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和歌山地方裁判所 昭和34年(行)5号 判決 1959年9月28日

原告 田中資郎 外八名

被告 和歌山市教育委員会 外二名

主文

被告らが原告らに対し別紙表示のごとくそれぞれ各日時になした専従休暇不承認処分を取消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

当事者の申立

原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決をもとめ、被告ら訴訟代理人は、本案前の答弁として「本件訴を却下する、訴訟費用は原告らの負担とする。」むねの判決をもとめ、本案について「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決をもとめた。

事実上の主張

原告ら訴訟代理人の陳述

一、請求原因事実

(一)  原告らはいずれも和歌山県公立学校職員として別紙表示の各学校教諭の職にあり、かつまた県人事委員会に登録された職員団体である和歌山県公立中学教職員組合(以下和教組と略称する)に所属し、数年来専従役員についていた者であるが、和教組は県下各市町村単位の教職員組合により組織された連合体であつて、組織入員約六干名を有している。

(二)  原告らは、和教組において、昭和三四年二月二八日その全員投票により教行委員に選任され、同年四月一日より組合の業務に専従すべき役員についたので、別紙表示の通り、被告ら各教育委員会に対し、地方公務員法第三五条による各市条例に基き、組合業務に専従するための休暇承認方を申出たところ、被告らは、和教組が適法団体でなく、公務の支障があるからとして別紙表示の通り右休暇を承認しないむねの処分をなし、その頃、そのむねの告知があつた。

(三)  しかしながら、右処分は理由がなく憲法以下の諸法規による被告らの法律上の義務にたがい、団結権の保証を無視した違法なもので、原告らの組合活動を阻害し、ひいてはその日常の権利保護に著しい損害を蒙ることが明かであるから、本訴におよぶものである。

二、被告らの答弁事実について

(一)  原告惣坊、同平尾両名に対する答弁について

原告惣坊、同平尾両名が昭和三三年一一月一七日六月の懲戒停職処分に付せられ、同三四年五月一七日以来地方公務員法第三七条違反被告事件の被告人として刑事裁判係属中により起訴休職に付せられていることは認める。しかしながら、起訴休職中は、その期間中給与及び扶養手当の一部を支給されるものであるから、職員団体の業務に専従すべきときはさらに専従休暇が許されねばならない。

(二)  和教組の職員団体としての適格性について

(1)  和教組が昭和三三年一一月一七日以来その組合員中に懲戒免職処分に付せられた岩尾覚ほか六名をふくみ、被告ら主張の二の(二)の(2) の#1(a)乃至(e)のような実体により事実上運営されていること、現在登録取消の口頭審理が続行中であることは認めるが、その余の原告ら主張事実に反する点は争う。

(2)  地方公務員法に規定する職員団体は職員を主たる構成員とするものであればよく、かりに職員に限定するも、和教組が現在ふくんでいる被免職者七名は被告らの自認する通りその免職処分を無効として、県人事委員会に対する不利益処分の審査請求ならびに当庁に対する行政訴訟を提訴中であるから、少くとも右手続係属中は潜在的な権利状態として、職員の資格を有するものである。

(3)  和教組は組織体の変更をしたことはなく、また昭和三三年八月二九日の第一八回臨時大会において被告ら主張の趣旨のように「組合業務にまる不当処分を受けたものは、これを組合員とみなす」むねの但書を定款第二条に挿入方可決されたことはあるが、同年九月二〇日の和教組県委員会により疑義ありとして、同三四年六月二八日第二一回定期大会で前記但書は削除され従前の本文に復しているので、定款の変更もなかつた。

かりに和教組の実体が定款と符合しない点を有するものとしても、それは不適法と目すべきものではなく、是正措置によつて調整されるものであるから、登録を無効として、その職員団体としての適格性を失わせるものではあり得ない。

被告ら訴訟代理人の陳述

一、本案前の抗弁

(一)  およそ抗告訴訟を提起するためには、まずその対象となる行政処分が存在しなければならない。しかるに、本件のうち原告田中、山下、林、落合、広本ら五名の、被告和歌山市教育委員会に対する請求については、原告らより専従休暇の申出はあつたけれども、被告はこれに対し、なお決定を留保しているもので、原告主張のような行政処分をしていないから、本件訴は訴訟の目的を欠き、訴の利益がない。

(二)  一般に職員が専従休暇をもち得るのは、法が職員団体の活動のため、任命権者(本件においては服務監督権者である各市教育委員会)に一定条件のもとに専従休暇を与える権限を付与していることの反射的利益にすぎず、各職員は、服務監督権者が右権限により専従休暇の承認をしてはじめて現実に専従休暇を取得し、職務専念義務免除等の効果を受けることになるもので、右休暇の申出を拒否されたとしても、当該職員は処分自体により何ら権利を侵害されることはない。

かりに職員が専従休暇の申出を拒否されたことにより、職務専念義務を免除されないまま、事実上離職することなどにより、後日不利益処分を受けることがあつても、これは専従休暇を拒否されたことによるものでなく、職員が当然に負う職務専念義務に違反したために外ならず、また職員団体がこれによつて事実上損害を蒙ることがあつても、これを以て所謂法律上の権利侵害とすることはできない。

従つて被告らの本件不承認処分は原告らの法律上の権利を侵害するものではないから、本件訴は訴の利益を欠いている。

二、本案の答弁

(一)  原告ら主張事実のうち、原告らがその主張の如く、県公立学校職員として各学校教諭の職にあり、かつ現在県人事委員会に登録の残存している組合員数約六千名の和教組に属しており、この数年来その専従役員であつたこと、原告らより被告らに対し専従休暇の申出がなされたが、被告らは前述田中ら五名を除くほかの者に対しその不承認処分をしたことは認めるが、その余の事実を争う。

(二)  本件不承認処分は以下にのべる通り、所定の要件をそなえた適法なものである。

(1)  原告惣坊、同平尾両名については本件不承認処分当時より職務に従事することを許されていないから、専従休暇を申出る権利はない。

すなわち専従休暇は現に職務専念義務を負つている職員が職員団体の業務に専従する場合に限つて与えられるものであるところ、右両名は昭和三三年九月七日地方公務員法第三七条、違反被告事件の被告人として、当庁に起訴されるとともに、県教育委員会より、同年一一月一七日停職六月の懲戒処分に、ついで同三四年五月一七日右刑事裁判係属中休職処分に付せられ、本件処分当時より現在にいたるまで職務に従事することを許されていないので、専従休暇請求の権利はない。

(2)  原告らの所属する和教組は適法な職員団体ではないから、専従休暇を許される適格を欠いている。

すなわち、およそ職員団体が職員団体として、地方公務員法上の諸権利を享受し、当局と交渉の権限をもち、従つて専従休暇を認められるためには、その職員団体が有効な登録上の存在を保有するばかりでなく、実体的にも適法な職員団体でなければならない。しかるに和教組は左の理由によつて適法な職員団体と認められない。

(イ) その構成員として非職員をふくんでおり、法に適合しい。

地方公務員法上職員団体の構成員は職員のみからなり、非職員をふくむことは許されないところ、和教組は、昭和三三年一一月一七日県教育委員会により懲戒免職に処せられた岩尾覚外六名の非職員をその構成員として包含している。なお、右七名は現在右懲戒処分を無効として、県人事委員会に対する不利益処分の審査請求および、当庁に対する行政訴訟を提起していずれも審理続行中であるが、右手続は懲戒処分の効力を停止するものではなく、かつ行政処分は一般に公定力を有するから、前記七名を非職員として職員団体の構成員より排除すべきことについて異とするところはない。

(ロ) 形式上登録は残存するが適式な登録の効力を有しない。和教組は従前の登録時におけるものと、職員団体としての組織運営上の実体も、それにともなう定款の内容もすでに同一性を失つており、かりにその同一性を失わないとしても、法規の要求する変更登録を受けておらず、また前述の通り、非職員をその構成員にふくむことによつて法規に適合しないものとなり、近くその登録が取消される筈であるから、現在残存する登録はすでに登録としての意味を失い効力のないものである。

<1> すなわち従前の登録時において、和教組は、(A)教職員を以てのみ構成される、(B)市町村単位の教職員組合の連合体であり、(C)各役員は、各支部より選出された代議員をもつて構成される大会において、選出され、(D)かつ、これら役員は現職の教職員たる組合員であることを要していた。

ところが現在、和教組は、(a)構成員として懲戒免職に処せられた七名の非職員をふくみ、(b)県下教職員をもつて組織する単一の職員団体となり、(c)かつ役員には右七名の非職員が重任されており、既にその同一性を失つている。

<2> また右実体の変更にともない、昭和三三年四月一日以后において、従前の定款における前記(A)乃至(D)趣旨の部分を、前記(a)乃至(c)趣旨に、さらにまた(d)専門部に校長部を追加し(e)大会開催時を二月から五月に変更する、むねの定款改正がなされているにかかわらず、県人事委員会に対する定款変更の届出をいまにいたるまで行つていない。

<3> そこで県人事委員会では、つとに和教組が非職員をその構成員にふくむから適法団体でないとして、昭和三四年一月九日より二回にわたり速かに是正措置を構ずるよう要求したが、和教組はこれに従わないのみか、右被免職者七名を組合役員に再選し、是正措置に従わないむね明かにしてきたので、同年四月一四日以来登録取消の口頭審理に入り、続行中であるが、右の通り取消事由は客観的に明かであるから、近く登録取消が予測されるところである。

従つて残存する和教組の登録は、地方公務員法上の職員団体としての諸権利を亨受しうる要件としての登録の効力を有しないものである。

(3)  原告らの後任が補充されないので公務に支障がある。

専従休暇は被告らが公務に支障がないと認める場合にはじめて与えることができるものであるが、県費負担教職員に対し、一般的指示権を有する県教育委員会は、前述のように和教組が不適法な職員団体であるから、被告らがそのために専従休暇を承認しても、後任の教職員を補充しないむね指示しているので、後任の補充のないまま専従休暇を承認しては、公務に支障をきたすことが明かであるから、かかる場合は、当然その申出を拒否し得るものである。

立証方法<省略>

理由

一、本案前の抗弁について

(一)  被告らは、原告田中、山下、林、落合、広本ら五名の被告和歌山市教育委員会に対する請求については、その対象となる行政処分が存在しないから、訴の利益を欠くと主張する。

そこで、成立に争いない甲第二号証の一、二、証人西浦利也の供述を総合すると、原告ら主張の日時頃に専従休暇不承認処分があつたものと認められるから、この点に関する主張は採用できない。

(二)  また被告らは、原告らは本件不承認処分自体により、何ら法律上の権利を害されることはないから、本訴は訴の利益を欠くと主張する。

ところで、職員団体における専従休暇の承認は、職員団体による団結権によつてのみ保障される地方公務員の勤労者としての権利保護のための覊束的な処分であると解されるところ、後記認定の通り、原告らはいずれも地方公務員法上の登録を受けた和教組において数年来専従役員であつたが、本件休暇承認方申出に先だち、さらにその執行委員に選任され昭和三四年四月一日より、従来に引続き、組合業務に専従すべき役員についたことが認められるから、本件不承認処分によつて、職務専念義務を免除された従前の状態に変更をきたし、義務違反を問われる等の法律効果が生ずるばかりでなく、和教組の活動を通じての勤務条件等勤労者としての権利保護にも利害関係を及ぼすことが考えられるから、本訴は具体的利益を有するものというべく、この点に関する主張も採用できない。

二、本案について

(一)  係争の所在

原告らがいずれも和歌山県公立学校職員として、別紙表示の学校教諭の職にあり、かつまた、県人事委員会に登録された職員団体である、組織人員約六千名の、和教組に所属し、数年来その専従役員についていた者であるが、別紙表示の通り、被告ら各教育委員会に対し、地方公務員法第三五条による市条例に基き、組合業務に専従するための休暇承認方申出たところ、前記原告田中ら五名を除くほかの原告らに対し、被告らは右休暇を承認しないむねの処分をなしたことは、当事者間に争いがなく、原告田中ら五名についても、右不承認処分があつたことは前記認定の通りである。

また証人西浦利也の供述によれば、本件休暇承認方申出に先だち、原告らはいずれも昭和三四年二月二八日、和教組の組合員全員の直接秘密投票により、執行委員に選任され、同年四月一日より、従前に引続いて組合業務に専従すべき役員についたこともまた認められるところである。

(二)  右不承認処分の適法性について争いがあるので判断する。

(1)  被告らは、原告惣坊、同平尾両名については処分当時は勿論その后も職務に従事することを許されていないから専従休暇申出の権利はないと主張する。

(イ) 原告憩坊、同平尾両名が、昭和三三年九月七日、地方公務員法第三七条違反被告事件の被告人として、当庁に起訴されるとともに、県教育委員会より、同年一一月一七日停職六月の懲戒処分に、ついで同三四年五月一七日、右刑事裁判係属中休職処分(起訴休職)に付せられて、本件不承認処分当時より現在にいたるまで職務に従事することを許されていないことについては当事者間に争いがない。

(ロ) ところで停職中については、「職員の懲戒の手続及び効果に関する条例」(昭和二七年三月三一日県条例第二号)の第四条第三項によるとその期間中いかなる給与も支給されないのであるから、地方公務員法第五二条第五項の趣旨にかんがみ、一般的には専従休暇の承認を要しないものと一応考えられるが、右条例第四条第二項によれば停職期間中も職を保有すると規定するところその趣旨とするところは、職務専念義務のうち、職務自体につくことは、その者の意思に反しても、許されないが、公務員としての特別権力関係までをもすべて排除される訳ではなく、従つてただちに組合その他の業務につくことまでも許容されない性質のものとは解されないから、停職中といえども組合業務に専従するためにはその承認を得る必要がある。

(ハ) またかりに、その后右両名が起訴休職に付せられたことについて、すでに本件不承認処分時においてもその条件がそなわつていたから考慮すべくもしくはその后の事情として考慮しなければならないとしても、起訴休職は身分を保有しつつ、職務専念義務を免除されている点においては専従休暇と共通するが、その目的において公務そのものの遂行上の外観的信頼性を確保するためのもので専従休暇と異なり、また「職員の分限に関する手続及び効果に関する条例」(昭和二七年三月三一日県条例第一号)第五条第二項および「職員の給与等に関する条例」(昭和二八年一二月二六日県条例第五一号、同三三年第一二号改正)第二六条第四項によれば、その期間中給与の一部の支給を受けることができるのであるから、地方公務員法第五二条第五項の趣旨にかんがみ、起訴休職中の職員もまた職員団体の業務に従事するときには新たに専従休暇の承認を得ることを要する。

そうすると原告らが前記認定日時に本件専従休暇承認の申出をしたことは相当である。

従つて被告らの主張は採用できない。

(2)  和教組の適格性について

(イ) 構成員の点について

被告らは、原告らの属する和教組は、その構成員として、懲戒免職に処せられた岩尾覚ら七名の非職員をふくんでいるから、地方公務員法上職員団体としての適格性を欠くと主張する。

ところで、和教組が昭和三三年一一月一七日以来懲戒免職処分に付された岩尾覚ら七名を構成員として包含していること、右七名が免職処分を無効として県人事委員会に対する不利益処分の審査請求を、当庁に対する行政訴訟を、それぞれ提起して現在審理継続中であることは当事者間に争いがない。

そこで、地方公務員法第五二条における職員団体の構成員としての「職員」の意味を検討する。

そもそも基本的人権の制限規定については民主的な近代法の精神からなるべく厳密な解釈を要する。ところで公務員はその勤労者としての権利を争議権団体交渉権等の点において制限を受けねばならないが、これはあくまでも身分的な理由によるものではなく職務の性質からのみ発するものであり、実質的な内容自体の制限というよりは、人事委員会制度等の保障を代償とした相対的手続的表現の規制と考えるべきであり、さらにまた公務員制度としても、職務以外の権利関係においては当局となるべく対等の立場に近ずけて、できるだけ私法自治の法律関係に準じた取扱いをするのが近代市民社会の要請であるところ、

(A) 地方公務員は、労働組合法の適用を排除され、その勤労者としての権利を地方公務員法の職員団体の活動を通じてのみ行使することができること、

(B) 地方公務員法第五二条が規定する職員団体の構成員の定義について、特に現職以外の者を排除する明文の規定がないこと、

(C) 同法附則第一三条乃至第一五条は、同法施行前の労働組合を同法による職員団体として存続させる要件として「主たる構成員が職員であるもの」と規定し、特に現職以外の者を構成員から排除すべきむねの明文の規定がないこと、

(D) 同法第四九条、第五〇条における不利益処分審査制度の規定において、懲戒免職をふくむ被処分者をも「職員」にふくめて表現していること、

(E) 同上の不利益処分審査制度によると、県人事委員会が免職をふくむ懲戒処分を不当とするときは、行政機関内部の最終的な決定としてその処分を取消すことができ、その結果、被処分者は新たな任命等の手続を経ることなく、原職の地位に復帰できるものとしていること、

(F) 同じく労働組合法の適用を排除する国家公務員法が施行された后も暫く、地方公務員には当時の労働組合法が適用されていたこと、

(G) 国家公務員法より后に施行された地方公務員法は前者に比較すると、政治活動制限について罰則の規定を削除した点(国家公務員法第一〇二条、第一一〇条、地方公務員法第三六条、教育公務員特例法第二一条の三)、職員団体の当局との交渉について『当局と書面による協定を結ぶことができ」その「協定は当該地方公共団体の当局および職員団体の双方において誠意と責任をもつて履行しなければならない」むね新たに積極的規定を設けた点(国家公務員法第九八条、地方公務員法第五五条)など、法全体として職員の権利についてその規制を緩和していると認められること、

など(以上の諸点を総合して考察するとき、懲戒免職に付せられた者がその処分を争う場合、県人事委員会の不利益処分審査の最終的決定が確定するまでは、右被免職者がことさらに当局との交渉の際当該職員団体の代表者となることが、従来の慣行上穏当を欠くかどうかは暫くおき、少くとも職員団体の構成員としての「職員」の範囲にふくまれると解することが元来勤務条件等、勤労者の権利保護を目する職員団体の性質上相当である。しかるに前記認定のように免職処分に付せられた岩尾覚ら七名はその処分を無効として県人事委員会に提訴し、現在なお不利益審査続行中であり、また証人西浦利也の供述によれば和教組は他に職員以外の者を構成員としてふくんでいないことが認められる。

そうすると非職員、つまり地方公務員法第五二条による構成員としての法定の資格を欠く者を包含するから和教組が職員団体としての適格性を欠くとの被告らの主張は理由がない。

(ロ) 和教組の登録の効力について

被告らは、和教組は登録時におけるものと職員団体としての実体も、定款も同一性を失つており、かりにその同一性を失わないにしても、その一部の変更があるにかかわらず変更登録がされていないから、登録は現存するも既にその効力を有しないと主張する。

<1> 同一性の点について

現在和教組がその実体において懲戒免職に処せられた岩尾覚ら七名を役員としてふくみ、役員は全組合員の直接秘密投票により選出され、従前に比べて専門部に校長部を追加し、大会開催時を五月としていること については当事者間に争いがない。

成立に争いない乙第一号証の一、(定款)ならびに証人西浦利也、同細沢辰幸の供述を総合すると、定款における役員選挙の規定は第一三条、第一四条によれば大会の代議員による選挙となつているにかかわらず、事実上登録の前后を通じ従来より全組合員の直接無記名投票により行われていたことが認められるが、地方公務員法第五三条第三項によれば職員団体の要件として役員の選出は原則として、全組合員の直接秘密選挙によることを要し、ただ連合体における場合にのみ代議員による選挙を特別に宥如しているに過ぎず、連合体組織において全組合員の直接選挙によることがあつても、その民主的な手続保障として自ら要件を加重したものであるから、民主的な職員団体の組織の運営上同一性を失つたものということはできない。

また岩尾覚ら七名を役員としてふくむことについては前説示を引用するほか専門部の追加、大会開催日時の変更等いずれも、職員団体としての同一性を害する要素の変更とは考えられない。

和教組が連合体であるか、単一体であるかについては当事者間の争うところであるが、成立に争いない乙第一号証の一、同第九号証の一、二、同第一六号証の一乃至五、証人西浦利也の供述を総合すると、従来和教組は規約乃至定款において単一体と称し、或いは連合体と称していたすべての期間を通じ、事実上各市町村の組織は大部分支部としてのみ存在し、もともと各市町村の組織が独立した職員団体として存在した上での連合体ではなかつたこと、各市町村単位の各団体組織がそれ自体として大会をふくむ各議決機関における議決権を有していなかつたこと、従つてまた最高議決機関である大会の代議員、県委員会の県委員等も、全組合員を基盤とする人数割による選出であつて、和教組の重要事項の決定が、実際は全組合員を終局的な意思決定の要素とする一種の間接代表制によるものであつたことが認められる。

従つて連合体、単一体のいずれを規約乃至定款に標榜するも、前記認定の限度においては団体としての同一性においてその径庭がなく、従つてこの点においての同一性を失つたとの被告らの主張も理由がない。

<2> 実体ならびに定款の変更にともなう変更登録について右認定によれば、現在登録された定款との間に和教組は校長部の新設と開催日時の点において変更があり、変更登録がないことも原告らの明かに争わないところである。また成立に争いない乙第二号証の二、同第一〇号証の一乃至四、同第一三号証の一乃至四、同第一四号証、証人西浦利也、同細沢辰幸の供述を総合すると、昭和三三年八月二八日、田辺市において開催された和教組臨時大会において「組合業務によつて教員の身分を失つた者は組合員の資格を奪われない」むね、ならびに校長部の新設等の組織ならびに定款の変更に関する決議があつて今日に及んでいることが認められるが、成立に争いない乙第一号証の一、証人西浦利也、同細沢辰幸の供述によれば、和教組は法人であるところ、定款の変更は主務官庁の認可(本件においては県人事委員会に対する変更登録)を経なければ効力を生ぜず、その登記(登録)手続懈怠によつて役員に対する罰則の制裁はあり得るけれども地方公務員法第五三条第四項は、登録取消の事由として「地方公務員法ならびに、これに基く条例の規定に適合しないものとなつたとき」と規定しているところ、この趣旨は民主的な組織運営による自主的な公務員の職員団体としての要件的なものが欠けたときをさすものと解するのが相当であり、また民法の規定からしても変更登記(登録)の懈怠自体直ちに法人乃至職員団体の登録の効力を失わせる瑕疵とは到底なしがたく、この点に関する被告らの主張もいわれがない。

そうすると、和教組は地方公務員法上の諸権利行使を享受し得る適格をそなえた職員団体と認めることができる。

(3)  公務の支障について

被告らは原告らの専従休暇を承認しても、任命権者である県教育委員会が後任者を補充しないので、公務の支障をきたすと主張する。

前説示の通り専従休暇の承認は覊束的な処分であるところ職員団体の業務にもつぱら従事する職員に関する各市条例(別紙表示)によれば、公務の支障ある限りこれを拒否し得るものであるが、公務の支障とは、恣意的自由裁量的認定によるものではなく、当該職員の職務が非代替性を有する場合、職員数に対する比率等、職務それ自体の性質上もしくは公務員の法体系上客観的に人員補充が困難になる限度において止むを得ないときのみをさすもの解すべきである。

ところで教育基本法、地方自治法の法理ならびに鑑定人辻清明、同松岡三郎の鑑定の結果を併せ考えると、県教育委員会は市教育委員会に対し服務監督権について技術的な指導助言援助をこえて一般的指示権を有しないものというべく、また任命権者としての任免も市教育委員会の内申によつて行わねばならないものであり、従つて専従休暇承認にともなう職員の補充を拒否することは法律上の義務に違反して許されないもので、事実上かかる状態が起つても、それは行政機関内部における責任、調整の問題であつて、その事実を以てたやすく勤労者としての職員の権利を制約する公務の支障とはなし得ないところである。

また、証人西浦利也の供述によれば、和教組は約六千名の組合員数に対し、毎年約三〇名の専従休暇が許されてきたこと、昭和三四年度の和教組における専従休暇の申出が三三名ですべて拒否されたことが認められるが、少くとも原告ら九名について、専従休暇を与えるとしても従来の慣行和歌山県の地理的特殊性に徴して法律的に人員補充に支障をきたすことは到底考えられない。

三、結論

そうすると、被告らの主張する本件不承認処分をなした根拠はいずれも理由がなく、従つて本件のような事実関係の限度においては、被告らは、当然原告らの専従休暇の申出を承認すべき義務あるところ、本件不承認処分は、法律上の義務にたがい、法令上保障された原告らの勤労者としての権利を侵害するものというべく、原告らの各請求は理由がある。よつて、原告らの各請求を認容することとし、訴訟費用につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 坪井三郎 島崎三郎 舟本信光)

別紙<省略>

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