等をなした者を処罰する結果を招来するおそれがあるから、結局地公法三七条一項は全部にわたり違憲・無効と解さざるをえない。

三、本件懲戒処分と懲戒権の濫用

すでに述べたとおり、当裁判所は、地公法三七条一項は憲法二八条に違反すると考えるものであるが、仮に地公法の右条項が合憲であるとしても、原告らに対する本件懲戒処分はつぎに述べる理由によりいずれも懲戒権を濫用したものであつて違法である。

(一)、はじめに

地公法二九条によれば、任命権者は、職員が同条一項各号に該当する場合、懲戒処分として、免職・停職・減給・戒告の処分をすることができる旨規定している。そして、右処分の軽重は免職が最も重く、以下右規定の順序で戒告が最も軽い処分と解されるのである。ところで、懲戒権者が懲戒処分をするに当り、いかなる場合にいかなる種類の懲戒処分をなすべきかについては明文の規定はなく、専ら懲戒権者の合理的な裁量にもとづく選択に委ねられているものと解されるのである。

しかして、右の裁量に当つては、憲法二八条が地方公務員に対しても労働基本権を尊重し保障している趣旨に徴し、また地公法が一方において地方公務員の身分を保障しながら、他面同法二九条等において職員に対する規律保持・職場秩序の維持を図つている趣旨に照らして合理的に判断し、その処分の種類の選択は、必要な限度を越えない、客観的に妥当な範囲内のものであることが要請されるのである。

一口に、地方公務員といつても、その職種や職務内容も種々であり、その公共性の強弱も様々である。また地方公務員が行なう争議行為も、その目的・態様・規模において多種多様なものがあると考えられる。したがつて、以上の点からすれば、地方公務員の争議行為もその公務の停廃が国民生活全体の利益を侵害し、国民生活にもたらす障害の程度も大小・深浅・強弱を異にするものであり、その結果地公法三七条一項に対する違反性も、構成要件的に可罰的でないような違法性の程度の低いものから、一見明白に強度の違法性あるものと判断される程度のものまで存在するものと考えられる。

したがつて、懲戒権者が懲戒処分をするにあたつては、職員のした違法行為の目的・態様等を慎重に検討し、その実質的違法性の強弱・程度に相応した種類の処分を選択すべきであり、違反行為の外形に眩惑され過度の処分を選択する結果とならないよう配慮すべきである。

ことに、本件は、地方公務員のうちでも、和歌山県下の公立高校の教職員の組織する職員団体が行なつた争議行為であるから、原告らに対して懲戒権を行使するにあたつては、教員の地位、職務の特殊性についても考慮を払う必要があるというべきである。

要するに、職員の違反行為に対する懲戒処分は必要限度をこえてはならないのであり、これをこえてされた処分は、場合により懲戒権の濫用として違法になるといわなければならない。

(二)、教育の本質と高校教育の特質

1、教育の本質

憲法二六条一項は、「すべての国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と定めている。これは、憲法二五条に定めるいわゆる生存権的基本権の保障を基本的理念とし、国民一人一人に対して、能力に応じた教育を受ける権利を保障するとともに、国に対し、教育を受ける権利を実現するための立法その他の諸措置を講ずべき責務を課したものであつて、それは、生存権的基本権の精神的・文化的側面を担い、さらに実質あらしめんことを使命とするところのものである。

換言すれば、憲法が保障した趣旨は、未来における無限の可能態としての子どもには、自ら事物を知覚・観察し、自らの人間性を学習によつて開花成長させて行く自然的な権利のあることを認め、それを実質的に保障することは、とりもなおさず平和主義・主民主義に立脚した国家の建設を目的とする憲法の根本理念にも合致することに思いをいたし、子どもの人格の完成をめざした教育を積極的に施すことが不可欠であり、それはまさに国民全体の自然的責務に属することを宣明したことにある。

憲法の右規定を受け、従来の教育勅語に代わる教育の根本法として、教育の基本を確立するために制定された基本法は、「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行なわれなければならない。」(一条)と定めている。

子どもの学習する権利―教育を受ける権利を保障する義務は、第一次的には親にあるが、それが社会的に組織化・共同化された親義務の委託に基づいて、教員の教育権が行使される。教員は、社会化された親義務のいわば代行者として、学問研究の成果を子どもに正しく伝達し、子どもの資質・能力を発展させ、創造力を付与する高度に精神的な文化的営為にあたるものであるから、学習権を充足させるにたる専門的・科学的力倆と経験豊かな指導性とを有するものでなければならない。

そのためには、教員に、子どもの発達、教育内容、授業展開の方法についての専門的研究が要請されるとともに、教育のいわゆる内的事項に関する全体的教育運営についての教員の権限の独自性が保障されることが必要である。してみれば、教員に対し、研究・教育の自由が尊重確保されなければならないことは明らかであるし、その社会的責務もきわめて重大である。

もとより、教育は、ひとり学校教育に尽きるものではなく、家庭教育・勤労の場所その他社会において行なわれる社会教育等、常時、あらゆる場所・機関において行なわれるべきものではあるが、なんといつても組織的制度としての学校における教育が最も子どもの学習権を充足するのに適しており、教育の根幹をなすものであることは否定できない。

2、高校教育の目的

教育基本権および学校教育法は、法律に定める学校の設置者として、国、地方公共団体および私立学校法三条に規定する学校法人のみが、これを設置することができる(教育基本法六条一項、学校教育法二条)としている(なお、昭和三六年公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(同年一一月六日法律第一八八号)が制定されている。)。

学校教育法は、高校の目的は、中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育および専門教育を施すことにあるとし(四一条)、高校教育の目標は、右目的を実現するため、以下の目標すなわち、「(一)中学校における教育の成果をさらに発展拡充させて、国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養うこと。(二)社会において果さなければならない使命の自覚に基き、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な技能に習熟させること。(三)社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、個性の確立に努めること。」の達成に努めなければならない、としている(四二条)。要するに、高校における教育目標は、有機的一体として系統的・計画的に実施される初等普通教育、中等普通教育の基盤の上に立つて、高等普通教育を施すことにより、究極的には、人格の完成をめざし、心身ともに健康な国民の養成を期して行なわれるものである。

3、高校教育の内容とその弾力性

(1) 教育課程の編成

前記教育目的を達成するために必要な組織編制・施設整備の基準として、高校における設備・編制・学科の種類等について高等学校設置基準が定められているが、学校教育の内実ともいうべき教育課程については、法律により国語・社会・数学その他の教科ならびにホームルーム・生徒会活動・クラブ活動等の特別教育活動、学校行事等の教育活動によつて編成されることとされている(学校教育法四三条、同法施行規則五六条・五七条、高等学校学習指導要領(昭和四五年一〇月一五日文部省告示二八一号)参照。)。

しかして、高校には、全日制・定時制・通信制の各課程を置くことが認められ、その修業年限は、全日制が三年、定時制・通信制が四年とされ(学校教育法四四条・四六条)、修了認定に必要な修得単位数を八五単位以上とし(同法施行規則六三条の二)、修学年限は、さらに四月一日に始まり翌年三月三一日に終る一学年ごとに区分される(同規則六五条・四四条)。

そして、全日制については、名学年における各教科・科目・ホームルームおよびクラブ活動の授業は年間三五週を下らないこと、週あたり標準授業数は三四単位時間とし、原則として三八単位時間をこえないようにすること、各教科・科目の授業は一単位について一個学年三五単位時間に相当する時間を下らないようにすることを定め、定時制のそれについては、生徒の勤労・生活状況等を考慮して適切に配当すべきものと定め(高等学校学習指導要領第一章第二節第一款)ながらも、他方では、具体的な教育活動を決定する、各学校における年間指導計画の編成にあたつては、各地域・学校の実態、生徒の能力・適性・進路等を考慮して、適切になされるべきことを要請している(同指導要領第一章第一節第一款)。

そもそも、高校における各学年は、各個独立のそれ自体自己完結的なものではありえず、各学年は相互に深く連関しているのであるから、指導計画は生徒の発展成長の法則に準拠しつつ、系統的・統一的観点からも適切に編成されなければならないものである。そのさい、このような教育課程の編成にもとづいて、学校における教育活動を行なう包括的な権限としての教育課程編成権は、第一次的に文部大臣に、第二次的に教育委員会に存するのか、あるいは教育権独立の一環として、自律的・集団的に行使される学校の教員組織に存するのかどうか、さらには、学習指導要領の法的拘束力いかんの問題があるけれども、いずれにしても、各学校の自律性が最大限に尊重されなければならないことは多言を要しない。

(2) 高校教育の柔軟性・弾力性

高校の年間指導計画は、年間の授業計画、ホームルーム等の特別教育活動の運営計画にしたがい、学校行事を考慮しつつ作成されるものであるが、同時に各週・各授業時間ごとにきわめて詳細に定められる。しかし、指導計画は大綱的基準ないし目標ともいうべきものであつて予期しえない教員の病休・年休・出張等をはじめ、突発的な学内・学外行事、自然災害あるいは集団的発病等による学級閉鎖等の事態が発生することによつて、相当の修正・変更を余儀なくされることもありうるし、学級相互の進度を調節し、生徒の理解力に応じた授業を行なうため、適宜変更される場合もある。

教育というものは、前述のとおり教員と生徒との人間的触れ合いの中で営まれるものであるから、生徒の能力・教育効果等を勘案しながら、具体的状況に即応しつつ弾力的・裁量的に行なわれるべきことはむしろ当然のことであつて、いたずらに機械的・一律的な計画の逐行を要求することによつて、かえつて本来の計画の真意を見失うようなことがあつてはならないはずである。のみならず、年間指導計画自体も、右の点を考慮し、あらかじめ余裕をもつて作成されているのである。

このように、修正・変更されて行なわれなかつた授業は、事前、事後に時間割の変更・授業計画の変更等を行なつて、それによる影響を最小限度におさえ、最短期間内に回復する措置がとられる。具体的には、あらかじめ課題学習を指示し、レポートの提出を求め、夏期・冬期の休暇中に補習授業を行なうなどのことが考えられる。

以上の事実は、<証拠>によつて認められるところである。

(三)、教員の職務の公共性と争議行為

1、教員の職務

学校教育法は、高校における教員の職務は、生徒の教育を掌ることにあると定める(五一条・二八条四項)。教員は、科学的真実を探究し、芸術的価値を重んじ、自由な教育研究と子どもの発達の法則についての専門的知識をそなえ、子どもの知性や感性の発達に即して適切に教材を与え、子どもとの人間的な触れ合いを通じて、天賦の個性を伸し、能力を発展させることのできる専門家であることが要請される。

しかして、教員の具体的な職務は、ひとり教室内での授業その他の教育実施および教育内容についての研究のみにとどまらず、教育計画の立案・成積評価・研修等の教育活動はもとより、教育活動に直結する出席簿・通信簿・学級日誌等の作成、会計等の教務事務等の付随的な事務にもおよぶ広範囲のものである。

教育の根幹をなす学校教育が、究極的な目的たる人格の完成と心身ともに健康な国民の育成を期するためには、学校教育が円滑に行なわれる必要があり、それには各教員による不断の実効ある教育実践活動が不可欠であるといつても過言ではない。

2、職務の公共性

教員の職務は、前述のとおり、教育の根幹をなす学校教育の中心的役割を担うものであり、それはいわゆる生存権的基本権の文化的側面を形成する子どもの学習する権利―教育を受ける権利を保障するために、社会化・共同化された親義務の信託に基づいて行なわれるところの、高度に精神的な営みである。

したがつて、その職務は、きわめて公共性の強いものといわなくてはならない。

3、職務の停廃による障害

教員の争議行為によつて、教育内容に重大な障害をもたらし、ひいては国民生活全体に有形・無形の不利益をおよぼすことのあり得ることは、認めなければならない。すなわち、争議行為が、長期間にわたり広範囲におよぶときには、国民生活への障害の程度はきわめて重大であることは明らかであるが、そこまでにいたらなくても、争議行為の目的・種類・規模・態様・影響等・具体的事情のいかんによつては、右要件を充足する場合はありうる。

そして、ここにいう障害の有無・程度とは、争議行為が行なわれたにもかかわらず、学校教育があらかじめ定められた教育課程、年間指導計画にもとづいて、教育上の配慮その他による修正・変更等を施しながらも、全体として正常に運用されたかどうか、および教員の教育内容についての研究・研修等の教育活動、学級日誌等の作成等の教務事務等が支障なく行なわれたかどうか、さらには生徒が精神的に平隠な状勢で授業に臨むことができたかどうか等の諸点の評価であり、その態様は様々でありうる。

そのさい、特に留意しなければならないことはつぎの点である。

第一は、争議行為即障害の発生という形式的尺度によつて、その適否を判断することは、必ずしも正当ではない、という点である。争議行為が専ら子どもの教育環境・教育条件の整備・向上を目的として行なわれる場合はもとより、専ら教員の勤務条件の改善を目的として行なわれる場合であつても、究極的には子どもの教育を受ける権利を保障する一面のあることを見逃してはならない。労働基本権の保障と教育を受ける権利の実現とのかかわり合いにおいて障害の実質的な違法性の程度を検討するべきである。

第二は、争議行為の子どもに与える精神的影響の点である。教員の争議行為が、子どもに対し、教育上いかなる影響を与えるかの面からの検討も忘れてはならない。

第三は、教育の柔軟性・弾力性の点である。前述のとおり、学校における年間授業計画は、適宜修正・変更されることを考慮して、ある程度の余裕を残して立てられるもので、柔軟性・弾力性に富むことである。したがつて、争議行為による授業の支障が軽度であれば、ある程度回復することはできるわけであり、障害の違法性の程度も低いことになる。

その場合、争議行為によつて学年度内における年間指導計画の達成が事実上妨げられ、あるいは妨げられるような事態が生じたかどうかの判断にあたつては、つぎの点が重要なメルクマールとなる。

(イ) あらかじめ、授業に代えて、特別教育活動、学校行事等を組み入れることによつて、指導計画を変更・修正し、生徒に課題学習を指示し、レポートの提出を求めるなどの事前の措置・対策がじゆうぶんに行なわれたかどうか。

(ロ) 事後に、争議行為による授業への影響を最短期間内に回復する措置がとられたかどうか。例えば、休日あるいは夏期・冬期休暇中等における補習授業などにより、可及的にしかも無理なく回復させる措置がとられているかどうかということである。

(ハ) 争議行為の時期・期間の長短いかん。学年末よりも学年当初が、学期末よりも学期当初が、いずれも争議行為による影響が少ないし、争議行為が長期にわたれば、それだけ回復は一層不可能になることは明らかである。

(四)、本件四・三・三動員闘争の目的

本件四・三・三動員闘争が、勤評規則の制定・実施に反対する目的で行なわれたものであり、その目的においては正当なものであることは、すでに第三の一、(一)項において述べたとおりである。

そして、<証拠>によれば、和高教が勤評の制定・実施に反対したゆえんのものは、そもそも教員に対する勤評の能否・是非という疑問に立ち、勤評が実施されるときは、やがて学校教育の現場は荒廃し、教員の教育に対する志気・情熱がそがれ、責善教育を含めた教育の目的がじゆうぶん達成されなくなつてしまうという危惧の念のもとに、それはとりもなおさず国民の教育を受ける権利を形骸化することであるという問題意識にもとづいていたことが認められる。

ところで、教員に対する勤務評定は、多数の教職員を組織的に使用している地方公共団体が右の組織による業務の能率を維持・向上するためには、人事の適正・公平な管理・運営が必要とされるところから、人事管理・運営に資する基礎資料獲得のために、定期的に教職員の勤務につきこれを評定し、記録することを目的とするものであるから、右の勤務評定は、その本来の目的においては合理的な制度というべきである。

しかしながら、前記ILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」も指摘しているように、教員の勤務成績の評価は、その職務内容の特殊性からして、人間性の尊重に根拠をおき、すぐれて客観的・科学的に行なわれなければならないのであつて、もしこれがじゆうぶんに担保されないまま実施されるときは、学校教育全般に深刻な悪影響をおよぼすであろうことは明らかであるから、評定内容(項目)・評定方式・評定様式等の細目を決定するに当つてはその全般にわたり、教職員あるいはその団体の意見を徴するなどして慎重に検討されなければならない。

このように、勤評規則の内容いかんが教育にきわめて重大な影響をおよぼすことに鑑みれば、教育的見地に立つて勤評の制定・実施に反対しようとした本件四・三・三動員闘争の目的には、傾聴すべきものがあつたと評価し得るのである。

(五)、本件四・三・三動員闘争にいたる経過

本件勤評問題の発生から本件四・三・三動員闘争にいたるまでの経過は、前述(第二の三、本件勤評反対闘争の経過と態様の項)のとおりであるが、以下に若干補足する。

右認定事実に、<証拠>を総合すると、つぎの事実が認められる。

1、本件勤評問題の発生以来、和高教および和教組が、教育公務員に対する勤務評定は、教職員の職務の性質上、本来不可能であり、また和歌山県が昭和二五年以来努力して一応の成果を収めつつあつた責善教育を阻害し、差別を助長する結果になるとして反対し、数回にわたり被告と交渉をもち、その後同年五月一三日七者共闘会議が結成されるや、共闘会議が前面に立つて被告との間に責善教育問題を中心として勤評制度を論議してきたこと。

2、ところで、同月二九日和歌山県立盲学校において、七者共闘会議と被告との間に二回目の交渉が行なわれたのであるが、七者共闘会議の主張に対し被告側が資料を検討したうえで責善教育問題について見解を表明し回答することになつていたところ、被告が示した回答とは、勤評制度は差別を助長するものではないという絞切型の簡単なものでしかなかつたため、七者共闘側はこれを不満とし再度誠意ある回答を迫つたので、被告もさらに検討して右の問題に対する見解をとりまとめることを約し、勤評論議を続行することにして次回を六月四日と決めたこと。

3、ところがその間にあつて和高教を含む七者共闘側が前述のように続々と闘争態勢を固めつつあることを新聞報道その他で聞知した被告は、従来の交渉経過からみてこれ以上話し合つても七者共闘側との間に意見の歩み寄りを期待することは困難であると判断し、急拠七者共闘側との交渉をうちきり、最終的に勤評規則を制定・実施することにふみきることを決意し、規則制定の作業を急ぎ、同月二日夜にはこれを完結して翌三日本件勤評規則を制定・公布するとともに、前に約束した六月四日の交渉はこれをうちきる旨和高教をはじめ七者共闘側へ通告したこと。

4、和高教をはじめ七者共闘側は、被告が一方的に団交の約束を破棄して話し合いをうちきり、突然勤評規則を制定・実施したことを知るや、これを抜き打ち実施と受け取つて憤激し、これを契機に従前から準備しつつあつた闘争態勢を一層強化し、和高教の書記長の原告川端は同日からハンストに単独突入し、同四日には各高校代表二五名および執行部代表二名がハンストに入り、和高教は同月五日に一斉休暇闘争を行ない、解同は子弟の盟休闘争を、県地評は子弟の登校拒否闘争をそれぞれ実施したこと。

5、また、和歌山県高校長協会はすでに意見書により、被告の勤務評定試案に対し、評定内容や評定方法について問題点を指摘して批判し、勤務評定は時間をかけて論議し、あまねく関係者の納得のもとに実施されるべきである旨提言していた(この点は、当事者間に争いがない。)のであるが、被告による右意見が一顧だにされないまま右のように勤評規則が実施されたことに強く反対し、同月四日宮井教育次長に対し、「勤評を抜き打ち的に実施した県教委の態度は遺憾である。県教委は今までのいきがかりにとらわれないで冷静な判断と民主的な態度で大局的見地に立ち善処を望む」旨の要望書を手交したこと。

6、その後、和高教のハンストは被告の要請により一たん撤収され、七者共闘と被告との団交も再開されたが、被告の勤評規則実施の姿勢が強硬であり、団交においてこれが改廃を求める七者共闘側の態度も次第に激越となつたため、両者の話し合いは平行線をたどるのみに終始し、ついに同月九日の交渉を最後にして団交は再びうちきられてしまつたこと。

7、そして、右事態を迎えて以降和高教は第一波のハンストに引きつづきさらに強力な第二波闘争として、前述のとおり本件四・三・三動員闘争を計画し、同月二三日から二五日までこれを実施するにいたつたものであること。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、勤務評定は、前述のように、教職員の勤務条件に密接な関連を有するものであるから、和高教がこれを被告との交渉の対象としてもなんら妨げられるところはないのであり、また、評定内容や評定方法等の細目については、地公法の規定の趣旨の範囲内において当該公共団体の実情に応じ適宜にこれを定めることが許されるものと解されるのであり、評定内容および評定方法について密接な利害関係と関心を有する教職員団体の意見を徴し、これを規則制定に反映させることは拒否されるべきではなく、むしろ望ましいことですらあるのであるから、被告は、高校長協会の提言のように、時間をかけても和高教や和教組と話し合い、論議を尽すべきものであつたといわなければならない。

<証拠>によれば、和教組をはじめ七者共闘側と被告との交渉においては、七者共闘側は総論的に勤評規則の制定に絶対反対の意思表明をするだけで、被告が評定内容に対する意見を求めてもその点の話し合いに応じようとする態度には出なかつたことが窺えるのであるけれども、被告としては、七者共闘側に対し評定内容に対する意見を求めるため、なお論議を継続する努力をすべき余地がまつたく存しなかつたことは認めがたい。七者共闘側の戦術に乗ぜられまいとする配慮があつたとしても、被告が勤評論議続行のため一たん決定された交渉日程を破棄して急拠勤評規則の制定・実施をした措置は、和高教をはじめ七者共闘側に、抜き打ち実施と受けとられてもやむをえないものがある。もとより、前述の全般的な闘争経過に徴すると、本件勤評問題については、関係教職員の団体である和教組および和高教だけでなく、解同その他前述の各団体が七者共闘会議を結成し、広範に闘争を展開して行つたことが本件勤評闘争を深刻なものにしたことは争いえないところであるけれども、被告が勤評規則の実施にさいして採つた前記姿勢もまた和高教をはじめ七者共闘側が第一波・第二波と本件勤評反対闘争を一段と激化させるにいたつた一因となつたことは否定しがたいところである。

(六)、本件四・三・三動員闘争の規模とその態様

本件四・四・三動員闘争の規模とその態様の概略は、前述(第二の三中、被告の抗弁三、(二〇)項の事実に対する認定部分)のとおりであり(なお、第一波闘争の規模と態様については前述第二の三中、被告の抗弁三、(九)、(一〇)項の事実に対する認定部分のとおりである。)、また、職務専念義務免除の承認の法的性質および本件四・三・三動員闘争において各学校長のした義務免の承認がいずれも効力を生じないものであつたことも、前述のとおりであるが、以下に若干補足する。

右事実に、<証拠>を総合すると、つぎの事実が認められる。

1、教職員の義務免行使を軸とする本件四・三・三動員闘争は、前述のとおり、六月二〇日和高教拡大闘争委員会において、決定されたものであるが、それ以前の本部委員会等においては、一斉休暇闘争あるいはハンスト等の戦術論議がある一方、実力行使に消極的な意見もあつたこと、ところが、当時上部団体である日高教が全国の勤評反対闘争について合法闘争で行なうことを指導しており、かつ和高教内部の組織実態も必ずしも一斉休暇闘争に堪えうるほど強くはなかつたところから、執行部も比較的多数の組合員の賛同を得やすいと思われる義務免行使闘争を行なうことに傾斜して行つたものであること、そして六月二〇日の拡大闘争委員会において右闘争に対する県下組合員の賛否投票の結果を集約したところ、六〇パーセントを超える賛成があつたこと。

2、その間、和高教の執行部は、和高教の法制専門委員会に諮問して義務免行使による戦術の法的問題点を検討し、さらに、原告川端および片山が和歌山県人事委員会の担当係長に会つて義務免制度の法的性質を問いただした結果、執行部は組合員の義務免申請に対し各学校長の承認さえ得られれば義務免行使による闘争は合法であるとの確信を抱くにいたり、各学校長に義務免承認方を強く懇請することになつたこと、右方針に則り原告川端および奥が同月二一日県立和歌山商業高校で開かれていた高校長協会に赴き右闘争に対する協力方、ことに、義務免承認方について声を大にして強く要請した結果、高校長協会は、一割程度であれば各学校の実情に応じて処置してもよいとの意向を示したこと。

3、本件の義務免行使による四・三・三動員闘争というのは各学校の組合員が同月二三日から二五日までの三日間にわたり、順次四・三・三の割合で学校長より職務専念義務免除の承認を得たうえ、結局組合員全員が右三日間のうち必ず一日は措置要求大会等に出席・参加するという闘争方式であること。

4、なお、義務免申請の手続については、各学校によつて差異はあるが、おおむね本件動員闘争の前日である同月二二日和高教の下部機関である分会の役員が各学校ごとに組合員の義務免申請書を一括してとりまとめ、二三日から二五日までの各日にそれぞれ必要数を割振つて各学校長に対し、その承認を求めるという形式をとつたものであること。

5、本件四・三・三動員闘争への動員・参加の状況は、県下の各学校の事情によつて異なるが、大略をいえば、和歌山市、田辺市等の市部においては、全一日の参加者および授業のあき時間利用の参加者をあわせてほぼ四・三・三の割合に近い線で動員することができたが、郡部の学校においては、参加人員の極く少ないところもあり、全三日間における参加者は、延べで当時の全組合員約一三〇〇名のうち約六〇〇名くらいであつたこと。

以上の事実が認められ、<証拠判断省略>(なお、本件四・三・三動員闘争にさいし、原告らはもとより、和高教翼下の組合員らが、暴行、脅迫を加えたことは認めるにたりる証拠もない。)

(七)、本件四・三・三動員闘争の影響

本件四・三・三動員闘争の規模および態様は右に述べたとおりである。また、右闘争日である同年六月二三日から同月二五日までの間の各学校における授業の実態は前述(第二の四)のとおりである。

以上、要するに、右闘争により各学校における平常の授業は必ずしも円滑に行なわれず、また校務の運営も阻害されたことは、否定しがたいところである。

ところで、前掲学校勤務実態名簿、学校実態調査書、授業実態表、<証拠>を総合すると、つぎの事実が認められる。

1、本件四・三・三動員闘争は、同年六月二三日から同月二五日まで三日間にわたり行なわれたものであり、三日間における組合員の動員状況は前述のとおりであるが、当初の計画どおり四・三・三の割合で動員が行なわれたとしても、各日なお六・七・七割の教職員が各学校で授業を行なうことになつていたのであり、一斉十割休暇と異なり、各闘争日の全一日まるまる授業が行なわれなかつたものではないこと、右闘争に突入前、多くの学校においては、当該学校の実情に応じ、事前に、参加組合員担当の授業時間と居残り教職員の授業時間とを振替えるなどして時間割の調整をし、右時間割の振替え、変更によつても、どうしても欠けることが予想される授業時間はプリント教材による自習に振替え、または映画観賞、講演会あるいは陸上競技大会を開催し、その他特別時間割を編成して、極力授業カットの事態が生じないように努力したこと。

2、第一波闘争のさいは、七者共闘会議の解同および地評翼下の組合員の子弟が同盟休校するという闘争方針がとられたため、和高教翼下の高校にもその影響が波及し、同盟休校生徒のある高校では、それらの生徒と右休校不参加の在校生徒との学習差が生じないための配慮として、出張授業やいわゆる足ぶみ授業を行なつたが、本件四・三・三動員闘争のさいには、同盟休校を行なつたのは解同の子弟だけで、地評翼下の組合員は同盟休校戦術をとらなかつたため、和高教翼下の高校の同盟休校によつて受ける影響は第一波に比して少なく、出張授業あるいは足ぶみ授業等を配慮する必要もあまりなかつたこと。

3、前記のような配慮をしても、なおかつ本件四・三・三動員闘争によつて各学校における平常の授業が円滑に行なわれず、ために学習に遅れを生じたであろうことは前述のとおり否定しがたいところであるが、それら学習に遅れを生じた分については、第一波あるいは本件闘争に続くその後の和高教と被告との間の異常事態を考慮しても、それほど長期にわたる日数を要せずして平常の授業の進度を回復することができたものと考えられること。

以上の事実が認められ、<証拠判断省略>

なお、<証拠>によれば、本件四・三・三動員闘争が同年六月二三日から同月二五日まで三日間にわたり行なわれることは、一般市民や父兄・生徒らも新聞報道等により事前に周知させられていたことが認められる。

以上認定の事実のほか、本件闘争の行なわれた時期をもあわせ考えると、本件闘争によつておよぼした各学校の授業の支障、学習の遅延は、これを全体として評価する限り、年間指導計画の達成を妨げるほどの事態を招来したものとは認めがたい。

つぎに、<証拠>によれば、本件四・三・三動員闘争により、生徒が精神的に衝撃を受けて動揺を来たし、あるいは、学校をあとにして本件闘争に赴く教師の姿に批判の眼を向けている事実が認められないではない。

しかし、前述のように、高校教育は、小・中学校における義務教育とは異なり、より社会に密接した形態において、より高等の知識・教養を与え、社会人として生活する基本的な教育を目的とするものであるから、万般の社会事象は大なり小なり高校生徒の教材ともいうべく、また、高校生の心身の発達状況に鑑みれば、小・中学校の児童に比べて自我も成長しており、批判力も存するのであるから、右社会事象に応分の対処をすることもできるものと考えられる。したがつて、集団の力をもつて争議行為が、常に高校生に対し精神的に、または教育上悪影響だけを与えるものとは断定しがたいのである。

前記認定の事実だけでは、本件四・三・三動員闘争が、生徒に対して、被告の主張するような教育上とりかえしのつかない悪影響をおよぼしたとはいえない。

(八)、懲戒免職および停職処分の重大性

懲戒免職は、被処分者をその職場から追放するものであり、場合によつては、その生活の基準をまつたく失わせる結果を招くおそれが大である。懲戒処分としては最も重く、被処分者に重大な影響をおよぼすものであることは、あらためていうまでもない。

つぎに、停職処分は、その期間中いかなる給与も支給されない(昭和二七年和歌山県条例第二号、職員の懲戒の手続及び効果に関する条例四条三項)。いかなる給与も支給されないことは、多くの場合、給与を唯一の収入源としている公務員労働者とその家族の生存に脅威を与えるものであり、その期間が長ければ長いほどその影響も深刻かつ重大なものになることは明らかである。

和歌山県の場合、「停職の期間は、一日以上六月以下とする。」旨定められている(右条例四条一項)。

原告奥、木村、片山に対する停職処分が、右条例で定められた最長期間の六か月であつたことはすでにみたとおりである。

(九)、結論

以上の点に鑑み、かつ、すでに認定したような本件ハンスト闘争の規模、態様、影響および原告らの行動等を情状として斟酌しても、なお前記懲戒処分の裁量基準から検討すると、原告川端に対する免職処分はもとより、その他原告らに対する停職処分も、いずれも必要な限度を越えて過酷に過ぎ、妥当性を欠くもので、懲戒権を濫用したものというべきである。

したがつて、原告らに対する本件懲戒処分、この点からも取消しを免れないものである。

四、本件懲戒処分の違法性

以上のとおり、地公法三七条一項が、憲法二八条に違反し無効であると解される以上、原告らの前述の行為が地公法の右条項に違反することを前提としてされた本件懲戒処分は、その前提を欠くものであつて違法である。そして、仮に地公法の右条項が合憲であるとしても、本件懲戒処分はいずれも懲戒権を濫用したものであつて違法であるから、いずれにしても取消しを免れない。

第四、むすび

以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民訴法八九条にしたがい、主文のとおり判決する。

(諸富吉嗣 大藤敏 喜久本朝正)

(別紙)

奥鈴雄 停職六か月

川端磊三 免職

木村幹次郎 停職六か月

片山政造 停職六か月

別表 (一)

第1波闘争による学校実態一覧表

月日

6月5日(木)

6月6日(金)

6月7日(土)

学校名

橋本

(自習) 延べ12時間

(自習) 延べ7時間

総体のため振替休業

伊都本校

(自習) 延べ11時間

(自習) 延べ3時間

総体のため振替休業

笠田

(自習) 延べ4時間

(時変) 延べ4時間

(自習) 延べ6時間

(時変) 延べ2時間

(時変) 延べ5時間

総体のため特別時間割を編成

粉河

(補授) 延べ8時間

(時変) 延べ4時間

(補授) 延べ8時間

(時変) 延べ2時間

6限全学年クラブ

総体のため振替休業

那賀

(時変) 延べ5時間

(時変) 延べ6時間

(時変) 延べ7時間

向陽

(時変) 延べ6時間

(自習) 延べ8時間

(時変) 延べ8時間

(自習) 1時間

午前中映画観賞

桐蔭

7クラスを除き時変

7クラスを除き時変

(特活) 延べ6時間

11クラスを除き時変

(自習) 延べ4時間

星林

(補授) 延べ4時間

(補授) 延べ4時間

(補授) 1時間

和商

午前中授業3時間

午後クラブ

1限全学年H.R

(責善教育についてに)変更

総体会場のため大会見学

和工

1限全学年L.H.R

(自習) 延べ2時間

(大掃除) 延べ5時間

海南

2時間の授業(時変)

アツセンブリ(勤評について)

3限まで授業(時変)

4限 L.H.R

弁論大会

大成

(時変) 2クラス

(時変) 2年1クラス

全学年普通科

1限 授業

2~4限 生徒総会

箕島

(大掃除) 4限

午後 打切り

1限 授業

あと大掃除

吉備

1限  L.H.R

3・4限 大掃除

4・5限 防火演習

6限  レコードコンサート

4・5限 運動場草ひき

6限 生徒連絡網作成

授業なし

生徒大会(勤評について)

耐久

特別時間割

特別時間割

特別時間割

日高

(時変) 延べ5時間

(自習) 延べ8時間

(時変) 延べ2時間

(自習) 延べ2時間

(自習) 延べ6時間

御坊商工

校地整地作業

校地整地作業

南部

1限 1年4クラス L・H・R

2年全クラス L・H・R

3年3クラス L・H・R

4~6限 特活

1限 L・H・R

2限 アツセンブリ

3限 業授

4~6限 特活

1限 L・H・R

2限 授業

3限 大掃除

田辺商

1限 8クラス L・H・R

3限で打切り

4・5限 壮行会

総体のため振替休業

田辺

1限 1クラスを除き L・H・R

(自習) 延べ4時間

1限 アツセンブリ

2限 1年音楽練習

4~6限 特活

映画教室

熊野

1・2・5限 L・H・R

6限 特活

5・6限 特活

(自習) 延べ4時間

1・2・3年農 終日自宅実習

(自習) 延べ7時間

串本

(補授) 延べ4時間

午前中 臨時時間割

午後 講演会

3限 L・H・R

振替授業(2時間)

古座

午後 クラブ

授業 3時間

授業 2時間

(注)つぎのとおり略称を用いた。

総体 総合体育大会     特活 特別教育活動

時変 時間割変更       H・R ホームルーム

補授 補欠授業        L・H・R ロングホームルーム

クラブ クラブ活動

別表 (二)

第2波闘争による学校実態一覧表

月日

6月23日(月)

6月24日(火)

6月25日(水)

学校名

橋本

6限の授業省略・庭球大会

1・2年 時変

5限 L・H・R

6限 省略・庭球大会

全学年 時変

6限 省略・庭球大会

笠田

4限 講演会(責善教育について)

(自習) 1時間

(時変) 1時間

(自習) 1時間

(時変) 延べ4時間

(時変) 1時間

(自習) 延べ2時間

粉河

1時間視聴覚教育に変更

那賀

(時変) 1時間

(時変) 1時間

向陽

(時変) 延べ19時間

(時変) 延べ6時間

(自習) 延べ3時間

5限 全L・H・R

6限 1クラス打切り

(時変) 9クラス

桐蔭

校内陸上大会に変更

2・4限 文化講演会

7クラスを除き時変

7クラスを除き時変

星林

3・4限

(勤評と責善教育について)

10クラスを除き時変

(L・H・R)延べ3時間

12クラスを除き時変

和商

(時変) 若干

海南

時変

午前中映画観賞

時変

時変

大成

午後映画観賞

(時変) 2クラス

(時変) 2クラス

(時変) 2クラス

箕島

時変

時変

時変

吉備

特別時間割を編成

特別時間割を編成

特別時間割を編成

耐久

特別時間割を編成

特別時間割を編成

特別時間割を編成

南部

4?6限 映画観賞

田辺商

(時変) 2クラス

田辺

(自習) 延べ6時間

(自習) 1時間

(自習) 延べ3時間

2?4限 生徒集会

5限 振替授業

熊野

4・5限 L・H・R

串本

(時変) 12クラス

午前中映画観賞

(時変) 3クラス

古座

(自習) 延べ2時間

新宮

(時変) 延べ2時間

(自習) 延べ2時間

(自習) 1時間

(時変) 延べ6時間

(自習) 延べ4時間

(注)略称は別表(一)と同一

別表 (三)

学校名

区分

全1日

時間

職場会議

闘争日

教諭等

事務職員等

教諭等

事務職員等

橋本

5

3

1

6

2

1

1

7

2

1

23

3

2

24

4

1

25

4

伊都

5

5

6

4

7

1

笠田

5

3

6

3

7

3

23

1

24

1

1

25

2

粉河

5

2

3

昼食時

6

1

1

5

7

2

1

23

4(年)

24

1(年)

1(年)

1(年)

25

4(年)

1(年)

那賀

5

1

1

3

6

1

6

7

1

5

2

24

2

2

25

5

向陽

5

3

1

5

6

2

1

3

7

1

23

7

3

24

8

25

7

1

桐蔭

5

1

5

6

2

4

1

7

1

3

23

8

24

7

25

6

星林

5

2

1

7

(昼食時または放課後)

6

2

1

6

7

3

1

3

2

23

6

1

24

7

1

25

6

和歌山工業

5

2(1)(年)

1(特)

5

6

1  (年)

1(特)

7

7

1  (年)

1(特)

3

23

1 (特)

2(2)(年)

1(特)

1(年)

3

24

1  (特)

1(1)(年)

1(特)

3

25

1  (特)

1(1)(年)

1(特)

3

和歌山商業

5

1

6

1

6

1

2

1

7

1

3

23

7

1

24

4

1

25

5

2

海南

5

4

6

5

7

3

23

5

2

24

4

1

25

5

大成

5

1

6

1

7

1

23

1(年)

24

2(年)

25

2(年)

箕島

5

1

1

放課後

6

1

1

1

7

1

1

23

4

24

3

25

2

吉備

5

4

7時

14時~

6

6

1

15時~

7

7

13時

23

4

1

24

5

25

5

御坊商工

5

2

(放課後)

6

1

7

3

耐久

5

1

1

2

6

1

2

7

1

2

23

3

1

24

3

1

25

3

1

日高

5

2

2

6

2

1

7

2

1

南部

5

3

2

6

2

1

7

2

23

5

24

6

25

5

田辺

5

3

昼食時,放課後

6

3

7

2

23

6

24

3

1

25

4

1

田辺商業

5

2

2

6

3

2

7

1

午前中

23

2

1

24

3

16時30分~

25

3

熊野

5

2

2(年)

17時

6

3

3(年)

12時10分~12時50分

7

3

2(年)

13時

23

2

24

1

2

25

1

2

串本

5

2

6

2

7

2

23

3

2

24

1

2

1

25

1

1

1

古座

5

3

6

3

7

4

23

3

24

2

25

4

新宮

5

3(2)

1

6

3(3)

1

7

5(4)

1

23

6(1)

1

3

1

24

4(1)

6

1

25

3

6

青陵(定)

5

3(3)

6

3(3)

1(1)

7

1(1)

11時まで

(注)①闘争日欄の年月は,いずれも昭和33年6月である。

②区分欄中,「全1日」とあるのは,当該闘争日の勤務すべき全時間職場を離れた

場合であり,「時間」とあるのは,勤務すべき時間のうち部分的に職場を離れた

場合を意味する。

③同欄中,「教諭等」とあるのは,教諭・助教諭・講師のことであり,「事務職員等」と

あるのは,養護教諭・養護助教諭・実習助手・事務長・事務職員・事務職員補・

使丁・小使・給仕のことである。

④同欄中,「(年)」とあるのは年次有給休暇を,「(特)」とあるのは特別休暇をそれぞ

れ意味し,特に記載のないのは義務免を意味する。また( )の数字は定時制勤務

者の数を示す。なお,空欄は該当者が認められない場合であることを意味する。

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