和歌山地方裁判所 昭和50年(行ウ)7号 判決 1980年3月03日
和歌山市北出島四七-六
原告
武中繁雄
右訴訟代理人弁護士
岡本浩
和歌山市湊通り北一の一
被告
和歌山税務署長
坂口一郎
右指定代理人
嶋村源
同
岡田昌幸
同
藤島満
同
坂田暁彦
同
小林敬
同
小林修爾
主文
1 原告の請求はいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告の昭和四六年分所得説について、被告が昭和四八年一一月五日になした更正及び過少申告加算税を賦課する旨の決定処分のうち、昭和五〇年七月一五日付裁決によって取消された以外の部分を取消す。
2 原告の昭和四七年分所得税について、被告が昭和四八年一一月五日になした更正及び過少申告加算税を賦課する旨の決定処分を取消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、原告の昭和四六年分及び同四七年分所得税につき、昭和四八年一一月五日付で更正及び過少申告加算税を賦課する旨の各決定処分をなし、原告に通知した。
(一) 昭和四六年分
課税される所得額 二九七八万九〇〇〇円
所得税額 一四五一万八三〇〇円
更正前納付税額 一二四万〇三〇〇円
差引所得税額 一三二七万八〇〇〇円
過少申告加算税額 六六万三九〇〇円
(二) 昭和四七年分
課税される所得額 四二一万五〇〇〇円
所得税額 六六万三三七五円
更正前納付税額 一万二四七五円
差引所得税額 六五万〇九〇〇円
過少申告加算税額 三万二五〇〇円
2 原告は、右各処分につき、昭和四八年一二月三〇日被告に対して異議申立をしたが、被告は昭和四八年一二月三〇日被告に対して異議申立をしたが、被告は昭和四九年四月二日付をもってこれを棄却した。
3 原告は、昭和四九年四月二六日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は昭和五〇年七月一五日付をもって昭和四六年分所得税に関し、本税につき七三万四八〇〇円分、加算税につき三万六八〇〇円分の税額のみ取消し、その余については棄却する旨の裁決をした。
4 しかしながら、被告のなした第1項の各処分は、訴外武中玉枝外六名の所得をも原告の所得であると誤った認定をした違法がある。
5 よって、請求の趣旨記載のとおり被告のなした更正及び過少申告加算税を賦課する旨の決定処分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3は認める。
2 同4は争う
三 被告の主張
1 所得金額
原告の昭和四六年分及び同四七年分の所得金額は別表1B欄記載のとおりである。
2 雑所得の帰属
原告の昭和四六年、同四七年に係る株式の取引は、全て大阪屋証券和歌山支店における原告の顧客勘定元帳口座を通じてなされたうえ、買付及び売却手数料、取引税、事務管理料は原告が負担し、信用取引に係る建玉配当落調整金は原告が取得していたのであるから、本件株式取引は原告の取引であって、その所得は原告に帰属する。
四 被告の主張に対する答弁
1 所得金額
原告の昭和四六年分及び同四七年分の所得金額は別表1A欄記載のとおりである。
2 雑所得の帰属
原告の本件株式取引は、確かに原告名義の取引口座を利用して行なわれているが、右取引の中には訴外武中玉枝外六名から依頼を受け、従って、右取引に係る所得が右七名に帰属するものも含まれており、その内訳は次に示すとおりである。
<省略>
第三証拠
一 原告
1 甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一ないし五、第四号証の一ないし六、第五号証の一ないし九、第六ないし第八号証の各一ないし八、第九号証の一ないし九、第一〇号証の一ないし七、第一一号証の一ないし六
2 証人土橋浩、同武中渉、原告本人
3 乙号各証の成立は全て認める。
二 被告
1 乙第一ないし第一〇号証
2 証人飯田滋蔵
3 甲第四号証の一ないし五の成立は認める。その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一 申告及び処分等の経過
請求原因1ないし3は当事者間に争いがない。なお、成立に争いのない乙第五号証及び弁論の全趣旨によると、申告及び処分等に係る所得税額の概要は次のとおりである。
1 昭和四六年分
<省略>
(注) △は損失金
2 昭和四七年分
<省略>
(注) △は損失金額
二 所得金額
1 配当所得
昭和四六年分については八九万六〇〇〇円、同四七年分については八八万円とする限りにおいては当事者間に争いがない(別表1記載の区分<1>)。
2 不動産所得、給与所得
別表1記載の区分<2>、<3>については、両年分とも当事者間に争いがない。
3 雑所得
成立に争いのない乙第一ないし第四号証、第九、第一〇号証及び弁論の全趣旨によると、昭和四六年及び同四七年について、原告の大阪屋証券和歌山支店における原告の顧客勘定元帳口座を通じて行なわれた株式売買は、右各年とも取引回数が五〇回以上であり、かつ売買株式数が二〇万株以上であること、右株式取引の収支は別表2、3のとおりであることが認められる。
三 雑所得の帰属
1 当裁判所の認定
成立に争いのない乙第一(第九)、第二(第一〇)号証、第六ないし第八号証、証人飯田滋蔵の証言、原告本人の供述(一部)によると、昭和四六年、同四七年にかかる本件株式取引は、全て大阪屋証券和歌山支店における原告の顧客勘定元帳口座を通じて行われ、原告において依頼者であると主張する武中玉枝外六名は自己の口座を開設していないこと、依頼者といわれる者たちも本件取引の内容を殆んど知らなかったこと、本件取引における買付及び売付について右七名が銘柄、株式数等を特定して指示をした形跡はなく、原告一人の判断に基づいてなされ、右取引終了後、大阪屋証券から売買報告書が原告方に送付され、右取引の損益等が確定してから、益金取引分についてのみ予め原告において決めていた武中玉枝、武中ミチヨ、武中渉、武中明、土橋浩、片平一雄、湯川とみ子の順に、右七名の取引として分配した利益集計表(甲第一号証の一、二)を作成し、なお損金取引を補填するため益金取引のなかから適宜選んで七名の誰にも分配しない形式をとっていたこと(即ち、当初から右七名のうち特定の個人の取引と確定して買付及び売付を行っていたのではなく、原告名義で全ての取引を行い、取引が終了して損益が判明した後に、原告の管理する書類のうえで、右七名に益金取引を分配し、損金取引及び損金取引を穴埋めするに十分な益金取引を原告の取引とする形式をとっていたこと)、信用取引に係る建玉配当落調整金(受株式に係る配当金相当額)は原告が全て取得していること、が認められ、右認定事実によると、本件取引は損金取引の出た場合原告がその危険を負担する前提のもとになされ、本件取引による全利益は分配面その他において原告が自由に処分をなしうる立場にあったとみられるから、本件取引に基づく所得(別表2、3)の帰属主体は原告であると認めるのが相当である。
2 原告の主張に対する判断
(一) 原告は、本件取引は武中玉枝外六名の買付及び売付指示に基づいて行われたと主張し、証人土橋浩、同武中渉も右主張に沿う証言をする。
しかしながら、審査請求段階における最も重要な審査事項は買付指示が実際に依頼者らからなされたか否かであったにもかかわらず、武中渉は右審査請求時において右証言とは逆に前記1で認定したような事実(即ち、依頼者らから買付指示はなかったこと)を供述していたのであるし、また証人武中渉の証言によって真正に成立したと認められる甲第一号証の一、二、成立に争いのない乙第二(第一〇)号証によると、原告は昭和四六年の前記七名の取引は一一五件であり、同四七年のそれは一二件であるというにあるところ、右取引は両年とも全て益金取引であって損金取引はないこと(武中渉は甲第六号証の六を引用して、昭和四七年二月三日、同月四日に各一件ずつ損金取引があると証言するが、同取引は受株であって、買付委託に見合う売付せず取引者において現株を引き取って決済したというにすぎないから、損金取引とはいえない。)、反対に原告だけの昭和四六年の取引は二九七件であり、同四七年のそれは二〇六件であるところ、損金取引は右取引のうち、昭和四六年が一八八件、同四七年が一〇二件にものぼることが認められ、現実に前記七名から買付及び売付指示が行われたのであれば、数多くの取引のうち同人らに益金取引のみ存在し、損金取引が原告にのみ集中することはありえないから、原告の主張に沿う前記各証言は措信できない。
(二) また、原告は前記七名の依頼によって本件取引を行い、現実に右取引による利益を同人らに分配しているのであるから、右分配に係る取引は依頼者らの取引であると主張して甲号各証を提出し、証人土橋浩、同武中渉も右主張に沿う証言をするが、既に1で認定した経過から推して右各証拠ともその信用性に疑問があるうえ、仮に原告の主張どおりの配分がなされているとしても、本件取引が原告の危険負担において行われ、本件取引による利益の処分は原告が自由になしうる立場にあったのであるから、原告において右利益中から所得税を納付したうえで依頼者らに利益を分配しても、それは依頼の趣旨に副う適正な処理であるにすぎず、これがため、右取引自体が直ちに依頼者らの取引であるとはいえない。
(三) 更に、原告は、依頼者らは信用取引の担保として証券会社に納付する現金や株式を拠出していたから、本件取引には依頼者らの取引も含まれていると主張するが、原告が当裁判所に提出する甲第五号証の一、第七ないし第一〇号証の各一、原告本人の供述によっても、依頼者らの取引についてその都度取引主体に符合する拠出物を証券会社に納付したのではなく、混合された担保として原告がひとまず一括所持し、担保不足が生じる都度原告が自由に拠出物を納付していたにすぎないことが明らかであるから、結局当裁判所の認定を左右するものではない。
四 結論
よって、本件更正及び過少申告加算税賦課処分(昭和四六年分については裁決による一部取消後のもの)は、原告の所得の範囲内でなされたものであって正当であり、原告の本訴請求は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 惣脇春雄 裁判官 高橋水枝 裁判官 竹中良治)
別表1
<省略>
(注) △は損失金
別表2 (昭和四六年分)
<省略>
別表3 (昭和四七年分)
<省略>
(注) △は損失金