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和歌山地方裁判所新宮支部 昭和48年(ワ)23号 判決 1974年10月15日

原告

植松キクエ

被告

山本木材株式会社

ほか三名

主文

一  被告堀田春郎は原告に対し金七〇七万五、六一九円および内金六五七万五、六一九円に対する昭和四五年一一月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告堀田春郎に対するその余の請求および被告山本木材株式会社、同合資会社山本木材大内山工場、同堀田六夫に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告堀田春郎との間においては、原告に生じた費用の六分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告山本木材株式会社、同合資会社山本木材大内山工場、同堀田六夫との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し各自金一、一八一万九、二五八円および内金一、〇八一万九、二五八円に対する昭和四五年一一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)(本件事故の発生)

原告はつぎの交通事故により負傷した。

イ 日時 昭和四五年一一月一九日午後九時五分ころ

ロ 場所 新宮市駅前東通り三丁目先市道

ハ 加害車 大型貨物自動車(三―な八四八号)

運転者 被告春郎

ニ 態様 道路左側を進行中の原告操縦の足踏自転車に後方から進行してきた加害車の車体左側が接触したもの

ホ 傷害の内容 右上腕、前腕、肩胛部挫減症

後遺症 右前腕切断、神経症、不随症

(二)(帰責事由)

1 被告株式会社および同合資会社

つぎの理由により、右被告らは自賠法三条、民法七一五条に基づき本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

(1) 被告春郎は、右被告らの事業にかかわる木材運搬を専属的に請負つていた。

(2) 右運搬には本件加害車が使用されていた。

(3) 右被告らは本件加害車の車体に被告合資会社のマークおよび「山本木材大内山工場」なる表示をなさしめていた。

(4) 右被告らと被告春郎との間には、雇用に準ずべき指揮監督関係があつた。

(5) 本件事故は、被告春郎が右運搬事業に従事中発生したものである。

2 被告六夫

同被告は本件加害車の所有者であり、また被告春郎の使用者であるから、自賠法三条、民法七一五条により、本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

3 被告春郎

本件事故は、同被告が前方ならびに側方を注視せず、自転車で進行中の原告の側方至近距離を通過しようとした自動車運転上の過失により惹起されたものであるから、同被告は民法七〇九条により原告の損害を賠償すべき責任がある。

(三)(損害)

1 治療費 金五五万一、九五九円

原告は本件事故当日から昭和四六年三月二七日までの一二九日間、財団法人新宮病院に入院して治療を受けたが、これに要した費用は合計金五五万一、九五九円である。

2 付添看護、家事手伝い費 金二五万五、〇〇〇円

原告は、本件事故による負傷のため、病院退院後も付添看護を要する状態にあり、もとより一家の主婦として家事に従事することも不可能であつたので、昭和四六年四月一日から昭和四七年八月末日までの間、右付添看護ならびに家事手伝いを訴外久徳よねみに依頼し、一カ月金一万五、〇〇〇円、計金二五万五、〇〇〇円を支払い、同額の損害を被つた。

3 逸失利益 計金一、〇三五万七、〇七九円

(1) 昭和四六年一二月末日までの分 金二一万九、四二〇円

原告は本件事故当時前記財団法人新宮病院に看護婦として勤務し、一カ月金四万七、七〇〇円の給与を得ていたが、右事故のため、その翌日から勤務ができなくなり、昭和四六年一一月末日限りで退職を余儀なくされた。そして、右欠勤期間中、昭和四六年二月分までは右給与の全額が支給されたが、その後退職時まではその六〇パーセントの支給を受けたにすぎない。したがつて、同年三月分から同年一一月分までの九カ月分の差額計金一七万一、七二〇円と同年一二月分の前記給与相当額金四万七、七〇〇円の合計額金二一万九、四二〇円が右期間中の原告の逸失利益に相当する。

(2) 昭和四七年一月一日以降の分 金一、〇一三万七、六五九円

原告が前記病院に引続き勤務していたならば、その給与は昭和四七年一月以降一カ月金五万七、七〇〇円に昇給し、他に賞与として年間四カ月分の給与相当額の支給を受けたはずである。そして、原告は右昭和四七年一月以降少くとも一五年間は看護婦として稼働し、その間右同額の年間金九二万三、二〇〇円の収入を挙げ得たであろうところ、本件事故による負傷のため、右得べかりし利益の全額を失つたこととなる。

そこで、右昭和四七年一月以降の逸失利益の現価をホフマン式計算法により算出すると金一、〇一三万七、六五九円となる。

4 慰藉料 計金三七〇万円

(1) 治療期間中の肉体的、精神的苦痛による分 金一〇〇万円

原告は本件事故による負傷のため、前記のとおり一二九日間入院し、その間右前腕切断等の手術を受け、退院後も今なお週一度の通院治療を余儀なくされているが、負傷部位の痛み、治療等に伴う肉体的苦痛、精神的不安等を考慮すると、右治療期間中の慰藉料としては少くとも金一〇〇万円が相当である。

(2) 後遺症に対する分 金二七〇万円

原告は本件事故により右腕を失つたほか、今なお神経症、不随症に悩まされている。そして、右腕を切断したことにより職を失つたばかりでなく、自己の身だしなみを整えることさえできず、調理等もほとんど不可能となり、女性として耐えがたい苦痛を味わつているものである。

かかる事情を考慮すると、右後遺症による原告の精神的苦痛を慰藉すべき額は、少くとも金二七〇万円が相当である。

(四)  (損害の填補)

原告は、すでに右治療費のうち金一一万四、七八〇円については社会保険給付を受け、残額についてはその支払を受けたほか自賠責保険金三四九万二、八二一円を受領し、これを治療費以外の損害合計金一、四三一万二、〇七九円の内金に充当したので、残額は金一、〇八一万九、二五八円となる。

(五)  (弁護士費用)

原告は、本件訴訟の提起、遂行を本件原告訴訟代理人弁護士に委任し、その手数料、報酬として金一〇〇万円を支払うことを約した。

(六)  (結論)

以上の理由により、原告は被告らに対し、本件事故による損害の賠償として、各自合計金一、一八一万九、二五八円および弁護士費用を除く内金一、〇八一万九、二五八円に対する右事故の日である昭和四五年一一月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

(一)  被告株式会社、同合資会社

1 請求原因(一)の事実中、原告が交通事故により負傷し、右前腕を切断したことは認めるが、その余は不知。

2 同(二)の1の事実は否認する。

被告春郎は独立の運送業者であつて、時折り被告株式会社、同合資会社の注文によりその運送を請負つていたにすぎず、その発注高は、被告株式会社の全発注高の一割未満、被告合資会社のそれの二割程度であり、被告春郎の被告株式会社からの受注高は、全受注高の約一割、被告合資会社からのそれは三割程度にすぎなかつたものである。

3 請求原因(三)の事実はすべて争う。

(二)  被告六夫

1 請求原因(一)の事実中、原告が交通事故により負傷し、右前腕を切断したことは認めるが、その余は不知。

2 同(二)の2の事実は否認。

3 同(三)の事実はすべて不知。

(三)、被告春郎

1 請求原因(一)の事実は認める。

2 同(二)の3の事実は否認。

3 同(三)の事実はすべて不知。

三  被告株式会社、同合資会社の抗弁

本件事故の発生につき、原告には、被告春郎の運転する本件加害車が道路左側に駐車中の車両の側方を通過すべく、その前部数メートルがすでに右駐車車両と並列状態となつていた際に、無謀にも一メートル内外の狭い間隙に自転車を乗り入れた過失があつたから、損害額の算定にあたつてはこの点が斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する原告の認否

争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  (本件事故の発生)

請求原因(一)の事実は原告と被告春郎との間で争いがなく、その余の被告らとの関係においては、〔証拠略〕を総合してこれを認めることができ(ただし、右被告らとの間においても原告が交通事故により負傷し、右前腕を切断したことは争いがない。)、この認定に反する証拠はない。

二  (帰責事由)

(一)  被告株式会社、同合資会社について

〔証拠略〕を総合すると、つぎのような諸事実が認められる。

(イ)  本件事故は、被告株式会社の発注により、被告春郎が大阪市から新宮市内の同被告会社工場へ原木を運送中に発生したものである。

(ロ)  被告株式会社、同合資会社はともに「素材製材品の生産加工並にその売買」を主たる業務としているものであるが、右業務に伴う原木ならびに製材加工品の運搬を自ら行うことはなく、すべて外部の運送業者に発注していたもので、被告春郎はそのうちの一名であつた。そして、本件事故当時の発注先は、被告春郎を含め、被告株式会社約一〇業者、同合資会社約六業者であり、昭和四五年八月から同年一一月までの間における被告春郎への発注量の全発注量に占める割合は、被告株式会社においては一割足らず、同合資会社においては二割余りであつた。

(ハ)  被告春郎は本件事故の数年前から貨物自動車による運送業に従事していたが、被告株式会社、同合資会社からの運送の受注量は必ずしも一定せず、月間全く受注しないことがある反面、一七、八日間を両社の発注による運送業務に費したこともあつた。なお、被告春郎は、被告株式会社より同合資会社から受注することが多かつた。

(ニ)  被告春郎は被告株式会社、同合資会社からのみ運送を受注していたものではなく、他の者からもこれを請負つていたものであつて、他の者との関係において、必ずしも被告株式会社、同合資会社の発注による運送を優先させていたものでもない。

(ホ)  本件加害車の車体には、被告合資会社の社章および社名が表示されていたが、これは、被告春郎が自動車運送事業の免許を得ていなかつたため、自家用を仮装すべく、事前に右会社の承諾を得ることなしに付したものである。なお、同会社代表者はこれを知り、被告春郎に対し一応は右表示の消去を申し入れたが、強硬にこれを求めたことはない。

(ヘ)  本件事故当時、本件加害車の所有者名義は自動車販売会社名で、同使用者名義は被告六夫名で登録されており、自賠責保険の加入名義人も右六夫であつた。

(ト)  被告春郎に対し、被告株式会社、同合資会社が資金援助、融資等をしたことはなく、本件加害車の格納場所を提供したこともない。また、発注に際し、走行経路、走行方法等の指示をすることもなかつた。

(チ)  本件事故当時、被告春郎は運転免許の効力停止処分を受けていたため、運転手として堀勉を雇入れていたが、被告株式会社、同合資会社は右雇入れにも何ら関与していない。

右のとおり認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右のように、本件事故は、被告春郎が被告株式会社から受注した貨物の運送作業に従事中、本件加害車によつて惹起したものであつて、その車体には被告合資会社名が表示されていたものではあるが、その他の右認定事実に照すと、被告株式会社、同合資会社の本件加害車についての運行支配ないしは運行利益の存在または被告春郎に対する指揮監督関係(人的支配関係)の存在はいずれもこれを認め難く、他にそれらの存在を認めるに足る証拠も存しない。

したがつて、被告株式会社、同合資会社については、原告主張の自賠法三条または民法七一五条による責任をいずれも認め得ず、その余の点を判断するまでもなく、右両会社に対する原告の本訴請求は失当といわざるを得ない。

(二)  被告六夫について

〔証拠略〕を総合すると、被告春郎は本件加害車一両のみを用いて運送業を営んでいたものであり、昭和四五年一月ころこれを入手するにあたり、同被告の信用上の問題から自動車販売会社において同被告名義による取引を拒絶したため、同被告は、実兄である被告六夫の承諾を得たうえ、その名義を用いて右販売会社との間で右車両の所有権留保付割賦販売契約を締結し、その代金支払のため、被告六夫提出名義の手形を右会社に交付して同車の引渡を受けたこと、右の関係から、前記のとおり使用者名義、保険加入者名義等は被告六夫とされていたが、同被告は頭書の住所地に居住し、伐木搬出業(車両は使用しない。)を営んでいるものであつて、被告春郎の事業には何ら関与せず、本件加害車を使用したこともなく、また、右割賦手形の決済、保険料の支払はもちろん、同車の維持管理費用等もすべて被告春郎が負担していたことが認められ、〔証拠略〕中右認定に反する記載部分は〔証拠略〕に照し採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、右事実によると、被告六夫は、本件加害車の運行を支配し、また、運行により利益を得べき立場にあつたものとは認め難く、さらに、被告六夫と同春郎との間に使用者、被用者の関係またはそれに準ずべき関係があつたものとも認め得ず、他に右のように認むべき証拠はない。

そうとすると、被告六夫についても原告主張の自賠法三条、民法七一五条の責を負わせることができないから、原告の同被告に対する本訴請求はその余の点を判断するまでもなく失当というべきである。

(三)  被告春郎について

〔証拠略〕によると、本件事故現場附近は東西に通ずる幅員約五・五メートルの比較的狭い道路であるうえ、同事故当時は道路両側の各所に駐車車両があつたこと、被告春郎は本件加害車を運転して右道路を東進し、右現場附近にさしかかつた際、前方道路左側を同方向に進行中の原告の自転車およびその前方道路左端とそれよりやや東寄りの地点の道路右端に駐車中の各車両を発見したこと、そして、左側駐車車両の直前で加害車前部が原告の自転車と並列状態となつたが、それよりやや前進した地点で右側駐車車両との接触を避けるため、原告の自転車の位置、動静を確認することなく、もはやその追越しを完了したものと軽信し、左にハンドルを切つたこと、そのため、未だ本件加害車の側方にあつた原告の自転車に加害車左側を接触させて原告を路上に転倒せしめ、左後輪でその右腕を轢過したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実に徴すると、本件事故は、道路右側の駐車車両との接触を避けることに気を奪われ、自車側方にあつた原告の自転車の存在を看過し、それに対する安全の確認を怠つたままハンドルを左に切つた被告春郎の本件加害車運転上の過失により生じたものといえるから、同被告は民法七〇九条により右事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

三  (損害)

(一)  治療費 金五五万一、九五九円

〔証拠略〕によると、原告は本件事故による負傷のため、事故当日から昭和四六年三月二七日まで財団法人新宮病院に入院して治療を受けたが、この間の治療費として合計金五五万一、九五九円を要したことが認められる。

(二)  付添看護、家事手伝いに要した費用 金二五万五、〇〇〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告は右退院後も昭和四七年八月に至るまで前記病院に通院し、治療、休養に専念したこと、その間、原告の看護を兼ねる家事手伝いを久徳よねみに依頼し、一カ月につき金一万五、〇〇〇円、計金二五万五、〇〇〇円を同人に支払つたことが認められるところ、原告の負傷部位等に照し、右は本件事故と相当因果関係のある原告の損害と解するのが相当である。

(三)  逸失利益 合計金八八三万〇、五五〇円

〔証拠略〕を総合すると、原告は昭和二年二月一〇日生れの女性であり、本件事故当時看護婦として前記新宮病院に勤務していたが、右事故による負傷のためその翌日から欠勤し、右前腕を切断して看護婦としての勤務が不可能となつたことから、結局、昭和四六年一一月末日をもつて同病院を退職したこと、右事故当時、原告の本給は月額金四万三、三〇〇円であつたが、昭和四六年一月から金四万七、七〇〇円に昇給し、さらに引続き勤務した場合、同病院の給与規定上、昭和四七年一月から金五万七、七〇〇円に昇給するはずであつたこと、右給与規定によると、同病院においては年間本給の四カ月分相当額の賞与が支給され、また、私傷病による長期欠勤の場合、当初の三カ月間は本給の全額が、その後の九カ月間はその六割が支給されることになつていること、原告に対しては、昭和四五年中は規定どおりの給与、賞与が支給され、昭和四六年一月以降右給与規定どおりの支給がなされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

1  休業による損害 金一〇二万五、六八〇円

前記(二)記載の事実に照し、本件事故の翌日から昭和四七年八月末日までは、右事故による負傷治療のための休業相当期間と認めるのが相当である。

そこで、右期間内の原告の休業による損害額を算出すると、つぎのとおり金一〇二万五、六八〇円となる。

(イ) 昭和四六年一二月末日まで

(47,700円×16)-{(47,700円×2)+(47,700円×0.6×9)}=410,220円

(ロ) 昭和四七年八月末日まで

57,700円×16×1/12×8≒615,460円

(ハ) 以上の合計

410,220円+615,460円=1,025,680円

2  昭和四六年九月以降の逸失利益 金七八〇万四、八七〇円

前記認定事実および〔証拠略〕によると、本件事故による受傷がなかつたならば、原告は昭和四六年九月以降少くとも一三年間は看護婦として稼働し、その間少くとも年額金九二万三、二〇〇円(本給月額金五万七、七〇〇円、賞与四カ月分)の収入を挙げ得たであろうことが推認される。ところで、前記のとおり、原告は右前腕切断という後遺症のため看護婦としての勤務が不可能となり、やむなく退職したものではあるが、そのことから直ちに稼働能力のすべてを失つたものと解することはできず、右障害の部位、原告の年令等を考慮し、その九割を喪失したものと推認するのが相当である。

以上に基づき、原告の逸失利益の昭和四六年九月当時の現価をライプニツツ式計算法により算定するとつぎのとおり金七八〇万四、八七〇円となる。

923,200円×0.9×9.3935≒7,804,870円

(四)  慰藉料 金三五〇万円

本件事故の態様、原告の傷害、後遺症の部位程度、治療経過、その他本件に顕れたすべての事情(ただし、ここでは後記原告の過失は斟酌しない。)を考慮すると、慰藉料としては金三五〇万円が相当である。

四  (過失相殺)

前記第二項3の事実に徴すると、本件事故の発生については、自転車を操縦して余りにも本件加害車に近寄りすぎた原告の過失(不注意)がその一因となつているものと推認できる(証拠上接触地点を確定することはできないが、〔証拠略〕によると、それが左側駐車車両の手前であるならば、さらに道路左端寄りを走行し得る余地のあつたことが明らかであり、右接触地点が駐車車両の右側であるならば、道路状況に照し、駐車車両の手前で加害車の通過を待つべきであつたものと考えられる。)ので、これを斟酌し、前項の損害額合計金一、三一三万七、五〇九円のうち、治療費を除くその余の損害額につき二割を控除した計金一、〇六二万〇、三九九円をもつて被告春郎が賠償の責に任ずべき原告の損害と認めるのが相当である。なお、事案の性質上、治療費については、これを過失相殺の対象としないこととする。

五  (損害の填補)

原告は、前記治療費のうち金一一万四、七八〇円については社会保険給付を受け、残額についてもその支払を受けたほか、自賠責保険金三四九万二、八二一円を受領したことを自認するので、これを前項の金額から控除すると残額は金六五七万五、六一九円となる。

六  (弁護士費用)

原告が本訴の提起、遂行を本件原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであるところ、事案の内容、訴訟の推移、認容額その他諸般の事情に照し、被告春郎において負担すべき弁護士費用は、金五〇万円が相当である。

七  (結論)

以上により、原告の本訴請求は、被告春郎に対し合計金七〇七万五、六一九円とそのうち弁護士費用を除く金六五七万五、六一九円に対する本件事故の翌日である昭和四五年一一月二〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容するが、同被告に対するその余の請求およびその他の被告らに対する請求はいずれも失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 尾方滋)

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