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和歌山家庭裁判所 平成21年(家)818号 審判 2009年11月24日

主文

当事者間の和歌山家庭裁判所平成20年(家イ)第○○○号事件において平成20年×月×日に成立した調停の調停条項第1項に定められた,申立人(同事件の相手方であり,以下単に「申立人」という。)の相手方(同事件の申立人であり,以下単に「相手方」という。)に対する婚姻費用の支払義務のうち,平成21年×月以降分につき,次のとおり変更する。

申立人は,相手方に対し,婚姻費用の分担金として,平成21年×月から当事者双方が別居又は婚姻の解消に至るまで,月額1万円を毎月末日限り,相手方の指定する預金口座に振り込んで支払う。

理由

第1申立ての趣旨

申立人は,相手方に対し,婚姻費用の分担金を,毎月1万円に減額する。

第2事案の概要及び当裁判所の判断

1  本件及び関連事件(当庁平成20年(家イ)第○○○号,第○○○号)の各記録によれば,次の事実が認められる。

(1)  申立人(昭和55年×月×日生)と相手方(昭和57年×月×日生)は,平成18年×月×日に婚姻の届出をした夫婦であり,a市で同居し,当事者間に長女(平成19年×月×日生)が誕生したが,平成20年×月下旬ころから別居状態にある。

(2)  別居後,申立人は,平成20年×月に離婚を求めて夫婦関係調整調停を申し立てたが(当庁平成20年(家イ)第○○○号),同調停は平成21年×月に不成立により終了した。そして,その間に相手方が申し立てた婚姻費用分担調停(当庁平成20年(家イ)第○○○号)において,平成20年×月×日に「申立人は相手方に対し,婚姻費用の分担金として,平成20年×月から双方が別居又は婚姻の解消に至るまで,月額6万円宛を毎月末日限り,相手方の指定する預金口座に振り込んで支払う」旨の調停が成立した。

上記婚姻費用分担調停成立当時,申立人は,b病院のc科に勤務していたが,平成21年×月ころに退職した。

2  本件は,申立人が上記調停で定められた婚姻費用分担額の減額を求めている事案であり,申立人の主張は次のとおりである。

申立人は,上記婚姻費用分担調停成立当時,月給約50万円であったが,人事の都合で,b病院を退職し,現在は大学の研究生(歯学部d学分野の修練医)として勤務しながら,アルバイトをして,生計を立てている。現在の収入は,手取月額18万7000円である。ただし,申立人が研究生として勤務するためには,大学に授業科(学費)として少なくとも年額45万円以上を支払わなければならない。他方,相手方は,婚姻を機に○○を辞めていたが,現在は復職し,○○として働いている。

3  申立人の受けている最近の給与支給額は,勤務先大学から約12万3000円ないし約14万8000円(ただし,基本給は5万円であり,その余は通勤費)とアルバイト先病院から月額約14万6000円であり,一方,相手方の受けている最近の給与支給額は月額30万円程度である(本件記録による。)。

そこで,申立人の年収を240万円(月額合計約20万円×12月)程度とし,相手方の年収は少なくとも360万円以上(月額合計30万円×12月+賞与等)とし,婚姻費用に関する標準的な算定表(判例タイムズ1111号掲載。本件は表11(婚姻費用・子1人表〔子0~14歳〕)の場合にあたる。)を参照し,本件の諸事情も併せ考慮すると,申立人の支払うべき婚姻費用を月額1万円とするのが相当である。

相手方は,①申立人提出の家計収支表では,支出が30万円と記載されているから,申立人にはこれに見合う収入があると考えるのが自然である旨,②申立人にはアルバイト収入があるはずである旨,③自らの意思で前勤務先を辞めたからと言って,給料が下がったことを理由に婚姻費用の減額を求めるのは納得がいかない旨主張する。①につき申立人提出の家計収支表は前記調停に基づく婚姻費用分担額6万円も含めた支出として記載されているものであるところ,②につき申立人に上記認定額以上の収入があるものと認めるに足りる資料がなく,③につき,申立人の主張に反して,申立人が自らの意思で前勤務先を辞めたことを窺わせる資料もない。申立人の有する資格や職歴からすると,現在の収入が比較的低額であり,また申立人自身の大学学費の支払が妻子に対する生活保持義務に当然優先するものではないとしても,申立人において直ちに現状より高収入の職に転じるべしとの規範的観点を容れるのでない限り,夫婦の現在の収入を子供の養育費を含む互いの生活費等に公平に割り振ると,相手方が申立人から支払を受けるべき婚姻費用は上記程度の額とならざるをえない。

なお,既定の婚姻費用の減額という本件審判の性格と当事者双方の事情を考慮し,減額は今後履行期の到来する平成21年×月以降分からとする。

よって,調停成立後の事情変更に基づき,上記調停条項第1項の平成21年×月以降の申立人の相手方に対する婚姻費用の支払義務につき,主文のとおり変更することにする。

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