和歌山地方裁判所田辺支部 昭和46年(ワ)51号 判決
原告 佐野義機
右訴訟代理人弁護士 沢田正二
被告 国
右代表者法務大臣 郡祐一
右指定代理人検事 渡辺丸夫
<ほか五名>
被告 串本町
右代表者町長 塩津六郎
右訴訟代理人弁護士 野本豊
主文
被告らは各自原告に対し金八九万二、二三七円およびこれに対する被告国については昭和四六年七月一五日から、被告串本町については同月一四日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は原告において被告らに対し各金二〇万円の担保を供するときはその被告について仮に執行することができる。
事実
第一双方の求める裁判
一 原告
主文第一、二項同旨
一 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二原告の請求原因
一 事故の発生
真砂安次は昭和四五年一二月一日午前三時三〇分頃運搬用貨物自動車を運転して国道四二号線を東進し和歌山県西牟婁郡串本町田並九一一番地串本町田並出張所前にさしかかった際、先方から乗用自動車が中央線を越えて近づいて来るのを認めたのでハンドルを左に切ったところ、突然自車の屋根が右出張所構内から右道路に突き出て生育している松の大木の幹に衝突し、その衝撃によってハンドルを取られたので、急いで停車しようとしたが間に合わず同出張所の南端をかすめ、その東隣にある山本恭一方コンクリート塀に激突し、よって同人方の右コンクリート塀、雨戸の戸袋等を破損するとともに、右貨物自動車を大破し、自身下顎、口唇等に傷害を受けた。
二 責任原因
(一) 道路の状況
本件事故の発生した道路は、付近に比べて幅員が狭く、しかも西行車線(幅員二・六五メートル)の外側にガードレールが設けられていてこれと車線の外側白線との間が約二四センチメートルにすぎないため西行車両は常に中央線寄りになるうえ、その付近は北方に湾曲しているのでこの傾向は一層強められ中央線一杯か、またはしばしば同線を越えて東行車線に入るものであるところ、一方東行車線(幅員二・七五メートル)は中央線の幅を差引くとその左側からは二・六メートルにすぎないため、東行車両が大型車の場合西行車両と行き違うに当ってはその車線内での進行に著しく危険を感じ車線の左側路肩部分(幅員〇・五メートル)に入り易い状況にある。
(二) 道路の妨害状況
本件事故発生地点にはその北側にある被告町田並出張所の敷地内に生育している松の大木が著しく乗り出しているのであって、その状況は東行車線の路肩外側端上空二・六八メートル、同車線の外側端上空三・三五メートルの各点を幹の下部として斜に中央線上空に至っている。ところで車両の高さ制限は三・五メートルであることからすると、右高さを有する車両であれば車体の左外側を路肩部分にはみ出すことなく車線内を通行したとしても車体の上部は右松の幹に衝突し、路肩部分に入った場合は車体の左外側を路肩外にはみ出さなかったとしても高さ二・六八メートル以上の車両の車体上部は右松の幹に衝突するものであるから、右松の存在は本件事故発生地点の交通を妨害しているものである。現実に従来も高さの高い車両がしばしば右松の幹に衝突している。
(三) 本件事故の原因
真砂の運転していた自動車は高さが三・一八メートルであるところ、対向車とのすれ違いに当り路肩部分に進入したことによって本件事故に至ったものであるが、本件道路が前記状況下にあることからすると、右事故は通常の道路使用の間右松の木の存在によって惹起されたものというを妨げない。
(四) 被告らの責任
1 被告国関係
本件道路は国道四二号線として指定され、その維持管理は被告国(建設省)が直接行なっているものであるから、同被告としては右道路について各種車両の運行に支障のないよう十分な維持管理をなすべきであり、そのためには前記のとおり車両の運行に支障を生ずることが十分予測できる本件松の大木はこれを撤去すべき義務がある。しかるに同被告においてこれを怠ったことにより本件事故を惹起したものであるから、右事故が同被告の本件道路管理上の瑕疵によるものであることは明らかである。よって同被告は国家賠償法二条一項、民法七一七条一項により右事故によって他人に生じた損害を賠償すべき責任がある。
2 被告町関係
本件松の大木は被告町田並出張所の敷地内に生育するものであるところ、これにより国道を通行する車両の運行に危険を及ぼすことが大きいのであるから、同被告としては速かにこれを撤去するか、その栽植支持に適当な措置を講ずべき義務がある。しかるに同被告においてこれを怠ったことにより本件事故を惹起したものであるから、右事故が同被告の本件松の栽植支持上の瑕疵によるものであることは明らかである。よって同被告は民法七一七条二項により右事故によって他人に生じた損害を賠償すべき責任がある。
三 損害
原告は和歌山県日高郡美浜町田井畑に営業所を有し、株式会社山崎製パン大阪第二工場の製品であるパン菓子を同県南部各地の小売店に対して卸売することを業とし、前記真砂をして同社から借受けた運搬用貨物自動車を運転させて商品を得意先小売店に配達させていた者であるが、同人において右運搬の途中本件事故に会い、次の損害を蒙った。
(一) 車両損料、貨物自動車の大破により貸主である株式会社山崎製パンに対しその損料として支払った分……金五五万五、二四五円
(二) コンクリート塀等の修理費、真砂の使用者としてコンクリート塀、戸袋等の破損によりその所有者山本恭一に対し修理費として支払った分……金一七万八、四〇〇円
(三) 車両の引揚回送費……金二万五、〇〇〇円
(四) 商品配送費……金四万一、〇〇〇円
(五) 積載商品の減価、積載していたパン菓子の一部が不良品となったことによる損害(商品価格の一五パーセント)……金三万三、〇〇〇円
(六) 破損交通標識の建替費……金一万二、〇〇〇円
(七) 真砂の負傷に対する災害補償費(治療費関係金七、五九二円、慰藉料等金四万円)……金四万七、五九二円
以上合計金八九万二、二三七円
四 請求
よって被告ら各自に対し金八九万二、二三七円およびこれに対する訴状送達の日の翌日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
≪以下事実省略≫
理由
一 事故の発生
≪証拠省略≫によると、請求原因一の事実を認めることができる。
二 本件道路の状況
≪証拠省略≫によると、本件事故の発生した道路付近は北に緩かに湾曲しており、しかもその湾曲部はこれに接続する部分に比べてその幅員が多少狭くなっていること、右道路中本件事故発生地点は西行車線の幅員が二・六五メートルでその左端(南側)に〇・六メートルの路肩部分があり、東行車線の幅員が二・七五メートルでその左端(北側)に〇・五メートルの路肩部分があり、また西行車線の路肩部分については本件事故発生地点の手前約五メートルの地点までほぼその中央を車線に沿ってガードレールが敷設されていること(但し、右西行車線の幅員が二・六五メートル、東行車線の幅員が二・七五メートル、同車線の路肩部分の幅員が〇・五メートルであることは原告と被告国との間においては争いがない。)、右道路の状況からして本件事故発生地点を通過する車両は東行、西行とも道路の中央線を越えて対向車の車線に進入し易く、特に西行車両はその左端路肩部分にあるガードレールの影響によってその傾向が顕著であること、そして本件事故発生地点において東行、西行の車両が行き違うときは西行車両が中央線を侵すおそれの多いところから、東行車両はその手前で一時停車するか、もしそうでないとするならば対向車との接触の危険を回避するため、やむを得ず路肩部分に入ることを避け得ないのであって、特に大型車両の場合その傾向が顕著であること、また本件事故当時右路肩部分と車線部分との境界を示す標識は何らなく、ただ前者がコンクリート造り、後者がアスファルト敷であるという構造上の相違によって事実上の識別がようやく可能であったこと等の事実を認めることができる。
三 本件道路の妨害状況
本件事故発生地点にはその北側にある被告町田並出張所の敷地内に生育している松の大木が乗り出していること、その状況が東行車線の路肩外側端上空二・六八メートルを幹の下部として斜に道路中央線上空に至っていることは当事者間に争いがない。同車線外側端上空松の幹の下端までが三・三五メートルであることは、原告と被告国との間においては争いがなく、原告と被告町との間においては検証の結果によってこれを認めることができる。ところで本件事故当時車両の高さ制限が三・五メートルであったことは、原告と被告町との間においては争いがなく、原告と被告国との間においては当裁判所に顕著な事実である(道路交通法五七条一項、昭和四六年一一月二四日政令三四八号による改正前の同法施行令二二条三号ハ、なお、右改正後の同令二二条三号ハ、右改正政令付則二項、同年七月二二日政令二五二号による改正後の車両制限令三条一項三号、右改正政令付則二項等により昭和四七年四月一日以降は三・八メートル)ことからすると、右制限一杯の高さを有する車両であれば車体の左外側を路肩部分にはみ出すことなく車線内左寄りを通行したとしても車体の上部は右松の幹に衝突するものであり、路肩部分に入った場合は車体の左外側を路肩外にはみ出さなかったとしても高さ二・六八メートル以上の車両の車体上部は右松の幹に衝突するものであって、右松の存在は本件事故発生地点の交通を妨害しているものと認めることができる。そして≪証拠省略≫によると、以前にも高さの高い車両が右松の幹に衝突してその樹皮を剥離している事実を認めることができる。
四 本件事故の原因
真砂運転の本件自動車の高さが三・一八メートルであったところ、前記二の状況下の本件道路において対向車と行き違うに当り路肩部分を進行したことによって本件事故に至った事実は当事者間に争いがない。被告町は真砂は車線部分を越えてまさに側溝に陥没しようとする寸前の所を通行しようとしたことによって本件事故に至ったものである旨主張するのであるが、≪証拠省略≫によると、本件車両はその車体左上部を路肩左側で側溝との境界から地面に垂直に延ばした線が松の幹のほぼ中央部に至る箇所に衝突させている事実が認められるところ、≪証拠省略≫によると、本件車両の左外側線は左車輪外側線から約一八センチメートルある事実が認められるところからすると、真砂運転の車両が路肩の左端一杯で側溝陥没寸前の箇所を通行していたものとは認められない。そして既に認定の事実からすると、本件車両は路肩の中央部より左にその左車輪を進入させた場合、車体上部を本件松の幹に衝突させる危険性を有していたものと認めることができる。ところで原告は本件事故は真砂が本件道路を通常の方法で使用する間において右松の大木の存在によって惹起されたものである旨主張するのに対し、被告らは真砂が本件道路の路肩に入ったことは右道路の通常の使用とはいえないとしてこれを争うので判断するに、道路法三〇条一、二項の規定に基づき道路の新設、改築の際の道路の構造の一般的技術的基準として制定された本件当時の道路構造令二条五号(昭和四六年七月二二日政令二五二号による改正後の二条一〇号)によると、路肩とは道路の主要構造部を保護し、または車道の効用を保つために、車道または歩道に接続して路端寄りに設けられる帯状の道路の部分をいうものと規定されているのであって、このことからすると、道路を設置し管理する者は路肩を道路の主要構造部の保護のため、あるいは車道の効用を保つために設置し、その目的に副うように維持管理しなければならないのであるが、車道の効用を保つとは歩道を有しない道路においては緊急の場合路肩の駐停車だけでなく車両の通行をも許し、これに車道の補充をさせる趣旨をも含むものと解すべきであるから、そのためにする道路の設置管理は右の趣旨に副うように行なわれなくてはならない。ところで道路法四七条一項の規定(但し、昭和四六年四月一五日法律四六号による改正前のもの)に基づき道路の構造を保全し、または交通の危険を防止するため、道路との関係において必要とされる車両についての制限に関する基準として制定された本件当時の車両制限令一〇条(昭和四六年七月二二日政令二五二号による改正後の九条)によると、歩道を有しない道路を通行する自動車は、その車輪が路肩にはみ出してはならないものと規定され、高速自動車国道等においては道路交通法七五条の三、七五条の八、一項二号において特定の場合前記規定の適用が排除されているのであるが、右は路肩の第一次的な性格が道路の主要構造部の保護にあり、それに相応して車道部分とは異った築造のなされている場合が多いところからして原則的に路肩への進入の禁止を定めているものであって、どのような場合においても右禁止を定めているものと解することはできない。もともと道路を設置し管理する者において車両が路肩に進入することを禁止しようとするのであれば、車両の運転者において右禁止を遵守できるような客観的状況を整備しておかなければならないのであって、その処置を講ずることなくただ漫然と右禁止をしたとしても、これを遵守しようがなく、なおその遵守を求めるものであるとすれば車両の運転者に対し難きを強いるものといわねばならない。これを本件についてみるに、≪証拠省略≫によると、本件道路については路肩への進入を禁止しても支障のない程度に状況の整備がなされていないことが明らかである一方、路肩の構造は堅牢なコンクリート造りで十分車両の重量に堪え得るように築造され、しかもその表面は車道の路面と同じ高さに維持され車両の進入を招き易い状態となっている事実が認められるのであって、右事実からすると本件路肩については緊急の場合同所での駐停車が通行が事実上許容され、しかもそれを可能とする程度の構造を以てその設置および管理がなされているものということができる。そして既に認定のとおり本件車両の路肩への進入が対向車との接触事故を避けるためのものであることからすると、右は緊急の場合予定された道路使用の方法としてなされたもので、広義における通常の道路使用という範囲に属するものとするのを妨げないのであって、本件事故はその使用の間に惹起されたものと認めることができる。
五 被告らの責任
(一) 被告国関係
本件道路が国道四二号線として指定され被告国がその維持管理をしていることは当事者間に争いがない。原告は、同被告は右道路の管理に当るものとして各種車両の運行に支障のないようにすべきであり、そのためには車両の運行に支障を生ずることが十分予想される本件松の大木は除去すべきであるのに、これを怠ったことはその維持管理に瑕疵があり、その瑕疵によって本件事故が発生した旨主張するのに対し、同被告は右管理上の瑕疵の有無は通常の車線を通行する車両を前提として予定された通行上の機能を有するかどうかによって決められるべきものであって、この点からすると本件道路の管理には瑕疵はないとして争うので判断するに、既に認定したとおり、道路の路肩部分はその本来的機能が車両の通行を予定したものではないにしても、車両が右部分に進入して来ることを避け得ない状況にある場合、車両の円滑かつ安全な運行を確保すべき道路の維持管理者としては路肩部分についても車線部分と同様、その構造自体車両の重量に堪えられるようにするだけでなく、車両の運行の障害となるようなものについてはこれを排除するよう配慮されなくてはならない。そして右路肩部分が車両の通行をなし得ないものであるならばその旨を運転者に周知徹底さすことはもとより、更に車線部分だけで車両交通の機能に影響のないよう適切な措置が講じられていなければならないものといわねばならない。これを本件道路についてみるに、既に認定したとおり、本件事故発生地点付近はその道路の位置形状等からみて、東行車両が車線部分を越えて路肩部分に進入し易い状態にあるにもかかわらず、右進入を禁止すべき何らの標示さえなく、またこれを禁止することによって生ずる車両交通の障害についてもその除去の方法が全く講じられていないことからすると、本件道路の管理者である同被告としては右路肩部分にやむなく進入して来る車両の安全に支障のないようその管理を行なうべき義務を負うものといわねばならない。ところで本件松の木の存在が右路肩部分にやむなく進入して来る車両の運行を妨害していることは三において認定したとおりであるから同被告としては右松の木のうち右路肩部分から上空に至る部分を除去すべき義務を有するものであるところ(右義務の履行方法としては松の木の所有者である被告町に対しその除去を請求し、同被告をしてこれを除去させなければならない。民法二三三条一項)、被告国においてこれを怠ったことにより本件事故を惹起したものであることは四において認定したとおりである。してみると同被告は本件道路の管理上の瑕疵によって本件事故を惹起したものにほかならないから、国家賠償法二条一項に基づき右事故によって他人に与えた損害についてはこれを賠償すべき責任があるものということができる。
(二) 被告町関係
本件松の大木が被告町田並出張所の敷地内に生育していることは当事者間に争いがない。そして右松の木が国道を通行する車両の運行に危険を及ぼしていることは前記三で認定したとおりであるから、同被告は右松の木所有者かつ占有者としてこれを国道上から撤去するなど右危険防止について適当な措置を講じなければならない立場にあったものと認めることができる。しかるにこれを怠ったことによって本件事故を惹起したことは前記四で認定したとおりであるから、右は同被告の本件松の木に対する栽植支持の瑕疵によって惹起されたものということができる。同被告は、本件道路の管理者は被告国であるところ、従来同被告から本件事故の発生までの間一度も右松の木の伐採その他何らの指示をも受けたことがないので本件事故による責任は直接管理者である同被告において一切を負うべきであり、被告町には何らの責任もない旨主張するのであるが、同被告は本件松の木の所有者兼占有者として道路管理者である被告国とは別個にその栽植支持についての責任を負うものであって、右栽植支持について同被告の管理支配を受けるべき地位にあったものでないことはいうまでもないところであるから、仮に本件事故前同被告から本件松の木の伐採等について何らの指示ないし要請を受けたことがなかったとしても、その栽植支持の瑕疵によって第三者に生ぜしめた損害についての被告町の責任に影響を及ぼすものではない。そうであるとすれば同被告は民法七一七条二項に基づき本件事故によって他人に与えた損害についてはこれを賠償すべき責任があるものということができる。
六 損害
≪証拠省略≫によると、請求原因三の冒頭の事実はすべてこれを認めることができる。
(一) 車両損料
≪証拠省略≫によると、請求原因三の(一)の事実を認めることができる。
(二) コンクリート塀等の修理費
≪証拠省略≫によると、同(二)の事実を認めることができる。
(三) 車両の引揚回送費
≪証拠省略≫によると、本件事故によって破損した株式会社山崎製パンから貸与を受けていた貨物自動車を田辺市まで建設会社に依頼してレッカー車で運搬させたことにつき、引揚回送費として同(三)の金員を支払っている事実を認めることができる。
(四) 商品配送費
≪証拠省略≫によると、本件事故によって前記貨物自動車が破損し商品の運搬ができなくなったため、運送会社をしてこれを串本、新宮方面に運搬させたことにつき、配送費として同(四)の金員を支払っている事実を認めることができる。
(五) 積載商品の減価
≪証拠省略≫によると、本件事故車には卸価格で金二二万〇、一八九円相当のパン菓子等の商品が積載されていたところ、本件事故によって破損散逸したほか卸先別の区分けが混乱することによって後日卸先からの要求により右卸売価格の少なくとも一五パーセントに当る同(五)の金員の減額を承認せざるを得なくなり同金額相当の代金の受領ができなくなっている事実を認めることができる。
(六) 破損交通標識の建替費
≪証拠省略≫によると、本件事故によって損壊した交通標識を修復するよう警察から要請されたため、これを建替えたのであるが、その費用として業者に同(六)の金員を支払っている事実を認めることができる。
(七) 真砂に対する災害補償費
≪証拠省略≫によると、真砂は本件事故によって負傷しその治療を受けたが、右治療費は原告においてその一切を支払い、また原告は真砂の負傷が業務に従事中のものであったところから同人に対し慰藉料(見舞金)を支払っているのであって、その金額は同(七)のとおり治療費金七、五九二円、慰藉料金四万円の合計金四万七、五九二円である事実を認めることができる。
そして、既に認定の各事実からすると、右(一)ないし(七)の金額はいずれも本件事故と相当な因果関係にあるものであって、右事故に基づく損害と認めることができる。
七 過失相殺
既に認定の事実によると、本件事故は真砂が自車の進路前方の注視を十分にしてその上空に本件松の木のあることを確認したうえ、自車の高さを考えて路肩部分に進入することを差控えたならばその発生を免れ得たものである事実はこれを認めることができる。≪証拠省略≫によると、真砂は原告方の従業員として本件事故当日まで相当回数本件道路を通行して本件同様の仕事に従事していたものであり、右道路の状況をおおむね把握していたものと認めることができるのであるが、既に認定のとおり本件道路は国道四二号線であり、しかも≪証拠省略≫によると、右道路が和歌山市から津市まで紀伊半島をほぼ海岸線沿いに走る二車線の舗装道路で紀南地方にとっては陸上交通の大動脈として各種車両の往来の激しい幹線道路である事実が認められることからすると、車両の運転者としては右道路は高さ制限内の車両が通行する限り本質的にその上空の安全は十分に確保されており、もし一時的事由によってその安全性に欠けるところがあるとすれば、管理者から適切な標示がなされているものと信ずべき状況にあったものということができる。そして更にこのことからすると、本件松の木が車線部分においても高さ制限内の車両の通行を妨げるものであり、もし路肩部分に左車輪を入れたときには一層その危険が増大することまでを認識できる状況にはなく、むしろ本件道路の性格、状況、効用等からみて、右の場合においても右松の木の存在がその交通の妨げとなるものではないと考え、またその存在自体を意に介せず夜間これを看過したとしてもやむを得ない状況にあったものということができる。してみると真砂が本件路肩に入るについて本件松の木の存在が自車の進路の妨害になること、更にはその存在自体を見落したとしても同人に過失があったとすることはできない。本件松の木の存在は本件道路にとって恒常的な状態でありその存在を容認したうえこれを放置して道路の機能が営まれていたものであることからすると、これを右の状態で放置している被告らにおいてそのために生じた道路利用者の損害について同人の過失をとかくいうことは著しく衡平の理念にもとるとの非難を免れ得ないものと考える。なお右松の木との衝突の後真砂によってより適切な措置が採られたとすれば損害の増大を防止し得たものと考えられないでもないが、不測の方向から大きな衝撃を受け心気転倒したであろう同人に対し瞬間的にその後の適切な措置を期待することは難きを求めるものということができるから、このことについて同人の責任を問うことは相当でない。結局被告らの抗弁は採用できない。
八 むすび
以上のとおりであるとすると、被告らは各自原告に対し金八九万二、二三七円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである主文記載の日から(被告らは不真正連帯債務を負担するので民法四三四条の適用はない。)右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務のあることが明らかであるから、原告の本訴請求はすべてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高田政彦)