大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

和歌山地方裁判所 昭和56年(行ウ)1号 判決 1981年6月29日

和歌山市黒田一二番地

原告

株式会社東洋精米機製作所

右代表者代表取締役

雑賀和男

右訴訟代理人弁護士

澤田脩

藤田正隆

和歌山市湊通り北一丁目一番地

被告

和歌山税務署長

宮崎英夫

右指定代理人

小林敬

西峰邦男

坂田暁彦

右指定代理人

雑賀徹

山田俊郎

竹見富夫

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五五年一一月一四日付で訴外雑賀慶二に対してした昭和四九年分所得税額等の更正及び加算税の変更決定は、これを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案に対する答弁)

原告の請求を棄却する。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は訴外雑賀慶二(以下、訴外人という。)に対し、昭和五五年三月一五日付で昭和四九年分所得税の決定及び加算税の賦課決定をした。これに対し、訴外人は、昭和五五年三月一八日付で右決定に対する異議申立をしたところ、被告は、同年七月三日付で異議決定をした。

2  ところが、更に、被告は、訴外人に対し、同年一一月一四日付で昭和四九年分所得税額等の更正及び加算税の変更決定(以下、本件決定という。)をした。

本件決定の理由は、

(一) 昭和五五年七月三日付昭和四九年分所得税の異議決定において、訴外人の雑所得の収入金額とした試験機等(試作品、改良品、テストプラント)の売上は、既に原告に対し昭和五四年七月三一日付でした原告の昭和五〇年三月以降の決定処分で収入金額に算入されており、調査の結果原告に帰属する収入金額と認められる。

(二) したがつて、試験機等売上に係る所得金額一五八一万五〇四円を減算する。

というにある。

3  しかしながら、試験機等の所有権は、訴外人に帰属するものであり、したがつてその売上げによる収入金額も訴外人に帰属し、原告に帰属するものでない。

4  被告は、長年にわたり、十分な調査をしたうえで、前記のとおり昭和五五年三月一五日付決定、同年七月三日付異議決定において正当な認定をしながら、これらの決定が、原告を被告人とする法人税法違反被告事件の証拠として原告側から提出されるや、にわかに右認定を覆して、本件決定をした。

5  よつて、本件決定は、実体上も手続上も違法であるから、取消されるべきところ、原告は、本件決定により重大な影響を受ける利害関係を有するので、被告に対し、本件決定の取消を求める。

二、本案前の主張

本件決定は、原告も自認するとおり、訴外人に対するものであり、原告は、本件決定そのものによつては何らの不利益を受けるものではないから、行政事件訴訟法第九条にいう「法律上の利益」を有する者に該当せず、原告適格を有しない。原告主張のごとく、試験機等の売上げにかかる収入金額の帰属に関する被告の認定に誤りがあるとするならば、原告は、自己に対する課税処分を不服の対象として、その争訟の中で争えば足りる。

したがつて、本件訴は、不適法として却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3、4の各事実は否認する。

3  同5は争う。

第三証拠

一  原告

乙号証の成立は認める。

二  被告

乙第一号証

理由

一  被告の本案前の主張について判断する。

原告は、本件訴により、被告が第三者である訴外人に対してした本件決定について、試験機等の売上による収入金額が原告に帰属するとの被告の認定は誤りであることを理由に、本件決定の取消を求めるものである。そこで、原告適格の有無について検討してみると、仮に原告主張のとおり被告の右認定に誤りがある場合においても、本件決定は、原告に対して法的効力を有しない以上、本件決定自体により、原告が何らの不利益を受けるものでないことは明らかであり、この場合には、原告は、被告の右認定を前提としてなされた原告自身に対する課税処分の効力を争うことにより、十分な救済を受けうるのであるから、結局、原告は、本件決定の取消を求める原告適格を有しないといわなければならない。したがって、本件訴は、不適法であり、却下を免れない。

二  よって、原告の本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鐘尾彰文 裁判官 高橋水枝 裁判官 岩田真)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例