和歌山家庭裁判所 昭和60年(家)1546号 1990年8月13日
主文
1 被相続人小山吉郎の遺産を次のとおり分割する。
(1) 別紙遺産目録(編略)記載の、1ないし7の各不動産及び8の不動産についての賃借権は参加人小山茂の取得とする。
(2) 上記遺産取得の代償として、参加人小山茂は、相手方小山仁、同南野和代、同森川佐知子、同小山優一、同武田五月枝及び同小山広子に対し、それぞれ1282万6000円を支払え。
2 本件手続費用中、鑑定人○○○○に支払った鑑定費用169万4000円については、参加人小山茂が77万円、相手方小山仁、同南野和代、同森川佐知子、同小山優一、同武田五月枝、同小山広子がそれぞれ15万4000円を負担することとし、同人らはそれぞれの負担額を申立人○○市に支払え。その余の手続費用は各自の負担とする。
理由
本件申立ては、申立人が本件遺産の一部について、相続人の一人である本件参加人の小山茂から、同人において他の相続人らの同意を得られるものと信じて、用悪水路敷地や小集落地区の改良事業のために買い受ける契約をしたが、相続人らにおいて遺産分割についての話し合いが難航しているので前記相続人である小山茂に代位してなされたものであり、したがって同小山茂も相続人の一人であり、各相手方らと共に、実質的に当事者としての立場にあるものではあるが、形式上は利害関係人として参加せしめる形で審判することとする。
そこで検討するに、一件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断の要旨は、次のとおりである。
1 相続の開始
被相続人小山吉郎(以下吉郎という。)は昭和46年3月8日死亡して相続が開始されたことにより、当時配偶者であった小山ゑ津(以下ゑ津という。)とその子である参加人小山茂(以下茂という。)、相手方小山仁(以下仁という。)、同小山忠(以下忠という。)、同南野和代(以下和代という。)、同森川佐知子(以下佐知子という。)、同小山優一(以下優一という。)、同武田五月枝(以下五月枝という。)及び同小山広子(以下広子という。)であり、その相続分は法定相続分によりゑ津が12分の4、その余の相続人は各12分の1である。
ところが、被相続人ゑ津は昭和57年2月25日死亡して相続が開始されたが、ゑ津において、前記の12分の4の相続分全部につき、茂に遺贈する旨の遺言をなしていたため、その分がすべて茂に移転し、その結果、茂の吉郎についての相続分は12分の5となる。
前記遺言については、相手方らからは、偽造したものであるとの主張があるが認められない。
2 遺産の範囲及びその評価額
吉郎の遺産は、別紙遺産目録記載1ないし8の不動産であり、その相続開始時並びに審判時の各評価額は別紙遺産及び特別受益財産の評価額一覧表(以下評価額一覧表という。)(編略)記載のとおりである。なお、相続開始時の評価額については、本件の鑑定書では鑑定不能となっているので、審判時の評価額を基準にして、六大都市を除く市街地価格指数(昭和46年3月の全用途平均指数50.0、平成2年3月のそれは181.8)を用いて換算した額によることとした。
また、相手方の一部からは、○○市○○字○○○×××番×、×の茂所有名義の土地、○○市○○字○○×××番の仁所有名義の土地及び○○市○○字○○○×××番××の忠所有名義の土地は、いずれも吉郎の遺産であるとの主張があるが認められない。
さらに、ゑ津の遺産については、同人が吉郎から相続した相続分については、茂に遺贈したものであることは前述のとおりであるが、ゑ津固有の遺産の存在はみとめられない。したがって、吉郎の遺産については単に遺産として説明する。
3 特別受益
相手方らの一部からは、前記主張の、茂、仁及び忠名義の各土地は遺産ではないとしても同人らの生計の資として生前贈与されたものであると主張し、忠名義の土地は同人が吉郎から生前贈与を受けたものであると認められるが、その余は認められない。
なお、忠が吉郎から生前贈与された土地は別紙特別受益財産目録(編略)記載のとおりであり、また、同土地の相続開始時並びに審判時の各評価額は評価額一覧表記載のとおりである。
また相手方らの一部からは、他の相続人らが婚姻の際などにそれぞれ金銭などで相当額の生前贈与を受けたものであると主張されているが明確に認定するに足りる資料がないので認定しなかった。
4 本来的相続分額算定の基礎となる相続財産額(みなし相続財産額)
相続開始時の、遺産の評価額は計38,901,000円、忠についての特別受益財産の評価額は18,752,000円であるから、みなし相続財産額は、
38,901,000円+18,752,000円 = 57,653,000円となる。
5 相続人各自の本来的相続分額
茂については、
57,653,000円×5/12 ≒ 24,022,000円
その余の相続7名については、
57,653,000円×1/12 ≒ 4,804,000円
となる。
6 相続人各自の、具体的相続分額及び現実の取得額
忠は、前記のように、特別受益財産目録記載の不動産につき生前贈与を受けているところ、その価格は同人の本来的相続分額を上回っているのであるから、その具体的相続分額は零となる。
そこで、その余の相続人の具体的相続分額につき検討するに茂については
24,022,000/24,022,000+4,804,000×6
であり
仁、和代、佐知子、優一、五月枝及び広子の6名については、
4,804,000/24,022,000+4,804,000×6
ということになる。
本件遺産の審判時の価額は計141,447,000円であるから、上記各相続人の具体的相続分率に基づいて計算すれば、
茂の現実の取得額は
141,447,000円×24,022,000/(24,022,000+4,804,000×6) ≒ 64,138,000円(1,000円未満切り捨て)
仁、和代、佐知子、優一、五月枝及び広子の現実の取得額は、
141,447,000円×4,804,000/(24,022,000+4,804,000×6) ≒ 12,826,000円(1,000円未満切り捨て)
となる。
7 相続人各自の生活状況、遺産分割についての要望等
(1) 茂は36年間勤続の会社を昭和60年に退職後、自己所有の農地、遺産農地(一部については○○市において管理)及び忠所有の農地を耕作し、妻及び次男夫婦と暮らしており、また、居宅は、○○市との契約後旧宅が取り壊されて、昭和57年に新築したが、○○市に売却している物件の紛争が解決されないと、新築居宅の登記ができない状態にある。
なお、茂においては代償金を支払ってでも遺産農地全部を取得して農業を続けて行きたいと述べている。
(2) 仁は昭和26年大阪にでて、会社を経営し、自己所有の家屋敷で妻と二人で暮らし、裕福である。
(3) 和代は昭和38年に婚姻し、夫は会社につとめながら所有の田1反を耕作し、今は夫との二人暮らしである。
(4) 佐知子は昭和38年に婚姻し、夫は会社に勤め、住居は借家で、長女との三人暮らしである。
(5) 優一は昭和35年以来会社に勤め、独身であって、会社の寮で暮らしている。なお同人は、遺産分割の希望として、他の男兄弟は総て不動産の生前贈与を受け、また、女兄弟もそれぞれ婚姻に際し、金銭等での特別の利益を受け、自分のみが何ら利益をうけていないのであるから、分割にあたっては十分に考慮されたいと述べている。
(6) 五月枝は北九州市で養母、夫及び子らとの6人家族で、夫は計量士で自らは歯科医院に事務員として勤め、夫名義の土地家屋があるが、住宅ローンの支払いも残っている。なお同人は遺産分割の方法として、自らは代償金の支払いによる解決を希望している。
(7) 広子は東京都で住み、独身であり、アパートで暮らし、会社員として勤めている。
また同人は、遺産分割の方法としては、生前贈与を受けている茂、仁及び忠の3名を除く5名の相続人で等分するのが相当であると述べている。
8 当裁判所の定める分割方法
本件遺産分割申立ての経緯、遺産土地の使用状況、各相続人の生活状況及び分割に関する意見、その他一切の事情を総合検討すれば、本件遺産はすべて茂に取得させ、茂から他の相続人に適正な代償金を支払わせる方法で解決するのが相当である。
したがって、別紙遺産目録記載の、1ないし7の各不動産及び8の不動産についての貸借権は、茂の取得とし、茂から、仁、和代、佐知子、優一、五月枝及び広子に対しそれぞれ、その取得すべきものとされる1282万6000円を代償金として支払うべきこととなる。
なお、鑑定費用169万4000円を申立人である○○市において立て替えているので、これについては遺産分割における受益割合で主文2項のとおり負担せしめ、その余の手続費用は各自の負担とする。
よって、主文のとおり審判する。