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和歌山地方裁判所 昭和49年(ワ)410号 判決

一 請求原因1(一)ないし(三)、同2(二)の各事実並びに同2(一)のうち、原告が被告丸七製作所を被告として、本件特許権侵害差止の本案訴訟を和歌山地方裁判所に提起したこと、同事件はその後職権で調停に付され、昭和四一年一〇月二一日別紙記載の調停条項で調停が成立したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二 ところで、被告らは請求原因1(四)の事実を否認しているが、証人隆敏夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告らは別紙イないしニ号図面及びその説明書に記載どおりの選穀機は製造、販売していないものの、これらに照応するものとして後記認定の構成を有する選穀機(以下、被告選穀機という。)を業として製造、販売していること(被告丸七商事は販売のみ)は認められるのである。

三1 そこで、まず請求原因1(五)の事実について判断するに、成立に争いのない乙第一号証の三、四、第五号証の二、五、イ号製品の写真であることに争いのない検甲第一号証の一ないし一〇、検証の結果を総合すれば、被告選穀機のうち、イ号製品に対応するものとしてはい号製品があり、その構成は、次のとおりであることが認められる(以下、被告選穀機に関する記述については、別紙い号図面を使用する。従つて、以下に述べる数字も同図面に記載のものを指す。)

い号製品は、枠4の両端をケース1の下部内壁に固着し、この枠4に風車ケース2を支持させ、風車ケース2の内部において風車20を軸21に支承させる一方、前部を開放して放出口とした枠9の下縁に選別多孔板10を張設した選別板体8を、前記風車ケース2と別体にかつその上方において、枠4の両側端近くに直立させて固着した支柱11 12上端に吊杆13、13を介して吊り下げると共に、後部支柱12に架設した軸18に固定されたカム輪14のロツド15端を選別板体8の後端に枢着することによつて、該板体8を後端が高くなるように傾斜状態に支承させ、カム輪14と風車20とを、ベルト24を介して、モーター23によつて連動させるようにした構成を有する選別板体8及び風車20の駆動装置を具備するものである。

2 次に、成立に争いのない乙第三七号証(判決正本添付の製品(二)ないし(四)の図面)、証人隆敏夫の証言、原告本人尋問の結果(一部)、検証の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告選穀機のうち、ロないしニ号製品に照応するものの構成は、次のとおりであることが認められる。

(一) ロ号製品に照応するもの(以下、ろ号製品という。)の構成

前記認定のい号製品の構成とほぼ同一であるが、排出孔の形状及び機枠の側面上に存在するよろい窓の形状(別紙ロ号図面第二図―一参照)がい号製品と異なる。

(二) ハ号製品に照応するもの(以下、は号製品という。)の構成

前記認定のい号製品の構成とほぼ同一であるが、排出孔の形状及び排出孔にカバーが付加されている点がい号製品と異なる。

なお、別紙ハ号図面第一図には、風車ケースAを固定する枠(別紙イ号図面における機枠5)が図示されていないが、前掲各証拠によれば、これは誤りであることが明らかである(ちなみに、原告本人尋問の結果によれば、原告も、右の二点を除けば、い号製品と全く同一の構成であることを認めている。)。

(三) ニ号製品に照応するもの(以下、に号製品という。)の構成

前記認定のい号製品の構成とほぼ同一であるが、排出孔の先端に小米取用の網盤が付設されているほか、排出孔にカバーが付加されている点がい号製品と異なる。

なお、別紙ニ号図面においても、風車ケースを固定する枠が図示されていないが、は号製品に関して述べたのと同様、これも誤りであることは明らかである。

3 以上のとおり、いないしに号製品はその基本的構成要件において同一であり、前記の差異は設計上の微差というべきである。

四 そして、本件発明の構成要件と被告選穀機の構成とを対比してみると、少なくとも両者は、選別多孔板をその傾斜角度よりも大きい角度で斜方向に往復運動させ、風車ケース(これを本件発明における載置筐と同一のものとみうるかどうかについては、後述のとおり争いがある。)内に位置させた風車を、選別多孔板の運動と関係なく定位置で旋回するようにした点では全く一致しているといえる。

然るところ、問題は、選別多孔板とこれを載着した載置筐とを一体に形成し、その両者を同時に駆動するようにした構成を被告選穀機が具備しているかどうかである。そして、右の問題を解明するには、載置筐が被告選穀機のどの部分に該当するかについての検討が必要不可欠であるところ、成立に争いのない甲第二号証、乙第一号証の二によれば、本件明細書の特許請求の範囲に「載置筐内に位置させた風車……」との記載があること、本件明細書の実施例図第一図の番号1で指示された形状の物体が載置筐であること(ちなみに、成立に争いのない乙第三一号証(選穀機における塵埃回収法に関する特許公報)によれば、特許の対象となる発明こそ異なれ、その実施例図第二図で図示されている選穀機は、本件明細書の実施例図第一図とほぼ同一の構成であることが認められるところ、右実施例図第一図の載置筐1に対応する部分(乙第三一号証の実施例図第二図では番号3)は風車函と表示されていることが認められる。)が認められ、以上の事実を総合すると、本件発明における載置筐は、被告選穀機における風車ケースに該当するものとみるのが相当である。

してみると、前記認定のとおり、被告選穀機においては、風車ケース2(載置筐)は枠4に支持固定され、選別多孔板10を有する選別板体8のみが駆動する構成になつているから、本件発明の前記構成要件(選別板と載置筐とが一体となつて駆動するという要件)と相違することは明らかである(なお、前掲乙第一号証の三、四、第五号証の五によれば、昭和四四年二月二〇日、特許庁の審判(昭和四二年判定請求第二九号)により、い号製品は本件発明の技術的範囲に属しないという判定が下されていることが認められるところ、その理由としているところは、載置筐の点にこそ言及していないものの右とほぼ同様であると思料される。)。

もつとも、これに対し、原告は、本件発明における載置筐には風車ケースの上部に位置しこれと一体となつている型のもの(上部が載置筐で下部は風車ケースになる。)と、風車ケースと切り離されているいわゆる分離型のものがあり、右の分離型の場合には載置筐内に風車を位置させることは必ずしも要件ではない(右の差異は、単なる設計上の微差で作用効果は同一である。従つて、本件明細書の実施例図も右にいう一体型を例示したものにすぎない。)、そして、被告製品は右にいう分離型であり、側板A、B(別紙イないしニ号図面及びその説明書の記載によれば、番号2)が右載置筐に該当するところ、右側板とその上面に載置固着する選別多孔板10を有する選別板体8は一体となつて駆動するから、結局被告製品は本件発明の技術的範囲に属する旨主張する(右主張に副う証拠として、原告本人尋問の結果、同尋問の結果により成立を認める甲第二二、二三号証がある。)。

しかしながら、原告の右主張は、本件明細書の特許請求の範囲の文理及びそれを解釈する際に参酌する実施例図に著しく反してこれを拡張解釈するものであつて妥当でないし、又、仮に右のような解釈が許されるとしても、右側板A、Bが載置筐に該当する(いいかえれば、設計上の微差の範囲内である。)とはいえないものと考える。けだし、前記認定のとおり、被告選穀機の選別板体8は、風車ケース2と別体にかつその上方において、枠4の両側端近くに直立させて固着した支柱1112上端に吊杆13、13を介して吊り下げられると共に、後部支柱12に架設した軸18に固定されたカム輪14のロツド15端を選別板体8の後端に枢着することによつて後端が高くなるように傾斜状態に支承されているのであるから、載置筐によつてこれを載置する必要はないというべきであるところ、成立に争いのない乙第二七号証、証人隆敏夫の証言により選別板と側板の関係写真であることが認められる乙第一〇号証、証人隆敏夫の証言、検証の結果によれば、側板A、Bは、選穀機の稼動中選別多孔板10が揺動することで選別多孔板10の裏面と風車ケース開放上面との間隔が広狭に変位し、その間隙より風車によつて起風された風力が著しく逸脱することを防止するため選別板体8の裏面に垂設したもので、長尺方向の側板Aは風車ケース側壁より約3ミリの間隔をおいて外側に位置し、短尺方向の側板Bは、正面側のものは同じく外側に、背面側のものは風車ケース側壁の内側に位置し、いずれも風車ケース側壁に対面する当該板上に広幅の布製板を鋲着し擦り合せ音を防止するごとく構成されていることが認められ、その目的及び構成において載置筐とは著しく異なつているからである。

以上のとおり、被告選穀機は、本件発明の構成要件の一部を充足しておらず、かつ、その差異は単なる設計上の微差とも認められないから、本件発明の技術的範囲に属するものであるとは認められない。

五 次に、調停条項ロ号物件と被告選穀機とを対比してみるに、前記認定のとおり、調停条項ロ号物件においては、本件発明と異なり、載置筐2と風車ケースAは分離されているところ、載置筐の方は、その上面に選別板1を載置固着させて両者は一体的に形成されかつ同時に駆動する構成となつていることは明らかであるが、問題は、右風車ケースAが機枠5に固定されているのかどうかである。この点に関し、原告は風車ケースAは固定されていると主張するのに対し、被告らは風車ケースAは固定されておらず選別板1及び載置筐2と一体となつて駆動する旨主張するので、以下この点について検討する。

別紙調停条項ロ号図面及びその説明書(その記載内容については、当事者間に争いがない。)によれば、風車ケースAを機枠5に固定する構成は全く記載されていない反面、風車ケースAが選別板1及び載置筐2と一体となつて駆動することも記載されておらず、又、風車ケースAと載置筐2との関係についての記載すなわち「風車ケースAの上部に載置させた載置筐2……」、「支杆14 14´によつて選別板1を載せた選別板載置筐2を支持しこれらを風車ケースA上に載置させる……」等をみると、単に載置するというだけで選別板1と載置筐2の関係についての説明のように「載置固着する」とは記載されていないことが認められ、右の記載からはいずれとも断定し難いところである。

そこで、仮に風車ケースAが固定されているものと仮定してみると、その上面に載置された載置筐2が選別板1と一体となつて斜上下に往復運動するのに伴い、風車ケースA上面と載置筐2下面とが擦れ合つて騒音が発生したりあるいは風車ケースA上面との間隙より風車起風になる圧力風が風車ケース外へ排出され、選別効果が減少したりすることが当然予想されるところ、右調停条項ロ号図面及びその説明書にはそれに対する方策は何ら記載されていない。してみると、右調停条項ロ号物件は、その作用効果において在来の選穀機のそれとほとんど変らないということになる(逆にいえば、選別板と載置筐とを一体的に形成したことの意味がなくなる。)が、そのような製品を対象として調停が成立したとみるのは、余りにも不自然不合理であり、従つて、別紙調停条項ロ号図面第一図のとおり、風車ケースAは、固定されずに載置筐2と一体となつて駆動するとみた方が妥当であるといわなければならない(ちなみに、右調停条項ロ号図面説明書中、選別板と載置筐との関係についての記述で、単に「載置し」とだけ記載されている箇所がある。)。

以上の検討によれば、調停条項ロ号物件は、載置筐と風車ケースが分離されている点及びその他の設計上の微差ともいうべき点を除いては、本件発明と構成要件的にほぼ同一の構成であることが認められるところ、被告選穀機の風車ケース1が枠4により支持固定されていること、側板A、Bがその目的及び構成において載置筐と著しく相違することは、本件発明との対比に関し前述したとおりであるから、結局被告選穀機は、調停条項ロ号物件の構成要件の一部を充足しておらず、かつその差異は単なる設計上の微差とも認められないから、調停条項ロ号物件にも該当しないというべきである。

六 よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからいずれも棄却することとする。

〔編註その一〕 本件特許権に関する事項は左のとおりである。

(一) 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といいその特許発明を「本件発明」という。)を有していた(昭和五三年五月六日存続期間満了)。

発明の名称 選穀機における選別板及び載置筐一体駆動装置

出願日   昭和三六年六月一日

出願公告日 昭和三八年五月六日

登録日   昭和三九年一月一八日

特許番号  第四一七五五八号

(二) 本件発明の特許出願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「選別多孔板とこれを載着した載置筐とを一体に形成し、両者を同時に、選別多孔板の傾斜角度より大きい角度をもつて斜方向に往復運動せしめ、載置筐内に位置させた風車は上記運動と関係無く定位置にて旋回するように成した選穀機における選別板及び載置筐一体駆動装置。」

(三) 本件発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである。

A 選別多孔板とこれを載着した載置筐とを一体に形成すること。

B 右両者(選別多孔板とこれを載着した載置筐)を同時に選別多孔板の傾斜角度より大きい角度をもつて斜方向に往復運動せしめること。

C 載置筐内に位置させた風車は、上記運動と関係なく定位置にて旋回するように成したこと。

D 選穀機における選別板及び載置筐一体駆動装置であること。

〔編註その二〕 本件における調停条項は左のとおりである。

一 被告は別紙に表示するような石抜選穀機(マルシチ石抜選穀機)を製造販売しないこと。

二 本件に関し原告は被告に対し、被告は原告に対し、損害賠償の請求はしない。(仮処分を含む。)

但し、後記第三項の場合を除く。

三 被告が本調停成立以後に製造する石抜選穀機の製品につき、第二審判決において、原告の本件特許権、実用新案権侵害の事実が認められれば、原告の被告に対する前記第二項の損害賠償請求権は行使できる。

四 被告は和歌山地方裁判所昭和四一年(モ)第一八九号仮処分異議申立事件の異議申立を取下げ、原告は同庁昭和四一年(ヨ)第五三号仮処分申請事件の仮処分申請を取下げ、その執行を解放すること。

五 被告は原告が有する特許権(特許番号第四一七五五八号)実用新案権(実用新案登録番号第七一九〇三六号、第七三六八四三号)意匠権(意匠登録番号第二三一三九三号、同第二三一三九四号)の各権利の存在を認め、現に被告が原告を相手方として特許庁に対し提出している前記各権利の無効審判申立は取下げ、以後これが無効審判の申立はしないこと。

六 訴訟費用、調停費用は各自弁のこと。

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