大判例

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和歌山地方裁判所新宮支部 昭和24年(ワ)45号 判決

原告 上松栄次郎

被告 坂井献吉

一、主  文

原告の請求はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告及びその訴訟代理人は被告は原告に対し金三万円及びこれに対する昭和二十四年二月二十六日以降完済に至るまで年一割の割合に依る金員を支拂うこと、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として原告は昭和二十四年一月二十五日訴外那々木操に対し被告外一名保証の下に、弁済期を同年二月二十五日限り、期限内は無利息、期限経過後は年一割の割合に依る損害金を支拂う約定で貸與したが、主債務者は弁済期を経過したのにその支拂をしないので、保証人である被告に対しその支拂を求めるため本訴請求に及んだ次第であると陳べ、被告の本案前の抗弁につき被告主張の不起訴の契約はこれを否認する、仮りに原告において訴訟を提起せず、円満解決することを承認して捺印したとしてもその趣旨は成るべく訴訟をせず円満解決する旨の紳士契約に過ぎない。仮りに然らずとするも訴権の抛棄は明文のない我民事訴訟法ではこれを許さないものである、と述べ、被告の催告の抗弁に対し主たる債務者である訴外那々木操は目下行方不明であるから、被告の同抗弁も亦失当であると陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は本案前の抗弁として主文と同趣旨の判決を求め、その理由として、原告は被告に対し本件につき訴を提起しないことを約定しながら、その契約に違反して本訴に及んだものであるからその点において排斥を免れないと述べ、次に本案につき原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の本件貸借関係はこれを認めるが被告は單に保証債務を負担するに過ぎないから原告は先づ主債務者に対して請求すべきであり、これを怠つて先づ被告にその支拂を求める原告の本訴請求は失当であると答え、原告の再抗弁につき被告の主張に反する部分は全部これを否認すると述べた。<立証省略>

三、理  由

先づ被告の本案前の抗弁について案ずるに、証人坂井美登の供述及び原告本人訊問の結果(第二回)に依つて眞正に成立したものと認め得る乙第一号証に、証人坂井美登、同田中秀夫、原、被告本人の各供述を綜合すると、原告は訴外那々木操に対し、金二万円及び金三万円の二口の貸金債権を有し、被告はいづれもその保証人となつていたところ、主債務者那々木操が各弁済期にその支拂をしなかつたので、原告は昭和二十四年九月頃保証人である被告を相手取つて、右金二万円の債権につき訴を提起するため、仮差押の申請をなした結果、その後訴外前川春惠方で原被告間に被告から前記金二万円の債務の残額五千円を原告に支拂つて同債務を皆済することゝなすと共に、本件三万円の債務については、訴訟を提起せず、示談解決することを約定したことを認定するに足り、原告本人の供述中右認定に反する部分は当裁判所の信用しないところである。原告代理人は仮りに原告において訴訟を提起せず、円満解決することを承認して捺印したとしても、その趣旨は成るべく訴訟をせず円満解決する旨の紳士契約である旨、主張するけれども、前掲各証拠を仔細に檢討して見ても、原告代理人の主張するような趣旨の契約であつたものとは解し難く、却つて本件は訴を提起することなく寧ろ当事者間において円満に示談解決することを確約したものと解するのを相当と考える。次に原告代理人は、仮りに被告代理人主張の不起訴の合意があつたとしても、該契約は訴権の抛棄についての合意であるからこれにつき明文のない我民事訴訟法では、それは許されないものであると主張するけれども、元来民事訴訟制度は当事者間に紛爭があつて、それが、当事者間で訴訟に依る以外に如何にしても解決のつかない場合に、一方当事者の申立に基き初めて公権的に紛爭を解決しようとする国家的制度であるから、若し当事者間で、自由に処分の出來る特定の権利関係に関し、その解決に国家の訴訟制度を利用することなく円満に示談解決することを合意したような場合には、国家としてもその当事者間の合意はこれを尊重すべく、その合意に反し強いてこれを取上げて判断を下す必要はないのであるから、たとえ民事訴訟法にこれを許す旨の明文がなくとも、右の如き民事訴訟法制度本來の性質に鑑み、その合意の効力を否定すべき何等の理由がないものと解する。従つて若しかゝる合意ある特定の権利関係につき合意に反して訴が提起されても、その請求は訴訟に依る権利保護の利益を欠くものとして排斥を免れないであろう。

さすれば原、被告間に成立した前段認定の不起訴の合意に反してなされた原告の本訴請求は他の判断をまたずして既にこの点において失当であるから、これを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 亀井左取)

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