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和歌山地方裁判所田辺支部 昭和41年(ヨ)9号 判決 1966年6月08日

申請人 皿田勝一

右訴訟代理人弁護士 野間友一

被申請人 田辺運送株式会社

右代表者代表取締役 笹野英

右訴訟代理人弁護士 真田重二

主文

被申請人は申請人をその従業員として取扱い、かつ申請人に対し昭和四一年二月一日から本案判決確定に至るまで一ヶ月金五万一七八六円の割合による金員を毎月末日限り支払え。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

申請人訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被申請人代理人は、申請人の申請を却下する、との裁判を求めた。

第二、申請人の主張

一、(当事者)被申請人は頭書肩書地に本社を有し自動車による貨物運送を業とする会社であり、申請人は昭和二一年二月一日被申請人会社に雇われ、同二四年からは自動車運転手として田辺営業所で稼働するものであって、全国自動車運輸労働組合(全自運)田辺運送支部の組合員である。

二、(解雇)被申請人会社は、昭和四一年一月二四日申請人に対し口頭で解雇の意思表示をし、その後は申請人が労務を提供してもその受領を拒否して従業員としての取扱をしない。

三、(解雇無効)(一) 申請人は昭和三四年一月に結成された当初から田辺運送労働組合(昭和三六年六月一日から全自運田辺運送支部となって今日に至る)の組合員であり結成時には執行委員(任期一年)でもあった。

(二) 全自運田辺運送支部(以下組合と略称する)は結成当初から傘下組合員の生活と権利を守る闘いと平和と民主主義を守る闘いとを正しく結合して活発な組合活動を行ってきており益々その活動を強化しつつあるのを被申請人会社において嫌悪し、組合を分裂させ弱体化し弾圧するために、次のような露骨な組合運営に支配介入をした。

(イ)  昭和三九年七月一九日被申請人会社は、田辺営業所中松泰男課長を介して組合員である和田光夫らを手なずけ、組合員のうち各職場から一四名(組合に対し非協力ないしは批判的立場の人)を指名しひそかに連絡をとって白浜温泉“やわらぎ”旅館に連れ込み、酒食を提供して組合執行部や、その活動を中傷誹謗し、来る一〇月二五日の組合定期大会には被申請人会社の気に入り組合員を執行部に選出するか、もしくは組合を分裂させるための策動謀議をこらし、職制である堤・中松は同席の上これを指示煽動した。

(ロ)  同年九月二一日には、前記(イ)と同じ目的で、堤・中松らが前同様和田光夫を手なずけ約二〇名の組合員を指名してひそかに連絡のうえ、田辺市内所在船山昇三の住家に連れ込み、堤において、「第二組合をつくれ、そして皆頑張ってよい組合明るい組合をつくってもらいたい」と呼びかけて公然と組合分裂を指示煽動したりし、結局この日は右会議に集つた者の中から和田光夫外三名程度の者を組合執行部に送り込む密議をこらし、堤・中松らはこれを激励援助することを約した。そして被申請人会社から酒、ビールの提供があり、使用者と分裂策動者らは仲よく乾杯した。

(ハ)  ついで一〇月四日には被申請人会社において一〇月二五日の組合定期大会を目前に控えて積極的かつ具体的にその対策をたてる必要から、和田光夫らを手なずけて田辺市内の医師会館に約四〇名の組合員をひそかに集め、組合定期大会を、従来の代議員大会でなく全員大会にして会社の気に入る執行部を選出する策動をする上からその手続に必要な署名等をやり、かつ組合執行部の中傷、誹謗を盛んに行った。

(三) 使用者側の前記(イ)ないし(ハ)の組合運営に対する支配介入は、組合の察知するところとなり、組合大会ではそのことが暴露されて被申請人会社の意図に反して組合の団結がさらに強化された。止むなく被申請人会社は、一一月七日に和田光夫、玉置浅男らを組合から脱退させ第二組合を結成させた。分裂を契機として、被申請人会社の不当労働行為はその露骨さにおいて目に余るものがある。

(四) 申請人は、前記(二)の(イ)ないし(ハ)の各会合に出席していたが、その後自らの行動が反組合的、反労働者的であることを深く反省し第二組合には走らなかった。

(五) 組合は前記被申請人会社を相手どり、和歌山地方労働委員会に対し不当労働行為救済の申立をし、目下昭和四〇年和労委(ネ)第六号事件として右地労委に係属中であるが、地労委において、申請人は昭和四〇年七月三〇日の第四回審問期日に証人としてたち被申請人会社の前記不当労働行為の事実を証言した。

(六) 被申請人会社がなした申請人に対する解雇は前記のように、申請人が地方労働委員会で、被申請人会社の不当労働行為の事実を証言したことを原因とする解雇であって労働組合法七条四号に該当し、不当労働行為として無効である。

四、(仮処分の必要性) 申請人は解雇当時一ヶ月金五万一七八六円(毎月二五日締切、月末払)の賃金を得ていた労働者である。現在解雇無効並びに賃金支払の本訴請求を提起すべく準備中であるが、労働者であって賃金のみにより生計を維持しているものであるから、本案判決に至るまでの間収入の道を絶たれると回復できない損害を蒙るので本申請に及んだ、

と述べた。

第三、被申請人の答弁並びに主張

一、(答弁)申請人主張事実中

第一項は認める。ただし、被申請人会社が申請人を雇傭したのは昭和二一年二月二日であり、申請人が自動車運転手として稼働するに至ったのは同二五年三月一日からである。

第二項中被申請人会社は昭和四一年一月二四日申請人を解雇した事実は認める。その後申請人が労務を提供せんとした事実はない。

第三項中(一)記載の事実は認める。(二)記載の事実は否認。(三)記載の事実は不知。(四)記載の事実中申請人主張のとおり不当労働行為救済申立事件が係属し目下審理中であること、並びに申請人が右事件において証人として審問を受けたことは認める。(五)記載事実は否認。

第四項中本件解雇当時における申請人の平均賃金は認めるが、その余の事実は争う。

二、(被申請人の主張)(一)(不当労働行為について)申請人が加入している全国自動車運輸労働組合(全自運)田辺運送支部は被申請人会社を相手方として昭和四〇年三月二二日和歌山県地方労働委員会に対し不当労働行為救済申立をした。その理由とするところは、前記第二の三記載のとおりであるが、被申請人会社は右組合主張の支配介入をした事実は全くない。組合は昭和三九年三月被申請人会社に対して賃金アップその他の労働条件に関する要求をし相当はげしい労働争議を展開して同年五月二八日右争議は妥決したのであるが、右争議(昭三九年春闘)における闘争方針について組合内部に反省批判するもの、あるいは組合執行部の行動に不満を抱くもの、また組合会計処理に不正がある等のことから一部組合員が昭和三九年一〇月二五日開催の組合定期大会における組合役員の改選に関し選挙運動をしたもののようであって、当時の組合執行部がこれを知るところとなりまき返し運動をするなどのことがあり、右定期大会において一部組合員は反動分子呼ばわりされはげしく非難された。そこで右一部組合員は同年一一月七日組合を脱退し、その脱退者は田辺運送労働組合(第二組合)を結成するに至ったものである。このように組合内部事情から組合が分裂したため、前記組合執行部は組合員の目を使用者に向けしめて爾後の脱退を防止しようとし組合分裂は被申請人会社の支配介入によるものなりと称して前記のとおり不当労働行為救済の申立をしたものであるが、被申請人会社は右組合の分裂について全く関知しないところであって、組合の主張は事実無根である。

申請人は右申立事件において昭和四〇年七月三〇日組合側証人として審問を受け証言したが、被申請人会社のなした本件解雇は右証言を理由としてなしたものではないから労働組合法七条四号に該当しない。

(二) (本件解雇の理由)申請人は被申請人会社の被用者として被申請人会社の定める諸規定に従い誠実に業務に従事すべき義務あるは勿論であって、申請人の加入する組合においても昭和三七年七月三一日その組合員に注意を喚起し職場秩序維持に努力し何等の非違行為のないことを誓約し、非違行為のあったときは懲戒解雇その他の処罰を受けるも異議ない旨約したのである。しかるに、

(1)  申請人は貨物自動車の運転手として乗務するものであって、田辺市から大阪市まで運行する際自動車燃料不足を生じたときは株式会社岩本商店北島補給所において燃料(軽油)の補給を受ける定めとなっていた。ところで申請人は

(イ) 昭和三九年七月二七日右補給所において軽油六四リットルの補給を受けた際別途混合油三リットルを被申請人会社の用に供するためと称して受取って不正に領得し、軽油七〇リットルの補給を受けたように仮装し、この代金を右会社をして被申請人会社に請求せしめ被申請人会社は右七〇リットルの補給を受けたものと誤信してその代金の支払をさせられた。

(ロ) さらに同年九月二一日前同様手段で軽油二四リットルの補給を受けたのにかかわらず三〇リットルの補給を受けたように装い、混合油三リットルを領得して自己の用途に費消し、軽油三〇リットル分の代金を被申請人会社に支払わせた。

(2)  自動車乗務員は営業上出張し宿泊する場合においては、原則として被申請人会社の設けた宿舎に宿泊しなければならない。これは睡眠時間を十分にとり翌日の自動車運転の安全を期すると共に、受託運送貨物集配の便益を計ったもので、被申請人会社は出張規則(二二条)によってこれを規定している。申請人は田辺市から大阪市に貨物自動車を運行して出張した際大阪市福島区鷲洲中一丁目六一番地福島営業所内に設けた宿泊所に宿泊すべきにかかわらず、昭和四〇年初ごろから右福島営業所勤務の申請外○○○○(昭和四一年二月一四日死亡)と情交関係を結び、同人の住居である大阪市西成区南海通二丁目四番地永楽荘において同年一〇月ごろまで、右出張の度毎に右同女と起居し、被申請人会社の定めた右規則に違反して無断外泊していたものである。

(3)  申請人は昭和四〇年八月二二日午後五時四〇分ごろ被申請人会社所有の普通四輪貨物自動車(和一け五二八)を運転して田辺市栄町国道を北進中、前方左側を同方向に進行する女学生二人乗自転車を発見したのであるが、このような場合自動車運転者としては、右自転車が自己の進路上に出て来ることがあり得ることを考慮しまず停止または徐行すると共に右自転車の動静を注視しながら進行し右自転車を追い越さんとするときは左側方の間隔を十分に保ちその安全を確認して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、これを怠り左側方の安全を確認しないで右自転車を追越さんとした過失により、右自転車を運転していた申請外天野雅(当一八年)が自車のハンドルを鈴蘭灯の柱に当て右側に顛倒したため前記貨物自動車の後輪で轢き、よって同女をして骨盤骨折膀胱破裂、子宮摘出などの重傷を負わせ、右負傷のため同女は現在紀南病院において入院加療中である。被申請人会社は、被害者との間に昭和四一年一月二五日自動車損害賠償保険金の外に金一五〇万円を支払った。右支払は申請人の過失により被申請人会社の蒙った損害である。

申請人の前記各所為は就業規則八三条((1)は同条六号一五号に、(2)は同条八号に、(3)は同条四号一五号)に各該当するものであり、被申請人会社は申請人に対し同人の再三に亘る右違反行為により懲戒解雇したものであると述べた。

第四、疏明≪省略≫

理由

一、被申請人は田辺市湊一一九六番地の一に本社を有し自動車による貨物運送を業とする会社であり、申請人は昭和二一年二月始め被申請人会社に雇われ、同二四・五年ごろからは自動車運転手として田辺営業所で稼働し、昭和三四年一月結成当初から田辺運送労働組合の同三六年六月一日から全自運田辺運送支部となってからは同組合の組合員であって結成時には執行委員をしていたものであること、被申請人会社は昭和四一年一月二四日申請人に対し解雇の通告をしたこと、組合は被申請人会社を相手どり和歌山地方労働委員会に対し不当労働行為救済の申立をし、目下同地労委に昭和四〇年和労委(ネ)第六号事件として係属中であり、申請人は右地労委における昭和四〇年七月三〇日の第四回審問期日に証人として審問を受けたことはいずれも当事者間に争いないところである。

二、ところで、申請人は、被申請人会社が申請人を解雇したのは、申請人の前記地方労働委員会における被申請人会社の不当労働行為の事実を証言したことを原因とするものである旨主張し、被申請人は、申請人の就業規則に違反する所為を掲げ、これを原因として解雇した旨主張するのでこの点について検討する。

(一)  ≪証拠省略≫によると、昭和四〇年七月三〇日に行われた和歌山地方労働委員会昭和四〇年和労委(ネ)第六号田辺運送株式会社事件第四回審問期日において、申請人は証人として次のとおり供述している。

昭和三九年七月初めごろ昔から親しくしていた監督運転手の和田光夫から個人的に「配車ダイヤの改正とか組合執行部に関する件について会合を開こう」と持ちかけられ、七月一九日「白浜やわらぎ」に行った。和田光夫は新宮や大阪の古い運転手に呼びかけていたものと思う。当日は新宮の岩上・南部の古井・大阪の垣本、畑中・江住の尾花ら約一四名集ったが、この人達は会社に好かれている者が多く組合活動を活発にやるような人達でなかった。会合には中松課長・堤課長も参加し和田光夫の司会で約三時間半行われ、去年の組合の春闘における執行部の行きすぎの批判から始まったが中でも江文書記長に対する批判が多かった。席上「一〇月の役員改選のとき今年の大会は全員大会としわれわれの同志四〇数名の手で今日集った一四名の中から役員を選出しようじゃないか」という意見が出て、これに対し中松課長から「会社に対して善い役員を送ってほしい」旨の発言があった。新宮の岩上君より「全自運へ引っ張り込んだのは江文だから何処か離れたところへ江文をこの際転勤させたらどうか」と発言があったが、和田光夫も「そうだそうだ」とけしかけるように賛成した。中松課長が「第二組合を作れ」と云う趣旨のことを述べた。この会談はビールをのみ乍ら行われた。付出しの外に皿ものも出た。会費の話は終始出なかった。請求は誰も受けず支払ってもいない。やわらぎ会談のメンバー中和田・古井・大谷・清水・井谷・尾花の六名が第二組合員となっている。第二組合員で会社をやめたものは一人もいない。九月一九日高橋から話があったので船山宅の会談に出席した。出席者は約二〇名で三栖・中松・堤の三課長が出席して田辺付近のやわらぎ会合のメンバーが中心となって「今度の大会は全員大会にしてわれわれの中から役員を出そうじゃないか」という話が進められた。堤営業課長は「第二組合を作れ」と強調したが、私外二名は反対した。席上全自運の批判が多かったが「脱退せよ」とまでは云わなかった。

七時半から一〇時半ごろまで続き一人当り一本位のビール・酒・付出しが出たが私は一銭も支払ってない。大阪からは大同君だけが来たが「交通費は会社からもらった」と私に語っていた。この会談もやわらぎ会談と同様全自運に対し秘密裡に進められた。右会合出席者中第一組合に残ったのは私と高橋だけであとは第二組合へ走った。一〇月四日田辺の医師会館でも会合をもった。役員改選の話合いが中心で、四、五〇名集った。医師会へ行く途中大谷が「一万円会社から貰った」と云ってた。「全員大会にして役員を送りこもう」という話合いがされその場で各班長を選んだ。大阪路線やローカル線などにこの班長(六名)がその後手分けして全員大会の署名運動をやった結果一二〇~三〇名が名簿に登載された。茶菓子が出たがその代金は支払ってない、旨述べている。

また、証人江文勝夫の証言被申請人会社代表者本人尋問の結果によると、右審問手続においてやわらぎ旅館船山宅等の会合のことで会社側に不利な証言をしたのは四、五人いたこと、右のうち会社に残っているのは申請人だけで他はすべて辞めていることが認められる。

(二)  そうすると、被申請人会社の申請人に対する本件解雇は右審問期日における申請人の証言を原因としている疑があるが被申請人は、他に解雇事由を主張するのでその各点について更に検討する。

一般に、懲戒解雇は使用者が労働者に対して科する制裁のうちで最もきびしいものであり、従って労働者の行為が就業規則において懲戒解雇事由と定められた事項に該当する場合でなければ使用者はその労働者を懲戒解雇しえないのは勿論懲戒解雇に処することが社会通念上肯定される程度に重大かつ悪質のものでなければならないものであって使用者がその自由裁量を誤り労働者の違反行為の程度に比較して解雇することが重きに失する場合において懲戒解雇することはこれを規定した条項の適用を誤ったものと考えるのを相当とする。

(1)  ところで≪証拠省略≫によると、申請人は株式会社岩本商店北島給油所において、昭和三九年七月二七日貨物自動車へ軽油六四リットルを補給した際別に自己の用に供する混合油三リットルを受取りこれを軽油六リットルに換算して合計七〇リットルを補給したように納品伝票を作らせ、さらに同年九月二一日前同様軽油二四リットルを補給した際混合油三リットルを受取りこれを軽油に換算して合計三〇リットル補給したように納品伝票を作らせ、結局混合油六リットルこの代金合計金三四二円相当を被申請人会社に支払わせたこと、これに対し当時の被申請人会社総務部長小川は申請人を呼び訓戒し今後このようなことをやらないということでその処分は終ったこと、同種事件について他の従業員は謝罪のうえ始末書を提出することで終っている事例があることが認められる。

(2)  ≪証拠省略≫によると、被申請人会社福島営業所内には一〇畳の部屋が四室あって宿泊設備があること、申請人は昭和四〇年一〇月ごろ田辺大阪間の定期便に運転手として乗車し勤務していたが、大阪では大旨右宿泊所に泊っていたが、二、三回外泊したこともあること、被申請人会社においては従前より出張規則を設け昭和三九年一月一日改正後は現行規則が施行せられていること、右規則によると、日帰り出張、宿泊出張並びに特別出張の区別があり(同規則一〇条)、出張が長期(七日以上)に亘るときは原則として会社所定の宿舎または会社の宿舎に宿泊しなければならない(同規則六条)、特別出張については次の通り出張旅費を支給する。1、自動車乗務員が日常営業上服務中宿泊した場合(イ)原則として会社の宿舎に宿泊するものとし一泊につき弁当料二〇〇円を支給する(同規則二二条一項)と各規定し、さらに、一般に従業員が出張するときは所定の事項を記載のうえ許可を受けること(同規則二条)、また日当宿泊料を支給すること(同規則八条)を規定しているが、申請人ら定期便運転手が右手続をしたり、また弁当料以外に日当・宿泊料(この具体的規定もない)の支給を受けたこともないことが認められる。

(3)  ≪証拠省略≫によると、申請人は昭和四〇年八月二二日一七時四〇分ごろ田辺市栄町国道上において普通四輪貨物自動車(和一け五二八号)を運転して通行中道路前方左側を他一名を乗せて同方向に進行中の大野雅(当一八年)乗車の自転車を追越した際右自転車が道路脇の鈴蘭灯の柱に自転車のハンドルを当て右側に倒れかかり申請人の運転する自動車後車輪に轢かれ重傷を負ったこと、被申請人会社は右被害者に対し自動車損害賠償責任保険金の外に治療費・慰藉料等名義の下に金一五〇万円を支払って示談したこと、検察庁においては右事件を不起訴処分として処理したことが認められる。

ところで、右(1)の事実は内容としては犯罪を構成するものではあるが、全部で混合油六リットルこの価格金三四二円相当であって事案軽微であり既に訓戒されて処分は終っているとみられる。(2)の事実は申請人会社において制定している出張規則は前記のとおりその規定内容において瞹昧な点があり、殊に右規則によると日帰り出張宿泊出張並びに特別出張の区別がある(同規則一〇条)が、その区別並びに各取扱上の差異が必ずしも明らかでなく、従ってこれまで従業員においてどの程度これが周知徹底され理解されまた実行されてきたか疑問があり、同規則二二条一項(イ)号の部分だけを読むと、被申請人において主張するように、申請人の如き定期便自動車乗務員においては、原則として会社の宿舎に宿泊するものとされているが、これとてもその規定の位置・前後の文言からみて宿舎に宿泊することに重点がある(同規則六条と比較して)と云うよりも寧ろその出張旅費計算の前提として規定しているものとみられるのであって、数回の右宿泊場所違反の事実をもって警告することもなく直ちにこれをもって職場秩序に違反する行為として懲戒解雇事由に該当するものと判断することは相当でない。さらに(3)の点については、前記認定事実のみによっては直ちに申請人に過失があったものと認めるのは困難であって、却って前記のとおり被害者が鈴蘭灯柱に衝突しその反動で申請人の運転する自動車に倒れかかったものであり、被害者が右自動車に倒れかかった時は既に申請人の乗車位置から後方にあり同車の後車輪により轢れていると認められるから寧ろ無過失の認定が可能な事案である。

いずれにしても、被申請人会社の申請人に対する本件解雇は前掲程度の申請人の行為を原因として直ちに懲戒解雇するのは不相当であり、社会通念上懲戒解雇に処することが肯認される程度に至ってないものと考えられるのであって結局正当な解雇該当事由なく解雇したものでその効力を発生しない。

三、申請人が解雇当時における平均賃金が金五万一七八六円であって毎月末払であることは当事者間に争なく、申請人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、本件解雇後申請人が労務を提供してもその受領を拒否されていること、申請人が労働者であって賃金のみにより生計を維持しているものであることがいずれも疏明されるところであるからその余の判断を待つまでもなく申請人の本件申立は理由があるものと云うべくこれを認容し、訴訟費用については民事訴訟法八九条を適用し、保証をたてさせずに主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文)

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